俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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輝く太陽、白い砂浜、青い海…鉄板だ。
そして俺の前には、ソースの香り、コテで舞い上げる麺、そり返る香ばしいイカ、鉄板だ。
その熱気の向こうに見えるお客様。俺は蜃気楼であれと願ったが。

「あれ…秋緋?ここでバイトなの?あ、焼きそばと、かき氷のいちごで3つずつ貰える?」

壱弥がいるんだなぁ…。

「あれ?はこっちのセリフだわ。なぁんでここにいんだよ!しかも水着でよ。遊んでるんか?!いらっしゃいませ!!」

驚いたとてバイトは真面目に。先輩に迷惑はかけれないからな。
出来立ての焼きそばを容器に詰め、かき氷を手際よく作る。家じゃ小鬼に家事を任せてはいるが自分で作らないことはない。ひとりで暮らすだろうを想定して料理の基本ぐらいは叩き込んであるからな。

「はい、お待ちどーさん。」

「ありがとう、これお会計ね。そうだ秋緋。休憩とれたらあそこの岩場近くに僕達いるから、よかったら顔だしてよ。」

「…気が向いたらな!あーっした!」

去り際の壱弥のあの笑顔はとても怪しい。
いくら俺が妖怪達が見えて、関わりがあることを受け入れて行こうと思い始めたとしても根本は普通の生活を求めていくことには変わりはない。3人分買っていったってことは親父と沙織里もいるわけだろ?そんなところにわざわ…沙織里…水着…うん…悪くない…。

「うわーやらしい顔しとるやん秋くん。はよ手ぇ動かしーや。」

おだまりなさい東雲!お前も俺にかまってないで接客しとけ!

「俺は呼び込みも接客もしっかりやっとるでぇ?ほれみてみぃ?THE満席!流石俺、有能やろ~?」

うわ、ホントだ。忙しくなるの俺じゃん。
海外のリゾート感のある白い建物。中にはバーカウンター、オープンテラスもある。若者向けに作られただろうオシャレな造り。ここはヤンキー先輩が言っていた海の家、鮫屋さめやだ。
先輩のお兄さんが経営する海の家で、夏場はよくここで手伝いをするんだそうだ。今年は例年とは違うコンセプトで海の家をやり始めたらしく、7月のオープンから入客が多く、夏休み中はさらに増えると見込んで先輩だけじゃ手が足りないだろうと、俺にも声がかかったわけだ。

人手不足ってことだから東雲にも完全な人化をしてもらって手伝ってもらっているんだが余計なことだったかもしれない。普段厚着して、帽子も深く被ってる奴なんだが流石にここじゃそんな格好はできない。
薄い色素のさらさらの金髪に、鍛えられ引き締まった体。脱いだら惚れるは嘘ではなかったわけだ。
顔も茨木ほどじゃないが整ってる。加えてコミュ力もある。そんなのが接客担当になったらまぁすごい。女子たちが。想定外の入客に繋がってしまった。

「真砂くん、彼凄いね。一緒に来てくれてありがとう。こっち手伝うよ。」

オーダーが次々に入り、調理場がどんどん慌ただしくなって来て手が回らなくなりそうなところに先輩が来てくれた。優しさの塊である。
俺が焼きそばやイカ焼きを作り、先輩が鉄板以外のメニューも含めて盛り付けとテーブルごとに振り分けて指示を出し、東雲含めた数人のバイトの子が配膳していく。完璧な連携である。
確かに忙しかったが、あっという間な気もした。いつもと違った環境、ここが海の家だってこともあってか、楽しい、が上回っていたのかもな。

「おつかれ秋くん!水分しっかりとらなあかんで!ほいっ!」

「さんきゅ東雲!ぷはぁ…少し落ち着いたな。」

「おつかれ、真砂くん東雲さん。休憩入ってね。戻ってきたら夜の準備あるからよろしくね。」

ひと仕事終えたあと、冷えた水で体の火照りと喉を潤し休憩に入る。普通に従業員スペースで休むのもありなんだが。飲み物の差し入れくらいしてやるかと先輩に一言伝えて岩場の方に足を向ける。

壱弥が言ってる岩場ってのはこの海水浴場の目玉で、巷で噂のパワースポット。砂浜にある岩場から海へ伸び、岩礁っていうのかな?それが海の中に大きく佇む細長いアーチ状になった岩に続いている場所だ。夜に月が登り、いつもは岩のてっぺんにまで昇るとロウソクのようになる。海の満ち引きと月の位置の条件が合う日にはアーチの中に満月が収まりまるで月へと続く道ができ、幻想的な光景を見せてくれる所だ。

「こんな所にいるってことは…修行だけじゃなさそうだよなぁ。」

「なんやっけ?ムーンロード?恋人たちがそこに立ち会うとができたら一生幸せにっちゅう…?ベタやなぁ。」

夏の海、水着姿の彼女、幻想的な場所って合わさればだいたいそうだっての。まぁ、気になるのはそれだけじゃなくてな?この辺り、霊力の流れが変なんだよなぁ。

「お?秋くん?気づいとったんかいな。一皮むけた男はちゃうなぁーひゃひゃひゃひゃ!」

変な笑い方すんなっつの!一皮むけたってのは力の安定のことだ。夜兄と入れ代わりした時の反動と、俺の記憶が戻ったこと、心の迷い…みたいのがスッキリしたからだと思う。東雲のコントロールもお手の物だよ、お陰様で。

「あ!あーちゃんだぁ!ここだよぉ~!」

天使…天女かぁ…?!白と薄いピンクのビキニとはわかってらっしゃる。あー!そんなに跳ねたらダメだぞ沙織里さん?こぼれちゃ…げふんげふん!ふぅ…ありがとう先輩、ここに呼んでくれて。俺はこのまま熱中症で倒れても、溺れて気を失っても後悔はしない。

「なにバカなこと考えてるんだか。とりあえずバイトお疲れ様。」

「秋くんむっつりやねん…知っとると思うけど。」

読まれることは想定済みよ…俺は強くなったのだ。この程度屁でもないわ。

「あら!会いに来てくれたのねぇ?うれしーじゃないの!」

ゲエェェェ!
言葉に表したくもないが…ルージュの名のごとく赤い水着とパレオを纏い姿を表したクリーチャー。岩場の上でセクシーにくつろいでいた。修行だからなのか、仕事だからなのか。女装というかもうこれはひどいコスプレだろう。

「秋くん、俺の記憶消してくれへんかな。」

「無理だ、受け入れろ。これが俺の親父だ。」

さっきまで女子に囲まれてた東雲には刺激が強かろう、こんなにセクシーなのが出てきちゃな。諦めろ。

「あーちゃんの作った焼きそば美味しかったよ~!帰ったらまた食べたいっ!」

「確かに。秋緋、料理の才能あるんじゃない?」

珍しく褒めるじゃないか君たち。そんな褒めてもご飯しか出ないぞ?ふふん。
そんな話もそこそこに。壱弥と沙織里は素潜りに行った。遠目から見れば海で遊んでるだけには見えるが、体力つけるとか肺活量鍛えるとかそういうことらしい。運動部みたいだな。

さて、持ってきたスポドリを親父とふたり飲みながら、ここ居いる理由を聞いてみる。

「もちろん修行よ?私は夜にお仕事あるけどねん?」

両方かよ。何かあるだろうとは思ってたけどさ。だって…。

「秋緋もわかるでしょ?ここ、今日ね、ムーンロードが開かれる日なのよ。素敵よねぇ?」

「だからこっちに流れてるんだな…ってその目はなんだよ、手伝わねぇぞ…!」

「チッ!」

舌打ちデカイなおい。
親父も俺の力が安定したのをわかってる故になにかしら一緒にやりたい雰囲気だしてる。そういうのはやらないって言ったし、それに俺は先輩の仕事の手伝いしに来てて夜も忙しいの!

「あ、秋くんそろそろ戻らな!時間時間!」

思いの外ゆっくりしてしまったらしい、東雲がしっかりしててくれて助かる。急いで戻らないと。

「夜、もし暇になっちゃったらぁ、ここで楽しい事があるから来てもいいわよぉー?」

「しらん!じゃあな!ケガすんなよな!」

親父の楽しい事なんて信用できるか!絶対に行かない!
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