【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
48 / 86
星司と月歌(スピンオフ1)

3. 婚約

しおりを挟む
 あの日、想定外すぎる条件に固まってしまった僕たちだけど、正直悪い気はしなかった。……というより、逆になんで僕なの? と申し訳ない気持ちが先立った。
 僕は、お父さんとお母さんの思い出の店を潰したくない、という思いが強く、条件を断るという選択肢はまったくなかったけど、お母さんはとても困惑していた。
 だから僕は、お母さんを安心させるために伝えたんだ。『僕は星司せいじくんのことが好きだから、願ってもない話だよ』って。
 本当のことを言うと、好意は持っていたけど、それが好きという恋愛感情なのかはわからない。まだヒートも来ていないような僕には、恋愛の何たるかなんて分からなかったんだ。
 それでもその言葉を聞いて、ホッとしたお母さんの顔を見て、僕も良かったって安心したんだ。

 高校入学のタイミングで、僕と星司くんは正式に婚約をした。ちょっと恥ずかしいけれど、外でも手を繋いだり仲良くしても良いのだと思っていた。
 けれど『まわりには婚約のことは伏せるから、人に言わないように』と念を押されてしまった。
 僕の楽しみでフワフワした気持ちは、一気に沈んでしまった。



 そんな時、アルファとオメガとベータの三人がいつも一緒にいるという噂を聞いた。
 この学校は、第二の性に特化した学校とは言え、普通だったら同じ第二の性でまとまるのだと僕は思っていた。

 高校に入っても、やっぱり体が弱いのは変わらずで、学校を休みがちだった僕は、相変わらず友達ができなかった。
 寂しいけど、仕方がないよねと中庭に行ってみたら、例の三人と思われる人たちがいた。とても楽しそうでのびのびとしていて、キラキラ輝いていた。僕とは全然違った。


 高校に入って新しい友達もできるかなと楽しみにしていたのに、みんな僕を避けるように遠巻きに見ていた。やっぱりオメガだからだろうか。でも噂の三人の中には、オメガがいるはずだ。それなのにみんな仲良く楽しそうにしていた。何故僕は違うのだろう。





 新しい友達ができることもなく、僕は高校三年生になった。
 そんなある日、珍しく学校で星司くんから声をかけられて『森島蒼人もりじまあおとが、訳あって由比麻琴ゆいまことのそばを離れた。今がチャンスだ、由比麻琴に接触するように』と言われた。
 なんで由比くんと接触するように指示されるのか分からなかったけど、僕は話しかけるきっかけになると思ってちょっとドキドキした。星司くんには、とにかく仲良くなってと言われたので、勇気を出して話しかけることにした。

 あの日、本当に勇気を出して話しかけてよかった。
 僕にとって、初めてのオメガの友達。由比くんはとても気さくでいい人だった。高校入学したときから何度か見かけたけど、いつもキラキラ輝いて楽しそうだった。羨ましかった。でも接してみてわかった。由比くんは本当に明るくて真っすぐでとても純粋な人だった。

 そんな由比くんとの関係を壊してしまったのは、僕だった。

 星司くんの頼みとは言え、断ればよかったのに。星司くんを止めればよかったのに。
 僕にはできなかった。星司くんのお家への負い目があったからというのも確かだけど、でも僕は、本当に星司くんのことが好きになっていたから、星司くんの味方でいたいと思ってしまったんだ。

「もうやめて! 星司くん、だめ!!」

 止めようと割り込んできた由比くんの肩に、星司くんの牙が食い込んだ時、これ以上はいけないと無理やり引き剥がそうとした。
 でも、自我を失っている星司くんには、僕の声は全く届かなかった。
 僕たちの関係なんて、こんなもんだったの?
 泣きながら、何度も何度も、星司くんの名を呼んだ。

「……る、か……?」

 虚ろだった目に、やっと光が灯った。そして僕の名を呼びこちらを見た。

「星司くんのバカ!!」

 僕はそう言って、泣きながら星司くんを抱きしめた。

 しばらくして、色々な人が集まってきた。
 僕は星司くんを抱きしめたまま、呆然としてその場から動くことができなかった。


 由比くんのうなじは無事だったけれど、うなじに近い肩を噛まれたショックで、由比くんは意識を失ってしまった。
 それだけ、オメガにとってのうなじは大切な場所なんだ。

 僕たちはもう少しで、由比くんの人生を台無しにするところだった。
 旧校舎での出来事は、一生忘れることはないし、忘れちゃいけないことなんだ。
しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

36.8℃

月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。 ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。 近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。 制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。 転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。 36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。 香りと距離、運命、そして選択の物語。

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

君に不幸あれ。

ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」 学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。 生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。 静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。 静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。 しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。 玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。 それから十年。 かつて自分を救った玲に再会した静は、玲を自分に惚れさせた上で捨てようとするが…

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

劣等生の俺を、未来から来た学院一の優等生が「婚約者だ」と宣言し溺愛してくる

水凪しおん
BL
魔力制御ができず、常に暴発させては「劣等生」と蔑まれるアキト。彼の唯一の取り柄は、自分でも気づいていない規格外の魔力量だけだった。孤独と無力感に苛まれる日々のなか、彼の前に一人の男が現れる。学院一の秀才にして、全生徒の憧れの的であるカイだ。カイは衆目の前でアキトを「婚約者」だと宣言し、強引な同居生活を始める。 「君のすべては、俺が管理する」 戸惑いながらも、カイによる徹底的な管理生活の中で、アキトは自身の力が正しく使われる喜びと、誰かに必要とされる温かさを知っていく。しかし、なぜカイは自分にそこまで尽くすのか。彼の過保護な愛情の裏には、未来の世界の崩壊と、アキトを救えなかったという、痛切な後悔が隠されていた。 これは、絶望の運命に抗うため、未来から来た青年と、彼に愛されることで真の力に目覚める少年の、時を超えた愛と再生の物語。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

処理中です...