俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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親睦キャンプin裏山③

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移動中の車内は酷いものだった。
なんと、先に迎えに行っていたのか小鬼のふたりが既にちょこんと座っていたのである。結緋さんを見るとふたりは飛びついてわいわいきゃあきゃあと騒ぎだし、彼女も彼女で久しぶりなのか同じく騒ぎだした。なぜか親父もその輪に加わり、決して狭くはないはずの車内の圧迫感ったらない。茨木は予想していたのか素早く助手席に座って回避していた。使用人なんだから替われよって思う。

時より投げ掛けられる俺への会話のボールを軽く受け流しつつ、街が夕焼けに染まる頃、マンションに到着した。

いい仕事をするためにはいい生活環境が必要だって親父は常に言っていて、住居にかかる金に糸目をつけない。短期遠征でも高級ホテルか旅館の一番高い部屋をとり、可能であれば貸し切りにするらしい。俺としては自分のテリトリー分あればいいと思ってるからこのだだっ広い部屋がいい環境だとはあまりおもえなかったが。ひとついいところを言えばベランダからの眺めだろうか。方角は俺の通う学校を向いていて遠目にはなるが周辺が確実に見渡せる。街を囲うように山が連なり、そこを通り道にして風が抜けけ、夕焼けに染まるその光景は中々お目にかかれないだろう。

「ほぇー綺麗じゃのう。」

ひょっこりと俺の横から結緋さんが現れ、ベランダの手すりから体をのりだし同じ景色を眺め始めた。風に揺れる結緋さんの白い髪は夕焼け色にキラキラと輝く。毛先の赤色が全体に広がって見えるようで…まるでそれは。

「…秋緋、ちぃと目を閉じてくれんかの?」

結緋さんを見て何かにダブって見えた気がしたが、意味ありげに話し掛けてきたせいでそれが吹っ飛んだ。俺は「ふぇ?!」と変な声で返事をしてしまったが、結緋さんは真剣に見つめてくるのでなすがままに目を閉じてしまった。こんなロマンチックな景色を見て目を閉じてなんて言われたらあれしかない。だけど俺たちは家族だ、こんなことはいけない!だけど逆らえない!仕方ない!

「うむ、終わった。目を開けても良いぞ。」

「え…おわ?え?」

両目にかかっていた重さ。あのメガネの重さが消え、じんわりとした温かさが少し残っている感じ。結緋さんの手に返ったメガネはサラサラと砂の粒になり風に乗って消えていった。

「【不視】の応急処置として秋緋の目にかけていたまじないを解いたのじゃ。最近の修行で気の流れに問題がなくなっているようじゃしの。もう自分でできるのじゃろう?」

「そ、そうなのか?」

てっきりそういう展開になるのかなとか思ってしまった自分が恥ずかしい。自分では分からないが体内の気の巡りが安定したらしい。親父からもそのうち呪いは必要無くなると言われてたけど、結緋さん直々に許可が下りたなら問題ないだろう。

「でも俺は…俺の…俺の心の状態が大きくかかわるんじゃ?」

壱弥も言っていたが俺が『否定している』から残念な【不視】が発現してしまったのだ。今だって俺は…。

「大丈夫じゃよ、秋緋は強い子じゃ。1度体内の気の巡りを会得してしまえばそんなことにはならない…たぶんじゃけど。」

最後の一言が気になりますが?
どうやら結緋さんは俺のことをとても出来る子だと思っているらしい。確かに修行は通常より早く慣れて親父や壱弥からもお墨付きをもらってはいる。でもそれはあの変な…あの不思議なメガネにかけられた結緋さんの呪いのお陰もあって順調だったわけで、急にそれがなくなるというのは…不安になる。

「でも、せっかく結緋さんがくれたのにこんなにすぐにとらなくても。」

「ふふ、嬉しいことを言ってくれるのう!…でもの、私は秋緋が成長してくれる方が嬉しいから、いいんじゃよ。」

照れ臭そうに可愛らしく笑う結緋さんに俺はありがとうとしか言えなかった。何でだろうな。今に始まったことではないが俺は物事を受け入れやすいタイプらしい。言い方を変えれば諦めている、冷めている、とも取れる。なぜ今思い出したように自覚したのだろう?さっきブレるように見えた何かが俺に、俺の中の何かに触った?
なぜそう思うか?それは、見えた何かは夢に何度か出てきている。親父が俺に何かしようとした夢の中の話。いくらなんでもあんな顔をして俺に禁じ手だろうことをしようとした親父の様子を見れば、その夢がただの夢じゃないんだとわかる。

結緋さんは知っているんだろうか?教えてくれるだろうか?

「結緋さん、あの時…。」

「はーいはい!風邪を引いてしまいますよ姫子様!さ、中に入りましょうね!」

ほんとにどうしていつも大事な事を聞きたいときにタイミングよく邪魔が入るんだよ。マジで呪われてるのか?確かに夏とはいえマンションの最上階に吹く風は肌寒いし結緋さんが風邪を引いたら困るけど。

「秋緋様も、姫子様に変なことしようとしてないでさっさと入ってください、夕食ですよ。」

と、言ってピシャッとベランダへのガラス戸を閉じるんじゃないよ茨木。鍵をかけないだけ優しいのか?
部屋にはいるとリビングのテーブルに豪華な食事が用意されていた。この短時間で用意するとは人間技ではないな。

「あきひさん!ほら!唐揚げもたくさんですですー!」

みーが両手で大きな皿に山盛りに盛られた唐揚げを得意気に見せてくる。そういえばみーの人型前って確か。皆に嬉しそうに唐揚げを振る舞うみーを見ると複雑な気持ちになった。

「…鳥、か。」

「これは鶏、だ。」

ちーが何となく察したのかフォロー?をしてくれた。それでも…みーには申し訳なかったがこの日の唐揚げには手をつけなかった。

夕食後―。
俺は帰るつもりでいたのだが、結緋さんが寂しがり、小鬼も寂しがり、酔った親父に絡まれて、戌井はどっかに消えてて。帰るすべを無くした。茨木は別に俺にしてくれることはないので特に気にしなかった。とりあえず風呂に入って落ち着こうと風呂場に行って扉を開けたら驚いた。
ジャグジー付きの丸いでかい浴槽で壁はガラス張り。外が丸見えだ。俺も丸見えだがこの高さでは見えるやつはいない。変な開放感を感じて浴槽の真ん中で仁王立ちをして外の夜景を眺めてみた。

「…何してんだろう俺。」

虚しさを感じつつ洗うところ全部洗ってさっさと風呂を出た。

「お風呂すごいでしたか?あきひさん!」

風呂上がりの俺にソファーに座ってテレビを見ていたみーが気付いて声をかけてくれた。お泊まりになったからかご機嫌である。
楽しむことは出来なかったものの「すごかったよ。」と返事をしながら隣に座って一緒にテレビを見ることにした。
やっていたのは動物の特集を組んでいるバラエティ番組だった。ちょうど『我が家の可愛いペット映像』とかいうところで猫が沢山出ている。

「結緋さんは?」

「ひー様は別の部屋でお風呂のようですです!」

いったいこの家にはいくつ風呂があるんだ。別の部屋にもシャワーだけだがあるらしいし。ホテルにでもするつもりか?
テレビをボーッと眺めつつ、みーの頭をモシャモシャと触りながらふとこんなことを思ってしまった。

『こいつらが猫だったらなぁ…。』

テレビから流れる猫の声とナレーション。うとうとしながら薄目に見える色んな猫たち。とても癒されるひととき。そのまま俺はソファーで寝落ちしてしまった。
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