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婚約者騒動編
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ここ……どこだ?
首痛え。
「ポールさん?」
居ないのか? 暗くて、周りが見えねぇ。
うわ、手足も縛られてる。動けない、芋虫状態じゃん。ナニゴト。
ポールさんと一緒に、ディオンの訓練を見に行こうとして、そんで途中で意識が……。
ポールさんは、無事なのか? それとも、彼が俺を。
あーっ! 分っかんねえ!
身体が痛い。床も冷たいし、地べたかよ。
せめて布を敷いてくれ。
あれだけ心配してもらって拐われるとか、情けない。
ラノベ展開なら、主人公がカッコよく登場するんだろうなー。胸熱だけど、そうじゃない。
俺、完全に足手纏いのポンコツだ。
チートの限りを尽くして助ける側が良かった。辛い。
ーーコツコツ
足音が近付いて来てる。誘拐犯か?
神様、仏様、ディオン様っ。俺はまだ死にたくないです! 死ぬなら、もっと良い思いをさせてからにして下さいっ。ユキだって、俺の帰りを待ってるんです。
……ユキは、屋敷の人が可愛がるから大丈夫か。でも、俺が大丈夫じゃないっ!
ーーギイィッ
来たっ。急に光が入って、ゔ、眩しい。
誰だーーー…
「ーーって、うわ。すっげー美人」
目を細めて見上げれば、お姫様の様な女性が立っている。後ろには、くたびれた執事風の男と、ポールさんが居た。
「……あ、あら、ありがとう?」
どんな強面なオッサンが来るかと思ったら、まさかの美女。何コレ、俺どうしたらいいの。
思わず、トンチンカンな感想を漏らしたら、相手も予想外だったらしい。
微妙な顔して、お礼を言われた。
この顔、どっかで見た事ある気がする。何処だっけ。
いやでも、最近の流れからして、考えられるのは1つだけだ。
彼女がシトール家のお嬢様、もしくはその関係者だよな。それ以外に考えられねぇもん。
「え~~~っと、もしかして助けに来てくれたり……」
「馬鹿なの?」
「ですよねー」
味方なわけありませんよね。うん、分かってた。
一応、奇跡的な可能性にかけて言ってみたが、機嫌を損ねただけだった。
美人の睨みって、迫力があるからやめて欲しい。
ん? 美人の睨み……前にもこんなーーーー。デジャヴ?
「ああっ! 広場で会った綺麗なお嬢様!」
「なんだ、覚えていたの。ごきげんよう、使用人擬きさん」
「俺をどうするつもりですか」
誘拐犯のくせに、何でこんなに優雅なんだよ。
お嬢様には、似合わないんだって。こんな事止めて、早く家帰ってのんびりしたら、どうっすか。
「さあ、どうしようかしら。サクッと殺しても良いのだけど、貴方を連れて来るのにポールを使ったから、そうもいかないのよ。足がつくでしょ?」
「足がつくでしょ?」って……可愛い顔して、えげつねぇ。
まず、誘拐した時点でアウトだから。既に足ついてるから。だって、俺と一緒に失踪したわけだからね。
「だから、貴方には自分の意思で、ディオン様の前から消えて欲しいの」
「はあ?」
「もちろん、頷いてくれたら、多少の支度金は用意するわ。その代わり、僻地か、他国で暮らしなさい」
「意味が分からないんですけど」
「何故? 私がそうしなさいと言っているのよ。意味を理解する必要があって? 貴方に断る権利なんてないでしょう」
コイツ、だいぶ頭イカれてんな。
こういう性悪・自己中女がディオンの婚約者になるのは、絶対に嫌だ。
「アンタ、おかしいんじゃないのか」
「……まさか、この私を『アンタ』と呼んだの?
私の視界に入るだけでも悍ましい下民のお前が?」
ヤベ。一気に纏う空気が変わった。
変なスイッチ入れちまったか。
「ま、まって。だって名前教えてもらってないですし (レイラ・シトールで合ってる?)」
「お前が知る必要はないわ。舌を切るわよ」
物騒すぎる。何か、何かないか。この状況を切り抜けられる方法がっ。
「《助けてやろうか。同胞よ》」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「クソッ」
ーーガンッ
「副団長っ、落ち着いて下さい!」
「落ち着いていられるかっ!」
苛立ちを抑え切れず、執務机を蹴った。
クリスや他の団員達から、戸惑いの視線が集まるが、今はどうだっていい。
ルーカスっ、何処に居るんだ!
ポールがダリオを此方に寄越してから、10分も経たずに、官舎の出入りを禁じた。
だと言うのに、何故見つからないっ。もう1時間も経っているんだぞ。
緊急連絡で、官舎全体に警報も鳴らした。検問も張った。それなのに、目撃情報すらないとは、どういう事だ!
「ーーダリオ」
「はっ、はい!」
「お前は、ポールと同期だったな」
「はいっ」
「アレは子爵家の出身だが、シトール家と関わりがあるのか」
あそこの寄親は王族派で、シトール家の派閥ではない。どこで、繋がった。
むしろ、シトール嬢と関わりがある騎士は他にも所属しているのに、何故そいつらは何も知らないんだ。
駄目だ。焦りが募るばかりで、冷静になれない。
もし、ルーカスに何かあったら、オレはーー…
「副団長! ポールに加担した者を見つけました」
オレの目の前で、顔面蒼白になって震える団員3名。
全て、ポールの同期か。
「ふっ副団長、申し訳ありまーー」
「ルーカスを何処にやった。指示した者は誰だ」
「ひっ。ちがっ、違うんです! 俺達、本当に何も知らなくて!」
「本当です! ポールに恋人が留学するから、見送りがしたいって相談されて。それでっ、30分で戻るから、こっそり抜け出せる様に手伝って欲しいって、頭下げられて。それで……」
「本当に申し訳ありませんっ!! まさか、ルーカス殿をポールが連れ去るなんて、そんな事をアイツがっ」
部下を信じたい気持ちと、疑わずにはいられない自分がいる。
感情的になるな。最短で事態を収束させる方法を考えるんだ。
いつもの様に。いつもの通りに。
ーーっルーカス!
「3人から詳しく状況を聞け。解決するまで、部屋に閉じ込めろ」
「ハッ」
「「「っ、申し訳ありませんでした!」」」
自分が側にいれば安全だと、たかを括って、自分の職場と屋敷に閉じ込めて。それで、このザマか。なんて愚かなんだ。
「副団長、しっかりして下さい。貴方がそんな状態では、ルーカス君を誰が助けるんですか」
「……クリス」
「早く見つけて、安心させてあげないといけません。
それに、ダリオが自責の念にとらわれて、今にも倒れそうです」
クリスに言われてハッとした。
ルーカスを失うかも知れない恐怖と、自分や周りに対する怒りで、簡単な事も忘れていた。
オレは、ダリオに声をかけてやったか?
問い詰めるばかりか、無意識にずっと睨んでいなかったか。
ダリオだって、恐ろしくて堪らないはずだ。
自分のせいで友人が誘拐されたかも知れない。
きっと、彼は自分が許せないんだろう。
どうして気付けなかった。ダリオの唇から血が出ている。食いしばって噛んだ痕じゃないか。
「ダリオ。シトール嬢とシトール家の使用人の動きを探るぞ。一緒に来い」
「っハイ!」
「クリス、助かった。引き続き足取りを追いながら、シトール家とポールの繋がりを調べてくれ」
「いえ、差し出がましい事を申し上げました。
承知しました。必ず救い出します」
「ああ」
ルーカスが居たら、きっと怒られるな。
アイツは、気を許した奴に、とことん甘いから。
「ディー。王都全体に網を張る」
「《ディオンよ、貴様分かっておるのか。そんな範囲にワタシの力を使えば、マナが持たないぞ》」
「構わない。ルーカスの安全が第一だ」
「《ふむ。あの人間か。良かろう、あの人間は見る目があるからな》」
「頼んだぞ」
「《誰に言っている、小童が!》」
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