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太陽の話(スピンオフ2)
16 実習最終日
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「僕は、実習初日で思いを伝えたあの時と気持ちは全く変わっていません。いやそれどころか、実習で一緒の時間を過ごし、ますます太陽さんのことが好きになりました。太陽さんに喝を入れていただいたあの瞬間から、僕は太陽さんしか見えていません。僕の全ては、太陽さんのためにあります」
大袈裟すぎると思ったけど、凛太郎のまっすぐな気持ちは伝わった。嘘偽りがないのも感じた。
だから、オレがここでごまかしたりしちゃいけないんだ。
「ありがとな。凛太郎の気持ちはよくわかった。……けど、正直、オレ自身の気持ちがまだよくわからない。すぐに返事をするのは無理なんだ」
今のオレに言えるのは、これが精一杯。
凛太郎の思いを聞いて、これから少しずつオレの中の感情を整理していかないと、答えに辿り着かないと思う。
こんな曖昧な返答を、凛太郎はどう思っただろうか。
向き合うと決め、少しずつ凛太郎とのことを考えていた時に現れた『婚約者と名乗る詩音くんの存在』は、誤解だとわかった。
年齢のことも、第二の性のことも、気持ちに蓋をする理由にならないのもわかっている。
だから、真っ直ぐオレ自身の気持ちだけを考えればよくて、これから少しずつ、考えていくつもりなんだ。
オレは、黙ったままの凛太郎の返事を、ドキドキしながら待った。
「今日は誤解が解ければいいなと思ったから、話を聞いてもらえただけで十分です」
「そっか……」
意外にもあっさりした返事に、少し拍子抜けしてしまった。
けどきっと、色々あったから、凛太郎もゆっくり考えたいのかもしれない。
「お時間をいただき、ありがとうございました。家まで送ります」
「ふふ、そうだな。方向一緒だもんな」
「はい。太陽さんの家に近い場所にマンションを借りたので」
「はは、そうなんだな……」
凛太郎の家が近いことを知った時、まさかなと一瞬よぎった考えだったけど、見事に当たっていた。
でも、凛太郎がなぜここまでオレに執着するのか話を聞いたから、もうオレは驚かなかった。
「本当に、オレのことを追いかけてきたんだな」
「当然です。オレの人生かけてますからね」
凛太郎は爽やかな顔をして、めちゃくちゃ重いセリフを言ってのけた。
「遅くなっちゃうので、もう帰りましょうか」
「そうだな」
公園を出てからのほんの数分、オレも凛太郎も言葉を話すことなく、黙って夜道を歩いた。
虫の音の中に聞こえる、お互いの足音のリズムが、何か心地よい。
こういうのも、相性がいいというのかもしれないな。
明日はクリニックの休診日だ。
そしてその次の日の金曜日は、凛太郎の実習最終日。
すぐには答えは出せないと思うけど、明日は出かける用事がないから、ゆっくり考えてみようと思う。
「太陽さん、戸締りしっかりしてくださいね」
「ああ、わかってるよ。凛太郎、お前も気をつけて帰れよ」
「はい、ありがとうございます。では、おやすみなさい」
「おやすみ」
凛太郎は、ペコリとお辞儀をすると、家の方に向かって走っていった。
その日の夜に、また電話がかかってくると思っていたけど、凛太郎は簡単なメッセージを送ってきただけだった。
凛太郎なりの気遣いなんだろうな。
こんな、欠点らしい欠点のない男が、何でオレなんだろう? 凛太郎の思いは聞いたけど、やっぱりそう考えてしまう。
ベッドに横になり、天井に凛太郎の顔を思い浮かべながら、オレはいつの間にか夢の中に誘われていった。
◇
「お世話になりました」
金曜日の夕方。
実習時間が終わり、すべて身支度を済ませた凛太郎は、春岡先生とクリニックスタッフ、そして春岡クリニックをかかりつけ医としている患者さん数名に挨拶をしていた。
「凛太郎くんがいなくなっちゃうのは寂しいなぁ」
「凛太郎くんがいてくれて、とても助かったよ。ありがとうね」
「またたまには顔出してね?」
花束と、手土産を渡された凛太郎は、感極まった様子でみんなを見ていた。
「不慣れな学生の僕に、皆さんとても親身になってくださり、ありがとうございました。春岡クリニックでの実習で得たものを活かし、寄り添える医師になれるように精進します」
凛太郎の挨拶を聞き、皆で一斉に拍手をした。
そしてまた口々に凛太郎に声をかけていく。
「さ、名残惜しいけど、今はまだ診察時間内だからな。ほら、凛太郎行くぞ」
「はい」
オレは凛太郎の指導係として、代表でクリニックの裏口までついていき、見送ることにした。
「ほんと、お疲れさん」
「ありがとうございます。とても良い経験になりました」
「凛太郎、お前は絶対立派な医者になる。オレが保証する。……だから、まだあと少しあるけど頑張れよ」
「太陽さんに太鼓判を押していただけたなら、百人力ですね」
オレは凛太郎からの返事に、あははと声を上げて、バシバシと凛太郎の背中を叩いた。
この前、ちゃんと話をすることができてよかった。そうじゃなければ、今日、こうやって晴々とした気持ちで見送れなかったかもしれない。
「じゃあ、また連絡する。まだ仕事中だから、もう戻るな」
「はい、お仕事頑張ってください!」
お互いに手を振り合うと、オレは再び仕事に戻っていった。
大袈裟すぎると思ったけど、凛太郎のまっすぐな気持ちは伝わった。嘘偽りがないのも感じた。
だから、オレがここでごまかしたりしちゃいけないんだ。
「ありがとな。凛太郎の気持ちはよくわかった。……けど、正直、オレ自身の気持ちがまだよくわからない。すぐに返事をするのは無理なんだ」
今のオレに言えるのは、これが精一杯。
凛太郎の思いを聞いて、これから少しずつオレの中の感情を整理していかないと、答えに辿り着かないと思う。
こんな曖昧な返答を、凛太郎はどう思っただろうか。
向き合うと決め、少しずつ凛太郎とのことを考えていた時に現れた『婚約者と名乗る詩音くんの存在』は、誤解だとわかった。
年齢のことも、第二の性のことも、気持ちに蓋をする理由にならないのもわかっている。
だから、真っ直ぐオレ自身の気持ちだけを考えればよくて、これから少しずつ、考えていくつもりなんだ。
オレは、黙ったままの凛太郎の返事を、ドキドキしながら待った。
「今日は誤解が解ければいいなと思ったから、話を聞いてもらえただけで十分です」
「そっか……」
意外にもあっさりした返事に、少し拍子抜けしてしまった。
けどきっと、色々あったから、凛太郎もゆっくり考えたいのかもしれない。
「お時間をいただき、ありがとうございました。家まで送ります」
「ふふ、そうだな。方向一緒だもんな」
「はい。太陽さんの家に近い場所にマンションを借りたので」
「はは、そうなんだな……」
凛太郎の家が近いことを知った時、まさかなと一瞬よぎった考えだったけど、見事に当たっていた。
でも、凛太郎がなぜここまでオレに執着するのか話を聞いたから、もうオレは驚かなかった。
「本当に、オレのことを追いかけてきたんだな」
「当然です。オレの人生かけてますからね」
凛太郎は爽やかな顔をして、めちゃくちゃ重いセリフを言ってのけた。
「遅くなっちゃうので、もう帰りましょうか」
「そうだな」
公園を出てからのほんの数分、オレも凛太郎も言葉を話すことなく、黙って夜道を歩いた。
虫の音の中に聞こえる、お互いの足音のリズムが、何か心地よい。
こういうのも、相性がいいというのかもしれないな。
明日はクリニックの休診日だ。
そしてその次の日の金曜日は、凛太郎の実習最終日。
すぐには答えは出せないと思うけど、明日は出かける用事がないから、ゆっくり考えてみようと思う。
「太陽さん、戸締りしっかりしてくださいね」
「ああ、わかってるよ。凛太郎、お前も気をつけて帰れよ」
「はい、ありがとうございます。では、おやすみなさい」
「おやすみ」
凛太郎は、ペコリとお辞儀をすると、家の方に向かって走っていった。
その日の夜に、また電話がかかってくると思っていたけど、凛太郎は簡単なメッセージを送ってきただけだった。
凛太郎なりの気遣いなんだろうな。
こんな、欠点らしい欠点のない男が、何でオレなんだろう? 凛太郎の思いは聞いたけど、やっぱりそう考えてしまう。
ベッドに横になり、天井に凛太郎の顔を思い浮かべながら、オレはいつの間にか夢の中に誘われていった。
◇
「お世話になりました」
金曜日の夕方。
実習時間が終わり、すべて身支度を済ませた凛太郎は、春岡先生とクリニックスタッフ、そして春岡クリニックをかかりつけ医としている患者さん数名に挨拶をしていた。
「凛太郎くんがいなくなっちゃうのは寂しいなぁ」
「凛太郎くんがいてくれて、とても助かったよ。ありがとうね」
「またたまには顔出してね?」
花束と、手土産を渡された凛太郎は、感極まった様子でみんなを見ていた。
「不慣れな学生の僕に、皆さんとても親身になってくださり、ありがとうございました。春岡クリニックでの実習で得たものを活かし、寄り添える医師になれるように精進します」
凛太郎の挨拶を聞き、皆で一斉に拍手をした。
そしてまた口々に凛太郎に声をかけていく。
「さ、名残惜しいけど、今はまだ診察時間内だからな。ほら、凛太郎行くぞ」
「はい」
オレは凛太郎の指導係として、代表でクリニックの裏口までついていき、見送ることにした。
「ほんと、お疲れさん」
「ありがとうございます。とても良い経験になりました」
「凛太郎、お前は絶対立派な医者になる。オレが保証する。……だから、まだあと少しあるけど頑張れよ」
「太陽さんに太鼓判を押していただけたなら、百人力ですね」
オレは凛太郎からの返事に、あははと声を上げて、バシバシと凛太郎の背中を叩いた。
この前、ちゃんと話をすることができてよかった。そうじゃなければ、今日、こうやって晴々とした気持ちで見送れなかったかもしれない。
「じゃあ、また連絡する。まだ仕事中だから、もう戻るな」
「はい、お仕事頑張ってください!」
お互いに手を振り合うと、オレは再び仕事に戻っていった。
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