俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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暗闇を裂いて②

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はっきりとではないが、しっかりと俺の名前を呼んでいるのはわかった。壱弥だ。実家に寄って、教会に戻ってきたんだ。
それで、俺を探してる。

「壱弥!ここだ!ここにいる!!」

外の声が聞こえたからと言って、内側から声が聞こえるかどうかはわからない。わからないけど、黙って待ってる訳は無い!

「…後はここだけなんだけど。まさかお墓の下かな?」

「物騒なこといってるんじゃねぇ!ここだって!!」

思いっきり何度も叩き、ボヨンボヨンと境界線が揺れる。揺れるたびに、少しずつ、外が見え始める。明るい日差しが差す、西洋墓地が視界に入り始めた。その中を壱弥が…あれ、肩に乗ってるのって…ちーとみーか?
戌井を呼んでくるはずだったのに、小鬼ふたりを連れてきている…押し付けられたんだろうか?うちならやりかねないが…

「なんか変な感じはするんだけど…もしかして…」

壱弥は何かを感じたのか、歩みを止めて空を見上げた。その目線の先を俺も追った。まだ小さな黒い影程度にしか見えないが、こっちに向かって何かが来ている。影はふたつ?ひとつは羽がついているように見えた。

俺の知っている、羽の生えた鳥じゃない奴はあいつしかいない。

「天使…っつうことは、沙織里もいる!!」

強い力で閉じ込められているせいで、臭い薬瓶越しの時とは違って東雲と意思の疎通もできなかったが、あいつも天使と一緒にこっちに向かっているのが見える。珠ちゃん先生は…あ…

墓地を囲んでいる木々の間からものすごい勢いで吹っ飛ばされたのだろうか、転がりながら飛び出てきた黒い塊が見えた。その後ろから、草木を分けて珠ちゃん先生がゆっくりと歩いて出てくる。

「藻江島先生…けっこう武闘派なんですね…」

「あらやだ、見られちゃった?だって、この人、しぶといからいい加減嫌気が差しちゃったの、うふふふ。」

空を飛んで追いかけてきているだろう東雲と天使を置き去りにする速さで、今は黒い塊になってる人物を追いかけてたって…おそろしい。

「女狐、あまり手荒に扱うな。愛し子まで壊されかねん。」

「ほんまやで…俺らがやらなあかんのはお嬢ちゃんたすけることやねんから…」

スッと降りて、転がってうめき声を上げている黒い塊の人物の周りを囲む3人。

「ふっ…ぐぅ…うぅ…」

そこに壱弥と小鬼も加わって…恐ろしいかごめかごめが出来上がっていた。だって、皆の顔は…

「…この人が絢峰瑠鬼あやみねるき、ですか?へぇ?」

「ちー…っ!」

「そうよん。逃げ足だけは早くて、ほんのちょぉっと…いらついちゃったわぁ…」

「みーっ!!」

「さて、どうしてくれよう?我らの理で裁いてやってもよいのだが…?」

「おい、うーうーいっとらんで、はよお嬢ちゃん返しぃや?」

こわぁぃ…これが鬼の形相っていうのかなぁ?一瞬だけ、ここから出たくないと思ってしまった。
うずくまっている絢峰瑠鬼を東雲が蹴飛ばして、仰向けにさせた。俺の位置からでははっきりとした姿は見えない。でも、ちょっとだけ見えたものがある。

「秋緋くん、あれね、俺の叔父さん。いつも大きな珠の数珠をもってるんだ。」

横から顔を出した千樹が指を差した。親戚だろう千樹にも、あれ呼ばわりされるくらい、絢峰瑠鬼はろくな奴じゃないってのがわかる。

「…誰かを誘拐したんだよね?だったら、絶対あそこに閉じ込めてる。」

「…そっちの家業もうちと似たようなもんだって聞いてる。ってことは、封じ込めたりするのはお手の物ってことだな?じゃあ…沙織里はあそこに…!」

天使がいるってことはもちろんその近くに沙織里がいるっていう証明でもあるんだけど、実際どういう状態になっているかはわからない。けど、千樹の言う通りなら、隙間から見えた小さな光を放った珠に!目の前にいるなら、俺が!

「んりゃあああああ!!!!」

メリメリという音がする。俺は境界線に無理やり手を押し込んでいく。跳ね返りの強いゴムみたいだ。気を抜けば戻されそうになる。でも、負けられねぇ。

「…っ!あそこ!空間が歪んでる!」

外側から壱弥が異変に気付いてくれた。その声に反応して飛び込んできたのは…

「いくぜぇ…主を…」
「助け出しますよっ」

「へぁ?」

たぶんちーとみー…だよね?驚きで思わず力が抜けそうになってしまったぞ?なんでそんな…そんな…

イケメンになってるんだ…。

鳥さん形体からこちらに向かってくる途中で人型に姿を変えた。あの頃の可愛い人型ではない。
髪色と、色違いの袴を履いているのは変わらないので、どっちがちーでみーなのかはわかるのだが、上半身は裸で所々に紋様のような刺青が施され、そこに映える美しく整った筋肉が眩しく、神鬼しんきという名にふさわしい姿に成長していた。

外側の境界線に、ふたりは爪を突き立て、十字に綺麗に裂いた。

風船が割れるように、俺と千樹が閉じ込められていた空間は消失し、丘に吹く気持ちのいい風が俺たちの間を抜けていった。千樹は唖然としていたが、俺はそんなことよりっ…!

「ちー!みー!どっちでもいい!俺をあいつまで投げろ!沙織里を助ける!」

「…招致!」

走っていくより早いだろうって思ったんだ。強面たちに囲まれているとはいえ、あいつが動こうと、起き上がろうとしてるのが見えたからな。大きな数珠の珠のひとつが懐から見えている今しかないから…でも…

「もう少し優しく投げろーーーっ!!」

みーの方が、俺の足をがっしりと掴んで、タオルを振るかのように簡単に、グォンと振りかぶって、投げてくれた。

…あの日投げたこと、根に持ってたの?
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