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いわゆる、他人事ってやつ 3 ♯ルート:Sf

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IFストーリーです。

シファルルートになります。

シファル=Sifarと書くらしいので、ルート:Sfという表記にしました。

抱えられるもの、抱えられないこと1及び、カルナークの閑話以降の話です。



******



教会のドアが閉ざされ、かすかな音を立ててカギがかけられたのを察した。

たった一人でこんな場所に呼びつけられて、一体何をされるというんだろう。

こちらへと示された場所へ腰かけ、視線をあげればステンドグラスのようなものが視界に入った。

ようなものというだけで、実際は違うらしい。

いろんな色が付いているが、その場所自体は結界の中心点なんだとか。

ただ、見た目がきれいな方がいいと何代前かの司祭さまだかが言い出して、ステンドグラスっぽくしたという。

それまでってどういう状態だったんだろう。

元いた場所で見たことがあるものがあると普段だったらすこしホッとするのに、今日は空気が違ってて居心地が悪い。

「どういったお話でしょうか」

なかなか先に話し出さない3人に、こっちから話を切り出す。

誰が話すかで揉めていたみたいで、しばし放置されてから一人の人があたしの横に腰かけた。

残りの二人は、少し離れた場所からあたしを見下ろしている。

せめて座ってほしいんだけどな、威圧感があって嫌だ。

「陽向さま」

不意に呼ばれた呼称は、今まで呼ばれたことがないモノだった。

ポカンと口を開けて相手を見れば、眉間のシワが深くなった。

「あなた様が聖女ではないというお話を伺いました。聖女の色も本物ではないとも。……その噂は、真実でしょうか」

噂、か。

どこからの話だろう。

この場合、どう返すのが正解?

浄化が終わるまでは、聖女の色持ちじゃないことだけは明かさないことになっている。

色を持っていないだけで、ジーク曰くなんらかの聖女らしいとは聞かされているのだけれど……。

うー…んと唸ってから、ジークから渡されていた情報だけを伝えることにする。

「聖女、ではあるようです。色持ちかどうかはさておき」

と、言葉を少しだけ濁した。

教会関係者は特に聖女の色にうるさかった。

だから、本当ならば色については言及しない方がいいんだろうけど、この程度は言っておかないと後からめんどくさいことになりそうだ。

「その色を纏っていないのに聖女だと? …そんな馬鹿な」

「纏っていないとはハッキリ言っていません。色持ちかどうかはさておきとしか…」

「聖女たるもの、聖女の色を纏いし者だけ。座学の時間にそうお教えしましたよね?」

「…えぇ。確かにそう教えていただきましたが、そうですねとは一言も返したことはありません」

「こちらの世界の理に従っていただくべきかと」

「従っているつもりですが」

「そうではないのでしょう? 陽向さまは」

「…何が言いたいのでしょうか。ハッキリ言われないままで、お互いに気持ちが悪くはありませんか」

「ハッキリ申し上げてしまっては、あなた様の居場所がなくなりかねませんが、それでもよろしいので?」

居場所がなくなる?

「よくわかりませんが、言いたいことがあってこの場所にあたしだけを呼びつけたのでしょう? それと、あたしの口からなにを言わせたいのですか? 何かを言わせて、言質は取りましたとか言うつもりですか?」

だんだんイラついてきたけど、それで感情のままに口汚くなったら相手の思うつぼだ。

というか、口論自体がものすごく疲れるからしたくない。

あたしがしたかったのは、そんな関わりあい方じゃないのに。

「聖女の色を持たない可能性があるというのに、聖女だと? それでは、あなた様は何をなされるおつもりで? この国に、害を為しに来られたわけではないという保障はどこに」

そもそもだけど、さっきの禁書庫だって、聖女ゆえに連れていかれたんだろうし、聖女だから過去の聖女の記憶や浄化の方法などが伝えられたんじゃないの? 過去の聖女たちに選ばれて。

目の前の教会の人たちが言うように、あたしは聖女の色を本当は持っていない。ニセモノだ。

けれど、何かを為せるのならと矛盾や理不尽さを感じつつも向き合ってきたというのに。

そもそも…ばっかりだけど、部外者のようなあたしに自分たちの国のことをよろしくしておいて、色がどうこうってうるさいや。

――頭の先がジクジクして、今にも気を失いそうなほどだっていうのに。

「というか」

自分の声なのに、すごく遠くから聞こえる。どうしてだろう。

いつもの自分の声じゃなく、低く、重く、冷えた声。

『「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」』

自分の声なのに、幕が張ったようにもう一つの声が重なった感覚がある。

その言葉を発した刹那、脳内にカチリと秒針のような音が響く。

ジクジクと膿んだような痛みがあった頭が、急に熱を持ち始める。

『「アナタたちは、何をしてきたの」』

誰が話をしているの?

『「聖女を色だけでしか判別出来ないような愚か者から学ぶことは、何もありません」』

自分の声のようで、自分の声じゃないみたいだ。

『「浄化…浄化…と口にするだけで、何も出来ない役立たずが」』

あぁ、体中が熱くて痛い。

『「本当にこの国を護りたいと思うのならば、目先だけに囚われてはいけません」』

クラクラする。

『「聖女頼りで、無能だというわけではないのでしょう? もっとやれることがあったのに、目を向けなかった」』

意識が朦朧としてきた。

『「けれど、アナタ方は、なにもしなかった。それがどうしてかわかりますか?」』

自分であって自分じゃないナニカが、静かに怒っているのがわかる。

『「他人事なんですよ、アナタ方にとって…この状況は」』

そうだ。いわゆる他人事だよね、教会の人たちのスタンスって。

痛みと熱に気を失いかけつつも、内心同意する。

『「自分たちは実害を受けてきていないのでしょ? だけど、聖女という高貴な人の名声は欲しい。……違いますか?」』

自分たちが痛い思いをしていなきゃ、本当の苦しさやどれだけ浄化を切実に求めているのかが理解できない。

『「聖女は、教会のためにあるわけじゃない」』

あたしであってあたしじゃないものがそこまで告げた時、隣にいた教会の人の口元が歪んだ。

『「なんの聖女かは定かじゃなくとも、浄化のための情報も学びも得ています。浄化はすることとなるでしょう。だから」』

熱と痛みのせいで、おかしなテンションになってきているかもしれない。

口角を上げ、はは…と笑ってからあたしは告げる。

『「丸投げするの、今回で終わりにさせますから。無能なアナタ方がやれずにきたこと、やってやる」』

怒っていた。

静かに、かなり怒っていた。

頭の中で処理しきれない情報を、すこしずつ消化してきた。

『「無能なやつほど、口だけ出すよね」』

その情報を掛け合わせて、今までの誰もがやれずにきたこと…やってやる。

人間キレた方が、頭は回るよう。

そして、口も。

『「二度と、口出しすんな」』

その口調は、元いた世界のお兄ちゃんみたい。

(もしかしたら、と、思っていた)

この世界に、ニセモノの聖女の色を持って召喚されてしまったあたし。

自分を生まれ変わらせるための場に、この世界をあたしが選んだんじゃないか? と。

どんな形の聖女か知れなくても、何かを為せるからこそステータスにあるはずだ。

聖女、だと。

行動も、発言も、かかわることも。まだ15のあたしには経験値はすくなく、とても頼りないけれど。

未来を変えてやる。

同じ道を歩く必要性をなくしてやればいい。

浄化のために生け贄になる子どもも、召喚されるダレカも、もう要らないって言えるように。

怒りは、時に自分の背中を押す。

スクッと立ち上がり、踵を返す。

ドアの前で鍵を開け、半身だけ振り返った。

「聖女って名前だけで、あたしを評価しないで」

最後は、自分の言葉で言えた気がする。

ドアを出て、自室へと向かう。

遠く、ドアが静かに閉まった音がした。

決別に近い気持ちを抱き、教会のエリアを離れていく。

廊下を歩きながら、ボタボタと涙をこぼす。

自分の意見を言うことも、誰かを突き放すことも、勇気がいるし相手を傷つける覚悟を持たなきゃ出来ない。

誰かを傷つけるのも傷つけられるのも、どっちも痛い。それを知っているからこそ、今まで避けてきてしまった。

元の世界でもこっちの世界でも。

本音はキレイなものばかりじゃない。

時には汚いものも吐き出さなきゃぶつかれないから。

(誰かとかかわりたいって、本当に難しいや)

わずかにある教会関係者への罪悪感を胸の奥にしまいこんで、それでも進まなきゃいけない。

それはあたしが聖女だから、だ。

何を為せるかわからないけれど、何度となく揺らいでも行くしかない。

ここに来たのは、自分の意思かもしれないのだから。

不思議なめぐりあわせで出会えた人たちと、この世界を。

「護れるのは、あたしだけなんでしょ?」

腹をくくるしかないんだ。

たとえ、いろんな痛みを伴っても。

こぶしにした手で、涙をグイグイ拭う。

顔を上げると、窓の外にはほんのり紅く夕焼け色が広がっている。

「あぁ、キレイだな」

故郷でも何でもないけど、護ってみよう。

他人事なのに、他人事に出来ないから。

何度揺らいでも、きっと小心者のあたしはこの状況を放置できないはず。

味方はゼロじゃない。

教会は元々味方であって味方じゃなかったようなものだし。

取捨選択、だ。

「とりあえず、またお風呂にでも入ろうかな」

どこか熱い体を持て余したまま、部屋のドアを開けると。

「……」

「……」

互いに、言葉が出ない。

窓のそばに、遠くを眺めた格好のカルナークが立っていた。



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