【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
27 / 86
あれで付き合ってないの?(本編)

27. 事の真相は

しおりを挟む
「まず……。喫茶店でのことなんだけど。あの日麻琴まことの飲み物に発情誘発剤を入れたのは、喫茶店の店員なんだ」
「え……っ? なんで……」

 見ず知らずの店員に恨まれるようなことでもしたんだろうか。どう考えても、全く覚えがない。
 自慢できる生き方をしてきたと胸を張れるかと言われたら、大きな声で返事は出来ない。けど、母の教え通り、人様に迷惑をかけるような行いをしてきたつもりはない。

 個人的な恨みでないなら、お店にとってなにか有益なことがあったから……?

「その店員は、ある人物に頼まれただけだと言ったんだ」
「頼まれた……?」

 ますます訳が分からない。でも、知らないうちに、誰かを傷つけてしまっていたのだろうか。

 蒼人あおとの苦しそうな声が、耳元から聞こえてくる。
 おれが傷付かないようにと、言葉を選んで慎重に話してくれているんだと思う。
 ひと呼吸を置いて、おれの身体をぎゅっと抱きしめ直した。
 そして。

「その相手というのは、俺達の同級生の、佐久星司さくせいじ、で──」
「……っ」

 下手に先延ばしにしても仕方がないと、意を決して伝えてくれたんだろう。
 ゆっくりとした口調だったのに、段々と早くなっていく。

「麻琴が初めて出来たオメガの友達だと、嬉しそうに話してくれた飯田月歌いいだるかも、グルだったんだ……」
「佐久くんと……飯田くん……まで? ……え? なんで? どうして? ……友達だって……これからもって……」

 つい先日も、旅行の話をしたばかりだ。まだ出会ってからの期間は短いけど、これからもずっと付き合っていきたいと思えるほどには、信頼していた。
 おれの勝手な感情で、距離を取ろうとしてしまっていたけど、心のなかではいつまでも友達だと思っていたのに。

 蒼人が嘘を言ってるとは思わない。でも、嘘だよね? 間違いだよね? そう確認せずにはいられない。
 抱きしめられている腕を振りほどいて、真正面から蒼人に問いただしたい。

 でも蒼人は、おれを抱きしめる腕を、緩めることはなかった。

 こんな事実が伝えられるとは思わなかった。想像もしていなかった。
 伝えられた言葉の衝撃に、本当は取り乱していたかも知れない。

 蒼人がいなければ。蒼人から伝えられなければ。

 でもおれは取り乱すことなく、辛うじて話に耳を傾けることが出来ている。
 やっぱりおれは、どんな時でも蒼人に守られてきたんだ……。

「カラオケボックスでのことも、喫茶店でのことも、学校でのことも、全部、佐久星司が仕組んだことだったんだ」

 おそらく、おれが一番ショックを受けるだろう事実を先に伝えてくれた。
 蒼人に包まれて守られていたから、衝撃は最小限で済んだんだと思う。

 それでも、ダメージはとても大きくて、スーッと涙が頬を伝って落ちてきた。

「麻琴にとってショックなことだと思うけど、この事実だけは伝えないといけないと思ったんだ」

 蒼人からおれの顔は見えないはずなのに、頬に伝い降りた涙を拭いながら言った。

「飯田がグルだったと言ったけど、彼にも事情があったんだ。そのことは、分かってやってほしい」
「事情?」
「学校での騒ぎのあと、飯田自身が泣きながら話してくれた。……だからといって許されることではないけど、ある意味彼も被害者なんだ」

 その後も、おれの頭を優しく撫でながら、蒼人は話を続けた。

 佐久くんは警察で、飯田くんは蒼人や太陽たいよう、うちの両親と蒼人の両親みな揃っている前で、事の成り行きを話したらしい。
 佐久くんは、ゲームセンターで助けて近付いて、喫茶店では介抱するふりをして、……おれとの関係を持とうとした。
 学校では、ベータと偽っていた先生を脅して襲い、助けようとするであろうおれを巻き込もうとした。
 全て失敗に終わったけど、結局動機は分かっていないらしい。

「おれの、肩の痛みは……?」

 学校でのことと言われて、聞きたかったことを尋ねた。

夏丘なつおか先生のヒートに影響を受けてラットになった佐久星司が、セーフティールームに先生を連れて行こうとした麻琴に襲いかかったんだ。……その際に、肩に噛みつかれた。大切なうなじに近い場所だったからか、麻琴はショックで気を失った」
「……え? でもそれなら……」

 あの時、周りには他に誰もいなかった。そのまま空き教室に連れ込まれ襲われて、うなじを噛まれ、番が成立という、最悪の結果になっていたかもしれない。
 事故で番になってしまうなんて、そんな恐ろしいこと……。
 想像しただけで、身体が震えてきてしまう。

 そんなおれに気付いて、蒼人は頭や頬をなでたりしながら、自分のフェロモンをおれに纏わせた。
 身体の震えは治まり、全身がぽかぽかと暖かくなって、気持ちが落ち着いてきた。
 
「蒼人、ありがと。もう大丈夫。……続き、話して」

 おれの言葉に、蒼人は再び話し始めた。

「見張り役として隠れていた飯田が、泣きながら出てきて、助けを呼んでくれたんだ」
「そっか……。飯田くんが……」

 おれに近付いて来たのは、目的があったから。
 だからはじめは、演技だったのかもしれない。でも、一緒にいる時の楽しそうな飯田くんは、演技だとは思えなかった。本当に、友達になれたことを喜んでいたと思う。
 だから、おれのピンチにいても立ってもいられなくなって、出てきて助けてくれたのかもしれない。……自分の立場が危うくなるとわかっていても。

「彼は、佐久星司の婚約者なんだ」
「うそっ……?!」

 もうこれ以上驚くことはないのかと思っていたのに、蒼人はまた爆弾を落とすかのような言葉を口にした。

「だから、おれと飯田が婚約したというのも嘘。佐久星司が流した噂だよ」
「なんでそんなことを……」
「傷心の麻琴の隙に付け込もうとしたんだろうな」

 いつもおれの側にいた蒼人が、訳あってしばらく離れることになって、そのタイミングで計画が実行されたんだろうと。

「俺がいない間に飯田が声をかけてきたのも、カラオケボックスで絡まれたのも、偶然を装って佐久が助けたのも、それをきっかけにデートに誘ったり告白してきたのも……全てが計画通りだったってことだ」

 ──告白!

 蒼人の言葉に、佐久くんとのやり取りを思い出し、ビクッと身体を震わせた。

 そのことも、知ってるんだ……。
 
 おれは蒼人の反応が怖くて、身体に力が入る。自分の本当の気持ちに気付いていなかったとはいえ、あの一瞬だけでも、佐久くんのことが好きかもしれないなんて思ってしまったんだ。
 そんな事実、知ってほしくなかった。裏切ってしまった気分になる。

「心配しなくても大丈夫。麻琴の気持ちは、本人が気付くより前に知っていたから」

 蒼人はくすっと笑って、おれの髪にそっとキスをした。

 「……っ。どう、いういみ、だよ……」

 動揺して、言葉が途切れ途切れになってしまう。
 おれが気付く前に気付くって変だろ。

「どれだけ一緒にいると思ってるんだ? この世に生を受けたその日から、だぞ? これだけ長く一緒にいれば、それくらい分かるさ」
「そ……そういう、もの……なのか?」

 他の人達のことは知らない。
 ただ、おれ達は親も呆れるほどずっと一緒だった。
 あまりにも一緒にい過ぎて、お互いの存在がなくてはならないということに、気付くのが遅れただけということなのか。
 離れることなんて決して出来ない、産まれる前から定められた運命のようなものなのに。おれには、蒼人しかいないのに。

 不安になっていた自分が、おかしくなってきて、思わずクスクスと笑いだしてしまった。
しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

36.8℃

月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。 ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。 近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。 制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。 転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。 36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。 香りと距離、運命、そして選択の物語。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...