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モブ王子、興味を持つ。
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しおりを挟む困ったことに、僕は今寝不足だ。
発端は昨日の夕食に始まる。
「アベルト、約束のデザートだよ」
「兄様、ありがと」
昼間の約束通り、兄様はデザートを分けてくれた。
本人的には、一皿まるまるくれるつもりでいたらしい。
まあ、僕がおやつをいっぱい食べた事が筒抜けだったせいで、止められちゃったけどね。残念。
それでも、自分の分と兄様の半分を食べた僕は満足した。
「ふぅ、お腹いっぱい。
アイリーン、箱持って来て」
「かしこまりました」
花冠は、壊れない様に箱に詰められ、アイリーンによって綺麗にラッピングされている。
それを受け取ると、僕は椅子から降りて、お母様に差し出した。
「何かしら。もしかして私にくれるの?」
「はい!」
「まあ、嬉しいわ。ありがとう。
開けて良いかしら」
「どうぞっ」
箱を開けたお母様の第一声を、ドキドキしながら待つ。
絶対、褒めてくれると思う。正直、褒められ待ちだ。
「……花冠?
なんて立派なのかしらっ。素敵だわ。
これから公務の時は、コレを身に付けようかしら」
うん。予想してたよりも、大絶賛を頂けた。
お母様。公務は無理だと思います。
あと、花は枯れます。
「さあ、アベルト。この素晴らしいティアラを、母に被せてちょうだい」
「はーい」
載せやすい様に下げられた頭に、花冠を慎重に置く。
ふう。良かった、崩れてない。
「うふふ。どうかしら、似合っていますか?」
「はい! 綺麗です」
すごい。なんだかお姫様みたいだ!
このまま、保存出来れば良いのに。
「母上、とても良くお似合いです。輝いて見えます。アベルトの花冠が」
「ああ。本当に素晴らしい出来栄えだ。これ程の出来は、国一番の宝飾師でも難しいだろう」
「私もそう思うわ。
アベルト、母はとても嬉しいです。宝物にしますね」
「えへへ」
僕、大満足。将来は、宝飾師にでもなろうかな。そしたら、お母様やアイリーンに作ってあげるんだ。
「ハッハッハ。見事だ、アベルト。
しかし、何故お父様の分がないのかな?」
「え」
「そうだよ、アベルト。私にはないのかい?」
「ええ」
お父様も兄様も欲しいの?
王冠じゃなくて、ティアラが?
えっ。なんか嫌だ。いつか、ドレスが着たいとか言い出したら、どうしよう。
……それでも僕は、2人の味方だよ。
「ンフフ。陛下、アベルトは私の為に作ったのです。陛下やカルロには似合わないのではありませんか?
オホホ、私の為にね。私の」
「ぐっ、決して王妃だけの為ではない。偶々だ。偶々」
お母様とお父様が火花を散らす中、兄様はコソッと聞いてきた。
質問風に聞いてるけど、たぶん強制だよね。
圧が強いもん。
「アベルト、兄様にも何か作ってくれるよね」
「あ、うん」
「ありがとう。とても楽しみに待っているよ」
「うん…」
そして怒涛の訪問ラッシュが始まった。
湯浴みも終え、後は寝るだけと思った時、トーマスが訪ねて来た。
「あれ、珍しいね。どうしたの?」
「ご就寝の時間に申し訳ありません。
殿下にお願いがあって、参りました」
「へー、なぁに?
とりあえず、座って」
「恐れ入ります。
実は、陛下が大変落ち込んでおりまして。どうにか、陛下にも手作りの物を贈って頂きたく」
それだけ?
明日でも良かったんじゃないかな。
「うん。良いよ」
「左様でございますか!
では、さっそく何をお作りなるのか決めませんと。明日朝一番に、材料と必要な人材をご用意致します故」
「今から決めるの?
もう夜だよ、トーマス」
僕は嫌な顔を隠しもせずに言った。
酷いじゃないか。子供はもう寝る時間だよ。
「誠に申し訳ありません、殿下。
しかし、心を鬼にして言わせて頂きます。
殿下がお決めになるまで、トーマスは動きませんぞ」
「ええ~」
嘘でしょ、トーマス。僕、王子だよ。
王子なのに侍従長に脅されてるの?
いくらお父様の右腕で、宮内の管理を任されてるからって! あんまりだよ!
「私も心苦しいんです。
ですが、今直ぐにでも必要なのです!
陛下が先程から不貞腐れて、明日の仕事は全てキャンセルすると申されましてっ。明日は、大切な会議があるにも拘らずです!」
「それで何で僕が」
「花冠ですよ!
それは大層悲しんでおいでです。
今や陛下の原動力は、アベルト殿下と言っても過言ではございません」
「過言だよ」
「さっ、殿下。何にされますか。寝たければ、お考え下さい。国の為です」
そんな国はダメだと思う。
仕方なく、トーマスと一緒に作る物を決め、必要な材料を書き出してもらう。
やっと寝られると安心した瞬間、ノック音が聞こえた。
「……次は、カリアか」
「ご就寝前に申し訳ありません。
はて。次と申しますと、他にもメイドが?」
「いや、トーマスだよ」
名前を言うと、カリアは納得した様子で、遠い目をしていた。
何でだ。
「こほん。恐らく、私と同じ理由でございましょう」
「という事は」
「はい。カルロ様が、それはもう楽しみにしてらっしゃいまして。私供にどれだけ喜ばれているか、お話下さったんです」
だったら、急ぎじゃなくても良いよ。
絶対、今じゃないから。日が変わっちゃう。
「そう。嬉しいよ」
「しかし、1人が口を滑らせてしまったのです」
「何を」
「私がーーカルロ様より早く、花冠を頂戴してしまった事をです」
そんな「終わりだ」みたいな顔されても……
だって、カリアにあげたのは不格好な練習のやつだし。兄様にあげられる様なレベルじゃなかったよ?
「うーん」
「お聞きになったカルロ様は、大層ご立腹でして」
「そうなの?」
「ええ。全ての瞬間を見逃さない様に、常にアベルト殿下と一緒に居ると仰いました」
「んんっ?!」
「明日からの授業を全てボイコットすると申されてっ! うゔっ。このカリア、カルロ様にお仕えして9年。まさか私の至らなさが原因で、カルロ様から学ぶ機会を奪うとはーーっ」
なんてオーバーな。
繊細すぎるよ、カリア。いっそ清々しい。
「分かった。一緒に考えよう。大丈夫だから」
こうして、未明まで続き、僕は今6時という早朝に起こされている。
「殿下、おはようございます。
材料と職人はご用意出来ておりますので」
「……こんな朝早くに」
「ええ、夜通し探しましたので」
「……トーマス、寝てないの」
「当然です。何としても本日の会議には、ご出席頂かなくてはなりませんから」
「そっか。じゃあ、作ろうか。
ふあぁ~。寝巻きのままで良いかな」
「なりません。殿下は、トリステア王国の王子であらせられます。下々の前では、きちんとしたお姿で応じて下さい」
その王子を夜更かしさせて、朝っぱらから叩き起こしたのは、誰だっけ。
もしかしなくても、ちょっぴりトーマスが嫌いになった。
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