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09 体験版
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昴さんは、僕が高熱を出してしまって、引っ越しもして、孤独で寂しい思いをしていた時からずっと僕のそばにいてくれる。
なぜこんなによくしてくれるのは分からないけど、昴さんは、リアルVRゲームを僕のために作ってくれるって約束したんだ。そうすれば、僕がゲーム内で制限なく思い切り動くことができるから。
僕はずっと、ただの慰めだと思っていたけど、本当に作ってしまったんだ。
昴さんのお父さんがゲーム会社を経営していて、元々リアルVRゲームの開発は進んでいたけど、RPGタイプのゲームシナリオはまだなかったんだって。
だから、昴さんが企画発案して、制作が実現したと言っていた。
正直、僕には難しくてよく理解できないけど、僕にでもわかるのは、昴さんが僕をとても大切にしてくれているということ。
「ごめんね、そろそろ仕事に戻らないといけないんだ」
「あ! お仕事なのに、様子を見にきてくれてありがとうございます」
昴さんは腕時計に視線を落とすと、申し訳なさそうに僕に言った。
僕が今日初めてログインするから、気にかけて様子を見にきてくれたんだ。
「また明日来るからね。ゆっくり休むんだよ」
「はい! ありがとうございました!」
僕はベッドの中から失礼だと思いながらも、病室から出ていく昴さんを見送った。
昴さんを見送った後、僕はタブレットを取り出した。高校の今日の課題を進めておこうと思ったんだ。
僕は、オンライン対応している高校を選んだから、検査入院の時も、病室から授業を受けることができて助かっている。
友達のいない僕だけど、定期的に検査入院するから、病院のスタッフとか、顔馴染みの入院患者もいる。
その人たちが、僕にとって、友達や家族のような存在になっている。
そんな中、少し特別なのが昴さんだ。高熱で入院して目を覚ました後から、ほぼ毎日お見舞いに来てくれたし、退院後も何かと僕の世話を焼いてくれる。
なんでなのかわからないけど、昴さんにとっても、僕は特別な存在なんだって。
何か、とても大切なことを忘れている気がするけど、思い出そうとすると、頭がすごく痛くなってしまうんだ。
胸もざわつくし、苦しくなる。でも、何も思い出せない――。
◇
次の日の昼食後、僕は病院内に設置してあるVRマシンの前まで来ていた。
朝の往診で問題はなかったし、午前中の検査も無事終わった。昨日と同じく1時間だけという約束で、今日も僕はVRゲームにログインする。
『リベラリア』は、RPGタイプのフルダイブ型リアルVRゲームだ。
僕が昨日から遊んでいるのは体験版で、リベラリアの世界が少しだけ楽しめる。
体験版仕様になっていて、レベルの概念はなく、程よいHPとMPがある。
魔法も世界観を楽しむ程度には覚えていて、装備もアイテムも初めからいくつか持っている。
あくまでもリベラリアの世界観を体験してもらうのが目的で、現時点では、製品版には引き継がれない予定になっているそうだ。
僕は、マシンのスイッチを入れ起動した。そして、中に入ってチェアに腰を下ろした。
初回ログインではないので、色々スキップしながら操作をすると、目の前のパネルに『ログイン完了』の文字とAIアシスタントの声が聞こえた。
『ログインを確認しました。リベラリアの世界をお楽しみください』
AIアシスタントの声が遠くなったと思った瞬間、微かな浮遊感を感じた。
数秒後そっと目を開けると、もう目の前には見覚えのある街並みが広がっていた。
「良かった。今度はちゃんと街の中だ」
僕はまた、草原のど真ん中に現れてしまうんじゃないかと、ちょっと心配していた。だから、ちゃんと街の入り口に立っていることに安堵した。
僕はログインして真っ先に、パネル操作をしてサポートキャラ呼び出しの項目を選んだ。
サポートキャラの登録はしてあっても、毎回必ず呼び出さなくてもいいらしい。
だけどピンチの時には、プレイヤーの指示がなくても呼び出されるって聞いた。やっぱり、従魔みたいな関係なのかな。
「シロ、おはよー」
僕がユキの呼び出しボタンを押すと、のんびりした声とともに、目の前にポンっとユキが現れた。
「ユキ、また寝てたの?」
「シロだって寝てたでしょー」
ああ、たしかに昨日は夜に宿屋で眠ったと同時にログアウトをした。
宿屋やテントなどで寝ると、自動で朝になるみたいだ。これも、家庭ゲーム機のRPGと同じような感じなのかな?……ということは、仮眠みたいなこともできるのかな?
「シロー。今日は何するのー?」
定位置である僕の肩の上に乗ると、ユキはいつものようにぴょんぴょんと跳ねた。うん、この肌に触れるふわふわの毛は、やっぱり気持ちがいい。
「うーん、どうしようかなー。外での戦闘はユキと二人きりじゃ不安だし……」
「むーっ! シロとユキだけでも戦えるのにっ!」
僕の言葉に、ユキは不満そうに後ろ足をダンッと蹴り上げるように動かした。
「いたたた! ごめん、ごめん。ユキは強いけど、僕が不安なんだよ」
普段は軽くてふわふわなユキなのに、足ダンするとけっこう痛い。こういうところは、うさぎらしいのかな。
僕が「ごめんごめん」と言いながら優しくユキを撫でたら、「撫でてくれたから、許す!」だって。
ちょっと偉そうなこんな態度も、かわいくて、僕はしあわせな気持ちになった。
なぜこんなによくしてくれるのは分からないけど、昴さんは、リアルVRゲームを僕のために作ってくれるって約束したんだ。そうすれば、僕がゲーム内で制限なく思い切り動くことができるから。
僕はずっと、ただの慰めだと思っていたけど、本当に作ってしまったんだ。
昴さんのお父さんがゲーム会社を経営していて、元々リアルVRゲームの開発は進んでいたけど、RPGタイプのゲームシナリオはまだなかったんだって。
だから、昴さんが企画発案して、制作が実現したと言っていた。
正直、僕には難しくてよく理解できないけど、僕にでもわかるのは、昴さんが僕をとても大切にしてくれているということ。
「ごめんね、そろそろ仕事に戻らないといけないんだ」
「あ! お仕事なのに、様子を見にきてくれてありがとうございます」
昴さんは腕時計に視線を落とすと、申し訳なさそうに僕に言った。
僕が今日初めてログインするから、気にかけて様子を見にきてくれたんだ。
「また明日来るからね。ゆっくり休むんだよ」
「はい! ありがとうございました!」
僕はベッドの中から失礼だと思いながらも、病室から出ていく昴さんを見送った。
昴さんを見送った後、僕はタブレットを取り出した。高校の今日の課題を進めておこうと思ったんだ。
僕は、オンライン対応している高校を選んだから、検査入院の時も、病室から授業を受けることができて助かっている。
友達のいない僕だけど、定期的に検査入院するから、病院のスタッフとか、顔馴染みの入院患者もいる。
その人たちが、僕にとって、友達や家族のような存在になっている。
そんな中、少し特別なのが昴さんだ。高熱で入院して目を覚ました後から、ほぼ毎日お見舞いに来てくれたし、退院後も何かと僕の世話を焼いてくれる。
なんでなのかわからないけど、昴さんにとっても、僕は特別な存在なんだって。
何か、とても大切なことを忘れている気がするけど、思い出そうとすると、頭がすごく痛くなってしまうんだ。
胸もざわつくし、苦しくなる。でも、何も思い出せない――。
◇
次の日の昼食後、僕は病院内に設置してあるVRマシンの前まで来ていた。
朝の往診で問題はなかったし、午前中の検査も無事終わった。昨日と同じく1時間だけという約束で、今日も僕はVRゲームにログインする。
『リベラリア』は、RPGタイプのフルダイブ型リアルVRゲームだ。
僕が昨日から遊んでいるのは体験版で、リベラリアの世界が少しだけ楽しめる。
体験版仕様になっていて、レベルの概念はなく、程よいHPとMPがある。
魔法も世界観を楽しむ程度には覚えていて、装備もアイテムも初めからいくつか持っている。
あくまでもリベラリアの世界観を体験してもらうのが目的で、現時点では、製品版には引き継がれない予定になっているそうだ。
僕は、マシンのスイッチを入れ起動した。そして、中に入ってチェアに腰を下ろした。
初回ログインではないので、色々スキップしながら操作をすると、目の前のパネルに『ログイン完了』の文字とAIアシスタントの声が聞こえた。
『ログインを確認しました。リベラリアの世界をお楽しみください』
AIアシスタントの声が遠くなったと思った瞬間、微かな浮遊感を感じた。
数秒後そっと目を開けると、もう目の前には見覚えのある街並みが広がっていた。
「良かった。今度はちゃんと街の中だ」
僕はまた、草原のど真ん中に現れてしまうんじゃないかと、ちょっと心配していた。だから、ちゃんと街の入り口に立っていることに安堵した。
僕はログインして真っ先に、パネル操作をしてサポートキャラ呼び出しの項目を選んだ。
サポートキャラの登録はしてあっても、毎回必ず呼び出さなくてもいいらしい。
だけどピンチの時には、プレイヤーの指示がなくても呼び出されるって聞いた。やっぱり、従魔みたいな関係なのかな。
「シロ、おはよー」
僕がユキの呼び出しボタンを押すと、のんびりした声とともに、目の前にポンっとユキが現れた。
「ユキ、また寝てたの?」
「シロだって寝てたでしょー」
ああ、たしかに昨日は夜に宿屋で眠ったと同時にログアウトをした。
宿屋やテントなどで寝ると、自動で朝になるみたいだ。これも、家庭ゲーム機のRPGと同じような感じなのかな?……ということは、仮眠みたいなこともできるのかな?
「シロー。今日は何するのー?」
定位置である僕の肩の上に乗ると、ユキはいつものようにぴょんぴょんと跳ねた。うん、この肌に触れるふわふわの毛は、やっぱり気持ちがいい。
「うーん、どうしようかなー。外での戦闘はユキと二人きりじゃ不安だし……」
「むーっ! シロとユキだけでも戦えるのにっ!」
僕の言葉に、ユキは不満そうに後ろ足をダンッと蹴り上げるように動かした。
「いたたた! ごめん、ごめん。ユキは強いけど、僕が不安なんだよ」
普段は軽くてふわふわなユキなのに、足ダンするとけっこう痛い。こういうところは、うさぎらしいのかな。
僕が「ごめんごめん」と言いながら優しくユキを撫でたら、「撫でてくれたから、許す!」だって。
ちょっと偉そうなこんな態度も、かわいくて、僕はしあわせな気持ちになった。
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