俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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舞い降りた…(後編)

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先に飛び出した霞香姫の姿はすでに見えなくなっていた。沙織里を探すにしても…あぁ、購買に行ったんだった。とりあえずその周辺の人に聞いてみるか。

屋上から購買までは少し距離がある。この学校の解放されている屋上は西練。購買があるのは東練1階の食堂の横だ。病み上がりといえば病み上がりだ、この距離を走るのは中々つらいわ。途中隣のクラスの女の先生が「こら!廊下を走るんじゃ…きをつけなさい!」と、注意してるのかびびってるのかよくわからんが叫ばれた。他の生徒もなんか避けてる。初日の再来かとでも思われてるのかね。

「…え、天使ちゃ、ふぐっぉ!?…古泉さん?確かパンをいくつか買ってたと…。」

「なんかぁ~帽子かぶった男子に話しかけられててぇ~中庭の方に出てったのみたよぉ~?」

「ねー!」とハモって。たまたま近くにいた手頃なブサイクカップルに話しかけたら目撃していたらしく教えてくれた。若干殴りたかったが我慢した。べつに羨ましいとかじゃないから!

俺のクラスの中に帽子をかぶってる奴は一人しかいない。俺みたいにある意味で目立つから覚えていた。名前は確か…蔵井丈二くらいじょうじ。英語の授業で自己紹介させられた時は申し訳なかったが笑ってしまった。俺だけでなかったが。

それより、中庭に来たのはいいが…ああいうタイプの男子だから目立つところには行かないだろうな。校舎の裏側とかか?あまり目立たないところってぇと…こっちか。

生徒たちの憩いの場である中庭から食堂の裏、搬入口みたいなところかな?そこへ抜ける通り道がある。朝以外は職員も滅多に行かないし、食堂のおばちゃんは今忙しい。生徒が行くことは先ず無いところだ。勘がいいぜ、俺。なるべく怪しまれないように近づいていく。朝のあの視線からしてきっと沙織里に手を出そうとしているに違いない、危険だ。…無事でいてくれ!

『…遅かったな、人の子。』

少し暗がりになっている通り道へ入ると俺の勘は当たっていた。沙織里は眩い光りの後光を差し、足元には不様に倒れている蔵井。遅かったー!!すまない蔵井っ!俺がもっと早く!!

「大丈夫か?!」

『愚かな…我がいるのだからあたりまえであろう。』

「お前じゃないわっ!蔵井!あぁ、寝てるだけか。」

沙織里から差していた光が消え、そこにいるのは【天使】。天使ちゃんの【天使】です。まさかとは思うが沙織里には【天使】が憑いている。姿を現したそいつは昔見た時よりグレードアップしてる気がする。

「あれれ?あーちゃん?それにミカちゃんも?ひぇー?!これ蔵井君?なになになにー??なんでー?!」

これ呼ばわりとは哀れなり蔵井。なにも伝えることができなかったか。ミカちゃんと呼ばれた【天使】が何らかの力を使って干渉している時沙織里の意識は無くなっている。沙織里の意思と関係なく力を使うらしくはた迷惑な【天使】だ。

『…人の子、今、我を愚弄したか?ん?』

「し、してないわ!いいから状況説明しろよ!沙織里が困ってるだろ!」

危うく俺まで昇天させられるところだった。

『みての通りなのだが?』

「…詳しく、だ!」

『ふむ。こいつが我らの愛し子に無理矢理迫ってきたのだ。可哀想に。我らが愛し子は怯え、間にはいった妖怪も役に立たず…仕方なく我が手を下すしかないと判断したのだ。しかしクラスメイトということを考慮して眠らせ、記憶を消すだけに止めた。というところだ。 』

「ミカちゃん…よくわからないけど助けてくれたのはありがとうだけど、かおりちゃんは役立たずじゃないよ!」

怒るところは間違ってないとは思うけどもう少し蔵井のこと気にしてやってくれ。少し事の前後の記憶を消されてるようだが、沙織里は心配無いとして蔵井をどうするかだ。どこまで記憶を消したのだろうか。ヨダレを垂らして気持ち良さそうに寝ている。

『今頃母に抱かれている夢を見ているだろう。人の子、いや、秋緋よ。次は無いぞ、約束を守らないのであれば愛し子は我々のものになる。忘れたのではあるまいな?』

睨んでくる【天使】。えー…あれ約束っていうか脅迫だったじゃん。有効なのかよ。

本当に小さい時だ。
沙織里と遊んでいた時にこいつが現れて『愛し子が唯一慕う事が許された人の子よ。愛し子を守り、連れ添うことを約束せよ。』って槍突き立ててきたんじゃん。「はい」って言うしかないじゃん。小さかったから慕うとかわからなかったし…。

『愛し子はまだ曖昧なようだが…秋緋、お前は…』

「それ以上言うな!わかったよ!守るよ!」

『わかればいい』と【天使】は笑って消えた。

沙織里は俺の顔を覗きこみ「真っ赤だね、どうしたの?まだ痛い?」と。表に出したくなかったのに【天使】の野郎。約束といいながら面白がっている、神の言葉といいながら遊んでるのだ。まぁ、まんまと踊らされて意識してるけどな!

「あーちゃん、蔵井くんこのままだと可哀想だよね。暖かいところに移動させてあげようっ!」

…のんきな奴。確かにこのままはまずいしな、仕方ないから中庭のベンチまで運んでやるとするか。

「いいなー私もおんぶしてほしいなっ、昔みたいに♪」

「…お断りだ。」

蔵井を日向に移して俺と沙織里は教室へ戻ることにした。「お昼寝の邪魔したらダメだしね!」って放置プレイをしてもらえたぞ、喜べ蔵井!覚えてないだろうけどな!



*****


「やっぱり沙織里さんが適任だったみたいだね。復活おめでとう秋緋。」

壱弥に誉められてどや顔で鼻をならす沙織里。元気になった俺をみてクラスメイトたちはまたざわつく。何されたんだろうとモヤモヤしてるんだろうな。

「あーちゃん、また辛くなったらしてあげるから、ね♪」

男子を中心にざわつく。思春期の男子には刺激が強い発言だったようだ。しかもみんなの「天使ちゃん」からでたからな。うん。沙織里、もうなにもしゃべらないでお願い。

午後の授業の予鈴が鳴る。蔵井は戻ってきていない。誰も気にしていない。蔵井…。

隣の席の壱弥が小さい声で話しかけてきた。

「ねぇ、小鬼たち、どうしたの?」

はっとした…言われて気づいた。土曜日のバイト終わりから…いない。どおりで静かなわけだ、姉事件の衝撃で気にしてられなかった。

「どっかに置いてきた、の、かな?」

壱弥はため息をついて言う。

「死ぬってのは大袈裟だったけど、小鬼のおかげで体調悪くならなかったんだよ、本当あほなの?秋緋。嫌なのわかるけど自覚して。」

…小鬼ってそんな影響力あったのかよ。

このあとバイト先の冷凍庫で氷漬けになっていたのを無事保護した。見つからないまま定期的に沙織里に治してもらうのも悪くなかったのにと少し考えたのは…内緒だ。
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