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空を仰いで、アナタを想う 5 ♯ルート:Sf

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IFストーリーです。

シファルルートになります。

シファル=Sifarと書くらしいので、ルート:Sfという表記にしました。

抱えられるもの、抱えられないこと1及び、カルナークの閑話以降の話です。



******


~シファル視点~


手を何度も開いて閉じて…を繰り返し、その手に自分の魔力を薄く纏わせていく。

(懐かしいな、この感覚)

こうなるまでは、魔力の枯渇状態以降、生活魔法レベルを使った後ですら疲労感を感じるほどだったのに。

中心に淡い白。それを包み込むように半透明のモノ、そして一番外側に淡い緑。それが今の俺の魔力だ。

今回、ひなの中にあった闇属性の瘴気っぽいものを魔石化してから、ナーヴが提案してきたことに驚いた。

「お前の魔力、戻せるなら戻したいか? お前がそれを望むのなら、手を貸してもいい。だが、シファが望まないことは俺はしたくない」

そもそもで魔力を暴走させたキッカケの、カルナークへの思いとかいろんな感情をナーヴは知っている。

だから俺にちゃんと確認を取ってから、俺が必要だといえば協力すると申し出てくれたんだろう。

「どういうことだ? 何年かけても、減ったままの魔力の総量を戻せずにいたのに」

仕組みやデメリットを知らずに、安易に飛びつきたくはない。たとえ、ナーヴが危ういことに俺を誘わないとわかっていても…だ。

「時間がないから簡単に説明する。その上で、即答してほしい」

「…めちゃくちゃなこと言ってるの、わかってる? ナーヴ」

俺の性格上、長考しがちなことのはずなのに、それをわかった上でも新しい提案について即答しろだなんて。

「わかってて言ってる。それだけ時間が惜しい。シファから許可さえ出れば、すぐにでも取り掛かる準備が出来ている」

シファが提案しようとしていることは、俺が待ち望んでいたことだ。だから話なんか聞かなくたって、即答してしまいまいくらいだが。

(――だが、あえてナーヴが聞いてきたことに意味がある気がする。それと、なんでこんなに事を急いている? そっちの方が引っかかるんだけどな。俺的には)

「こんな浄化前の諸々で時間がいくらあっても足りない期間に、なんでわざわざこんな話を? 浄化の後だっていいんじゃないのか」

静かに、淡々と言葉を返すと、ナーヴには珍しく目をそらされた。

そして彼が短く「時間がない」とだけ告げる。

時間がないのはわかる。

だけど、それはそれこれはこれ…という感じが否めない。

「ナーヴ。…親友として問う。俺に隠していることはないか?」

目を合わせてくれと願うように見つめ続けると、チラッと一瞬だけ目を合わせてから「ねぇよ」とだけ返してきた。

「信じて……いいんだよね? ナーヴ」

いろんな意味での問いだ。

ナーヴはどこか息苦し気に息をひとつ吐き出し、「ああ」と返す。

「なら、俺の答えは“任せる”しかないよ。説明なんか省いていい。俺はいつだってナーヴを信用も信頼もしているんだから。ナーヴが提案してくることに、間違いがあった試しがないんだからね。ほんっと、優秀過ぎる親友を持つとゲンナリしちゃうよ。俺」

おおげさに手をあげて、お手上げって感じで話す俺。そんな俺を、ナーヴはポカンとした顔で見ていた。

「俺ね、わかってるよ。ナーヴは俺に対してだけじゃなく、誰をも傷つけることは決してしてこないってこと。いつだってちゃんと安全なのを確かめてから、相手に提案してくるってこと。その提案はいつだって、相手を思ってのことだってこともね」

俺の大事な親友は、口は悪いし態度も悪いけど、誰よりも優しくてあたたかい人なんだ。

ひなが召喚されてすぐの悪態をついた時は、ナーヴが瘴気で体調を悪化させていくばかりだっただけに、言いたくもなかったのに思わずこぼれてしまった弱音だったんだろう。

事実、あの後のナーヴは激しく落ち込んでいたから。

そんな優しい彼からの提案なんだ。

彼が何かを隠そうとしていることだって、彼なりの優しさなんだろうと思うことにしておこう。

彼が口を噤む理由があるなら、彼が口を開くまで待っていよう。それが親友の俺が出来ることなんだろうから。

「……いいのか? 本当に、魔力を戻す…治療をしても」

「うん、いいよ。まぁ、魔力が戻ってきても感覚を取り戻すのに時間がかかりそうだけどね。ナーヴやカルナークみたいに天才肌じゃないからさ、俺は」

それも俺のコンプレックスだ。

「わか…った。それじゃ、ナーヴの研究室の方でやってもいいか? 慣れた環境の方が緊張もしないだろうし、使わせてほしい物もあるし」

「ん。わかったよ、ナーヴ」

――そんな会話を経て、魔力を自分の中に戻していく治療が行われていった。

魔力の転換をした魔石には、カルナークの透明な魔力と、兄弟が故の同属性…風魔法を混ぜ込んであった。

体にかかる負担が極力軽くすむようにというのと、カルナークの魔力を混ぜることで馴染みやすくなること。

カルナークの魔力は、無色透明。だから、何色のどの属性のモノにでも馴染みやすいのが利点だという。

それと、治療の時にはカルナークが魔力操作をして、体内へ入っていく魔力の勢いを調整してくれた。

「やっと…俺も兄貴の役に立てる」

そんなこと気にしなくていいのにと思うことを、何度も治療のたびに口にしていたカルナーク。

「とっくに役に立ってるし、お前はそこにいるだけで十分なんだぞ」

そう返すたびに、カルナークが昔と同じ表情で笑ってた。

ひなに会えない時間は焦れったく思えたけど、体に魔力を補充しつつ心も満たされていく自分を実感していたのも事実で。

「ねぇ、ナーヴ」

ある日、俺は彼に問いかける。

「あ? なんだよ」

最近の彼はずいぶんと薬草茶を飲むようになった。それまで以上に…。

「薬草茶、すこしブレンドを変えたんだけど…知ってた?」

「あー…だと思った。なんか効果上がってきたな、と」

「この治療のおかげなんじゃないかと思うけどね、多分」

「…よかったな」

「うん」

疲労回復に魔力回復をゆるやかに出来るようにしたものを、こっそり追加していた。

見た感じ、効果はあるみたいだ。

口を噤み続ける親友のために出来ることがあるのなら、俺は手を抜きたくない。

「ひとつ、頼みがあるんだけど」

ベッドに横たわりながら、すぐそばのナーヴの袖を引っ張ると、ナーヴの瞳が不安げに揺れる。

(もしかしたら、これは想定の範囲内だったのかな?)

彼の顔色をみて、口をゆるめる俺。

「なーに笑ってんだよ、お・ま・え・は」

袖をつかんだ俺の手を振り払って、頭をかきつつそっぽを向く俺の親友に。

「俺も、浄化に参加…させてくれ」

ハッキリと、強い意志を告げる。

「……はぁ。マジなのか、シファ」

そう返してくるナーヴの視線は、どこか苦しげで。

「あぁ、もちろん。……ひなと一緒に、闘いたい。ひなと浄化を成功させたい。親友と好きな子だけで背負ってるもの、俺も一緒に背負いたい。ナーヴ、辛そうな顔してないで、一緒に笑って浄化を終わらせる手伝いをさせてくれよ」

その苦しみも一緒に背負いたいと思った。ひなのことももちろん、口だけじゃなく、一緒に闘いたいと思っている。

「ったく。お前は予想を外さないな、いつでも」

「それってさ、ナーヴが俺のことを理解しててくれてるってことだよね? …愛されてるなぁ、俺」

ちょっと冷やかした感じでそう言えば、いつものナーヴの顔に戻って口角だけ上げて笑ってみせた。

「愛してるよ、シファ」

「俺も―」

「…うえっ。気持ち悪いな、この二人」

俺とナーヴのやり取りを聞いていたカルナークが、心底気持ち悪いものを見たって顔つきで顔をそむける。

こんな風に笑っていられるように、俺も二人と一緒に浄化を成功させたい。

それになにより、ささやかかもしれないけれど、この俺の力で二人を護りたいと強く思った。

「じゃあ、これが終わったら、今度は俺の研究室の方へ。浄化の時に使う魔方陣に、お前の魔力をある程度認識させておいた方が早くすむから」

「…うん」

ふと感じた視線に目を向けると、カルナークが俺を見ていて。

「ん?」

と聞き返しても、「へへ」と笑うだけだ。

――なんだろう、この感情は。

魔力を補充されて、ほんのり温かさを感じるその感覚に安堵する。

(あぁ、そうだ。この感情は)

「幸せ…だな」

ポツリと漏らしたその言葉は、ナーヴに聞こえてたらしくて。

「…ふっ。呑気だな、相変わらずで」

と、嫌味を言われてしまう。

そんな言葉のやりとりですら愛おしいこの日々を、俺は護りたいんだ。

また、幸せだと思えるように。まわりにも、そう思わせられるように。

だから……俺は……この、ナーヴとカルナークの魔力も混ざった新しい魔力で、二人を支えていく。

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