俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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小鬼ダンシング

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なんだ夢か…で済ましたいところがそうじゃないらしい。夜中の2時頃、はっと目が覚めた。俺はちゃんと布団にはいって寝ており、部屋の電気は消され、ふたりの小鬼も就寝していた。まぁ、俺は就寝していたわけではなく気絶してたわけなのだが。

「おい、起きろ!」

よだれをたらして爆睡している小鬼を無理矢理起こし、その場で正座をさせる。

「ふぁ…なんですあきひさん~…眠いですよ~…。」

「…ぷひー。」

あぁ俺だって寝たいけどこのモヤモヤをどうにかせんと寝れないわ!どうしてそうなったのかを!

「何でっと言われても。」

「僕たちはこの為にここに来たのですしー。」

この為?お世話係?ってことはこいつらは真砂の?

「はいですー。こうしろう様と、とー様に言われましたーあきひさんに憑けとー。」

あ、こうしろうってのは親父の名前だ。今更だが真砂紅司朗まさがこうしろうってのが本名。だからルージュ。うん。ルージュ。

「この姿なのはこうしろうの許可がおりたからだ。今までは行動にも能力にも制限がかかってたからな。修業を始めた朝からこうだったが、あきひは気付かなかったな。」

行動は大分自由だった気もする。真砂家の血筋の人間には【鬼】が憑くらしい。結緋さんにも使用人という形ではあるが茨木が付いてるのと一緒のことだそうだ。気付かない俺も俺だが、だからってもう少しまともな出会い方もあっただろうに。分かりづらいし!

「能力の制限は大変だったですー…祈祷の踊りしないと浄化もできないですしー。」

うんうんと、お互いに顔を見合わせて頷いている。あのいつも踊ってたのはそういう意味か?踊りはともかくキスする意味はあったのか?と聞いたら「それは趣味だ。」って真顔で言うかね?危ない奴じゃん。でも、まぁ、こいつらを送り込んで来たってことは何だかんだ心配してくれてたわけか?

「大事な跡取りさんですからねー守らないといけないですです。」

あー…またそれか。

「いや、俺は跡取りにはならないつもりだ。だから家から離れたんだ。」

ビャーっという変な声となんとも言えない顔をするふたり。今にも泣きそうだ、可哀想に…。

「修業をはじめたのだろ?」

それは事実だが、気のコントロールだけの話。

「でもでも!【継承の赤玉】預かったですよね?!」

白い玉は貰ったけど赤い玉は貰ってない。待てよ?なんか血をどうのこうのと言ってたな?また大事な説明なしにやらそうとしたなあの親父…!

「…俺は!自分のやりたい道をいくんだ!しかもなんだ!こんな騙されたみたいに…なってたまるか!」

俺は怒り、立ち上がり、鞄に入っていた札に包まれた玉を掴むと、窓を開けて投げ捨てようとした。

それを見て、慌てて俺の腕を掴み、小鬼が止める。

「ごめんなさいです、ごめんなさいですー!それは大事なものなのですー!」

「すまない、こうしろうもそんなつもりはないはずなんだ。確かに少し言葉が足りない人間だがお前のことは大事に思っている。俺達が来たのも―。」

何でこいつらが謝るんだろうか。ふたりの顔を見たら何故か怒りが収まっていく。これも浄化の力なのかな。

「わるい。うまくいかない自分の能力とか、修業とか、色々あったからいつもみたいに冷静じゃなかった。」

振り上げた腕をおろすと、小鬼はホッとした様子だ。普段通りにツッコむだけじゃなく行動してしまうとは。最近はそんなことなかったんだが。中学の時はひどかったけども…ゴニョゴニョ。

あの…っとみーが話しかけてきた。

「僕たちじゃまですか…?めいわく…ぐすん。」

そんな顔で…

「こうしろうに言ってどうにかしてもらおう。気のコントロールを始めたなら俺達は必要なくなる。あきひが嫌なら無理に一緒にいることはない。」

そんな顔で見るんじゃない。まるで虐待でもしてしまってる気分になるわ。こいつらが悪い訳じゃないのはわかってはいるんだけど。

「あー…邪魔とかじゃなくて…だな…。」

どうした俺。何迷ってるんだ俺。跡取りから離れられる第一歩になる、こいつらが出ていけば。

「…跡取り云々は置いといて…なら…居ても。」

俺が言い終わる前に踊り出す小鬼たち。「跡取りは内緒のしーっ!ですです!」と真っ先に跡取りの話をしたみーが喜びながら口走る。俺は負けてしまった。

「あ!僕たち名前ちゃんとあるですよ!僕は砂羅さらです!」

「俺は砂鬼さき。改めてよろしく。」

あぁ、うん。もうなんでもよいですよ…まぁ、めんどいから今まで通りに呼ばせていただきますけど!

あと数時間後に始まる朝のランニングのことを考え、とりあえず寝ることにした。白い玉の件は学校で親父に問いただせばいい。

…課題プリントが白紙だったがそんなことは忘れていた。

******


隣の部屋の明かりが消えたのを確認し、黒い影が動く。

「どうにかまとまったのかな?ごめんね鵺、こんな遅くに。」

「壱弥殿…。」

「…秋緋はさ、元々【妖怪】が嫌いとか苦手な訳じゃないんだよね。」

「それは拙者も十分承知しているでござる。」

「うん、優しいからね…あの事、話してはなかったよね?」

「恐らくあの小鬼は知らない様子。大丈夫にござろう。」

どうやら壱弥は、鵺を使って秋緋と小鬼の会話を盗み聞きしていたらしい。

「そっか。知らないから憑かせたのかな?跡取りとかトリガーになりかねないから。それにしても…師匠も意地悪いよね、毎回ちゃんと話しないから秋緋はいつも困ってる、ふふふ。」

小声で笑う壱弥を心配した様子で見つめる鵺。

「しかし壱弥殿…このような…。」

「…ん。仕方ないよ、これは僕が望んでやってることだから。」

鵺が何か言いたそうにしていたが、カチリといつもの音をさせたボールペンに戻っていった。

「…まだもう少し。もう少しだけ待ってて…そしたら…。」

壱弥は目をつむり、改めて眠りにはいる。

「おやすみ、鵺…秋緋。」

5月の朝、空はもう白んでいた。
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