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序
贈り物(後編)
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俺の住む学生寮、もといアパートから徒歩で10分ほど行ったところに駅前まで続く商店街がある。そこそこの距離があるこの商店街は衣食遊揃う中々活気のある所で周辺住民の方々はほぼ毎日利用しているようだ。
そういう俺も一人暮らしな訳だから安いもの目当てでよく買い物に来る。何よりここの人たちは俺の顔見ても避けたりしないとてもいい人たちが集まってるから。が、今日はなんだ?ハートの視線が飛び交っている。とうとう俺の魅力に女性たちが…なんて自分で言うのも悲しくなるがそんな事あるわけがない。
この視線は俺の横を歩く茨木へ向けられてる。
こいつは顔だけはやたらにいいし、背も高い。さらに外面よくするから笑顔で愛想よく歩く。さらにさらに服装も執事の服だし目立つ。コスプレかっての!んで俺は洗濯物溜め込んでたせいもあるんだが、ずぶ濡れになった時の着替えがなく、壱弥がふざけて買ってきて封印していたおみやげ物の『おまんぢう』と書かれたTシャツを着て悪目立ちだ。
「どうしました秋緋様?何やら惨めそうですね?」
俺に向かってニヤリと笑う。
みなさーん!こいつはほんとはこういう奴なんですよー騙されないでー!って伝わるはずもなく。珍しくキャアキャアと黄色い声が響く商店街を俺たちは進んでいく。小鬼たちも鬼同士だから気が合うのか、今日は茨木の両肩に乗りこの状況を楽しんでいるようで決めポーズをとってアピールしている。普通の人には見えないけど。
「茨木、小鬼たち気にならないのか?お前なら振り払いそうなもんだけど。」
「失礼な事を言いますね。いくら私でも神鬼の子に手をあげたりしませんよ。秋緋様こそ溶かしたり冷凍したりとひどい事してたでしょう。」
はい、ごめんなさい。その件に関しては何も言えません。神様に近いってだけは知ってたけど一応茨木もそこはしっかり弁えてるんだな。
そんな話をしているうちに駅側の出入口付近にある和菓子屋へと着いた。和菓子屋だけどケーキもある。俺の知ってる近場の菓子店はここしかない、ないんです…。
そんな蔑んだ目で俺を見るな茨木。
ため息をついて嫌々店に入る茨木。
物色する茨木。
俺を見る茨木。
…
「姫子様に似合う可愛らしいお菓子、ですよ?選んでください秋緋様?」
わぁ、茨木の目に殺気がぁ。自分で選ぶのを投げて俺に無茶ぶりだぁ。この中から選べとぉ?ふっ、よく見ろ茨木!ここには洋菓子もあるんだぜ!しかも自分で選べる可愛いクッキーBOXがあるのを俺は思い出したのさ!今ね!
「ん…洋菓子がない?」
俺の声が聞こえたのか「ごめんねぇ…。」と店員のおばちゃんが話しかけてきた。おばちゃんが言うには急な大口注文があってその用意の時に店主のじいさんが腰を痛めて動けなくなり半端な量しか店に並べられず、ケーキはそもそも無いうえに注文を間に合わせる為に店のクッキーやら他の焼き菓子をまわしてしまったらしい。
今日に限ってタイミングよくまぁそんなことが起きるものだと。ケガしたのは仕方ないとはいえ。みたらし団子とお饅頭と大福が少しある程度だ。これはさすがにまずい。可愛らしいって感じではない。お饅頭と『おまんぢう』のコラボでどうにかごまかすかと思ったが…
「あ、これは…?」
壁側にある袋物の菓子の間に和柄の可愛らしい小さい箱に入った金平糖を発見した。どうやらひな祭りの時の余り物のようでだがこれは…赤と白の2色入り。結緋さんの髪の色と同じ。これだ!
「ふむ。秋緋様にしては中々のチョイスですね、いいでしょう。許します。」
横から覗き込んできた茨木が言う。俺は何を許されたのだろう。
そんなことを俺が考えている間にさっさと会計を済ませ店を出る茨木。追うように店を出る俺。ありがとうぐらいないのかねこいつは。見つけたの俺なのに相変わらずの態度だ。
歩き出そうとしたときふと、背後に違和感を感じ動けなくなった。嫌な予感がする。前を歩く茨木が振り返り…
「【不視】と言うのは対象の存在を感じる感覚までも鈍らせるのですか?ただ単に秋緋様が不幸体質なのか。どちらにしろ面倒くさいですね。はぁ…食べられてしまいますよ?秋緋様。」
俺が食べられる?まさか…?
瞬間、茨木の右手から紫炎が上がり俺の真横を通り後ろに居たらしい何かを燃やしていた。俺は熱くない。妖怪やその類いにだけに届く炎らしい。ある特定の年齢の男子にはたまらない設定の力を持っているなこいつ。後ろを確認しようと振り向こうとしたが茨木に止められた。
「【不視】のせいで見方が変わってるのなら今は見ない方がよいでしょう。まぁあと数秒で燃え尽きますが。これも姫子様が悲しまない為にしたことですのでお気になさらず。」
茨木が俺を助けた?
「あ、ありがとう。」
俺がお礼言っちゃったよ…。
「店を出てすぐに結界を張ったので人間には見えていないでしょう」とパチンと指を鳴らす。空気が変わったと思ったらいつもの商店街のざわめきが戻っていた。
一般市民への配慮も忘れない、一応優秀な真砂の使用人ってことなのか。イケメンで格好よくて強くて主に忠実で。完璧かよ。茨城のこと少し見直したわ。
「あぁ、忘れていました。姫子様からの贈り物です。」
スッと。どこから出したのかわからないが金糸の刺繍が入った藍色の細長い巾着袋を渡してきた。ほのかに温かく感じるがこれは茨木の体温ではあるまいな?
「ご自宅まで送ろうと思いましたが。今日は必要以上に秋緋様をみてしまったことで限界がきました。姫子様に会って目の保養をしなければいけませんのでここで帰らさせていただきます。それの使い方は中に入っているメモをお読みください、それでは。」
「あっ!おい!待てよ!」
俺の話は聞く耳持たずなのか路地へ入るとスルッと消えてしまった。最後に毒はしっかり吐いてったな、追撃で「壊したりしたら秋緋様も壊しますから。」だって。こわっ。
っていうか瞬間移動みたいの使えるならさっきの雷神タッグ要らなくない?やっぱり見直すの止めておくか?
気を取り直して…とりあえずはこれ。この巾着袋の中身だ。真砂の家の血が何となくだが教えているみたいで、妖力というのか、霊力というのか。何かの力を感じる。茨木が【不視】の事を知っていたってことは結緋さんももちろん知っている。多分だけどその関係の物なのだろう。今すぐ開けてみたいところだけど茨木が渡してきたってところに何かあると踏んだ俺は念のため、家で開けることにした。
っと、神鬼の子らしい小鬼が転がってるからちゃんと回収、回収。さくっと帰ろう。イケメンを探す女子群を後目に俺は帰路につくことにした。
******
「ただいま戻りました、姫子様。お疲れでしょうがここで寝てしまうとお風邪を召しますよ?」
夕陽の明かりが差し込む薄暗い部屋の真ん中で結緋は横になっていた。返事はない。寄り添うように茨木が横に座り話しかける。
「秋緋様に無事お渡ししましたよ、大変喜んでいました。あとお土産にこちらを…」
「秋緋がワタシに?!」
先程の元気のなさはどこかにいったのか。ばっと飛び起きると茨木が持つ紙袋を奪い、すぐさま中身を取り出した。
「金平糖じゃな!箱も可愛い!わぁーい!」
秋緋の好感度があがってしまったことに対して不満だった茨木だが、それ以上に愛らしい結緋の姿に満足したようだった。
「尊いっ…!」
この日は結緋も茨木もぐっすりと寝れたらしい。
******
出会ってからまだ日は浅いが見た目幼女だけど姉からの贈り物。小さい頃会ったらしいが俺が物心つく前だからそれはそれだ。駄能力【不視】の俺を心配してくれているのだから嬉しくないわけではない、ないのだが…。
「だからってこれは…えぇ…?」
不安要素の茨木トラップは無かったからよかったものの…あまりの物に俺は困惑している。わかるだろうか?
瓶底メガネ。
しかも紐でかけるタイプ。昭和通り越して江戸感あるのよ。使い方のメモもみたけど雑すぎだろう『かけろ』って。いつも踊ってたり走ったりしてる小鬼もこれを見て笑い転げてるし、よっぽどだ。すごい力ありそうだけどかけるのには勇気がいるし。これかけて生活できるのかな?えぇー?マジでどうしたら…。
とりあえずわかったことは…結緋さんはセンスがないってこと、だな。
うん…。
この日俺は瓶底メガネをどう有効に使うか考え続けほとんど眠れず、翌日のアルバイトに支障を来すこととなったのだった。
そういう俺も一人暮らしな訳だから安いもの目当てでよく買い物に来る。何よりここの人たちは俺の顔見ても避けたりしないとてもいい人たちが集まってるから。が、今日はなんだ?ハートの視線が飛び交っている。とうとう俺の魅力に女性たちが…なんて自分で言うのも悲しくなるがそんな事あるわけがない。
この視線は俺の横を歩く茨木へ向けられてる。
こいつは顔だけはやたらにいいし、背も高い。さらに外面よくするから笑顔で愛想よく歩く。さらにさらに服装も執事の服だし目立つ。コスプレかっての!んで俺は洗濯物溜め込んでたせいもあるんだが、ずぶ濡れになった時の着替えがなく、壱弥がふざけて買ってきて封印していたおみやげ物の『おまんぢう』と書かれたTシャツを着て悪目立ちだ。
「どうしました秋緋様?何やら惨めそうですね?」
俺に向かってニヤリと笑う。
みなさーん!こいつはほんとはこういう奴なんですよー騙されないでー!って伝わるはずもなく。珍しくキャアキャアと黄色い声が響く商店街を俺たちは進んでいく。小鬼たちも鬼同士だから気が合うのか、今日は茨木の両肩に乗りこの状況を楽しんでいるようで決めポーズをとってアピールしている。普通の人には見えないけど。
「茨木、小鬼たち気にならないのか?お前なら振り払いそうなもんだけど。」
「失礼な事を言いますね。いくら私でも神鬼の子に手をあげたりしませんよ。秋緋様こそ溶かしたり冷凍したりとひどい事してたでしょう。」
はい、ごめんなさい。その件に関しては何も言えません。神様に近いってだけは知ってたけど一応茨木もそこはしっかり弁えてるんだな。
そんな話をしているうちに駅側の出入口付近にある和菓子屋へと着いた。和菓子屋だけどケーキもある。俺の知ってる近場の菓子店はここしかない、ないんです…。
そんな蔑んだ目で俺を見るな茨木。
ため息をついて嫌々店に入る茨木。
物色する茨木。
俺を見る茨木。
…
「姫子様に似合う可愛らしいお菓子、ですよ?選んでください秋緋様?」
わぁ、茨木の目に殺気がぁ。自分で選ぶのを投げて俺に無茶ぶりだぁ。この中から選べとぉ?ふっ、よく見ろ茨木!ここには洋菓子もあるんだぜ!しかも自分で選べる可愛いクッキーBOXがあるのを俺は思い出したのさ!今ね!
「ん…洋菓子がない?」
俺の声が聞こえたのか「ごめんねぇ…。」と店員のおばちゃんが話しかけてきた。おばちゃんが言うには急な大口注文があってその用意の時に店主のじいさんが腰を痛めて動けなくなり半端な量しか店に並べられず、ケーキはそもそも無いうえに注文を間に合わせる為に店のクッキーやら他の焼き菓子をまわしてしまったらしい。
今日に限ってタイミングよくまぁそんなことが起きるものだと。ケガしたのは仕方ないとはいえ。みたらし団子とお饅頭と大福が少しある程度だ。これはさすがにまずい。可愛らしいって感じではない。お饅頭と『おまんぢう』のコラボでどうにかごまかすかと思ったが…
「あ、これは…?」
壁側にある袋物の菓子の間に和柄の可愛らしい小さい箱に入った金平糖を発見した。どうやらひな祭りの時の余り物のようでだがこれは…赤と白の2色入り。結緋さんの髪の色と同じ。これだ!
「ふむ。秋緋様にしては中々のチョイスですね、いいでしょう。許します。」
横から覗き込んできた茨木が言う。俺は何を許されたのだろう。
そんなことを俺が考えている間にさっさと会計を済ませ店を出る茨木。追うように店を出る俺。ありがとうぐらいないのかねこいつは。見つけたの俺なのに相変わらずの態度だ。
歩き出そうとしたときふと、背後に違和感を感じ動けなくなった。嫌な予感がする。前を歩く茨木が振り返り…
「【不視】と言うのは対象の存在を感じる感覚までも鈍らせるのですか?ただ単に秋緋様が不幸体質なのか。どちらにしろ面倒くさいですね。はぁ…食べられてしまいますよ?秋緋様。」
俺が食べられる?まさか…?
瞬間、茨木の右手から紫炎が上がり俺の真横を通り後ろに居たらしい何かを燃やしていた。俺は熱くない。妖怪やその類いにだけに届く炎らしい。ある特定の年齢の男子にはたまらない設定の力を持っているなこいつ。後ろを確認しようと振り向こうとしたが茨木に止められた。
「【不視】のせいで見方が変わってるのなら今は見ない方がよいでしょう。まぁあと数秒で燃え尽きますが。これも姫子様が悲しまない為にしたことですのでお気になさらず。」
茨木が俺を助けた?
「あ、ありがとう。」
俺がお礼言っちゃったよ…。
「店を出てすぐに結界を張ったので人間には見えていないでしょう」とパチンと指を鳴らす。空気が変わったと思ったらいつもの商店街のざわめきが戻っていた。
一般市民への配慮も忘れない、一応優秀な真砂の使用人ってことなのか。イケメンで格好よくて強くて主に忠実で。完璧かよ。茨城のこと少し見直したわ。
「あぁ、忘れていました。姫子様からの贈り物です。」
スッと。どこから出したのかわからないが金糸の刺繍が入った藍色の細長い巾着袋を渡してきた。ほのかに温かく感じるがこれは茨木の体温ではあるまいな?
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「あっ!おい!待てよ!」
俺の話は聞く耳持たずなのか路地へ入るとスルッと消えてしまった。最後に毒はしっかり吐いてったな、追撃で「壊したりしたら秋緋様も壊しますから。」だって。こわっ。
っていうか瞬間移動みたいの使えるならさっきの雷神タッグ要らなくない?やっぱり見直すの止めておくか?
気を取り直して…とりあえずはこれ。この巾着袋の中身だ。真砂の家の血が何となくだが教えているみたいで、妖力というのか、霊力というのか。何かの力を感じる。茨木が【不視】の事を知っていたってことは結緋さんももちろん知っている。多分だけどその関係の物なのだろう。今すぐ開けてみたいところだけど茨木が渡してきたってところに何かあると踏んだ俺は念のため、家で開けることにした。
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秋緋の好感度があがってしまったことに対して不満だった茨木だが、それ以上に愛らしい結緋の姿に満足したようだった。
「尊いっ…!」
この日は結緋も茨木もぐっすりと寝れたらしい。
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