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聖女の色持ちではないんですがね 11

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眠れないと思ってた。

けど、知らないうちに寝落ちしていたみたいで。@鏡の前。

「お尻が痛すぎる。ふかふかのカーペットの上でっていっても、所詮は床に座ったまま寝ただけだもんな」

体を起こし、膝立ちの格好で手のひらでお尻を撫でる。

「いたたた……」

唸りながら自分の尻を撫でる女がいて。

「スープ、持ってき……た」

ノックもなしに開けられたドアから、カルナークが入ってきて。

声に体をねじって、そっちをみたあたしと目が合う。

「カルナーク……」

昨日の今日で、あの呟きを聞いていたその答え合わせのような今。

「お、前……、何し…て」

真っ赤になって、トレイ片手にフリーズしてしまっている。

何をしてる、って質問されているのはすぐに理解したんだけど、自分がどう返せばいいのか一瞬わからなかった。

「え?」

自分がしている格好を忘れて、首をかしげる。

「……っっっ!!! こ、これっ! 置いてく、から」

真っ赤な顔のままでテーブルに乱暴にトレイを置き、顔をそむけっぱなしで部屋を出ていった。

「変なの、カルナーク」

そういいながら、撫でていたお尻から手を離す。

鏡には、不自然な格好のあたしが映っていて。

「………………あ!」

気づいて、カルナークが出ていったドアから、彼を追うように部屋を出る。

「カルナーク!」

当然のように彼の姿は、とっくに見えなくなっていて。

廊下で頭を抱えながら、しゃがみこんでしまう。

「やっちゃった」

何をやっているのか、訳がわからなかっただろうな。

自分の尻に手をあてて、鏡でそれを映しているようにしかみえないじゃない。あんなの。

グラビアのポージングじゃあるまいし。

「ごめんね、カルナーク。せっかく持ってきてくれたのに、スープ」

聞いててくださいと言わんばかりに、ひとりごと。

ゆっくりと立ち上がって、部屋の中へと戻った。

テーブルには、昨日と同じスープが湯気をたてている。

「……いただきます」

カルナークに感謝の気持ちを呟き、スプーンでスープを掬う。

一口、二口、三口。

「…………ん。美味しい。…ありがと、カルナーク」

ここにはいない彼へと感想を呟き、もぐもぐと口を動かす。

いろんな野菜が入ってて、彩りよし、味もよし、食べながら楽しめる。

「魔力に、一目惚れ……かぁ。どんな魔力なんだよ、あたし」

目に見えたらよかったのに、今のあたしは何もわからない。気づけない。

でも、それって。

「聖女の力とは別なのかな。あたしは多分……」

(聖女じゃないから)

聖女として喚ばれておきながら、その辺の魔法と同じものしかなかったら、きっとこの国の人たちはガッカリするよね。

ジークムントは、あたしのことを知ってるよと言った。

あたしのことを知っている。あたしの力について、か、あたしの素性について、か。

アレックスに見せた、あたしの目の色の秘密についても把握しているということなのかな。

この手のゲームだと、こう呟けば出るんだろうか。

「ステータスオープン」

試しに聞きなれた呪文を呟いてみる。

「…………なにも、おき…ない?」

体に違和感はない。目の前には、さっきまでと同じ状態の部屋があり。

脳内にもそれらしき表示が浮かんでもいない。

「なーんだ。自分の状態、知ること出来ないじゃん」

すこしの期待をのせて呟いたそれは、不発に終わった。

きっとこの後、アレックスとジークムントが来て、あたしの話を聞いてくれるはず。

でも、あの二人が知らないだけでカルナークもその話を聞くことになる。

カルナークがどういう状態であたしの声を聞いているのかわからない。

聞こうと思ったら常に流れっぱなしなのか、自分で音声をミュートにすることも可能なのか。

その辺の確認もしたかったのに、おかしな格好をしていたばかりにこんなことになった。

あの二人に、カルナークとのことを話していいのかも悩ましい。

彼のスキルについて、他のみんなにも周知の事実なら説明は短くていいんだけど。

(もしも、あたしが聖女の色持ちじゃないってわかったら、どう思うかな)

彼に好かれたままでいたいとか、浅ましく図々しいことを思ってはいない。

でも、だよね。

どっちにも許可なく話を進められない。

一番いい方法は、なんだろう。

ベッドへと歩き出し、傍らにある水差しから水を注いでゆっくり飲んでいく。

うつむき、首をかしげ、唸って。

「あーもー、どうしよ」

天井を仰ぐように、勢いづけてベッドに倒れる。

ぎしりと中のスプリングらしき音がして、ベッドが数回上下に揺れた。

どうすれば、声が届かないですむのか。

声が聞こえちゃうことを二人に告げれば、カルナークが叱られそうな未来しか浮かばないし。

ごろんと右を下にして肘をつき、横寝の格好になる。

視界に入ってきたのは、あたしのリュックだ。

(そういえば、出かけた時に何持って出かけてきたっけ)

リュックの中にお助けグッズでもないかと、勢いつけて起き上がり。

「便利なアイテムが入っていますように!」

リュックを持ち上げて、せーの! の声と共にリュックの中身をベッドにぶちまけた。

財布にスマホに充電器に、お菓子、バスカード。

「スマホ……は、電源は入るけど、電波もWi-Fiもなし。カメラ機能は大丈夫だけど、使いどころがあるのかな。スマホ」

見つけた瞬間は「お! やったぁ」とか思ったのに、ちょっとがっかりだ。

「…で、と。あとは」

未開封の薄めの箱を見つける。ひっくり返し見えた商品名に、思わず声が出る。

「あ! これ、使えるんじゃない?」

100均で買ったばかりの、電子メモパッド。

電池も3個セットで買ってある。

ボタン電池を取り出し、メモパッドにセットしてみる。

試し書きしてみて、問題がなさそうなのを確認。

「……じゃあ、これにこう…書いておいて……っと」

二人が来た時に、真っ先に見せなきゃいけない一言を書いておく。

『これは、あたしの世界のメモする道具です。これからする話は、筆談でお願いします。今はまだ他言無用なので』

あたしの世界の言葉づかいが通じるのかわからないけれど、一応書いておく。

筆談と、他言無用。このあたりが若干不安なワードではある。

あたしは日本語で書いたけど、二人にはどう見えるだろう。

この世界の言葉に自動翻訳されていたらいいんだけどね。

「とりあえず、は」

メモパッドを手にしたまま、テーブルに戻っていく。

食べかけのスープを食べきって、手を合わせて。

「ごちそうさまでした。美味しくいただきました…っと」

ここにはいない彼へと感謝を呟く。

テーブルの端にトレイをずらして、天井を仰ぐ。

目にはずっと違和感しかない。

「こんな事態じゃなきゃ、外してしまいたいのに」

入れっぱなしのコンタクトなんて、悪いことこの上ない。

(早く、二人が来ないかな)

ソファーの上にごろりと、行儀悪く寝転がる。

ほとんど寝ていないから、寝てしまいそう。

「はや…く、来ないか…な、ぁ」

満たされた胃袋、体はほんのりあたたかくて。

「話を…しな、きゃ」

寝心地のいいソファーを前にして、眠らないという選択肢はなかった。

体は、素直だった。



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