モブ王子、悪役令嬢に転生した少女をフォローする

豆もち。

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モブ王子、興味を持つ。

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 トーマスによって連れて来られた宝飾師、細工技師達が壁一列に縮こまっている。目立つ2人が親方的な人達で、他の人は従業員かな。
 ええー、僕にどうしろと。
 朝っぱらからごめんね。ウチの侍従長が。



「殿下、先ずは陛下のバックルからお願い致します」
「あー、うん。ふあ。ねむ…」
「アベルト殿下?」
「はっ! うん、分かった。作り始めよっか。
君達も朝から悪いね。よろしく頼むよ」
「「「とんでもございません!
光栄の極みでござますっ」」」


 昨夜考えた結果、王様に冠はマズイつて事で、ベルトのバックルを作る事にした。
 兄様は、ブローチね。きっと似合う。


「あの~、ご指示通りの石をお持ちしたのですが……本当にコレで宜しいのですか?」
「うん、十分。ありがとう」
「恐れ入ります」


 宝飾師が恐る恐る、トレーの上の細かい石を見せてくれた。
トーマスは、所謂屑石と呼ばれるそれを見て、少し不満気だ。


「殿下。今からでも、使用される宝石を変えてみては如何でしょう」
「昨日ちゃんと言ったでしょ。立派な石じゃ勿体ないって」
「ですが……少々貧相では?」


 加工する時に出た欠片や、規格外の小さい石だから、輝きは小さいし、たしかにショボい。
だけど、それで良いんだ。
 まとめて集めちゃえば、派手になるから!
 レオの毛だって、白銀に輝いて見えるけど、抜け毛はただの白い毛なんだ。
宝石も一緒だよ。同じ光り物だから。


『(ルトよ。絶対に何か勘違いしておるぞ)』


 せっかくだから、お父様をイメージして作ろう。
 その前に、型をどうしようか。無難に銀製のやつで……ああ、この真四角の形に決めたっ。
 石の意味とか考えてたら、時間が足りないから~、お父様の髪と同じ深い赤の石とぉ、瞳の金色!
……金色ないや。黄色でいっか。金色だと思えば、そう見えない事もないし。
 よし、良い感じ。黙々と作業を進めていくと、細工技師から待ったがかかった。


「お待ち下さい、殿下」
「へ」
「とても素晴らしい配色と、殿下の見事な手捌きには、感銘を受けます」
「ありがとう」
「いえ。そこで、差し出がましいのですが、私奴からご提案がございます」


 おお~、鼻息が荒いな。
 トーマス、この職人は大丈夫なの。


「話してみて」
「はい。我々の仕事では、加工して終わる作り方が主です。ですが、上位貴族の皆様がお持ちになる装身具は違います」
「へー。素材の問題じゃなくて?」
「勿論、素材も大きく異なりますが、1番は付与魔法が施されているか、否かです」


 付与魔法か。なるほど、考えてもみなかった。
剣や鎧に付ける魔法だとばかり。
 出来るなら絶対やりたい。王宮に付与魔法使える人居たっけか。
 

「貴方は出来るの?」
「はい」
「ほんとっ! じゃあ、疲労回復と防御と……」
「で、殿下?」
「ん? あ、欲張りすぎた?」
「いえ…その、申し上げ難いのですが、私では付与出来るのは1つ。よほど良い石を使っても2つが限界です」


 ありゃりゃ。だったら、防御にしようかな。


「ねえ、付与の仕方を教えてもらえない?」
「構いませんが、付与魔法は適性者が少ないので、その……」


 適性かぁ。きっと僕が適性なしで悲しむんじゃないかと心配してるんだね。
さっきから、ちらちらトーマスに助けを求めてるし。


「アベルト殿下。ここは、彼にお任せしては如何ですか」
「そうだね。でもやり方は教えてくれる?」
「はっはい! 勿論でございます。説明しながら、付与致しますね」
「うん、ありがとうね。えっと……」
「サイークと申します、殿下」
「じゃあ、作っちゃうから少し待ってて。サイーク」
「はい」


 石の配置を決めたら、宝飾師に頼んで填め込んでもらう。
その間に、兄様のブローチに取り掛かる。
 お母様と同じプラチナブロンドの髪色と、瞳の金…もどきの黄色! 
バックルと違って、デザインは自由だから~、レオにしよう!
 兄様もレオが大好きだもん。僕もお揃いで作っちゃおっかな。


「あれ、上手くいかない」
「おや、可愛いらしい。白い犬、いや狼でしょうか」


 トーマス。褒めてくれるのは、嬉しい。
けど、これはレオだよ。狼よりずっと強い、獅子なんだから。


「むぅ。ハイ、配置終わり!
填め込みよろしく!」
「???」


 トーマスの分からずやめっ。


「では殿下、バックルの方は出来上がった様なので付与を始めて宜しいですか」
「お願い」
「何を付与するか、お決まりですか」
「うん。防御が良いな。こう、盾になるような」


 身振り手振りでサイークに希望を伝える。
 イメージは結界に近い。


「そうですね。石のランクが低いので、防げて下級魔法1~2回と言ったところでしょうか」
「そっかあ。まあ、ちゃんとした魔法具は別に持ってるから、大丈夫。それでよろしく」
「はい。方法は単純です。付与したい効果を出来るだけ具体的にイメージします。あとは、付与する媒体に集中して魔法を発動させるだけです」
「ふんふん」
「それでは、発動しますね。付与効果は防御。それをイメージしーーーーな゛っ」
「ふむふむ、イメージ、イメージ。
わっ! 光った! すごい、これで完成したの?」


 サイークの隣で一緒に付与するフリをして、気分を味わう事が出来た。
しかも、僕が「ココだ!」と、思った瞬間に石が光った。ナイスタイミングだよ、サイーク。
 僕とサイークは気が合うのかも知れない。


「……そんな、馬鹿な」
「どうしたの。失敗しちゃった? 大丈夫だよ、まだ材料あるから」
「ブローチの方も準備が出来ております。
サイーク殿、此方からされますか?」


 サイークの固まった顔を見て、僕は慌ててフォローに入った。
トーマスも気を利かせ、先にブローチを勧めている。


「おい、サイーク。今のは、まさか」
「あ、ああ。そのまさかだ」


 あ、2人は知り合いなのか。優秀な職人同士だから、知らない方がおかしいのかも知れないけど。
 君達、仲良いね。僕等を放って、バックルをあらゆる角度から観察するとは。ある意味肝が据わって今るよ。


「ごっほん。殿下の御前ですよ」
「「はっ、し、失礼致しました!」」
「さ、付与を続けて下さい。殿下をお待たせするおつもりですか」


 全然待ってない。むしろ驚くほどスピーディーに進んでいる。
 台座に填めてもらう時だって、宝飾師の手先が速すぎて、見えなかったくらいだ。
 僕なんか、ぷるぷる震えながら配置してったのに。


「はひっ。し、しかし、侍従長殿っも、問題が発生致しまして」
「何ですと。まさか今更、付与出来ないと言うのではないでしょうね。貴方は、王族を謀ったのですか!」
「ヒイィッ」
「もしかして、小さすぎて無理だった?
別に無しでも僕は良いよ」


 どうせトーマスとカリアに言われて、作らされてるだけだから。
 完成度より、作った事実さえあれば問題なし。
 お父様も兄様も、僕にそこまで求めてないよ。


「いいえっ、付与は完了しております!」
「あ、そうなの。じゃあ、良いじゃない」
「ただ、私が付与したわけではありません」


 んん?


「それは、元から付与魔法が施されていた、という事でしょうか」
「違います。宝飾師シトリンが用意した石に、その様な物はありませんでした」
「……まさか!」
「はい。恐らく、そのまさかにございます」
「今直ぐ、鑑定士を手配しなさい!
それと、王妃殿下に本日の朝食を遅らせる連絡を!」
「「「承知しました!」」」


 なんだ、なんだ。どうした急に。
 トーマスが大きな声で指示を飛ばし、メイド達が一気に部屋から飛び出して行く。


「トーマス?」
「殿下、もう少々お待ち下さいませ。
あ、カルロ殿下のブローチは、そのままにしておいて下さいませ。陛下のバックルには、触れない様に」
「分かった」
「結構です。私、席を外しますが、直ぐ戻って参ります。その間、職人達かれらとお話されていて下さい」
「うん」
「アイリーン、殿下と彼等に新しいお茶を」
「はい」


 ねえ、なんなの。せめて説明してから、出てって。
除け者にされたみたいで、淋しい。





「アベルト殿下。私共と、宝石の種類や付与効果について、お話しませんか?」
「うん、する!」


 説明よりも、もっと楽しそうな誘いを受け、僕はすっかりご機嫌になった。
 アイリーンには、その間、生温かい目で見られていた。
 さっきまで空気に徹してたくせに。こういう時だけ~。
やめろ、見るな。僕の不満が解消されたわけじゃないんだぞ!


「二重付与と言うのはですね」
「えっ、二重? もっかい、もう1回今の話して!」

「(アベルト様、ちょろすぎます。アイリーンは心配で心配で……ああ、かわい)」




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