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婚約者騒動編
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しおりを挟む「ランパス? どうなってんの。皆んなは無事か」
「《案ずるな。娘に与したかは分からんが、関わりがある者の意識を奪っただけだ》」
何ソレ便利。すげー。
ランパスがそう答えた後、あっという間に霧は晴れた。
パッと当たりを見回せば、4~5人がデッキの上で倒れている。他の乗客、船員達は、うずくまって怯えているが、意識は問題ない様だ。
ディオンとダリオは、難しそうな顔で直立したままでいた。
ーーユキ、恐かったんだな。ディオンの脚の間に潜り込んで、固まっとる。
まあ、可愛いから、いっか。
「ルーカス、今のはいったい…」
「ごめん。俺もよく分からない。けど、今のでシトール嬢の関係者は、意識を失ってるはずだよ。だから、その人達を捕まえて」
「そんな魔術、聞いた事がない。どうしてルーカスが」
「あ、俺っていうか、この人」
隣で仁王立ちするランパスを指差して、自分でない事をアピールする。
だが、ディオン達は、そうは思ってくれないらしい。
解せん。
「《うむ。我がやった。此奴が望んだからな》」
「「ルーカス」」
「望んでない、望んでない」
確かに、助けてとは言ったけど、方法は知らなかったんだって。
ランパスが語弊のある言い方をしたせいで、ディオンは驚いた表情、ダリオはジト目で俺を見た。
全力で手をブンブン振りながら否定するも、時既に遅し感が否めない。
いやいや、2人とも知ってるだろ。俺のマナ量の少なさを。
「詳しい話は後で聞く。とにかく今は、此処を離れよう」
「そうだね! うん、そうだよ」
そのまま、有耶無耶にしてくれても良いんだぜ!
ランパスの魔法?によって、暫定的な見分けはついた。
そのおかげで、つーちゃんも納得し、集まった妖精達に「もう大丈夫ぅ。ありがとう」と、言って集合を解いた。
そんな一言でやめるんかい、とは思ったよね。
だったら、もっと早く止めてくれても良かったんじゃないか。恐かったんだよ。君達の顔が。
「はあっ、良かった」
プリティな顔に戻って、帰って行く精霊達を見て、ダリオは力が抜けた様にしゃがみ込む。
分かる。やっぱ、可愛いもんな。あんな凶悪顔は似合わん。
「天の川みたい」
「天の川?」
しまった。この世界には、天の川なんて現象無かったんだっけ。
精霊1体1体がキラキラ光ってるから、空を大群で移動する姿が幻想的で、思わず口に出してしまったみたいだ。
「あー、えっと。星空みたいで綺麗だな~って。まあ、空はまだ暗くはないけど。夕陽は出てるし」
「ああ、確かに綺麗だ。それに、これだけの数の精霊が人前に現れる事は、まずない。貴重な体験をした」
俺の返答に違和感を感じなかった様で助かった。
ディオンは、外で待機していた団員に合図を送ると、怯える船員達に近付く。
一方、船に上がった団員達は、へたり込んだダリオを放置して、倒れた人を次々と拘束していった。
ディオンの指示を受けて、復活した船員達が乗客のケアに回り、船内は一気に慌ただしくなる。
「ルーカス、オレはシトール嬢とポールを探すが、どうする。ダリオと先に下船するか」
お嬢様と執事は分からないけど、ポールさんは、まだ下に居るはずだもんな。
ふふ。ディオンってば、分かりやすい。
俺を気遣って、ココを離れさせようと考えてくれたらしいが、目に「不安だ」って書いてある。
側に置いとかないと、安心出来ないわけだな。
「んや、ディオンと一緒に居るよ」
「しかし」
「守ってくれるんだろ?」
「……ああ。勿論だ」
ーーーー
ーーー
隣を歩くだけじゃ危ないからって言われたけど……この方が危なくね。ディオンの左腕が潰れてるし。
いざって時に、戦い難いと思うんだが。
現在、俺はディオンや団員の皆さんと一緒に、船内を捜索している。
ディオンの左腕に抱きつく形で。
お化け屋敷の彼氏彼女かよ。
こういうのは、安全だけど恐いからする行動であって。
即戦闘の可能性がある時には、向かないと思うんだわ。
絶対邪魔だよ、俺。
「たぶん、この辺りだ。俺が閉じ込められた部屋」
「そうか」
途中、倒れている乗客や船員は、見つけ次第捕縛されていったけど、未だお嬢様達は見つかっていない。
やっぱり、精霊の騒ぎの直後に、逃げ出したんだろうか。
「ーーこの部屋だよ」
「分かった。背中に隠れていろ」
少しの緊張が漂う。
ディオンは険しい顔で。他の団員さんは、悲しそうな顔で。
「開けます」
1人がドアを蹴破り、剣を構えた状態で突入する。
「あっ」
「副団長。ポール…いえ、被疑者1名を発見。意識はありません」
「拘束しろ」
「……ハッ!」
やはり気を失った状態のポールさんが発見された。
今朝まで仲間だった団員に「被疑者」と呼ばれる関係になって。
「ポールさんは、恋人を助けたくてシトール嬢に協力したんだ。だから」
「それでも、その男は罪を犯した。騎士が誘拐の手助けをするなど、どんな理由があっても、あってはならない」
「ディオン……あの、」
「ルーカス、ポールはもう騎士ではない。罪人だ」
俺が言おうとした言葉の続きは、ディオンの強い語気によって遮られた。
今この場で、ちゃんと理解していなかったのは、俺だけだった様だ。
ポールさんを拘束した人も、それを囲う団員達も。一応に表情が暗い。
だけど、誰も俺みたいに、減刑を求めようとはしなかった。
「恋人が、留学先で大変で、仕方なくてっ」
「ルーカス」
「ぁっ、ごめん、なさい」
「疲れただろう。まだトラートの領主と団長に報告が残っている。直ぐには、王都へ帰れないが、腹が減っただろ。港街だからな、魚介でも食べるか」
「……うん」
ポールさん以外の拘束された者達は、今回の件に関わっているか、断定出来ない。だから、拘束と言っても、縛ったりはせず、一定の場所から動けなくなる魔法が施された。
だから、目覚めた彼等は、団員達の説明を受けて、素直に応じている。
「どうだ」
「ハッ。船員5名と、乗客を装ったシトール家の息がかかった者が3名。残り10名は、シトール家と取引や交流があるものの、事件との関連性は特定出来ていません」
「分かった。10名に関しては拘束を解き、見張りをつけろ。団長の許可が下り次第、断定出来た8名を移送する」
「「「ハッ」」」
街では、既に船での騒ぎが広まっていた。
騎士団が動いた事もそうだし、何より精霊が視える人達の恐怖で、街は騒然となったらしい。
防衛戦に備えて、冒険者ギルドや街の警備隊が協力体制を敷いていたとか。
防衛って、精霊を魔物と勘違いしてんのか。
やった事と言えば、髪を引っ張ったり、それぞれの属性の力で、地味なアタックを繰り返すぐらいだ。
転んで出来た擦り傷や打ち身以外、外傷はなかった。
まあ、トラウマは残ったかもしんねーけど。
ディオンは領主邸へ行く前に報告を纏め、ディーを団長の元へ飛ばした。
事前の説明に、事件の経緯が一切含まれていなかった為、領主様は酷く怒った様子だ。こうやって、扉の外まで聞こえてるんだから。
下手したら、街の人にも被害が及んだかも知れないもんな。
尤も、領主様はそっちより、今後の船の運航が気掛かりだったみたいだけど。
ディオンが領主様に報告している間、俺は騎士団の小間使いのフリをした。
というのも、当初の予定より騒ぎが大きくなった事で、秘密裏に処理出来なくなってしまったからだ。
ディオンとしては、俺の存在を公にはしたくない。
かと言って、誘拐を伏せられる状況でない。
その結果、こうなった。
ーーシトール侯爵令嬢が、第3騎士団の団員が契約するノームを連れ去ったーー
それにより、精霊達が怒り、今回の騒ぎに発展してしまった。
「いやー、副団長も考えたよな。事件自体を変えちまうなんて」
「ああ。でも本当に良かったのか、ダリオ」
「んー? むしろ、精霊と契約出来てラッキーだ」
「お前がいいなら、いいけど」
ディオン達は、精霊の動きを察知し、事態を収める為にトラートに向かった事になっている。
更に、連れ去られた精霊の契約者がダリオだと、国に提出する報告書には記載される。
この偽装をより強固にしようと、ランパスの助けでダリオは、つーちゃんとは別のノームと契約をした。
「団長もその方が良いって判断したんだ。ルーカスが気にする事はねーよ。
それに、シトール嬢も見つかったしな」
「マジで?」
「おう、さっき副団長の召喚獣が報せを持って来たんだ。今頃、話し中の副団長と領主様の耳にも入ってるぜ」
「そっか。でもシトール侯爵が黙ってないだろ?」
「さあ、それはこれからだな。
一応、トラートの街を出て直ぐの街道で別部隊が捕まえたらしい」
「へえ」
こんなあっさり終わるとは、信じられない。
あのお嬢様の自信たっぷりな様子は、絶対ひっくり返せる何かがあるんだ。
でなければ、ここまで大胆な行動は取れなかったはずだから。
「このまま、無事に戻れたら良いんだけど」
「大丈夫だ。一時はどうなるかと思ったけど、結果オーライってな」
「は?」
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