【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
26 / 86
あれで付き合ってないの?(本編)

26. 告白

しおりを挟む
「ありがとな。……おれは大丈夫だから、すべてを話して欲しい」

 大好きな香りをめいいっぱい吸うと、震えていた声も落ち着き、平常心を取り戻せた気がする。
 背中から離れるとくるりと蒼人あおとをこちらに向かせ、ちょっと意地悪そうにニカッと笑いながら、真正面から抱きついてやった。
 そして。蒼人の胸に顔を埋めたまま、思いの丈をぶつけることにした。
 

「蒼人……好き……」

 顔は見えないけど、きっと目を見開いて驚いているんじゃないかな。
 このタイミングで? って思うけど、しょうがないんだ、今だって思っちゃったんだから。
 
 学校で意識を失う直前、もう蒼人に会えないかもしれないって思った。
 叶わない恋かもしれないけど、言えないまま会えなくなってしまったらって思うと、怖くなった。
 それなら、思いだけでも伝えたい。
 おれの、本当の気持ちを。
 

「──っ!」

 抱きついたままのおれの頭上から、息を呑む声が聞こえた。

「……返事は、しなくていい。……伝えたかっただけだから」

 なにか言いたげな蒼人を制して、何も言わないでほしいと懇願する。
 蒼人への思いを浄化できた。それだけで満足だ。

「肩のこと詳しく聞きたいけど、もう面会時間終わるよな。……明日、来れる時間あるか?」
「……明日も、朝から来る。……さっきのは……」
「わかった! じゃあ、また明日な」

 蒼人の言いかけた言葉に無理やり被せ、半ば強引に会話を終了させると、もう寝るから! と、部屋から追い出した。

 ごめんな。言うだけ言って逃げるなんて卑怯かもしれないけど、今日はもういっぱいいっぱいなんだ。

 さっき蒼人に抱きついたから、おれ自身にも匂いが付いているし、今日は蒼人に包まれる気分で寝られる。

 思いもよらずな告白になってしまったけど、後悔はしていない。
 たとえ親の決めた結婚だったとしても、蒼人なら相手をとても大切にするだろう。そして、ちゃんと好きになるだろう。
 でも、心の一番奥かも知れないけど、おれの気持ちもきっと仕舞っておいてくれるはずだ。

 いつか、笑ってこんな日もあったなって、話せる日が来るといいな。

 肩の痛みと胸の痛みに少し顔を顰めつつも、自分に纏う大好きな人の匂いを感じながら、眠りについた。




 次の日。蒼人は言った通り朝早くからやってきた。
 本来は面会時間というものが存在するのだけど、春岡はるおか先生の病院ということもあって、かなり融通がきくようになっていた。

 産まれた頃からおれ達のことを知っている春岡先生だから、蒼人はおれにとって家族と同じ扱いということは承知していることだけど、真面目な蒼人は、律儀に先生へちゃんと面会の確認を取っていたらしい。

「体調はどうだ?」

 蒼人の第一声はそれだった。
 普通ならまぁ、おはようとかそんな感じから話すだろうし、正直昨日のことがあったから、病室に入るや否や、そのあたりに突っ込んだ話をされるかと思っていた。

 だって、勢い余って告白したんだぞ?

 それをなかったことに……とは言わないまでも、『それは置いといて』みたいな感じになっているのは、おれとしてもどうもムズムズしてしまう。
 でも、言い逃げとも言える形を取ったのも、おれ自身だ。

「うん……。もう大丈夫。朝も普通に御飯食べられたし」

 昨日目が覚めてから暫くの間は、身体が思うように動かないもどかしさがあったけど、今は身体も思考回路も正常だと思う。
 昨日のことはしっかりと覚えているし、なかったことにしてくれなんて思わない。
 蒼人が結婚すると分かっていても、おれのこの気持ちが嘘だったとは思いたくはない。
 おれのわがままでしかないけど、本当の気持ちを伝えられたのは、良いタイミングだったと思う。

 蒼人は近いうちに正式に結婚するだろうから、その前にそっと距離を置こう。
 とりあえずは、北海道に行くのも良いかも知れない。広大な大自然の中でゆっくりしてから、日本を離れようか。 

「……本音をいうと、おれは麻琴まことにすべてを話したくない」

 おれがごちゃごちゃと考えていたら、蒼人の絞り出したような声が聞こえてきた。
 一人の世界に入りかけていたおれは、はたと我に返り、蒼人の方を見た。

「喫茶店でのことも、学校でのことも、全て調査が完了している」
「え……」
「正直、麻琴にとってショックなことも含まれていると思う。……それでも、聞きたいか?」

 蒼人は、苦しそうな表情で聞いてくる。
 すべて警察に任せているのかと思ったら、蒼人も協力してくれていたのだろうか。
 真相を話したくなさそうだったけど、ここで聞かなかったら、逃げていたら、ずっと後悔すると思う。

「……おれは、全てを知りたい」

 きっと、真実を告げる蒼人だって辛いはずだ。そんな思いをさせるのは心苦しいけど、前を向くために必要なこと。

 大きく深呼吸をしたあと、蒼人の顔をしっかりと見て、大きく頷いた。

「分かった……。気分が悪くなったら、すぐ言うんだぞ?」
「うん」

 蒼人はおれの返事を聞いたあと、少し考えた様子で室内を見回し、壁際に設置されているソファーへ腰掛けた。
 そして、自分の膝の上をポンポンと叩く。

「麻琴。こっち来て」

 言われるがままにそばへ近寄ると、ぐっと腰を掴まれ、いつものように、膝の上へと腰掛ける形になった。
 そして後ろからおれをふわりと抱きしめると、「肩、大丈夫か? この姿勢でも平気か?」って耳元で囁かれたから、ドキドキしながら頷いた。
 
 顔が熱いよ……。

しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。 ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。 「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」 そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。 完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか? 初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

処理中です...