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星司と月歌(スピンオフ1)
3. 婚約
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あの日、想定外すぎる条件に固まってしまった僕たちだけど、正直悪い気はしなかった。……というより、逆になんで僕なの? と申し訳ない気持ちが先立った。
僕は、お父さんとお母さんの思い出の店を潰したくない、という思いが強く、条件を断るという選択肢はまったくなかったけど、お母さんはとても困惑していた。
だから僕は、お母さんを安心させるために伝えたんだ。『僕は星司くんのことが好きだから、願ってもない話だよ』って。
本当のことを言うと、好意は持っていたけど、それが好きという恋愛感情なのかはわからない。まだヒートも来ていないような僕には、恋愛の何たるかなんて分からなかったんだ。
それでもその言葉を聞いて、ホッとしたお母さんの顔を見て、僕も良かったって安心したんだ。
高校入学のタイミングで、僕と星司くんは正式に婚約をした。ちょっと恥ずかしいけれど、外でも手を繋いだり仲良くしても良いのだと思っていた。
けれど『まわりには婚約のことは伏せるから、人に言わないように』と念を押されてしまった。
僕の楽しみでフワフワした気持ちは、一気に沈んでしまった。
そんな時、アルファとオメガとベータの三人がいつも一緒にいるという噂を聞いた。
この学校は、第二の性に特化した学校とは言え、普通だったら同じ第二の性でまとまるのだと僕は思っていた。
高校に入っても、やっぱり体が弱いのは変わらずで、学校を休みがちだった僕は、相変わらず友達ができなかった。
寂しいけど、仕方がないよねと中庭に行ってみたら、例の三人と思われる人たちがいた。とても楽しそうでのびのびとしていて、キラキラ輝いていた。僕とは全然違った。
高校に入って新しい友達もできるかなと楽しみにしていたのに、みんな僕を避けるように遠巻きに見ていた。やっぱりオメガだからだろうか。でも噂の三人の中には、オメガがいるはずだ。それなのにみんな仲良く楽しそうにしていた。何故僕は違うのだろう。
◇
新しい友達ができることもなく、僕は高校三年生になった。
そんなある日、珍しく学校で星司くんから声をかけられて『森島蒼人が、訳あって由比麻琴のそばを離れた。今がチャンスだ、由比麻琴に接触するように』と言われた。
なんで由比くんと接触するように指示されるのか分からなかったけど、僕は話しかけるきっかけになると思ってちょっとドキドキした。星司くんには、とにかく仲良くなってと言われたので、勇気を出して話しかけることにした。
あの日、本当に勇気を出して話しかけてよかった。
僕にとって、初めてのオメガの友達。由比くんはとても気さくでいい人だった。高校入学したときから何度か見かけたけど、いつもキラキラ輝いて楽しそうだった。羨ましかった。でも接してみてわかった。由比くんは本当に明るくて真っすぐでとても純粋な人だった。
そんな由比くんとの関係を壊してしまったのは、僕だった。
星司くんの頼みとは言え、断ればよかったのに。星司くんを止めればよかったのに。
僕にはできなかった。星司くんのお家への負い目があったからというのも確かだけど、でも僕は、本当に星司くんのことが好きになっていたから、星司くんの味方でいたいと思ってしまったんだ。
「もうやめて! 星司くん、だめ!!」
止めようと割り込んできた由比くんの肩に、星司くんの牙が食い込んだ時、これ以上はいけないと無理やり引き剥がそうとした。
でも、自我を失っている星司くんには、僕の声は全く届かなかった。
僕たちの関係なんて、こんなもんだったの?
泣きながら、何度も何度も、星司くんの名を呼んだ。
「……る、か……?」
虚ろだった目に、やっと光が灯った。そして僕の名を呼びこちらを見た。
「星司くんのバカ!!」
僕はそう言って、泣きながら星司くんを抱きしめた。
しばらくして、色々な人が集まってきた。
僕は星司くんを抱きしめたまま、呆然としてその場から動くことができなかった。
由比くんのうなじは無事だったけれど、うなじに近い肩を噛まれたショックで、由比くんは意識を失ってしまった。
それだけ、オメガにとってのうなじは大切な場所なんだ。
僕たちはもう少しで、由比くんの人生を台無しにするところだった。
旧校舎での出来事は、一生忘れることはないし、忘れちゃいけないことなんだ。
僕は、お父さんとお母さんの思い出の店を潰したくない、という思いが強く、条件を断るという選択肢はまったくなかったけど、お母さんはとても困惑していた。
だから僕は、お母さんを安心させるために伝えたんだ。『僕は星司くんのことが好きだから、願ってもない話だよ』って。
本当のことを言うと、好意は持っていたけど、それが好きという恋愛感情なのかはわからない。まだヒートも来ていないような僕には、恋愛の何たるかなんて分からなかったんだ。
それでもその言葉を聞いて、ホッとしたお母さんの顔を見て、僕も良かったって安心したんだ。
高校入学のタイミングで、僕と星司くんは正式に婚約をした。ちょっと恥ずかしいけれど、外でも手を繋いだり仲良くしても良いのだと思っていた。
けれど『まわりには婚約のことは伏せるから、人に言わないように』と念を押されてしまった。
僕の楽しみでフワフワした気持ちは、一気に沈んでしまった。
そんな時、アルファとオメガとベータの三人がいつも一緒にいるという噂を聞いた。
この学校は、第二の性に特化した学校とは言え、普通だったら同じ第二の性でまとまるのだと僕は思っていた。
高校に入っても、やっぱり体が弱いのは変わらずで、学校を休みがちだった僕は、相変わらず友達ができなかった。
寂しいけど、仕方がないよねと中庭に行ってみたら、例の三人と思われる人たちがいた。とても楽しそうでのびのびとしていて、キラキラ輝いていた。僕とは全然違った。
高校に入って新しい友達もできるかなと楽しみにしていたのに、みんな僕を避けるように遠巻きに見ていた。やっぱりオメガだからだろうか。でも噂の三人の中には、オメガがいるはずだ。それなのにみんな仲良く楽しそうにしていた。何故僕は違うのだろう。
◇
新しい友達ができることもなく、僕は高校三年生になった。
そんなある日、珍しく学校で星司くんから声をかけられて『森島蒼人が、訳あって由比麻琴のそばを離れた。今がチャンスだ、由比麻琴に接触するように』と言われた。
なんで由比くんと接触するように指示されるのか分からなかったけど、僕は話しかけるきっかけになると思ってちょっとドキドキした。星司くんには、とにかく仲良くなってと言われたので、勇気を出して話しかけることにした。
あの日、本当に勇気を出して話しかけてよかった。
僕にとって、初めてのオメガの友達。由比くんはとても気さくでいい人だった。高校入学したときから何度か見かけたけど、いつもキラキラ輝いて楽しそうだった。羨ましかった。でも接してみてわかった。由比くんは本当に明るくて真っすぐでとても純粋な人だった。
そんな由比くんとの関係を壊してしまったのは、僕だった。
星司くんの頼みとは言え、断ればよかったのに。星司くんを止めればよかったのに。
僕にはできなかった。星司くんのお家への負い目があったからというのも確かだけど、でも僕は、本当に星司くんのことが好きになっていたから、星司くんの味方でいたいと思ってしまったんだ。
「もうやめて! 星司くん、だめ!!」
止めようと割り込んできた由比くんの肩に、星司くんの牙が食い込んだ時、これ以上はいけないと無理やり引き剥がそうとした。
でも、自我を失っている星司くんには、僕の声は全く届かなかった。
僕たちの関係なんて、こんなもんだったの?
泣きながら、何度も何度も、星司くんの名を呼んだ。
「……る、か……?」
虚ろだった目に、やっと光が灯った。そして僕の名を呼びこちらを見た。
「星司くんのバカ!!」
僕はそう言って、泣きながら星司くんを抱きしめた。
しばらくして、色々な人が集まってきた。
僕は星司くんを抱きしめたまま、呆然としてその場から動くことができなかった。
由比くんのうなじは無事だったけれど、うなじに近い肩を噛まれたショックで、由比くんは意識を失ってしまった。
それだけ、オメガにとってのうなじは大切な場所なんだ。
僕たちはもう少しで、由比くんの人生を台無しにするところだった。
旧校舎での出来事は、一生忘れることはないし、忘れちゃいけないことなんだ。
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