【完結】君を知らないまま、恋をした

一ノ瀬麻紀

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24 ひとりの戦い

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「よし! 僕ならできる!」

 グリーンヒルの門で気合いを入れた僕は、フィールドに一歩足を踏み出した。

 あのあと初心者の部屋に行って相談すると、基本の初歩魔法なら訓練次第で覚えられることがわかった。
 僕は元々剣術よりも魔力の数値が高いらしいことは知っていたけど、攻撃魔法は使えないのかと思い込んでいたんだ。

 初心者の部屋で、ルナさんに「炎」「水」「雷」の基本魔法を教えてもらった。水は鍛錬すると、「氷」の魔法にもなるらしい。他にも「土」や「風」などもあるらしいけど、それは製品版になってからかな。

 草原にところどころ生えている木の根元には、薬草が多く生えているらしい。
 他の場所でも取れるけど、比較的取りやすい場所にあるのに、物が良くて、品質の良いアイテム生成ができると言っていた。
 冒険の始まりの街と言われているだけあって、初心者に優しい仕様になっているのかな。

 僕は街を出てから、ぐるりと辺りを見渡した。そして、一番近い木に目星をつけると、ゆっくり歩き出した。静かに歩いたほうが、モンスターに遭遇しにくいらしい。

「あ!」

 僕の視線の先に、小さなスライムが1匹だけ、ぷるぷるしながら歩いているのが見えた。いかにも初心者向けという感じのモンスターだ。
 本当なら、初めて遭遇するのはスライムとかのはずなのになぁ……。
 僕が、このリベラリアに初めてログインしてすぐに遭遇した、ベアウルフのことを思い出していた。ラパンが助けてくれなかったらと思うと、今更ながら身震いがする。

 僕は気づかれないように、足止めの魔法をかけた。この世界の魔法は、詠唱タイプではなく心で念じれば発動する。
 僕から少し離れた位置にいるスライムの足元が、ぴたりと動かなくなった。さっきまでぷるぷる動いていたのに。
 スライムは突然動かなくなった体に、困惑している様子だ。

 ごめんね……悪いけど、倒させてもらうよ。

 僕は、足止めされて戸惑っているスライムに、雷の魔法をかけることにした。水色スライムは、水属性で雷の魔法が効果的だと教わったから。
 僕が両手を祈るように組んで念じると、目の前のスライムに向かって一筋の雷が落ちた。眩しい光を一気に放つと、キラキラと光の粒が降り注いだ。
 そして、そこにいたはずのスライムは跡形もなく消え去り、草むらにコインが数枚転がり落ちた。

「やった! 初めて1人でモンスターを倒せた!」

 すごい達成感だ。体験版ではレベルが表示されていなかったけど、この湧き上がる達成感は、きっと経験値が入ったということなんだろう。

「今度は、この弓で攻撃してみようかな」

 僕は、背中に背負った弓を手にした。前線じゃなくても戦える武器だ。
 攻撃力は高くないけど、遠距離攻撃ができるから、僕のような前線に向かないタイプでも多少の攻撃はできる……はず。

 僕はあたりを警戒しながら、目的の木にゆっくり近づいて行く。モンスターに会わなければその方がいいけど、せっかく買った弓を試してみたいという気持ちもある。

「あそこにいたっ」

 僕の気持ちが通じたのか、今度は別のモンスターが現れた。……あれは、きのこ?
 僕の視線の先にいるのは、赤いかさに白い水玉模様の、まるで食べたら大きくなる、あのゲームのキノコに似ていた。

「まさか、食べたら大きくなるとかないよね?」

 僕はその考えを即座に否定し、足止めの魔法を使った。
 スライムのように動けなくて戸惑うきのこ。無理やり動こうとするから、体がボヨンと大きく揺れる。

「ごめん!」

 体をボヨンと揺らすきのこが可愛くて、罪悪感が襲ってきたけど、気を抜いたらこっちが攻撃されてしまう。
 僕は足元の動きを止められたきのこに向かって、弓矢を何発か放った。
 プスプスと矢が突き刺さると、きのこは胞子を撒き散らし、あたり一面を真っ白に染めた。
 毒性があるかと警戒したけど、ただの目くらましのようだった。

 視界が晴れてくると、きのこの姿は見えなくなり、退治した証のコインが数枚転がり落ちた。

「あれ?」

 今度は、コインだけじゃなくて何か他の物も落ちている。近くまで行ってみると、薬草に似ているけどちょっと葉の形の違う植物だった。

「なんだろ、これ」

 念のため、マジックバッグの中の小袋に入れて隔離した。帰ったら聞いてみよう。

 僕は木の根本に生えている薬草を、採れるだけ採った。ログアウトできない現状が、いつまで続くかわからないしね。

 無事目的を果たし、慎重になりながら、グリーンヒルに帰ろうとした、その時だった。

 ぐるるるるる……。

 どこからともなく、地を這うような低い唸り声が聞こえてきた。

 えっ……?

 どこから聞こえてきた声なのか、何から発せられた声なのか。
 そのことを把握できたときには、それは、僕のすぐ近くまで迫っていた。

「ベアウルフ……!?」

 その姿を認識した瞬間、初ログインの時の悪夢を思い出し、僕は絶望に包まれていった――。
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