【更新】「陵辱の果てに、悲恋の花は咲くか」/与太エロifまとめ

末野みのり

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バッドエンド系短編

陵辱の果てに、悲恋の花は咲くか

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※「政略婚が幸福な恋に辿り着くまで」と同世界観の樹霊(両性具有の木の精霊)の話ですが、同世界線かは未定

※バッドエンドです
※悲恋、両片想い、寝取られ、陵辱、強制輪姦、尊厳破壊、死別の要素があります
※肉体的・ 精神的両面で性暴力表現が長く強く続くため、強く不快感を覚えた場合、その時点で閉じて次話の打ち上げ編に移っていただければと思います。





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 父王を弑逆して王座についた残虐な王に、逆らえる者などいなかった。
 王は自身の悪辣な趣味で繋がる同志を重鎮に据え、前王の忠臣を処刑し、閑職に追いやり、独裁政治の君主として君臨した。
 国内のことばかりではなかった。
 その優れた武勇を振りかざして、王は近隣諸国に攻め入り、征服した。そうして征服した土地の者を奴隷として連れ帰り、見目の良い者は、自分と友人の性奴隷として共有して嬲った。
 上層部が総入れ替えとなったため、半ば無理やりに将軍位となった青年は、その王の蛮行に進言する機会を失っていた。国内の守備を任された青年には多くの職務が集まり、疲弊していたのも、その原因と言えた。
 将軍は、疲れ果てていた。
 だから、数日前、王が上機嫌で連れ帰った奴隷のことに気がつくのが、遅れたのだった。

「今度の奴隷が、ようやく物になってきたので、そろそろ友人たちに披露してやろうと思ってな」

 王に言いつけられ、その日、将軍は王とその悪友たちの集会への護衛として数人の兵と共に扉に立たされていた。
 護衛と言えば人聞きがいい。だが、実際には奴隷を逃さぬための、肉壁だ。
 到底許容できる職務ではない。だが自分が反抗すれば部下たちにも責が及ぶのをわかっているから、将軍は動けなかった。

「あの上玉もいよいよか。ああいうプライドの高いやつを折るのが一番興奮するよな」
「そうそう、屈辱を与えて、絶望させて……諦めて大人しく股を開き始めるのがいい」

 そのように王の悪友が下劣な話題で盛り上がっているのを、将軍は苦痛を抑えて聞いた。

「待たせたな。少々躾けるに手間取ってな。」

 ニタニタと笑いながら、王は鎖を引いて室内に入った。
 その後ろを歩く、緑の髪の、裸のその人を見て、将軍は顔色を変えた。
 どうして。

「まあ仕方ないだろ。青き森の賢人さまだもんなぁ、そりゃ年寄りのプライドはあるだろうさ」

 くく、と悪友がせせら笑った。
 勘違い、ではなかったことに、将軍は絶望した。
 かつて小さい頃には教えを乞うたこともある、友であった賢人が、首に、手足に、法術封じの枷をつけられている。
 初恋の、杏の樹霊が、王に犯されたのだと分かる、精液まみれの体で、立っていた。

「ずいぶんと大人しいな。少しは反応が欲しいもんだが」
「……」
「三日も犯してやれば、だんまりになってしまってな。だが具合はいいぞ、前も後ろもな。口も、噛みつけば仕置きされるとわかってからは、大人しいものだ」
「おっ、いいねぇ、交代で全部の穴を犯してやろうぜ」
「ああ、それもいいのだが」

 王はくくと笑い、賢人を促した。
 ぐい、と無理やりに鎖を引くものだから、その体がよろめいて、その股の間から精液が漏れ出す。

「……奴隷、寝台に寝そべり、股を開け」

 賢人は、頷くこともなく、幽鬼のようにのろのろと歩を進めて、王の言う通りにした。
 見ていたくなくて、将軍は目を背ける。
 背けても、初恋のその人の首に付けられた、鎖の音からは逃れられなかったのだけれど。

「ここが美味いのだ、極上の蜜でな」
「……っ!」

 王が、賢人の陰部をなぞる。すでにそこは拓かれていた。拓かれて、汚された穴は赤く染まり、何度注がれたのか、精液が溢れ出す。

「おお……樹霊の汁は極上の旨さとは聞くが……」
「噂は本当だったのか?」
「ああ。苦労して手に入れた甲斐があった。体も丈夫そうなのでな、しばらくはこれで遊べるぞ」
「へへ……じゃあ順番と行こうぜ」

 腹をすかした獣のように、王とその悪友たちは、賢人の体に群がった。
 動かなければ。助けなければ。そう思うのに、隣の部下が縋る目で、縋る腕で押し留めて、首を左右に振る。
 それほどに顔に出ているのか。
 そこで、理性を手放せればよかった。理性を手放して、自分が死ぬことになっても、この悪徳を止めればよかった。
 将軍は、生涯この瞬間を後悔し続けることになる。



 

 下品な笑い声と、賢人を貶める下卑た言葉が行き交う。じゃり、じゃり、と鎖が音を立てて鳴り続ける。
 賢人は、しばらく口を引き結んで最初は押し黙っていた。だが、王が鎖を引いて命じれば、虚ろな目でその口を開いて、陰茎の侵攻を受け入れた。

「んぅ、んーっ、んーっ!」

 口と手で男たちの陰茎の相手をさせられ、尻を犯され、横から伸びた手に、乳首を、陰茎を、女陰を攻められて、賢人の喉からうめき声が上がる。
 将軍は、見たくもないのに、その人が蹂躙されるさまを見ていた。王が、命じたのだ。
 参加したければ、してもいいぞ、とまで言って。
 将軍は、槍を握る手を強く握りしめた。
 どうして。どうして、こんなことに。
 そうして思い出す、この賢人と最後に会った日のこと。

 こら、少し待ちなさい。順番に聞くから。
 子どもたちに好かれて、小さな手がその人を慕っていくつも伸びて、困っていた顔を思い出す。

 好きなんでしょ、賢者さまのこと。
 おしゃまな女の子に図星をつかれて、顔を真っ赤にしたことを、思い出す。

 それでは、また。ああ、また。
 短い休暇で会いに来た旧友を送り出す賢人の、その前髪の先が、ほんのり薄桃色に染まっていたことを、思い出す。
 恋情で花開いて色づく樹霊の髪の、その色を微かに見られたことに喜んで、次に会った時には必ず、必ず想いを告げようと思ったことを、思い出す。

 ほんの、数ヶ月前だ。

「あ、あ、ぐっ、ぅ、う……っ」

 その彼が、美しい顔に精液を掛けられて、その小さな口に陰茎を咥えさせれれて、犯されている。

「うめぇっ、うめぇ……っ、なんだこの蜜……っ!おい、直接、直接吸わせろっ!」
「おい、唾まで美味いぞ。唾まで美味いとか、こいつ本当に人間か?」

 じゅう、と王の悪友が姿勢を変えて、その内の二人が、唇と女陰に吸い付いた。
 いつか、キスをしたいと思っていた唇が、乱暴に、奪われていた。

「お前たち、見本を見せてやる。一度雌穴で絶頂させてやれば、その蜜は量を増やしてさらに美味くなる。……見ていろ」

 王が、鎖を引き寄せて、賢人の体を引き寄せる。
 やめろ。
 そう言えればよかった。けれど、将軍の目には、ぶるぶると震える部下たちの様子が目に入ってしまっている。だからもう、止める言葉を出せなかった。
 愛しているその人の痛ましく腫れた陰部に、王の滾って赤黒く染まった陰茎が突き刺される、その時にさえ。

「っあーッ!!あ、あッ!!ひ、ァ、あ、あっ!!」
「は、は、変わらず具合のいい穴だ!情けないなぁ、故郷を征服し焼いた男に犯され、雌声を上げる淫売が!」

 王が挿入を繰り返す度に、ぶちょ、ぶちょ、と賢人の陰部からドロドロの淫液が零れ落ちる。それが流れる度に、甘い香りが強く香った。
 王たちの精液と混ぜられたせいか、その匂いは、この賢人自身の香りとよく似ているようで、違っている。

「あーっ、あっあっあぁっ!いや、いやだ、いやだ……っ!」
「何が嫌だ!!ははっ、こんなに蜜を垂らして善がりよって!」

 賢人が垂れ流した蜜を、男たちが指先で掬い取り、舐めては歓喜の声を上げた。
 狂っている。
 そう思うのに、それを正す力がないことを、将軍は悔やんだ。自分がもう少し強ければ。もう少し、武力を、あるいは権力を持っていれば。
 その将軍と、賢人の目が合った。
 途端、賢人の乾いた目から、一筋の涙が零れ落ちた。 

「あ、あ……見、るな……みるな……っ!」

 自分に、向けて言っている。
 脳裏によぎる。前髪のほんの少し、愛着の色に変えた賢人の色を。
 可憐な薄桃の、その色を。

「見るな、だと?奴隷のくせに生意気を。兵たちよ、見ろ!戦果を上げれば、このように奴隷をくれてやる!犯し嬲り、愉しもうではないか!」
「あっ!!あーッッッ!!」

 下卑た笑いを浮かべた王の昂った陰茎が賢人の陰部を深く貫いた。
 巨大な陰茎のすべてで無理に貫かれて、裂けた穴からは血が流れだしす
 賢人の髪は、ただただ若葉のように澄んだ緑のままだ。

「ははっ!中々締まりのいい穴だ!せいぜい緩くなるまで使ってやろう!!ほら、締めろ、締めろっ!!」
「あ、あ…っ、ぁ、ぅ……っ」

 犯されて、いる。
 あの美しい人が。穏やかに笑う、優しいあの人が。
 見るな、と告げて、一筋だけ涙を流したその人が。
 犯されて、いる。

「青き森の賢人などと、大層な名だなぁ?このように雌穴を穿ってやれば、そこらの雌と変わらんッ!」
「っぁ、う、うぁ…っ!」
「光栄に思え!王の子種袋にしてやるっ!孕んだなら、お前の子も私の奴隷にして、狂うまで使ってやる!ははっ、狂ったなら、食ってみるのも一興かもしれんなぁ!」

 その瞬間。
 賢人の匂いが変わった。
 いや、変わったのは将軍の鼻の方だったかもしれない。甘く甘く香るその匂いが、とにかく、『危険だ』と感じた。
 だが、事態はなにも変わらない。ただただ、美しい人は王の暴虐の蹂躙を受け、男たちに群がられて汚されている。
 しばらくして、王はぶるる、と背を震わせて精を吐き出すと、愉快そうに男たちに賢人を嬲らせた。酒を飲む狭間、果物を食むように賢人の淫液を舐めたり、ゲラゲラと下品に笑った。
 男たち全ての陰茎を萎ますまでに弄ばれられれば、賢人はもう声を出す力もなく、ぐったりと寝台に身を横たえた。
 満足そうに帰っていく友人たちを見送って、それから王は賢人の口に、さして勃起もしていない陰茎を咥えさせた。
 自身の性欲のためというより、ただただ、賢人を貶めるために、貶める快感のために、王はそれをやっていた。

「ちゃんと舐め取れ、淫売。出来なければお前の故郷から逃げ落ちた生き残りさえ、探し出して奴隷にしてやるぞ」
「…ぅ……、ぁ、ぅ……」

 虚ろに、賢人は王の陰茎に奉仕を始めた。全ては口に入らないから、下品に舌を伸ばして、陰茎の根元、陰嚢の裏まで顔を潜らせて舐めた。

「陰気な顔をしおって。使ってもらえてありがたく思え、奴隷。次にこのような陰気な顔をすれば、わかっているな」

 先ほどの脅しが、脅しでなくなるということを、その場の誰もが理解した。
 賢人は、しばらく下を向いていた。だが、顔を上げた時にはもう、さきほどの虚ろは消え去り、引きつった笑みで、媚びた。

「へい、か……使っていただき、ありがとう、ございます……」
「くく……そう、そうだ。自分の立場がわかったようだな。媚びろ。媚びてさえいれば、壊れるまで使ってやる」
「は…い、ありがとうございます、ありがとうございます……どうぞ、どうぞ、この穴を使ってください、どうぞ……」

 賢人は、媚びて自ら股を開いた。
 散々に使われた両の穴からは、誰のものかもわからぬ精液が流れ出て、賢人自身の淫液が強く甘く香った。将軍はまた、危険だ、と思った。
 だが王は違ったようだった。嘲笑して、その甘く香る股に吸い付いた。

「あ、あ…、ぁん、あ、あんっ、きもちいい、きもちいい……っ」

 媚びて喘ぐ賢人の口から、どろりと唾液が流れ落ちる。王が顔を見ていないとわかっているから、その目は虚ろだ。虚ろに、何も映さなかった。
 そうして、初恋の賢人は、王の奴隷と堕ちた。





 毎日毎日、王と悪友たちは奴隷を犯した。
 奴隷の、穴という穴で使われていないものはほとんどなかった。その中でもとりわけ女陰は、必ずと言っていいほど誰かが吸い付いて、その甘美な蜜を味わっていた。

「おっ♡ケツ犯されながらだともっと甘いっ♡♡♡その調子でケツイキさせろっ♡♡♡」
「後で変われよっ♡♡♡俺も、俺も蜜吸いてぇっ♡♡♡」

 最初は兵たちを呼びつけて護衛させていた男たちは、次第にそれすら億劫になり、好き勝手に部屋を出入りして奴隷に群がった。
 王宮の奥、その部屋からは奴隷が激しく善がる声と、鎖が擦り合う音が響き続けた。

「あーっ、あ、あ、っあ"ーっ!あ"ーっ!」
「んぉっ♡♡♡♡ケツ♡♡♡ケツまんこ締まるっ♡♡♡♡すげっ♡♡♡♡」
「うめぇ、うめぇよぉ……♡♡♡♡」

 その人は、二人の男が奴隷を蹂躙していた。一人の男が尻を犯し、一人の男が股に吸い付いて蜜を啜っている。

「はぁ……っ♡はぁ……っ♡交代、交代しようぜ……っ♡」
「もっと飲みてぇんだけど……仕方ねぇな、一回終わったら次また俺が飲むからな♡♡♡♡」

 その日だけでなく、王とその悪友たちは、この奴隷を犯すことそれ自体より、蜜を吸うことに夢中になっていた。
 もはや奴隷の陰部は交合のために使われることはほとんどなくなり、ただただ、王と悪友たちの喉を潤すためのものとなっていた。

「あ、あっあぅ、あっあーっ、あーっ!」
「ははっ♡♡こいつ、イキっぱなしじゃん♡♡♡♡♡おらっ淫乱っ♡♡♡♡♡腰振れっ♡♡♡♡腰振れっ♡♡♡♡」

 がくがくと太腿を震わせて絶頂し続ける奴隷に、男は言葉でも攻めた。

「あ、あ……っ」
「ほらっ♡♡♡おちんぽ大好きって言って見ろよ♡♡オラッ♡オラッ♡♡♡言えたら殺さずにずっと使ってやる♡♡♡言えッ♡言えッ♡♡」

 人格さえ歪めようと、男たちは攻め立てた。
 精神まで奴隷にしてしまおうと、今日この日だけでなく、卑猥な言葉を教え込んで遊んだ。

「あ、あ……おちんぽ、おちんぽだいすき……っ」
「アーッハッハ♡♡♡よーく言えまちたねぇ~~~♡♡♡この淫売がよォッ♡♡♡♡ほらっ♡淫売♡キスしてやる♡♡♡」
「んぅ、う、う…っ、ん…っ!」

 奴隷の背から尻を犯す男が、無理やりに腔内をも犯して、べちゃべちゃと唾を啜る。

「すき、すきぃ、尻…っおちんぽで犯されるのすきぃ……っ」
「お♡おっ♡♡♡身の程が分かってきたな♡♡♡もっと言えっ♡言えよっ♡まんこ吸われるのも大好きだろっ♡♡♡」
「あーっ、あーっ!おまんこっ、おまんこ吸われるのすきっ、すきっ!」

 もう何を言っているかもわからないのだろう。奴隷はただただ卑猥に喘いで媚びた。
 もはや男たちだけでなく、身の回りの世話をする使用人や、警備の兵たちにすら侮蔑の目を向けられるようになっていても、奴隷は構わずに男たちに股を開いて媚びを売った。

「もっと、もっと吸って、吸ってぇ!もっと犯してっ、もっと吸ってっ!」

 時に、王の友人たちではない兵すらも、奴隷の股に顔を埋めることもあった。王は嘲笑して、兵を友人に加えて、奴隷を嬲らせた。
 王は、この奴隷を特別憎んでいるようだった。
 いつもの奴隷ならば、そこまでやらぬという辱めをも、この奴隷に対しては行った。
 裸のまま、四つ足で這わせて王宮を犬の散歩のように歩かせた。その尻からは精液がとめどなく流れ、廊下を汚した。
 食事や排泄ですら、王はこの奴隷を辱めた。
 奴隷の食事は人並みの栄養のとれるものではあったが、必ず床に落とされ、奴隷はその床を舐めて食事を取らねばならなかった。
 排泄は、必ずと言っていいほど王の目前に晒すこととなった。王の悪友たちは、情けなく漏らす奴隷をからかい嘲笑したが、王だけはその様を見ながら陰茎を昂らせていた。

「陛下、へいか……使っていただき、ありがとうございます……陛下に使って頂いて、幸せです……もっと、もっと使ってください……っ!」

 そのような辱めを何度も受ければ、奴隷の媚びた笑みは次第に本物になっていった。
 媚びて笑って、自ら王に口付けて、王の不興を買うまいと、王が言葉にする前から股を開き誘う性奴隷に堕ちて行った。
 その奴隷を見る王の目には、暗い欲望が灯り続けていた。





 その日、神聖な場所での交わりを強要され、奴隷は久方ぶりに人間らしい動揺を見せた。

「陛下、よろしいの、です、か、このような場所に……汚らわしい奴隷が、足を、踏み入れて……」
「……は、久しぶりにまともな口を利いたな。だが口答えとは。躾が足りなかったか?」

 じゃり、と王が鎖を引く。
 純白の婚礼衣装を着せられた奴隷は、美しかった。
 陽の光の下で、将軍は久しぶりにその人の顔を見た。善がり声だけは、聞きたくもないのにいつだって耳に入っていたのだけれど。

「いい、え……恐れ多く、て……。このような場所でも、私を使っていただき、ありがとう、ございます……」

 奴隷は、媚びて笑った。もうそれは本物の笑みだった。媚びて、何でもしますから痛めつけないでくださいと、卑屈に機嫌を伺う奴隷の笑みだった。

「今日は尻ではなく、雌穴を使う。子宮を開いて、私の子種を迎え入れろ」
「は……い……、陛下の、子種袋になれて光栄です……」

 王は上機嫌そうに笑って、奴隷の口を無理やり開かせて口付けた。
 二人を教会の窓から落ちる陽の光が照らして、将軍からは影しか見えない。影だけ見れば、まるで幸せな夫婦のようだった。
 そうであれば、どんなに良かったか。例え自分のこの気持ちが報われなくとも、初恋のこの人が幸せであれば、祝福することも出来たのに。
 そう苦々しく思っていれば、王の視線がこちらを向く。まずい、と思っても遅い。顔に出ていれば、王の不興を買うのは免れない。
 だが、王は上機嫌そうに尋ねた。

「……おお、そういえば、将軍。この奴隷とは古い知己と聞いた。どうだ、使ってみるか?」

 なぜそれを。
 息が止まる。この申し出を、受けたくはなかった。
 恋したその人を、蹂躙する下郎になど成り果てたくはなくて。

「い……え、私、は……」

 震える声で答えれば、王は嘲笑した。
 まるで、そう答えるのがわかっていたかのように。

「王からの慈悲を、受け取らぬというのか。……貴様、不敬だぞ」

 王の腕が、太さを増す。その剛腕で、直接に人の体を破壊してきたその腕が、将軍を壊そうと、いきり立っている。
 まずい、と思うが早いか。
 奴隷の男が、自ら王に口付けた。

「陛下……私を、あのような若造に下げ渡すのですか……?」
「いいや、あの男がどうやら……お前に懸想していた気配があったと聞いてな。慈悲をくれてやろうかと」
「いやです、いや……このような場所で、あなた以外と交わるなど、いやです……」

 口答えをするな、と言った王の機嫌は、だがこの時においてはひどく上機嫌に上向いた。

「ふ……ふふ、本当に淫売に堕ちたな、青の森の賢人。ならば見せてやれ。お前が、誰のものかを。私の陰茎に媚びて、腰を振って子種をねだる様を、見せてやれ!」
「はい……、はい……っ、陛下、陛下……っもう、我慢できません、ください、あなたの子種をください……」

 奴隷は膝を折って、王の股ぐらに布越しに顔を擦り付けた。その口からだらだらと涎が垂れ落ちている。
 将軍は、ただただその様を見ていた。命が助かった喜びより、恋慕だけでなく、敬愛していた賢人が、心まで性奴隷に堕ちたことを目の当たりにした悲しみの方が勝った。

「はやく、はやくっ陛下っ、陛下のおおきいおちんぽでっ!わたしの子宮を突いてくださいっ」

 奴隷は急いて王の陰茎を取り出した。すでに天を衝くほどに昂っていた陰茎が、奴隷の頬を打つ。
 奴隷は嬉しそうに微笑んで、王の陰茎を口に含んだ。性器として躾けられたその口は、喉奥まで王の陰茎を飲み込んで、精液をねだって卑猥に揺れた。

「く……くくっ!お前がノロノロしているから、この淫売が痺れを切らしたではないか。もういい下がれ、そこで指を咥えて見ていろ」

 王はもう、将軍に興味を失ったようだ。あるいは、かつて存在した小さな恋を手折ることに、悦びを見出したのかもしれない。

「ふ、ぐ、ぅぅ……っ、奴隷よ、出す、出すぞ……っ飲めっ飲めっ」

 すでに昂っていた王の陰茎は、すぐに耐えられずに射精した。飲み込みきれなかった精液が、鼻の穴から溢れ出した。

「お前がどのように私から子種を搾り取るか、見せてやれ」
「はい……」

 寝そべった王の意を察して、奴隷が下衣を脱ぎ去り、淫液で濡れた下半身を晒す。
 そうして、視線があった。
 精液に汚された、どろどろの顔で、かつての賢人は下品に笑った。

「見ていろ、小さな騎士。賢人などもうどこにもいやしない。もう、私は…っ、陛下のおちんぽに犯されるのだけが幸せな、陛下の子種袋なんだ……っ」

 奴隷の、口元だけが笑っている。
 その髪は、青々とした緑だった。かつて、その毛先を薄桃色に変えた、その愛はもう、消えてしまったかのように。





 王も奴隷も、もう将軍に興味をなくしたように交わり続けた。
 奴隷は、王に促されたままに、王の腹の上で自ら腰を振らせた。ぶちゅ、ぶちゅ、と下品に水音がなって、淫液が溢れ出す。

「あ、あ、あっ!おちんぽっ、おちんぽっ!きもちいいっ、きもちいいっ!」
「すっかり雌に堕ちおって!ほら、種を付けてやるっ!」
「あーっ!あーっ!」

 もう何度目か分からぬ絶頂で、奴隷は身を反らせて震えた。その体がそのまま後ろに倒れて、背を打って床に叩きつけられる。
 がくがくと震えるその体に乗り上げて、王は冷たい目で奴隷を見下ろした。

「……愛していると言え」

 これまでの狂騒を思えば、奇妙なほどに静かに、王は言った。
 ゆっくりと固さを失わぬ陰茎で、使い込まれて雄を拒絶することも出来なくなった奴隷の陰部を、侵略していく。
 そんなことを王が求めるのを、将軍は初めて見た。
 ただただ、この賢人があまりに気高く美しいばかりに、殊更にいたぶっでいるだけだと思っていた辱めが、嫌な質感を纏って一つの真実に辿り着こうとしている。

「そのような恐れ多いことは、とても……」

 その美しい人は、奴隷の身の程で応えた。王の形相が鬼のものへと変わる。
 そうして、一気に奴隷の陰部を貫いた。

「あーっ!!」
「言え!……っ言え!愛していると言え!」
「あ、あ、あっ、陛下、陛下っ!あなたのものですっ!私は、あなたのものですっ!!」

 奴隷は、やはりその身の丈にあった言葉で王に応えようとした。
 その響きは、狂気と思慮の狭間だった。あるいは、賢人としての記憶が、愛なるものを尊んで、本能的に言葉にするのを阻んでいるのかもしれなかった。

「違う!!愛していると言え!!私の、私のものなのは当然だっ!!私はお前に勝った!!お前の土地を征服した!!だからっ!!だから愛していると言え!!!!」

 ヒステリックに叫ぶ王の顔が、いつになく焦燥に染まる。
 やはりこの人は。
 将軍は、王の暴虐の形に気がついてしまった。
 この人に恋をしたのか、あなたも。

「陛下、へいか……」

 奴隷もまた、それに気づいたのかもしれなかった。王の叫びを受けた奴隷の顔が、微笑みに変わる。

「あいして、愛しております……幸せ、幸せです……あなたのものになれて、幸せです……」

 そうしてまるで、愛おしいものに向けるように、柔らかく手を伸ばして、王の頬を撫でた。

「は……は………ははっ…………♡♡」
「あなたの子を孕ませてください……っ、親子ともども……あなたに尽くします……っ!陛下、へいか……」

 両手で王の顔を撫でる奴隷の顔は、本当に幸せそうだった。まるで長年の片思いを成就させたような顔で、美しい人は微笑んだ。
 本当に、壊れてしまった、と将軍は思った。

「愛して、おります……」

 まるで、神聖な儀式のような口付けだった。
 本当に、本当に、婚礼のために捧げる口付けのような。

「ああ、ああ……っ♡青き森の賢人よ……♡私の、私のかわいい奴隷よ……っ♡♡♡」

 ふるふる、と王の体が歓喜で震える。
 喜んで、いる。
 これまで王がこの奴隷に執拗な辱めをした理由が、将軍にはようやく理解できた。
 この王には、暴虐なだけでなく、狡猾な面もあった。
 だからわかっていたのだ。この高潔な青き森の賢人が、決して自分を愛さぬということが。
 だから壊した。
 壊して、狂わせて、魂まで奴隷に堕として。
 そうして、愛させた。
 そんなものは、愛ではない。わかっているだろうに、愛を口にするしか、出来ない生き物に堕とした。

「言えっ♡言えっ♡♡♡もっと言えっ♡♡♡」
「愛しています、愛しています…っ!!陛下、へいか、あなたに犯してもらえてっ幸せですっ!」

 虚しい、あまりに虚しい愛の告白だった。
 もはやこの奴隷は正気ではないだろう。正気であれば、言うはずがない。犯してもらえて幸せなどと。

「ああ、そうだっ♡そうだ♡♡♡お前は誰の子種で孕むっ♡♡♡言えっ♡♡♡♡」
「陛下、陛下ですっ!陛下の子種っ!くださいっ、くださいっ!あーっ、あーっ!」

 ぶちゅぶちゅと、虚しい愛が交わって、雄と雌の淫液が混じり合って教会の床を汚す。
 このようなもの、神がお許しになるはずがない。
 だが、最初からだ。神がいるならば、王の暴虐の形をした恋など、最初から許されるべきではない。
 ならば、誅すならば、人の手で成すしかない。
 虚しい愛の交合を、どこか他人事のように眺め見ながら、将軍は決意した。
 愛すら暴虐でしか示せぬこの王を、この国から抹殺するべきだと。

「ほら、子種袋にしてやる、股を開いて腰を振れ♡♡」
「あっ、あっあっ!孕ませてっ!孕ませてくださいっ!」

 奴隷は、両手両足で王を抱きしめた。まるで恋人のように。
 この人の尊厳を失うとわかっていても、そのまま王を溺れさせ続けてくれ、と冷静な部分で思うしかなかった。
 それしか、この暴虐の王の隙をつくことは出来ないと思われた。今この時、剣を握って襲いかかったとして、指先一つで脳漿をぶち撒けて死ぬしかないとわかっているからこそ。

「はぁっはあっ♡♡♡物わかりのいい奴隷だッ♡♡♡私のっ私のかわいい奴隷よっ♡♡♡ほら褒美をやるッ♡♡孕めッ!♡孕めッ!!♡孕めェッ!!♡♡♡♡」
「あ"~~~~~~~~っ!!あ"、あ"、あ"……っ!陛下、陛下もっと、もっと……」

 奴隷が下品に大口を開いて王に口付ける。舌で甘えて、卑猥に腰を振って、王をどこまでも悪徳の交合に誘ってみせた。

「ああ♡ああ♡くれてやる♡♡♡私の子種をっ♡♡♡すべてお前にくれてやるっ♡♡♡結婚、結婚だっ♡♡♡♡光栄に思え奴隷っ♡♡♡私の妃だぞっ♡♡♡♡」
「うれしいっ、うれしいっ、陛下、へいか……っ!光栄です……っ!この淫売を、もっと愛してくださいませ……っ!」

 奴隷が意識を失うまで、いつまでも、いつまでもその虚しい交わりは続いた。
 その髪は、目に痛いほどに鮮やかな緑のままだった。





 その時より、王の奴隷への仕打ちは、辱めることより寵愛へと傾いていった。
 悪友たちには変わらず股への愛撫をさせ、蜜を吸わせていたものの、その唇には必ず王が吸い付いた。
 愛しています、陛下、と奴隷が譫言のように呟けば、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。
 王の悪友たちは、奴隷の蜜に夢中になって、それに気が付かない。
 王は昼間、変わらず悪友たちとこの奴隷を共有したが、夜には独り占めした。口と陰部と尻の穴と、王の超大な陰茎が収まる奴隷の穴は全て犯し、最後には朝まで奴隷の股に吸い付いて蜜を啜り続けた。

「あっ、あっ、あっ、またっまたっ、蜜がっ、蜜が溢れてしまいますっ!ああっ、陛下、陛下ぁっ!」
「おお、おお出せッ♡♡♡♡♡早く蜜を出せッ♡♡♡♡♡」
「あ"~~~~~~~~ッ!」

 王は奴隷の股ぐらに頭を埋めている。ずっと、ずっとそうだった。王はほとんど毎日朝まで奴隷の股に吸い付いて離れなかった。
 それを諌めた者は殺された。殺された者だけでなく、王の剛腕で片腕や片足を引き裂かれて不随に陥ったものは片手で収まらぬほど

「……ぁ、あ……」
「ああ……♡♡♡どんどん、どんどん美味くなっていく……♡♡♡♡止まらぬ、止まらぬ……っ♡♡♡♡」
「あ、あ……っ、陛下、陛下……っ光栄です…っ光栄です、陛下……っ!」
「どうしてお前はそのように美味い…っ♡♡♡ああ、ああ、私のかわいい奴隷……っ♡♡♡もっと出してくれるな……♡♡♡」

 そうして王はじゅぶじゅぶと音を立てて奴隷の股に吸い付いた。時にはその両手を使って尻の穴をいじり、奴隷の子宮を肉の裏側から潰して無理やりに絶頂させもした。

「あーっ、あーっ!」
「ああッ♡♡♡出た、出たッ♡♡♡♡蜜ッ♡蜜だッ♡♡♡」

 日に日に、奴隷の出す蜜は量を増していた。王はそれをごくごくとまるで水のように飲み干し、陛下、と奴隷に乞われれば、口からも蜜を舐めてやった。

「あ、あ……、陛下、陛下……おね、お願いが、ございます……」
「奴隷のくせにお願いだと……?過ぎた真似を。仕置きが必要か?」
「陛下、陛下のお気に召さなければ、仕置きしてください……」

 そのような日々が続いたある日、奴隷が久しぶりにまともに人の言葉で告げた。
 王は冷めた顔で答えたが、以前のような短気な行いはせず、奴隷の申し出を待った。

「……どうか、あなただけのものに、してください」
「ほう……」
「私の、この蜜を、あなたにだけ吸って頂きたいのです……どうか、どうか……」
「くく、ははっ♡♡♡♡♡♡ああ、叶えてやる、叶えてやるっ♡♡♡♡私のかわいい奴隷♡♡♡♡私だけのものだなっ♡♡♡♡」

 王は喜んだ。
 美しい樹霊が、自ら、そのように独占されたがっている。
 王の虚しい恋情は満たされた。そうして、再び蜜を吸い始めた。

「ああっ!愛しています、愛しています!陛下、陛下っ!もっともっと、もっと吸ってくださいっ!」

 媚びるように、誘うように、追い立てるように奴隷は鳴いて、王にその蜜を吸わせ続けた。





 その翌日から、王は悪友たちを閉め出した。
 悪友たちは軽く反抗したものの、その場は大人しく引き下がった。この王の恐ろしさを、一番よく知っているがゆえである。
 だが、大人しくしていたのも、数日のことだった。
 一番熱心に奴隷の蜜を吸っていた男が、王の目を盗んで、奴隷の蜜を吸おうとした。

「へ、陛下……ひどいではないですか、このような至高の蜜を、独り占めするなど……少し、少しですから」
「黙れ。私のものだ、これは私のものだッ!!下がれッ!!」
「陛下!長い付き合いの友人ではありませんか!」
「知ったことか!どうしても引かぬというなら……!」
「陛下、ほんの少しです、ほんの少し頂ければ、退散いたしますから……」

 王は、悪友だった男の次の言葉を聞かなかった。男は両の腕を引き千切られ、あまりの痛みに、無様に失禁して失血死した。

「陛下……」

 男の血が、裸の奴隷の肌の上に跳ねていた。
 日の光を浴びずに長く過ごしたその肌は、発光するかのように白かった。

「おお……♡おお、おお♡すまぬな、怖かったろう♡♡♡すぐ片付けさせるが故、少し待て……♡♡♡」
「いえ……、陛下の、勇猛な様に見惚れてしまい……、また、蜜が止まらなくて……っ、浅ましい私めに、罰を、罰をください……」

 奴隷は、見せつけるように股を開いて、自らその女陰を弄って見せた。ぐちょぐちょ、と粘ついた淫液の音が鳴る。

「ふ、ふふ、ああっ♡♡♡♡なんとっなんと美味そうな蜜よ♡♡♡♡♡♡私が啜ってやる、啜ってやるからなっ♡♡♡♡♡♡」

 そうしてまた、王は奴隷の股に顔をうずめ、じゅぶじゅぶと下品な音を立てて、女陰をしゃぶりはじめた。
 王も奴隷も、血を浴びているというのに、それに構わずに交わって、その赤を混ぜあっている。
 なんという悪徳。
 王の悪友であった者の死体を片付ける兵たちは、その有様に顔をしかめた。
 その中の一人が、王に食われるように股を開く、奴隷の顔を見た。
 笑って、いる。
 邪悪に、狂ったように。青々と茂る若葉の髪を揺らして、笑っていた。





 奴隷は、何度も笑った。
 この奴隷に手を出せば、王のその剛腕で四肢を引き千切られると分かっているのに、一度でもその股から直接蜜を吸った者は、王の目をかいくぐり、飢えたようにその奴隷を求めた。
 その度に、奴隷は大きく鳴いた。

「陛下、陛下っ!!私の蜜が、盗まれてっ盗まれております!陛下!」

 王は、時に不埒な盗人の頭をねじ切った。胴と分かたれた頭は窓から投げ捨てられ、悪食の鳥に食まれてその骸を晒した。

「おお、助けを呼ぶとは、よく躾けられているな、私の奴隷よ♡♡♡もう盗人はおらん、安心して蜜を垂らせ♡♡♡♡」
「素敵です、陛下、陛下……」

 王が助けにくれば、奴隷はうっとりとした顔で王に媚びて自ら唾を出して口付けをし、そのしとどに濡れた股を開いた。
 そうして王がその蜜に夢中になって、顔を伏せれば、悪魔のように笑うのだ。

「あは、はは……っ、陛下、陛下、どうぞ、もっと……もっと吸ってください……、ふふ……、あははっ」

 王は答えない。言葉を紡ぐことさえ煩わしいと、ただ股に吸い付いている。
 奴隷は何度も、何度も笑った。その全身に血を浴びて、肉片や脳漿や臓物をつけても、笑って股を開き、淫奔に媚びて鳴いた。
 そうして、狂ったように、笑い続けた。
 




 至高の蜜を独り占めして啜り続けた王が、謁見の間にすら奴隷を侍らすようになるのに、それほど時間は掛からなかった。淫液をつけた顔で鬱陶しそうに謁見を受け、謁見した者が下がれば、すぐにその顔で奴隷の股に吸い付いた。
 それは次第に人目を憚らなくなった。誰がいようが奴隷の股に顔をうずめて、至高の蜜を啜り続けた。
 奴隷を玉座に座らせ股を開かせ、跪いて股に奉仕して蜜を啜る様は、まるで王こそが奴隷になったかような有様であった。
 尋常ではない。
 だから、その王の奇行を解明するため、頼った先があった。

「……中毒症状、であると考えられます」

 青の森の術師であった。かつてあの賢人に教えを受けたこともあるという彼は、王の暴虐に反抗するために秘密裏に結成された反乱軍の、よき協力者であった。
 反乱軍の旗印となった将軍は、警戒に警戒を重ねて彼と対面していた。

「中毒症状?あの疑り深い王に、毒を盛ることなど難しいかと思うが……」
「いえ、我らが賢人のその身が毒性に堕ちて、体液を毒に変えたのです」
「毒性に、堕ちる……とは」
「あまりの苦痛を受けた樹霊は、その身の性質を毒へ変えます。自分さえ殺す毒に。……被食者を道連れに心中しようとする、迂遠な自殺なのです」

 あの瞬間だ、と将軍は気づいた。
 将軍が最初に奴隷となったあの人を見た時に。王がお前の子も奴隷にして使ってやる、と告げたあの時。
 甘い匂いが、変わっていた。
 危険だ、と思ったのは、思えたのは、あの賢人の最後の情けだったのだろうか。

「おそらく、あまりの仕打ちに耐えられず、正気を失って……毒性に、堕ちられたのかと」
「……すまない……っ!!君たちの、尊い方を……」
「そう思うのならば、あの方が作ってくださった、好機に報いてください。あれは知能を低下させ、依存症を引き起こす、麻薬のものです。長く摂取し続ければ、あの王は廃人となるでしょう」

 同志たちがひそひそと小声で何やら会話を交わし合う。何を話しているのか、将軍には理解できた。
 戦略としては一つの道である。だが、その道を選んでは、自分の心はもう折れるだろう、と思った。

「だが、放っておけば王は廃人になるのだろう。それまで待つというのも……」
「あの方の尊厳をこれ以上損ねるというのなら、そのような臆病者に力を貸す理由はありません。我々であの方を救い出す。……その後で狂った王が貴様たちを殺そうが嬲ろうが、知ったことか」

 この青年は、あの賢人が身を張って逃がした一人だ。だからこそ、信じられると思った。その脅しも、脅しというだけでないことも、信じざるを得なかった。

「同志が失礼を。もう……我々は数多くの俊才を失っております。失敗するわけにはいかぬとの想いが逸りました」
「……わかっています。ですが、迂闊な物言いはこれきりにして頂きたい」

 今が好機とわかっているから、その場は互いに釘を刺すだけに留まった。
 決戦の日が、近づいていた。





 その日を、後世の歴史学者は赤き日と呼んだ。
 王宮のどこもかしかも、血で汚れた。
 攻め入るのは、簡単だった。だがただ一人、王は何十人もの兵の肉体を千切り飛ばし、その内臓を撒いて威圧した。
 正しく導かれていれば、頼もしい勇士と、華々しき英雄となっただろう、その天賦の肉体と武勇でもって、王宮を陰惨たる有様へと変えた。

「私の奴隷を奪おうとする奴は死ね!!」

 将軍が、いよいよ自分の命でもって突撃するしかあるまい、と謁見の間に辿り着いた時、王はその身体にいくつもの武器を突き刺されていた。
 常人ならば、倒れていてもおかしくはない有様である。だが、それ以上に王の足元に蹲った骸の山が、この王が常人でないことを示していた。
 そして奴隷は、裸のまま玉座に座り、どろどろに汚れた股を開いたまま、その惨劇をぼんやりと眺めていた。

「弓兵隊!!」

 将軍が命じ、潜んでいた弓兵たちが王へと射掛ける。
 その矢雨が、この戦場の終わりを告げた。
 王が、膝を折った。
 そうして、ズルズルと無様に這って、奴隷の足元へ蹲る。ゴボゴボ、と肺に血が入った音をさせながら、唯一手元に残った、所有物の元へ。

「お、おお、私の奴隷よ、最後、最後にひとしずく、舐めさせて…くれ…っ」
「陛下……」

 奴隷は、うっとりと笑った。
 笑って、王の元にゆっくりと歩み寄る。

「か、か、か、かわいがってやっただろう……っ、俺の奴隷、はやく…っはやくっ、蜜をっ蜜を寄越せ…っ!あい……、愛していると言っただろう……っ!」
「ふふ……そうだな、愛しているよ」

 妙に芯のある声で、奴隷は言った。

「お前のその愚かさをな」

 冷たく言い放ったその声と共に、奴隷は王の腹に突き刺った短剣を引き抜いた。

「……俺の毒は美味かったか?」
「あ………っがっ、がぁぁぁぁぁっ!!」

 冷たく言い放って、奴隷はその短剣を、陰茎に突き刺した。

「この痛みを来世まで覚えていろ。また同じようなことをすれば、俺がもう一度、お前の性器を刺しにいく。例え人の形に産まれなくとも、獣や、虫であっても、必ず、お前の性器を切り裂く。覚えていろ」
「あ、あが……あっ、あっ……わた、わたしの奴隷よ……っ」

 腹と陰茎、両方の傷に、とうとう王は耐えられずにその身を暴れさせた。その腹を、奴隷が素足で踏みつける。
 その脚を伝って、淫液が落ちていく。それを啜ろうと、王は無様にもがいた。

「……死ね、下衆が。お前などが王であったこと、この国の末代までの恥だ。一刻も早く死ね、死ね、死ね、死ね!!」
「あっ、がっ、オ、ぉ、ごはっ、あぐっ、あぐ……っ!!」

 王の性奴隷であったその男が、語気を荒らげて王の腹を何度も蹴り、そうして気を失ったなら、短剣を振り落として、陰茎を幾度も刺した。
 その顔に血が飛んでいる。それにも構わず、男は王の陰茎を切り裂いた。
 幾時、そうしていたか。
 とっくに息を止めた体の、その陰茎はずたずたに引き裂かれ、原型も留めていなかった。
 心臓を止めた体から、奴隷でなくなった、杏の樹霊は身を離す。
 杏の樹霊は、ゆらり、と立ち上がって、反乱軍、いや今となっては革命軍となった兵たちを見る。
 しばらくの、沈黙があった。
 詰ってくれればいい、と将軍は思っていた。今や革命の英雄となった男は、旧知の、そして初恋の杏の樹霊に、罪の宣告を待つような心持ちで、沈黙を破る言葉を待った。
 どうしてもっと早く助けてくれなかったのかと。そう告発してくれ、と祈っていた。

「すまないな、手柄を横取りした」

 そんな。
 そんな、風に、微笑まれるとは、思っていなかったのだ。
 その顔に、王に媚びて股を開いていた奴隷の面影も、大人数に弄ばれて悲痛に泣いた捕虜の面影もない。
 昔から知っている、青き森の賢人のものだった。

「あなたは……正気、なのですか」
「……どうかな。まあ、君たちが俺をどう扱うべきか、迷っていることはわかる」
「その、ような……」
「君とは旧知の友だったが……判断を迷うな、冷静になれ。望んだことではないが、俺の……個人的な復讐がために、国を傾けたのは事実だ。俺がこの手を選ばなければ、死なずに済んだ者もいただろう」
「それは……」

 返す、言葉もなかった。
 この賢人を嬲ろうと群がった者たちのことはどうでもいいが、あの奴隷に入れ込みすぎるなと、王に諫言したものも何人も死んだ。

「長期的に見れば、あの王を民衆の支持を得られた上で早めに殺せた、というのは不幸中の幸いとも言えるが……まあそれも後世の者が判断するところだな」
「賢者殿」
「俺はもう、生きているべき人間ではない」

 賢人を、説き伏せれられるとは思っていない。だが、賢人にその道を歩かせなくて、将軍はどうにかして言葉を紡いだ。

「い、今からでも遅く、ありません!どうか、どうか私と、」
「それ以上は言うな、救国の英雄」

 賢人の、緑の髪が揺れた。

「毒性に身を堕としたこの身体はもう戻らん。……長くも保たないしな。……もういい、俺の復讐は終わった。大地に、還してくれ」

 そうして、あまりにも、あまりにも美しく、気高く微笑むのだから。
 将軍は、何一つ、反対の言葉を言えなくなってしまった。今さら、今さらなのだ。いま感情に振り回されて喚くのならば、もっと前、最初のあの時にしておくべきだった。
 そうではないから、もう、そんな権利もなかった。自分の命を使って、復讐を成し遂げたこの人に追いすがる権利など、もう。

「……お手だけでも、触れても?」
「ああ」

 英雄となった将軍は、自らの長い外套を杏の樹霊に羽織らせた。
 紳士だな。美しい人が笑って言うので、将軍は苦しくなった。服で素肌が隠され、その顔の血を拭えば、まるで悪い夢のように、この人の受けた屈辱の痕跡は消えてしまうのに。
 夢ではないから、もう、安寧のままに送り出すしかないことを、わかっていた。

「……俺の、せいです。最初の、最初のあの時に、俺が命がけであなたを助けようとすれば、あるいは」
「そうしない君だからこそ、私は待つことが出来た。私の毒に依存させきって、王自身にあの下衆どもを全員始末させきるまで、な」

 だから笑ったのだ、この人は。
 王は愚かにもこの人の目論見通り、自らの仲間たちを殺して見せた。そのおかげで、この革命はうまく行った。

「しかし、王が、君に加われと言った時には焦ったが。この毒は、自分でコントロール出来るものでもないのでな」
「あの時は……俺の方が助けねばならぬのに、あなたに助けられた」

 不敬だぞ、と言った王に、この人はことさらに媚びて見せた。あの時には、それほど狂ってしまったかと、ただただ痛ましく思ったそれが、この賢人の策の内と分かって、胸が苦しくなる。
 愛している、と虚言を吐いてまで、あの憎い王を誘惑して、自分を助けてくれた。

「役割分担というものだ、気に病むな」
「……俺の手を取って、逃げてはくれませんか」

 ふふ、と賢人は笑った。
 何一つ損ねられていないと、思わせてくれる優しい笑みだった。

「駄目だ。もう俺の体は数ヶ月保つかどうかだ、君の勇名に報いるほどの年月もない。俺が死んだ後に君がこの国に戻ったところで、前王と同じように毒の奴隷に魅入られた将を、快く受け入れられるとは思えん。‥…ここで見送ってくれ」

 賢人が歩を進めたのは、王宮内の中庭だった。
 先王が手を掛けた庭に、あの王は興味を示さず、庭師の好きにさせた。
 逆にそれが功を奏して、この庭はかつてのまま美しく保たれた。

「この辺りでいい。あの王の唯一のいいところは、美しい庭園を壊さなかったことだな」
「……あの」

 別れの時が近づいていた。
 だから最後だ。最後に一言だけ、聞きたかった。
 恨んでいるとでも、そのような言葉でも良かった。
 この人の感情を、一つでも受け取りたかった。

「一つだけ、聞かせてください。……もし、もし、このようなことがなければ、私の……想いに、応えてくださいましたか」
「……言うな、と言っているのに」

 ふわり、と緑の髪が色づく。薄い白桃色に。王やあの悪友たちと交わっていた時には、一度でも変わらなかった、青々とした緑から、柔らかい色へ。
 杏の樹霊、その人の、深い愛の色に。
 ああ、ああ、この人は。
 俺が想うように、この人からの想いも、変わらずにあったのだ。
 もう、これっきり。失われて、しまうけれど。

「……おやすみ。君に幸いがあらんことを」
「おやすみ、なさい。あなたが……穏やかに眠れるように、尽力します……だから……」
「……ふふ、見られないのは残念だが……、信じているよ、俺の、小さな騎士どの……」

 その身体を包むように、根が張っていく。その身体を心臓とするように、強く、瑞々しく、根を張って幹を成して、そうして、葉を茂らせて。

「あいして、います………、愛して、います……ッ!!」

 答えはない。
 ただただ、英雄は繰り返した。
 英雄となってしまった彼の、最初で最後の恋は、そうやって終わった。





 夢を、みた。
 あの美しい人を連れ去って逃げる夢だ。
 逃げて逃げて、遠く異国の地で、夫婦になる夢だ。
 口付けをすれば、あの人が柔らかく微笑んで髪を色付かせるのが愛おしくて、何度も何度も口付けた。
 子を成して、共に年を重ねて、死ぬまで共にいようと、誓って。
 幸せな、夢だった。
 幸せで、残酷な夢だった。





「ご老人、そのようなところで眠っては風邪を引く」

 幸せで残酷な眠りを邪魔したのは、聞き覚えのない少年の声だった。億劫に思って、かつての将軍で英雄の老王は、目も開かずに応えた。

「……いい、もう、私のやるべきことはやった。もう……いい……」
「困ったな、おれの親のことを教えてもらおうと思ったのに」
「親?誰だ、君は……王の私室に入るなど……」

 窓に腰掛けた少年の顔は、逆光でよく見えなかった。

「あなたが毎日世話をしたんだろう、この杏を。知らないでいたのか?」
「なに?」
「子を成さずに大地に還った樹霊からは、新たな樹霊が生まれるんだ。だからあなたは知っているのだろう、おれの父を」

 ふふ、と笑うそれに、幼い声に不相応な聡明を感じて、老人はその顔をよく見ようと目を見開いた。

「きみ、は……」
「どうだ、似ているか?」

 緑の髪の少年が、微笑んでいる。
 似ている。
 忘れもしないあの人が、少年の時分だったなら、こういった顔をしていたかもしれない、と思える顔。
 もしあの人が子を成すことがあれば、このような子が産まれていたかもしれない、と思える、顔だった。

「……似て、いる……」
「……泣くほどに?」
「ああ……」

 知らず流れ出た涙を、少年のふっくらとした指が掬い取る。優しい、指先だった。
 最後に触れた、あの人の指先を思い出す。

「そうか。やはり知っているのか、ご老人。どうか、おれに、その人のことを教えてくれ」

 幼い杏の樹霊は、かつて老人が恋したあの人と、よく似た顔で、微笑んだ。

「……気高く、美しい、人だった」

 老人は、そうやって語りだす。
 気高く美しい、かの人のことを。




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