【完結】君を知らないまま、恋をした

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
10 / 59

09 体験版

しおりを挟む
 すばるさんは、僕が高熱を出してしまって、引っ越しもして、孤独で寂しい思いをしていた時からずっと僕のそばにいてくれる。
 なぜこんなによくしてくれるのは分からないけど、昴さんは、リアルVRゲームを僕のために作ってくれるって約束したんだ。そうすれば、僕がゲーム内で制限なく思い切り動くことができるから。

 僕はずっと、ただの慰めだと思っていたけど、本当に作ってしまったんだ。
 昴さんのお父さんがゲーム会社を経営していて、元々リアルVRゲームの開発は進んでいたけど、RPGタイプのゲームシナリオはまだなかったんだって。
 だから、昴さんが企画発案して、制作が実現したと言っていた。

 正直、僕には難しくてよく理解できないけど、僕にでもわかるのは、昴さんが僕をとても大切にしてくれているということ。

「ごめんね、そろそろ仕事に戻らないといけないんだ」
「あ! お仕事なのに、様子を見にきてくれてありがとうございます」

 昴さんは腕時計に視線を落とすと、申し訳なさそうに僕に言った。
 僕が今日初めてログインするから、気にかけて様子を見にきてくれたんだ。

「また明日来るからね。ゆっくり休むんだよ」
「はい! ありがとうございました!」

 僕はベッドの中から失礼だと思いながらも、病室から出ていく昴さんを見送った。

 昴さんを見送った後、僕はタブレットを取り出した。高校の今日の課題を進めておこうと思ったんだ。
 僕は、オンライン対応している高校を選んだから、検査入院の時も、病室から授業を受けることができて助かっている。

 友達のいない僕だけど、定期的に検査入院するから、病院のスタッフとか、顔馴染みの入院患者もいる。
 その人たちが、僕にとって、友達や家族のような存在になっている。

 そんな中、少し特別なのが昴さんだ。高熱で入院して目を覚ました後から、ほぼ毎日お見舞いに来てくれたし、退院後も何かと僕の世話を焼いてくれる。
 なんでなのかわからないけど、昴さんにとっても、僕は特別な存在なんだって。

 何か、とても大切なことを忘れている気がするけど、思い出そうとすると、頭がすごく痛くなってしまうんだ。
 胸もざわつくし、苦しくなる。でも、何も思い出せない――。



 次の日の昼食後、僕は病院内に設置してあるVRマシンの前まで来ていた。
 朝の往診で問題はなかったし、午前中の検査も無事終わった。昨日と同じく1時間だけという約束で、今日も僕はVRゲームにログインする。

 『リベラリア』は、RPGタイプのフルダイブ型リアルVRゲームだ。

 僕が昨日から遊んでいるのは体験版で、リベラリアの世界が少しだけ楽しめる。
 体験版仕様になっていて、レベルの概念はなく、程よいHPとMPがある。
 魔法も世界観を楽しむ程度には覚えていて、装備もアイテムも初めからいくつか持っている。

 あくまでもリベラリアの世界観を体験してもらうのが目的で、現時点では、製品版には引き継がれない予定になっているそうだ。

 僕は、マシンのスイッチを入れ起動した。そして、中に入ってチェアに腰を下ろした。
 初回ログインではないので、色々スキップしながら操作をすると、目の前のパネルに『ログイン完了』の文字とAIアシスタントの声が聞こえた。

『ログインを確認しました。リベラリアの世界をお楽しみください』

 AIアシスタントの声が遠くなったと思った瞬間、微かな浮遊感を感じた。
 数秒後そっと目を開けると、もう目の前には見覚えのある街並みが広がっていた。

「良かった。今度はちゃんと街の中だ」

 僕はまた、草原のど真ん中に現れてしまうんじゃないかと、ちょっと心配していた。だから、ちゃんと街の入り口に立っていることに安堵した。

 僕はログインして真っ先に、パネル操作をしてサポートキャラ呼び出しの項目を選んだ。
 サポートキャラの登録はしてあっても、毎回必ず呼び出さなくてもいいらしい。
 だけどピンチの時には、プレイヤーの指示がなくても呼び出されるって聞いた。やっぱり、従魔みたいな関係なのかな。

「シロ、おはよー」

 僕がユキの呼び出しボタンを押すと、のんびりした声とともに、目の前にポンっとユキが現れた。

「ユキ、また寝てたの?」
「シロだって寝てたでしょー」

 ああ、たしかに昨日は夜に宿屋で眠ったと同時にログアウトをした。
 宿屋やテントなどで寝ると、自動で朝になるみたいだ。これも、家庭ゲーム機のRPGと同じような感じなのかな?……ということは、仮眠みたいなこともできるのかな?

「シロー。今日は何するのー?」

 定位置である僕の肩の上に乗ると、ユキはいつものようにぴょんぴょんと跳ねた。うん、この肌に触れるふわふわの毛は、やっぱり気持ちがいい。

「うーん、どうしようかなー。外での戦闘はユキと二人きりじゃ不安だし……」
「むーっ! シロとユキだけでも戦えるのにっ!」

 僕の言葉に、ユキは不満そうに後ろ足をダンッと蹴り上げるように動かした。

「いたたた! ごめん、ごめん。ユキは強いけど、僕が不安なんだよ」

 普段は軽くてふわふわなユキなのに、足ダンするとけっこう痛い。こういうところは、うさぎらしいのかな。
 僕が「ごめんごめん」と言いながら優しくユキを撫でたら、「撫でてくれたから、許す!」だって。
 ちょっと偉そうなこんな態度も、かわいくて、僕はしあわせな気持ちになった。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

【完結】まずは結婚からで。〜出会って0日、夫夫はじめました〜

小門内田
BL
ドケチで貧乏な大学生の瀧本 純也は、冷徹御曹司の諏訪 冬悟に交際0日、いや、初対面で結婚を迫られる!? 契約から始まった奇妙な結婚生活は、次第に互いの心を少しずつ変えていく。 “契約から本物へ―” 愛を知らない御曹司×愛されたがりの大学生の、立場も性格も正反対な二人が、不器用に心を通わせていく、ドタバタあり、じんわり甘い、ゆるやかな日常BL。 ※最初は少し殺伐としていますが、ゆっくりと変化していく物語です。 ※男同士の結婚が、一般的な世界線となります。 ※関係性をわかりやすくするため、「嫁」や「妻」といった表現を使用しております。 ※同タイトルのpixiv版とは、加筆・修正しておりますので、若干内容が変わっております。 予めご了承ください。 ※更新日時等はXにてお知らせいたします

処理中です...