俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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転校生と危険な社会見学?④

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天気は晴れ、雲一つない晴天。夏と秋の切り替わり、ちょうどいい季節とはこのことを言うのだろう、心地の良い朝だ。
時間は午前7時半、駅前のバスターミナルに俺たちは集まっていた。

普段の水瀬駅のバスターミナルは、夜行バスの立ち寄りと、町内バスが時間で回ってくるくらいで、今日の様に、学生が一挙に集まることはなかなか無い。それでも朝の通勤通学ラッシュは一応あって混雑はしている。学校側もそれを考慮して、ほとんどのバスは朝6時までには出発しているが、どうしても、俺たちのバスは目的地の関係もあって最後の出発になった。

ひとりひとりの荷物を乗務員に渡し、順番にバスへ乗り込み、1泊2日の社会見学旅行のスタートだ。

珠ちゃん先生の受け持つ【特選】のクラスは先生狙いのミーハーなものもいれば真面目な奴もしたり様々。親父のクラスほど特殊な奴はいないけどな。

「ちょっと秋緋、失礼なこと考えないでよね。」

「うっさい、事実だろが。」

沙織里はいない。実家に帰るといったあの日から2週間、一度もこっちに戻ってこず…連絡はとれていたものの「大丈夫だよーこっちでまってる!」だけで…なにかあったわけじゃないだろうけど、心配はしてる。

「入学当初は僕らの顔みていやいやしてたのに、今じゃ寂しがるほどになってるなんて、ねぇ?」

「もっと甘えていいのよ真砂くん?」

寂しいのは沙織里の顔を見れないことだけだ!野郎ふたりはどうでもいいんだ!当然のように腕に絡まってくるんじゃないルージュめ!さっさと先生の仕事しろ!

腕を振り払って、窓の外の景色に視線を移す。クネクネしてるルージュは無視だ、無視。

出発して30分。
高速道路に乗って、どんどん水瀬から遠ざかっていく。学校の授業とは言え、地元にこれから帰るっていうのは、妙な気分だ。入学してから一度も帰っていない…わけではない。幽霊状態で一度お邪魔はしている。正式な帰宅ではないけど…結構デカい口叩いて出て行った手前恥ずかしさがある。…まぁ実家に行かなければいいだけだし…しっかり学校の授業としてこの社会見学を無事終わらせればいいだけ。

絢倉千樹の件がなければ。

保健室で親父たちと転校生の対応をあの後話し合って、俺に防呪を教える必要がなくなったことと、夜兄の言っていた2週間程度の期限が社会見学当日に当たること。幸いあの後から直接的な俺への襲撃は止んでいて、残り3つの秘術の発動はされていないみたいだ。絢峰瑠鬼がなにか細工をしたのか、単純に縛りの発動条件に至っていないだけなのかわからないが、一番自由に接近することができる今日が、絢倉千樹を助け出す一番の機会、となった。

「はぁ~い!みなさあぁん!今日は一緒に見学よろしくねぇ!」

甲高い声色でマイクを使って話し出したルージュ。密閉空間で逃げ場のない中、朝から食らわされるルージュの色香に、見学が始まる前にもかかわらず、皆、2日間山奥で遭難した後のような疲弊した顔になっている。3秒前の笑顔を返してやってくれ。

それでも、一応先生として、この後始まる見学のスケジュールを伝える。

1日目
10時      聖ファンテーヌ教会着
10時15分      教会内見学
12時         昼食
13時15分       座学
17時-     集合・ホテルへ移動
18時30分-      夕食
20時-20時半   オリエンテーション
21時         消灯

2日目
8時       起床・朝食
9時    聖ファンテーヌ教会へ移動
10時     教会内見学(自由)
12時        昼食
13時    水瀬駅へ移動開始
15時    水瀬駅着、解散

と、言う流れ。
普通の学生であれば、本当に、施設見学をして、歴史や言語に触れて充実した見学をして終了する内容だろう。だが、俺たちの【特選】は、そこに加えてやることがある。まぁそんなことはここでは言わないけどな。

スケジュール確認をした生徒たちはワクワクした表情に変わって、談笑しはじめる。穏やかに、楽しい移動時間。

「僕らにはスケジュール外の特別授業もあるからね、がんばろうね、秋緋」

「まぁそうだけど…そこだけに力入れるのは学生として…」

「…見学レポートは多少適当でも、師匠が担任だから、特別授業の方の成果の方が大事になるんじゃない?」

俺は、学生として!この2日間を評価してもらいたいんだって!楽しそうな笑い声が響くバスの車内、車窓から見えるトンネルのオレンジ色の明かりを数えながら俺はため息をついた。

数時間後―。
羊を数えてしまったように、あのまま眠りに落ちた俺。
高速道路を降りた後、教会までの道のりできれいな景色が拝める道があるんだが、すっかり寝過ごして見れずじまい。結構好きな景色だったから、ちょっと残念。

「はーい!皆さん!こちらに集合してくださいね~手荷物だけ忘れずに持ってくるのよ~!」

癒される珠ちゃん先生の声。生徒たちはちゃんと言うことに従って集合し、注意事項を聞いている。

教会は小高い丘の上に建っている。今集まっているのはその下にある公園の広場だ。天使と女神を象った噴水が目を引く、聖ファンテーヌ教会が管理している美しい公園だ。

勝手知ったるなんとやら…見慣れてしまっている俺と壱弥は注意事項なんてどこ吹く風だ。集まっている生徒の一番後ろでぼーっと久々に足を運んだ公園を見渡している。

「相変わらずきれいにしてるよね。特にあの噴水の女神。」

壱弥の言う通り。噴水の女神は白く光り輝いて見える。何年たっても新品みたいだ。まぁ…それは、ここの神父が毎朝磨き上げているからだろうな。

「忘れてたけど、お父さんいるんだよな…。」

「あ、そっか。秋緋、神父様苦手だったね。」

絢倉千樹のことで頭がいっぱいだったし、沙織里が帰ってこないことも心配ですっかり忘れていたが、俺はここの…沙織里の父親である神父に嫌われている…んだと思う。まだ小さい時は普通に接してくれていた。
けど、天使が現れた後からだったかな。急に怖くなった。まぁ…わからなくはない。大事な一人娘に天使からの天啓っていうのか?だとしても、永遠の伴侶宣言されたのだ。その上沙織里は【筒師】に興味を持って、成長するにつれて【筒師】にばかり気を向けてしまっている。

「移動するみたい。行こう、秋緋。」

「あ、あぁ…はぁ…。」

ザーザーと音を立てて勢いよく、そして優しく噴き出る噴水の中央にいる女神の顔は…沙織里そのもの。お父さんがどれだけ沙織里を溺愛しているかわかるだろう?
あとな、教会の中もすごいことになってるんだぜ?
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