俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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修業?

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早朝4時、またしても新しい生活が始まる。新品の黒いスポーツウェアに着替え外に出て準備体操をする。日が出たばかりでまだ若干薄暗い。

親父と話をした翌日から修業の第一は体力作り!と、いうことで往復約10㎞の早朝ランニングを始めることになった。壱弥と一緒に。俺のテンションは上がるはずもなく。早起き生活になったのもあるが修業宣言したその日の放課後、親父がノリノリで商店街のスポーツ用品店でわざわざ高いブランド物のウェアやらランニングシューズやらを選んで俺のバイト代で買わされたのだ。ここはお父様が払ってくれるとこじゃないのだろうか?「ほー結構安いな」とか六桁いってるのにこの発言よ。真砂家の金銭感覚はおかしい。予定外の出費だ。

「おはよう秋緋。わっ、格好だけはいっちょまえだねぇ。」

隣の部屋から出てきた壱弥が微笑みながら言う。形から入るちょっと痛い人みたいに言うなっ!ただでさえ思い出して機嫌悪いのに!

「はいはい、気持ち落ち着かせて走らないと修業にならないよ。ルートがあるからしっかりついてきて覚えてね。」

壱弥いわく、地表へ流れでている気の流れを取り込みながらのランニングをする、ということらしい。故に、流れの悪いところと良いところがあるからルートを間違えないようにしなければならない、とのこと。意外としっかりしたことをしてるんだなと感心する。

登校時間がある為、早々に出発することにした。

「慣れてくるとね、気の取り込み方とか加減が出きるんだけど、とりあえず今日は普通に走る感じで大丈夫だよ。」

修業に関しては壱弥は先輩だ。ここは素直に聞いておくことにする。走りながら壱弥が話しかけてきた。

「ふふっ、らしくないね。いつもなら文句言うのに。何にしても僕は秋緋と修業できるのは嬉しいよ。」

こいつの柔らかい笑顔を見たのは久しぶりかもしれないな。そんなに嬉しいもんかな?あーまぁ、あの親父と沙織里とじゃ苦労してたんかもな。しばらく直線の車道脇を走っていたが、学校を過ぎた辺りで細い道に入っていった。こんな道あったんだなと、壱弥の後を追っていくが。待て待てここは。

「ふぅ…この先に神社があってそこで瞑想するんだよね。だけどこの辺りの地形、少しおかしくて正面の方の気の流れがよくないんだよ。ちょっと大変だけど頑張って着いてきてね。」

学校の裏手、少し行ったところの小高い丘の林の中に小さな神社があるのは知っている。が、これはもう道とかランニングとかじゃない。細い道の突き当たりの高い木のある家の木を登り、屋根に登って屋根づたいに神社のある方向へ。これは不法侵入ではなかろうか?「悪い気のせいでこの周辺は空き家が多いからそこの屋根だけをピンポイントだよっ!ほっ!」っと言いながら、軽快に渡っていく壱弥。俺も必死に追っていくが、何度も踏み外して落ちそうになった。気のコントロールをしながらこれは中々にハードだろ。

「あとはここを…あ、秋緋。ここは飛んでいかなきゃなんだけど、使役してる妖怪なんていないよね。」

必死こいて半分落ちた体を屋根の上まであげると、壱弥は息ひとつ乱すことなく立っていた。

「はぁはぁ…い、いるわけない…ゴホッゴホッ!いても…小鬼くらいなもんだ…ふぅ…はぁ…。」

「息上がりすぎでしょ…とりあえず鵺に頼むね。」

妖怪必要とか全然聞いてないし。こんなとこ通るとかも聞いてないから息上がるの仕方ないじゃん。親父も壱弥も説明足りなさすぎだろ。そうやってみんな俺に内緒でさっ!

「はいはい、ごめんねごめんねー。じゃ、鵺!お願い。」

また心の声読んだのかよ。適当にあやまりやがって。壱弥はポケットに入っていたあの、鵺の入っているボールペンを取り出しカチリと押す。この間と同じ様に俺の脇を風が通る。前と違うところはそれが猫ではなく、しっかりと鵺として見えることだ。

「秋緋殿、お久し振りにございます。今回はしっかりと姿が見えるようでござるな。」

「お、おう。鵺も元気そうだ…な?」

満足そうに俺に尻尾の蛇を絡ませ、鵺は笑ったような気がした。まぁ喋ってるのは尻尾の蛇なんだけども。またややこしい奴だな…。

「鵺、悪いんだけど秋緋をあそこの神社まで運んでもらえる?その後に僕もお願いね。」

「承知した。」

壱弥が指示を出すと、鵺は尻尾を使って俺の体を持ち上げ背中に乗せ、すぐさま飛び立った。

「ふっ…わっ?!すっげ…。」

「短い距離ではござるが落ちぬようしっかり掴まっていてくだされ、秋緋殿。」

鵺の一蹴りで先程いた屋根よりも高い高度に上がり、神社に向かって飛んでいる。うーん。こういう事が出来るのはある意味では良いことなのかなぁ。朝の風が当たるのが気持ちいい。朝日が眩しいなぁ…なんてボーッとしていたら着地の衝撃で掴んでいた手をうっかり離してしまい、勢いよく、社脇の草木の中までぶっ飛んだ。

「どぅわあっ!!」

「…あっ!秋緋殿ぉっ!」

俺の不注意であって鵺のせいではないよ…と言ったが、困った様子で右往左往する鵺。顔は恐いが、動きはちょっと可愛い。俺は大丈夫だと逆さまのまま鵺に手を降り、早く壱弥のところへ行くように更に言った。申し訳なさそうに飛び立つ鵺を見送ってから俺は体を起こす。

「はぁ…体痛い…。」

体についたホコリやら葉っぱやらを払いながら自身を見渡す。新品のウェアはすでにボロボロ…ボロボロ。

「あーちゃん結構豪快だねっ!」

沙織里居ったんかい!助けに来てくれてもよかったんですけど…あぁ、お茶してたのね。騒がしくしてごめんなさい。

「壱弥くんもすぐ来るのかな?とりあえずお茶のんで落ち着こうっ!」

朝から元気で何より…というかちょっと薄着じゃございませんか?沙織里もランニング直後だったようで「ふーあついあついー。」と言いながら、サイズの関係で伸びきった可愛いくまさんの顔が入ったタンクトップの胸元をパフパフと動かし中へ風を送っているようだ。ゴクリ…

「煩悩も瞑想で飛ばさないとね?秋緋。」

なんだか半ギレの壱弥とたんこぶをつけた鵺が背後に立っていた。いや別に変なこととか考えてないぞ!?ほんとだぞ!見てただけじゃない?!っと俺の話は全く聞いてもらえず。いそいそと壱弥と沙織里は持ってきていたマットの上で座禅を組み、俺は壱弥に言われるがまま砂利の上で座禅を組んだ。
…そのマットどこから出したの。その説明も無いし、沙織里も何も言わないとか…まぁ、沙織里は何も考えてないだけだろうが。

ほんとに修業させてもらってるのか俺。

全員無言のまま、俺は一時間砂利が足や尻に食い込む痛みに耐えるのが精一杯で瞑想らしい瞑想なんてできなかった。
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