異世界に飛ばされたBA(男)の受難

豆もち。

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BA、聖女召喚の儀式に巻き込まれる

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 嫌われないか心配だった、お願い事はあっさり解決した。
 俺がミレーさんを好きという、王子の誤解を招いて。
「レンが望むなら、いつでも協力するよ」と、彼は爽やかな笑顔で公務に戻って行った。
 誤解を解きたいが解いたら解いたで、復職の件がなくなりそうで恐い。
かと言って、ミレーさん本人や他のメイドさんに伝わったらツライ。
 もう笑顔を向けてくれなそう。  


「オスカーく……オスカー。
俺はどうしたら良いかな」
「もしもの時は私もフォロー致しますので、今は波を荒立てない方が宜しいかと」
「もしもって何」
「……本日から宰相閣下が手配して下さった授業が始まります。
最初の授業は、もう間もなく講師の方がいらっしゃいますので」
「スルーされた。
え、ってかそうなの? 初耳。
なんか挨拶の仕方とかある?」
「いえ、講師陣にはトキトゥ様の事情を伝えておりますので、緊張しなくて良いとの閣下からの伝言です」


 あっ、そうなんだ。良かった。


「助かる。だけど急だね。
もっと時間がかかると思ってた」
「トキトゥ様のご要望でしたからね。
閣下自ら、講師を選んで招集したそうです」


 招集って、ぜひ来て下さい~、の招集だよな。
お前を任命したから来い、みたいな招集じゃないよな。
なっ、そうだよな。オカン宰相。


「へ、へぇー」
「ちなみに、本日の授業は全て宰相閣下が見学されます」


 爆・弾・発・言!!
 俺が真面目に授業を受けているか監視しに来るのか?!
恐ろしい! 初日から授業参観なんて聞いてない!


「冗談?」
「いいえ」
「宰相って暇なの?」
「閣下は大変お忙しい方です。
今の発言、他所でしてはいけませんよ」
「はい。すみません」
「……人目がある時は、使用人に謝らないで下さいね」
「はい」




 小一時間程して、大量の冷や汗をかいた初老の男性が現れた。


「しっ失礼しま、す。
初めましてヴァイト・タリーと申します」
「初めまして、レン・トキトウです。
本日は宜しくお願い致します」


 タリー先生で良いのかな?
 何故、彼はこんなに怯えてるんだ。
もしかして、この国の人は異世界人が恐いんだろうか。
 俺は善良な市民です。社会人歴も浅い若者だから無害です!


「へぁっ、あっ、どどうもご丁寧に。
ところでっ! 宰相閣下はまだいらっしゃってないのでしょうかっ」
「はい、まだですが…」
「ホッ……あ、や、ちがっ。
うぉっほん!
では、鬼の居ぬまーーっではなく!
授業を始めましょう」


 は~ん。俺じゃなくてオカン宰相の方か。
まあ、あの人冗談通じなさそうだもんな。
 でもお節介だけど、優しい人な気がするんだが…何でこんなに怯えられてるんだ?


「お願いします (で、何の授業なんだ。そういや聞いてねぇじゃん) 」
「私はハルシファー王国の文化について、お教えする様に申し付けられてます。
本日は初回ですから、簡単に国の成り立ちについてお教えしましょう。
歴史学の授業と被るかもしれませんが、宜しいですかな?」


 急にスラスラ喋り始めたな。変わり身早っ。


「はい」
「ではーーーー… 」



 ハルシファー王国は、今年で建国309年。
 大国に比べるとかなり若い国と言っていい。
 初代国王ユウト・ハルシファーが、国民に圧政を敷いていた旧ガルドロ王国から独立し、築いた国だそうだ。

 他国には珍しく、様々な種族が共存していて、それにより魔法の技術も高く、何種類もの術や手法が組み合わされた魔術も発展しており、一目置かれているらしい。
 よって聖女や勇者といった、異世界の種族を召喚する事にも、非常に長けている。
 
 んー。それは違うじゃないか?
 爺さんも滅多にないって言ってたし、長けてるんなら、送り還せるだろ。


「タリー先生、この国じゃなくて、この世界は何ていうんですか?」
「先生…良い響きですな」
「先生、世界の名前を」
「ああすみません。
特に呼称はされていません。まあ、世界ですね」


 地球みたいな、宇宙とか惑星の概念もないんだろうか。


「惑星ーー空を限界まで突き抜けたら、別の空間があったりしませんか」
「ほう、面白い考えですね。
残念ながら私は専門外なのでお答え出来ませんが」
「そう、ですか」
「ですが大抵の人は、こう答えるでしょう。ーーそれは神の世界。すなわち天上の者が住まう、天界だと」


 空超えたら、天界かぁ。
意外と神様身近だな。それが本当なら。


 次に国民には階級があり、
上から
国王
王族
貴族
商家
平民
と、並んでいる。

 ちなみに、聖女や勇者、神官達はそこに含まれず、別枠らしい。
 俺ってどこだ? ポジションは。


「俺は平民で良いんですよね」
「え?」
「え?」
「聖女様と同じ世界から来られて、第二王子の後ろ盾を得ていらっしゃいますから…平民とは言いづらいです」
「では何なんでしょう?」
「貴方は家名をお持ちなんですよね。
であれば、貴族ではないですか?
イメージとしては、他国の要人でしょうか」


 日本では、どれだけ貧乏でも戸籍がある限り、名字持ってるんです。
 貴族でも華族でもない!
ついでに武家の出身でもない。
 イマイチ理解してもらえないんだよな。
この家名問題。


「貴族ではないんですけどね」
「そうなのですか?
宰相閣下っがあれほどーーー」


ーーガチャ


「え、ガチャ?
ひぇっ、宰相閣下っ!」


 あれほど何、何なんですか、先生!


「遅れてすまない、トキトゥ。
タリー子爵、此度は要請に協力してくれて助かった。礼を言う」
「とっとんでもございません!
閣下から直々の書状を頂き、喜んで馳せ参じたしだいです!」


 本当にオカン宰相がオファーをかけてくれたのか。ありがたや。
 にしても先生、貴族なら貴族って早く言ってくれよ。
今、縮まりかけた俺と先生の心の距離が一気にリセットされたよ。むしろマイナス気味です。
 俺とか言ってしまった。最悪、僕とかならまだマシだったのに。
もっと畏まって、質問すれば良かった。
あと、馳せ参じるって何ですか。軍隊ですか。


「宰相様、機会を頂いてありがとうございます (出来る事なら、講師陣が貴族である可能性を示唆して欲しかったな)」
「いや、約束だからな。
それよりトキトゥ、顔がやつれている。
いきなり勉強はキツかったか?
少し休んだ方が」
「ぇ、宰相…閣下?!!??!」


 会って数秒でオカンモード発動とか、もうどう接すれば良いのか分からねえ。この人。
 タリー先生を見ろ、全身で驚きを表現されてますよ。


「元気です。ちっとも疲れてません。
朝食もしっかり頂きました (殿下仕様のおかげで、かなりの品数を食べましたとも)」
「む、そうか。
では子爵、続けてくれ」
「………………………………はぃ」


 その沈黙の長さに葛藤を感じます、先生。


 何はともあれ、予想していた授業参観とは違い、宰相さんは持ち込んだ仕事の書類を処理しながら、時折りこちらを見る程度だけだった。
 そこまでしてもらわなくても大丈夫だと伝えたい。
 国益に関わる大事な仕事が溜まってしまうんじゃないかと、ヒヤヒヤしてしまう。





「ーーーーでは、本日はここまでにしましょう。
何か質問はありますかな?」
「いえ、とても分かりやすかったです。
次回も宜しくお願い致します」
「それは良かったです。ええ、……………また次回に」


 このどうしようもない罪悪感は何だろう。
先生の授業を受けたいけど、その前にタリー先生の胃がヤられそうで、うん。


「私からいいか」
「ひぃっ、どっどうぞ閣下。
私、何か粗相を……」
「いや、本人が分かりやすいと言っているから、内容に問題はない。
しかし、些か声が小さ過ぎやしないか。
私が座った場所では、小さくて全く聞き取れなかった」


 それはアンタが来たからだよ。
 最初は普通だったんだ。途中で宰相さんにビビってこうなったんじゃないか。
 分かってやってくれ。不憫過ぎる。


「! もっ、申し訳ありません」
「タリー先生、ちゃんとは聞き取れましたよ! 生徒は私なんですから」
「うゔ、トキトゥざまっ」
「先生っ。
ーー宰相様、そんな事でケチつけないで下さい!
タリー先生が困ってらっしゃるじゃないですかっ」


 大の大人が縮こまって、半泣きしてるんだぞ。ちょっとは、その威圧感をしまってあげて欲しい。


「私はただ、トキトゥにより良い環境で学んでもらう為にだな……
ハァ、分かった。子爵、私の気にし過ぎだった」
「っ閣下! いえ、仰る通りです。次からはハッキリとお教え出来るように致します」
「ああ、頼んだぞ」
「はい。そっそれでは私は、これにて。
宰相閣下、トキトゥ様、失礼致します」


 あれ、俺、様付けされてない?
絶対先生の方が偉いのに。
でも申し訳ないけど、哀愁漂う背中が少しキュンとした。
 ごめん、タリー先生。





 何と、その後同じ様なやりとりを各講師陣と重ねた。やはり宰相様が皆んな恐いらしい。

 そして1週間後の朝。


「トキトゥ様、おはようございます」
「……え、ミレー、さん?」
「はい、ミレーでございます。
お目覚めですか? フフ」



 ミレーさんが、帰って来た。


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