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祈りに近いモノ、その名は 7 #ルート:S

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IFストーリーです。

※ジークムントルートになります。
ジークムント=Sigmundと書くらしいので、ルート:Sという表記にしました。

抱えられるもの、抱えられないこと1及び、カルナークとシファルの閑話以降の話です。


******


~ジークムント視点~


明け方、シファルと一緒に廊下を歩くひなに出くわす。

思わず「…え」と声に出たけれど、近づいて顔がハッキリ見えた時、ショックを受けている場合じゃないんだって感じた。

「ちょうどよかった。ジークに聞きたいことがあるんだ。……早い時間だけど、これからって時間取れる?」

泣きはらした、あまり開いていない目で俺を見上げるひな。

隣にいるシファルに視線を向ければ、苦笑いをしてうなずくだけ。

何とも言えない間の後に「話、聞いてやってよ」って言って、シファルが差し出した手にひなが手を重ね。

「じゃ、がんばれよ。ひな」

俺へとひなの手をエスコートしたまま、差し出した。

俺が手を差し出し、ひなが手を乗せるのを待つと、ううんと首を振るひな。

「…え?」

と、どうしてほしいのかわからずに戸惑っていると「ギュー…が、いい」と子どものように甘えた声で俺を待つ。

「……ギュー?」

「ギュー。ギュって、してほしい」

俺たちのやりとりを傍で見ているままのシファルが、「ぷぷっ」と吹き出しながら笑って。

「ひな? それなら、腕を広げてやんなよ。じゃなきゃ、ジークにはわかんないよ?」

っていいながら、ひなの手を取り、左右に広げさせた。

「…ああ! そういうことね」

ハグなんだとわかって、ひなを腕の中におさめる。なんだかいい匂いがする。

「ジーク、いい匂いする」

いやいや、今こっちが思ってたこと言わないでほしい。

ふ…と横を見れば、シファルと目が合う。父親みたいな生あたたかい目で見ないでほしい。

「こういうのなんだっけ、ひな」

シファルからの唐突な話題に、首をかしげる俺。

「バカップル」

「そうそう。そういうことやりたいんだったね、ひな」

「…うん。バカップルなことしたかった」

「はいはい、ジークに聞くこと聞いて、目いっぱい甘えときな」

「うん」

二人の会話がいまいちわからない。でも、泣きはらした目なのに、シファルと言葉を交わすひなの声は明るい。

「じゃ、保護者は帰ります。俺、これから寝るんで、朝食いらないって言っといて」

手をヒラヒラさせて、踵を返して廊下を戻っていくシファル。

数歩歩いてから、「あ!」と言ったかと思えば、こっちに向かって一気に距離を詰めてきて。

「ひな。ジークと話す時、一応使いな」

言ったと同時に、ひなに紙を手渡して今度こそ戻っていった。

俺の背中に回ったままのひなの手に、押しつけられた半折りの紙が一枚。

「なに? それ」

二人きりの廊下で抱き合ったまま、腕の中に囁くように質問をする。

「ん…っ、くすぐったいよ」

そういって、腕の中でもぞもぞ動き出すひな。

「このままじゃ動けないから、手をつないでもいい?」

ひなに今度こそと手を差し出すと、また首を振る。

「違うの。こうやって…こう…すると…」

指を互いに開いた状態で、手のひら同士くっつけて互いの指の間に指を差し込むようにしてつなぐと言うひな。

「これ、恋人つなぎ!」

ものすごく密着感のある手のつなぎ方だ。

「やってみたかったの! これも」

嬉しそうに笑うひなを見て楽しいんだけど、さっきからどうにも引っかかることがある。

「さっきから、やってみたかったってことばかり…してる?」

なんで急に? と思えることばかり。照れ屋で遠慮しがちなひなだから、結構…勇気がいることだったんじゃないのかな。これって。

「やりたいこといっぱいあるんだ。こっちに来るまでしたことなかったことや、こっちに来てからしてみたくなったこととか」

ふふ…と微笑みを浮かべて、「お姫さま抱っこは、お願いしなくても何回かしてもらったもん」と思い出しているのか、なんだか嬉しそう。

「……そんなにあるの? まだまだ」

「あるよ? あたしが作ったもの食べてほしいし、お出かけもしたいし、おすすめの本をお互いに紹介しあったり。それからねぇー」

恋人つなぎってやつで、俺の部屋まで歩く。

「ひなは料理するの?」

「するよ? こっちみたいに料理人が家にいるわけじゃないから、両親が働いている間に夕食作ったりしてたよ」

「そっか。ひな、真っ白いエプロン似合いそう」

自分で言ってみて想像してみたら、思いのほか可愛いひなの姿が想像できた。

(でも、本当にどうしてやりたいことばかり口にしてるんだ?)

妙な違和感。なんだか気持ち悪いというと、ひなに悪いかな。でも、変な感じがする。

「ジークが帰ってきたらね? おかえりなさーいって、エプロンつけたままお迎えするの。…どう?」

「いいね、それ」

楽しい話をしているはずなのに、なにかが。

(――怖い)

廊下を歩いていく先で、カルと出くわす。

ひなを見つけたカルが、険しい顔つきでひなの腕を取った。

「陽向! 何かしてるの? 俺に内緒で、隠してないか?」

焦りしか感じられないそのカルに、ひなから出た言葉は。

「ごめんね。見ないで。聞かないで。今は……これしか言えない」

って、薄く笑ってるのに、カルを突き放すようなことを告げた。

「……陽向っ」

カルがやけに焦っているのを感じる。

本当はさっきから鑑定をかけたいのを、鑑定なしで感じたくてガマンしていた俺。

「手、離してもらっても…いい、かな?」

カルが何かをする前に、か、ひなにしては珍しくやんわりとカルの動きを制する。

「いやだ。……離したくない。いやだ……陽向」

いやいやと駄々をこねるように、ひなの腕を離さないカル。

ふ…と顔を俺の方へ向け、体を寄せて。

「行こう、ジーク」

と、カルにかまうことなく歩き出すひな。

「え……、いいの? ひな。カルのこと」

いつもは邪魔くさく感じるカルが、とても可哀想で思わず声をかける。

「…………いいの」

長い間の後、短くそれだけ。

歩き出せば、ひなの腕から自動的にカルの手は離れていく。

「やだよ……陽向ぁっ」

縋るようなその声に、俺の胸が軋むように痛んだ。

黙ったまま部屋まで歩き、俺の部屋の中へ入った次の瞬間。

ひなはつないでいた手を離して、さっきシファルから受け取っていた紙を高めに掲げて開いた。

開いた紙から小さな光があふれるように噴き出して、部屋を満たすように広がっていく。

「この光……」

やわらかくあたたかな光だ。この光は、見おぼえがある。

「ナーヴくんの、だよ」

ひなと一番接点のない人物の名前が出る。

「シファ経由で、わけてもらった。本人はあげたくなかったみたいだけど」

呟くひなは、どこか寂しそうに笑う。

「あのね、ジーク」

紙をテーブルの上に置き、俺を振り返るひなが、今までになく笑顔で。

「あたしはいつ死ぬのか、わかる?」

そう告げた時、さっき抱いていた違和感を思い出した。

ああ。そういうことか、と腑に落ちた。

(死ぬまでに)やってみたいこと、か…と。

何かを知って、シファルと朝を迎えるまで泣いてきて、俺に尋ねるまで気持ちを整理してきて…か。

(どうせなら、泣くとこからそばにいたかったのに、俺自身がひなに伝えるのをためらったから…こうなったんだよな)

自虐なことを自分へ吐き捨てながら、ティーセットの方へと進む。

「いっぱい泣いたんでしょ? お茶でも飲みながら話をしようか」

魔石に魔力を反応させ、ポットを起動する。

ひなは窓の方へと歩き、まだ雨が降ったままの窓に張りつくように遠くを眺めていた。

紅茶を淹れて、テーブルへ。

それからひなを背中から抱きしめて、肩の上に俺の頭をのせる。

イイコイイコでもしているように、俺の頭のてっぺんを撫でるひな。

静かな時間は、きっとここまでだ。

「ジーク、隠さないで教えてね」

聞こえたひなの声は、いつもよりも低くて。

俺はひなの肩から顔をあげずに「うん」とだけ返す。

誰かに相談をと思っていたのに、結局誰にも打ち明けられないまま本人に最初に言わなきゃいけなくなるなんて。

「ごめんね、黙ってて」

そう謝る俺に「いーよ」と返すひなの声が、切なくて。

ちっとも“いーよ”って話じゃないのに、と、顔を歪める。

キツイのもツラいのも悲しいのも、全部ひななのに。

好きな女の子を護るということの本当の意味を、俺はこれから知るのかな。

どうやったら護れるのかわからないけれど、なんなら俺の命をあげてもいいと思いはじめた俺に。

「ジーク…顔、あげて?」

と、言われて顔を上げた俺に、ひなは笑顔で。

「みんなを生かすためのことだから、ちゃんと話そう? あたしも……生きたいの。ジークと」

俺の心を見透かしたかのようなことを呟いた。

「一緒に…生きたいの」

って。


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