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5 君と迎えるホワイトデー
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「あ、そうだ。チョコレート持ってくるね」
アランは、お礼にあげたチョコレートをまだ大切に持っていて、異なる世界に住む僕に会いに来てくれた。
これじゃまるで僕のことを……そんな勘違いをしてしまいそうになる。
でも僕は、そんなことはないと考えを打ち消し、静かに立ち上がった。
「アップルティーのおかわり持ってくるよ」
「待って」
空になったカップを下げようとした手を突然掴まれ、僕はそのまま動けなくなってしまった。
「ごめん。また消えてしまいそうで……」
弱々しい声が聞こえて、僕は驚いてアランを見た。
いつもの凜としたアランではなく、どこか不安げな表情をしていた。
僕は咄嗟に、アランの体を包み込むように抱きしめていた。
アランのこんな表情は見たことがなかったから驚いたけど、心の隙を少しだけ見せてくれたような気がして、ちょっと嬉しいなって思ってしまった。
「僕はもういなくならないよ。……でも、アランはいつか帰ってしまうんでしょ?」
ここは、僕が生まれ育った世界だ。でもアランの住む世界は違う。時間軸だって違うんだ。
アランの世界では、こちらの世界より速いスピードで過ぎていく。だから早く戻らないと、きっと困ってしまうだろう。
「帰らない」
「え?」
「もう、帰る手段はない。片道なんだ」
「うそっ!」
アランの言葉に僕はびっくりして、思わずぐっと体を離してしまった。
そしてそのまま両肩を掴み、目を見開いたままアランの顔をじっと見つめた。
「そのことを知っていて、それでも僕に会いに来たの……?」
いつかは離れ離れになるのに、本当のことを伝えたら迷惑になるからって、ずっと隠していた気持ちがある。
もしかしたら、アランも同じ気持ちなのかもしれないなんて、変な勘違いもしそうになった。
「もう一度アマネに会って、確かめたかった」
「何を……?」
「この感情の正体」
アランは体を鍛え剣術を磨き、ずっと一人で生き抜いてきたから、人との距離の取り方が得意じゃないと話していたっけ。
アランの不器用な言葉選びに、僕は自然と目を細めた。
そして、アランの言葉をひとつひとつ噛み締めていくうちに、僕の予想が少しずつ形になっていくのを感じていた。
「アマネと再会して、触れ合って、確信した」
アランはゆっくりと言葉を選びながら、伝えてくれようとしている。だから僕は、黙ってその言葉を待った。
「俺は、アマネが好きだ」
アランの口から出たのは、飾らずまっすぐな言葉だった。
僕はその言葉をじっくりと噛み締め、口元を綻ばせた。
「ありがとう。僕も、アランのことが好きだ。あっちの世界で一緒に過ごすうちに、もう好きになってたんだ。でも、僕らはきっと離れ離れになる。だからこの思いは伝えちゃいけないって、隠したまま戻ってきたんだ」
「そうか」
短くそう言うと、今度はアランが僕を包み込むように抱きしめた。
アランの腕の中で、離れる未来を考えなくていいんだと思ったら、不安が全て消え去ったような気がした。
◇
アランと再会してから、何度目かのホワイトデーがやってきた。
少し前までひな祭りとホワイトデーが混在していたけど、今は春休みや桜の開花情報など、春に向けての賑わいを見せていた。
「アランも、すっかりこっちの世界に馴染んだよね」
「そうだな。ここはモンスターもいないし、戦争も起きない。平和でいいな」
朝晩はまだ冷え込むものの、昼間はすっかり春のぽかぽか陽気だ。暖かな日差しに包まれながら、僕たちはレストランのテラス席で食事をしている。
今日はホワイトデーのお返しということで、アランから食事に誘われたんだ。
周りに人がいないのを確認すると、僕は声をひそめてアランに尋ねた。
「ここは魔法も使えないし、不便じゃない?」
「いや、俺は元々魔法は使えなかったから、全く気にならない」
「そっか。それならよかった」
アランがいた世界は、僕たちがイメージするところの、ロールプレイングゲームのような世界だった。
こことは全く違う世界で、僕もはじめは戸惑ったんだ。……でも、アランが手を差し伸べてくれたから、僕は救われた。
「こっちに来て、後悔はしてない?」
「していない」
僕の問いかけに、アランは即答した。
こうやって時々、僕は心に残るわだかまりを確認してしまうんだ。
アランはそれをわかっていて、聞き返すことなくまっすぐ答えてくれる。
いつもと変わらない言葉を聞いて、僕はふぅと息を吐き出した。
「俺はアマネに会うために、この世界に来た。それは俺の意思だ」
アランは僕に会う方法を、かなりの時間をかけて探し出したらしい。そして、一方通行の転移になると聞いても、全く迷いはなかったそうだ。
相当の覚悟を持って、僕に会いに来てくれたんだ。
だから、僕が時々感じてしまう不安を、アランの迷いのない言葉で払い去って欲しいのかもしれない。
なんで僕は、突然異世界転移なんてしてしまったんだろうって、初めは思ってた。
けど、今ならわかる。僕は、アランに出会うために、異世界転移という不思議な体験をしたんだ。
「ありがとう。アランに出会えてよかった」
僕がアランに笑いかけると、アランも「俺も」と、優しく微笑んだ。
春の暖かな風を感じながら、これからの長い人生を、アランと共に歩んでいける喜びを噛み締めた。
終
アランは、お礼にあげたチョコレートをまだ大切に持っていて、異なる世界に住む僕に会いに来てくれた。
これじゃまるで僕のことを……そんな勘違いをしてしまいそうになる。
でも僕は、そんなことはないと考えを打ち消し、静かに立ち上がった。
「アップルティーのおかわり持ってくるよ」
「待って」
空になったカップを下げようとした手を突然掴まれ、僕はそのまま動けなくなってしまった。
「ごめん。また消えてしまいそうで……」
弱々しい声が聞こえて、僕は驚いてアランを見た。
いつもの凜としたアランではなく、どこか不安げな表情をしていた。
僕は咄嗟に、アランの体を包み込むように抱きしめていた。
アランのこんな表情は見たことがなかったから驚いたけど、心の隙を少しだけ見せてくれたような気がして、ちょっと嬉しいなって思ってしまった。
「僕はもういなくならないよ。……でも、アランはいつか帰ってしまうんでしょ?」
ここは、僕が生まれ育った世界だ。でもアランの住む世界は違う。時間軸だって違うんだ。
アランの世界では、こちらの世界より速いスピードで過ぎていく。だから早く戻らないと、きっと困ってしまうだろう。
「帰らない」
「え?」
「もう、帰る手段はない。片道なんだ」
「うそっ!」
アランの言葉に僕はびっくりして、思わずぐっと体を離してしまった。
そしてそのまま両肩を掴み、目を見開いたままアランの顔をじっと見つめた。
「そのことを知っていて、それでも僕に会いに来たの……?」
いつかは離れ離れになるのに、本当のことを伝えたら迷惑になるからって、ずっと隠していた気持ちがある。
もしかしたら、アランも同じ気持ちなのかもしれないなんて、変な勘違いもしそうになった。
「もう一度アマネに会って、確かめたかった」
「何を……?」
「この感情の正体」
アランは体を鍛え剣術を磨き、ずっと一人で生き抜いてきたから、人との距離の取り方が得意じゃないと話していたっけ。
アランの不器用な言葉選びに、僕は自然と目を細めた。
そして、アランの言葉をひとつひとつ噛み締めていくうちに、僕の予想が少しずつ形になっていくのを感じていた。
「アマネと再会して、触れ合って、確信した」
アランはゆっくりと言葉を選びながら、伝えてくれようとしている。だから僕は、黙ってその言葉を待った。
「俺は、アマネが好きだ」
アランの口から出たのは、飾らずまっすぐな言葉だった。
僕はその言葉をじっくりと噛み締め、口元を綻ばせた。
「ありがとう。僕も、アランのことが好きだ。あっちの世界で一緒に過ごすうちに、もう好きになってたんだ。でも、僕らはきっと離れ離れになる。だからこの思いは伝えちゃいけないって、隠したまま戻ってきたんだ」
「そうか」
短くそう言うと、今度はアランが僕を包み込むように抱きしめた。
アランの腕の中で、離れる未来を考えなくていいんだと思ったら、不安が全て消え去ったような気がした。
◇
アランと再会してから、何度目かのホワイトデーがやってきた。
少し前までひな祭りとホワイトデーが混在していたけど、今は春休みや桜の開花情報など、春に向けての賑わいを見せていた。
「アランも、すっかりこっちの世界に馴染んだよね」
「そうだな。ここはモンスターもいないし、戦争も起きない。平和でいいな」
朝晩はまだ冷え込むものの、昼間はすっかり春のぽかぽか陽気だ。暖かな日差しに包まれながら、僕たちはレストランのテラス席で食事をしている。
今日はホワイトデーのお返しということで、アランから食事に誘われたんだ。
周りに人がいないのを確認すると、僕は声をひそめてアランに尋ねた。
「ここは魔法も使えないし、不便じゃない?」
「いや、俺は元々魔法は使えなかったから、全く気にならない」
「そっか。それならよかった」
アランがいた世界は、僕たちがイメージするところの、ロールプレイングゲームのような世界だった。
こことは全く違う世界で、僕もはじめは戸惑ったんだ。……でも、アランが手を差し伸べてくれたから、僕は救われた。
「こっちに来て、後悔はしてない?」
「していない」
僕の問いかけに、アランは即答した。
こうやって時々、僕は心に残るわだかまりを確認してしまうんだ。
アランはそれをわかっていて、聞き返すことなくまっすぐ答えてくれる。
いつもと変わらない言葉を聞いて、僕はふぅと息を吐き出した。
「俺はアマネに会うために、この世界に来た。それは俺の意思だ」
アランは僕に会う方法を、かなりの時間をかけて探し出したらしい。そして、一方通行の転移になると聞いても、全く迷いはなかったそうだ。
相当の覚悟を持って、僕に会いに来てくれたんだ。
だから、僕が時々感じてしまう不安を、アランの迷いのない言葉で払い去って欲しいのかもしれない。
なんで僕は、突然異世界転移なんてしてしまったんだろうって、初めは思ってた。
けど、今ならわかる。僕は、アランに出会うために、異世界転移という不思議な体験をしたんだ。
「ありがとう。アランに出会えてよかった」
僕がアランに笑いかけると、アランも「俺も」と、優しく微笑んだ。
春の暖かな風を感じながら、これからの長い人生を、アランと共に歩んでいける喜びを噛み締めた。
終
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