俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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暗闇を裂いて③

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 風をものすごい勢いで切りながら、飛んでいく。抵抗に負けそうになったけど、手を伸ばして、早く、早く…届けっ!

「う…お前ら…な…ゴブッ?!」

ゴッ!といい音がした。

俺の膝が絢峰瑠鬼の脳天に直撃した音だ。なんとか起き上がろうと頭を起こしたのが運の尽き、といったところだな。図らずとも俺は絢峰瑠鬼に一撃を与えることができたのだ。
まぁ、そのせいで、俺もつまづいた形になって前転して転がっちまったし、着地点に石があったせいで頭から血が出てしまった。が…それでも、数珠を掴んで引きちぎり、沙織里のいる珠を胸に抱く。

「…沙織里!」

返事はなかった、けど、コツコツという振動が手のひらに伝わる。沙織里も脱出しようとして中で頑張ってる、そう感じた。
ぎゅっと祈るように握る。目一杯の、絶対助けるっていう気持ちを乗せて、力を込める。

ビシッと大きなヒビが入る。その衝撃でうっかり珠を落としちまったが…結果、置いてあった方がよかった。ボフンっと煙が溢れて、煙の中にちょこんと座った沙織里が姿を現した。

「あ…出られた…?あー…ちゃん?」

「沙織里っ!」

勢いに任せて、沙織里を抱きしめた。そりゃもうぎゅーってな。

「悪い!俺、自分のことばっかだった。ごめん!ごめんな…」

「ん…ふふ。大丈夫だよ、あーちゃん頑張ってるのわかってるもん。でも、ちょっと怖かったから…助けてくれたのがあーちゃんで、嬉しい。…ありがとう。」

沙織里も俺の背中に腕を回してぎゅってさ。ちょっと震えてた。怖かったって、そりゃそうだよな。俺だって怖かった。

「あらあら…二人の世界、ねぇ?」

「天使さぁん?どないする?俺としてはもうしばらくこのままにしてあげとってもええんちゃうかなぁっておもうねんけど?」

「…愛し子が望んでいるのなら…我は何もせぬ。」

どれくらい抱き合っていたのか。ハッとして沙織里の肩を取って体を引きはがし…見つめ合うっちゃう。
…めちゃくちゃ照れくさいどころか、もう恥ずか死するレベル。沙織里も「あっ…」とか言って赤くなってる。かわいいなぁ…。

「はいはい。そろそろいい?秋緋。」

壱弥の声で現実に引き戻され、後ろを振り返るとニヤニヤ顔の珠ちゃん先生と東雲、無表情の天使、と冷たい目線を送る壱弥。そして…

「…秋緋くん。」

千樹が声をかけてきた。その顔はどこか悲し気だ。そんな様子の千樹に、珍しく天使が他社へ対して口を開いた。

「ふむ…我は寛大である故とやかく言うことはせぬ…が、お前のその思い、届くことはないだろう。潔く引いてこそ男だぞ?」

ビクッと肩を震わせる千樹。無理やり笑顔を作って、俺を見た。

「彼女が大事…なんだね…?」

うるうると涙が溜まった瞳が前髪の間からわずかに見える。

「あ、あぁ…まぁ…そう、かな…」

と、照れくささがまだ抜けていなかったので曖昧な返事をしてしまった…なんか変な状況だな?なんで千樹が泣きそうになるのかがわからない。

「…秋くんは乙女心っちゅうのがまだまだ分からんおこちゃまなんやなぁ」

「…東雲さん、そうは言うけど僕でもごめんなさい、ってなるよさすがに。」

どういうこと?

「は…ははっ!バカどもめぇ…」

沙織里を助け出して安心しきっていて、奴の存在を忘れてた。
ちーとみーに足蹴にされつつ、縄で縛られている途中の絢峰瑠鬼が声を上げたのだ。けっこう勢いよく頭打ってたはずなんだけどな…とんでもない執念を感じる…。

「これで…最後だ。でて来い、おまえたち…っ!」

俺が引きちぎった数珠。周辺にたくさん転がっている。閉じ込める為の、【筒】の役割をするものであるのなら、沙織里が閉じ込められていた以外の珠には…何が入っているかなんてのは…わかりきっている。

バラバラになった数珠…1、2…3…4?いくつか見落としているかもしれないが、黒い煙が生き物の形になりながら俺たちの周りに現れていく。

「往生際のわるいやっちゃなぁ…秋くん、どないする?」

「…言わずもがな、だ。ちょっと懲らしめてやってくれ。」

「そうだね、こっちには神鬼もいるし、ばちばちにやり合うにはちょうどいい戦力だからね。」

やる気満々、俺たちの心はひとつだ。妖怪同士でやりあうには十分すぎる。東雲はもちろんだが、意外と武闘派だった珠ちゃん先生と、壱弥がいつもの筒から出したぬえと、ちーとみーこと神鬼に成長した砂鬼さき砂羅さら。そして、未知数の力を持っているだろう天使。

ただ、絢峰瑠鬼が出した妖怪の数が多い…目に見えた数珠の数どころじゃなかった。どこに持っていたのかわからないが奴の体からも何体か出てきた。獣型のいかにもな妖怪たちが、ちーとみーと睨み合っている。

「私も、戦う!」

「よせ、愛し子よ。封じの内側で霊力を消費しているのだろう?」

「そうだぞ、沙織里。それに、これだけ派手に妖怪やら、霊力やらをばら撒いてるんだ。親父が気づかないはずがない。」

こんだけ派手にやってんだ、あの親父が気づかないはずがないんだ。しょんぼりしている沙織里だが、俺でも分かるくらい疲れた顔をしている。だから、俺も天使も、止めた。

「真砂秋緋よ、愛し子…とそこの男のことは任せるがいい。貴様が珍しく、行動を起こし、救った礼だ。守り、戦うことを誓おう。」

ちょっとディスられた気もするけど、こんなありがたい発言はない。今までそんな優しいことを天使の口から聞いたことなかったからな…そういうことなら…。

「絢倉千樹。」

「な、に?ぐすんっ」

立ち上がって、千樹に近づいて名前を呼んだ。
うーん…?なんか調子狂うんだよな…容姿のせいなのはそうなんだけど、男らしい、いい声なのが…いかんいかん。気を取り直してっと。

「今から、お前の叔父さんにちょーっとだけ喝をいれてくるけど、大丈夫か?」

俺の発言にきょとんとしてる。でも、すぐにクスクスと笑い始めた。

「わざわざ聞いちゃうなんて…ふふふ…。秋緋くんは、やっぱり優しいんだね…うん。叔父さんが悪い事したんだもんね?大丈夫、一発気合かましてやって!」

と、拳を前に突き立てた。ブォンっと風圧が来て一瞬ビビっちまったけど、身内からの許可はしっかりもらえたな。

「っし!千樹!終わったら、あらためて握手すんぞ!」

「…うん!」

んじゃ、心置きなく、絢峰瑠鬼に…お仕置きタイムだ。
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