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婚約者騒動編

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◇◆◇◆◇◆◇◆


 ここ……どこだ?
 首痛え。


「ポールさん?」


 居ないのか? 暗くて、周りが見えねぇ。
うわ、手足も縛られてる。動けない、芋虫状態じゃん。ナニゴト。
 ポールさんと一緒に、ディオンの訓練を見に行こうとして、そんで途中で意識が……。
ポールさんは、無事なのか? それとも、彼が俺を。
 あーっ! 分っかんねえ!

 身体が痛い。床も冷たいし、地べたかよ。
せめて布を敷いてくれ。

 あれだけ心配してもらって拐われるとか、情けない。
ラノベ展開なら、主人公がカッコよく登場するんだろうなー。胸熱だけど、そうじゃない。
 俺、完全に足手纏いのポンコツだ。
チートの限りを尽くして助ける側が良かった。辛い。



ーーコツコツ


 足音が近付いて来てる。誘拐犯か?
 神様、仏様、ディオン様っ。俺はまだ死にたくないです! 死ぬなら、もっと良い思いをさせてからにして下さいっ。ユキだって、俺の帰りを待ってるんです。
……ユキは、屋敷の人が可愛がるから大丈夫か。でも、俺が大丈夫じゃないっ!


ーーギイィッ


 来たっ。急に光が入って、ゔ、眩しい。
 誰だーーー…


「ーーって、うわ。すっげー美人」


 目を細めて見上げれば、お姫様の様な女性が立っている。後ろには、くたびれた執事風の男と、ポールさんが居た。


「……あ、あら、ありがとう?」


 どんな強面なオッサンが来るかと思ったら、まさかの美女。何コレ、俺どうしたらいいの。
 思わず、トンチンカンな感想を漏らしたら、相手も予想外だったらしい。
 微妙な顔して、お礼を言われた。

 この顔、どっかで見た事ある気がする。何処だっけ。
 いやでも、最近の流れからして、考えられるのは1つだけだ。
 彼女がシトール家のお嬢様、もしくはその関係者だよな。それ以外に考えられねぇもん。


「え~~~っと、もしかして助けに来てくれたり……」
「馬鹿なの?」
「ですよねー」


 味方なわけありませんよね。うん、分かってた。
一応、奇跡的な可能性にかけて言ってみたが、機嫌を損ねただけだった。
 美人の睨みって、迫力があるからやめて欲しい。
ん?  美人の睨み……前にもこんなーーーー。デジャヴ?


「ああっ! 広場で会った綺麗なお嬢様!」
「なんだ、覚えていたの。ごきげんよう、使用人擬きさん」
「俺をどうするつもりですか」


 誘拐犯のくせに、何でこんなに優雅なんだよ。
お嬢様には、似合わないんだって。こんな事止めて、早く家帰ってのんびりしたら、どうっすか。


「さあ、どうしようかしら。サクッと殺しても良いのだけど、貴方を連れて来るのにポールかれを使ったから、そうもいかないのよ。足がつくでしょ?」


「足がつくでしょ?」って……可愛い顔して、えげつねぇ。
まず、誘拐した時点でアウトだから。既に足ついてるから。だって、俺と一緒に失踪したわけだからね。


「だから、貴方には自分の意思で、ディオン様の前から消えて欲しいの」
「はあ?」
「もちろん、頷いてくれたら、多少の支度金は用意するわ。その代わり、僻地か、他国で暮らしなさい」
「意味が分からないんですけど」
「何故? 私がそうしなさいと言っているのよ。意味を理解する必要があって? 貴方に断る権利なんてないでしょう」


 コイツ、だいぶ頭イカれてんな。
こういう性悪・自己中女がディオンの婚約者になるのは、絶対に嫌だ。


「アンタ、おかしいんじゃないのか」
「……まさか、この私を『アンタ』と呼んだの?
私の視界に入るだけでも悍ましい下民のお前が?」


 ヤベ。一気に纏う空気が変わった。
変なスイッチ入れちまったか。


「ま、まって。だって名前教えてもらってないですし (レイラ・シトールで合ってる?)」
「お前が知る必要はないわ。舌を切るわよ」


 物騒すぎる。何か、何かないか。この状況を切り抜けられる方法がっ。





「《助けてやろうか。同胞はらからよ》」




◇◆◇◆◇◆◇◆


 

「クソッ」


ーーガンッ


「副団長っ、落ち着いて下さい!」
「落ち着いていられるかっ!」


 苛立ちを抑え切れず、執務机を蹴った。
クリスや他の団員達から、戸惑いの視線が集まるが、今はどうだっていい。
 ルーカスっ、何処に居るんだ!
 ポールがダリオを此方に寄越してから、10分も経たずに、官舎の出入りを禁じた。
だと言うのに、何故見つからないっ。もう1時間も経っているんだぞ。

 緊急連絡で、官舎全体に警報も鳴らした。検問も張った。それなのに、目撃情報すらないとは、どういう事だ!


「ーーダリオ」
「はっ、はい!」
「お前は、ポールと同期だったな」
「はいっ」
「アレは子爵家の出身だが、シトール家と関わりがあるのか」


 あそこの寄親は王族派で、シトール家の派閥ではない。どこで、繋がった。
 むしろ、シトール嬢と関わりがある騎士は他にも所属しているのに、何故そいつらは何も知らないんだ。


 駄目だ。焦りが募るばかりで、冷静になれない。
 もし、ルーカスに何かあったら、オレはーー…



「副団長! ポールに加担した者を見つけました」


 オレの目の前で、顔面蒼白になって震える団員3名。
全て、ポールの同期か。


「ふっ副団長、申し訳ありまーー」
「ルーカスを何処にやった。指示した者は誰だ」
「ひっ。ちがっ、違うんです! 俺達、本当に何も知らなくて!」
「本当です! ポールに恋人が留学するから、見送りがしたいって相談されて。それでっ、30分で戻るから、こっそり抜け出せる様に手伝って欲しいって、頭下げられて。それで……」
「本当に申し訳ありませんっ!! まさか、ルーカス殿をポールが連れ去るなんて、そんな事をアイツがっ」


 部下を信じたい気持ちと、疑わずにはいられない自分がいる。
 感情的になるな。最短で事態を収束させる方法を考えるんだ。
 いつもの様に。いつもの通りに。
ーーっルーカス!


「3人から詳しく状況を聞け。解決するまで、部屋に閉じ込めろ」
「ハッ」
「「「っ、申し訳ありませんでした!」」」


 自分が側にいれば安全だと、たかを括って、自分の職場と屋敷に閉じ込めて。それで、このザマか。なんて愚かなんだ。


「副団長、しっかりして下さい。貴方がそんな状態では、ルーカス君を誰が助けるんですか」
「……クリス」
「早く見つけて、安心させてあげないといけません。
それに、ダリオが自責の念にとらわれて、今にも倒れそうです」


 クリスに言われてハッとした。
 ルーカスを失うかも知れない恐怖と、自分や周りに対する怒りで、簡単な事も忘れていた。
 オレは、ダリオに声をかけてやったか? 
 問い詰めるばかりか、無意識にずっと睨んでいなかったか。
 ダリオだって、恐ろしくて堪らないはずだ。
自分のせいで友人が誘拐されたかも知れない。
きっと、彼は自分が許せないんだろう。
どうして気付けなかった。ダリオの唇から血が出ている。食いしばって噛んだ痕じゃないか。


「ダリオ。シトール嬢とシトール家の使用人の動きを探るぞ。一緒に来い」
「っハイ!」
「クリス、助かった。引き続き足取りを追いながら、シトール家とポールの繋がりを調べてくれ」
「いえ、差し出がましい事を申し上げました。
承知しました。必ず救い出します」
「ああ」


 ルーカスが居たら、きっと怒られるな。
アイツは、気を許した奴に、とことん甘いから。




「ディー。王都全体に網を張る」
「《ディオンよ、貴様分かっておるのか。そんな範囲にワタシの力を使えば、マナが持たないぞ》」
「構わない。ルーカスの安全が第一だ」
「《ふむ。あの人間か。良かろう、あの人間は見る目があるからな》」
「頼んだぞ」
「《誰に言っている、小童が!》」













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