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第3話
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探索者に娯楽は少ない。ネットは繋がらず、スマホも使えない。ゲーム機も無いしテレビもラジオも無い。
生まれた時から娯楽がすぐ隣にあった若者たちには苦痛でしょうがなかったことだろう。
僕? ダンジョン探索が楽しかったから気にならなかったね。僕みたいな人間は一定数いたけれど例外。大半の探索者が娯楽に飢えていたっけ。
だからというわけじゃないんだろうけど、錬金術研がわずか3年でタブレット端末のプロトタイプを完成させたのは驚嘆に値するよね。
その技術が洗練され、その後2年で魔法を動力にしたドローンとタブレットが完成したんだから、人間の欲は恐ろしい。
こうして、外の人々が知りたくてたまらないであろうダンジョン内部の様子が、魔法から電波に変換されてお茶の間に届けられるようになったのは割りと最近のこと。
配信者は探索者の一角に名を連ねることになった。
とはいえ、僕は配信者にあまり良いイメージが無いんだよね。
ドローンの魔法電波は直に地上には届かない。ダンジョン各所に魔法電波中継用の魔法の道具を設置しないと地上まで届かないんだ。
そんな魔法の道具を安心して設置できる場所となると……わかるでしょ? すでに探索者が危険を排除した安全地域だ。
残念ながら、配信者は探索の最前線での配信ができないのが現状なわけ。……いや、できないわけじゃないけれど、配信者は戦闘に不向きな職だ。配信者の安全を確保できる仲間が必須だ。
なので多くの配信者が、安全な場所から安全なダンジョン内部を外に向けて配信しているだけ。
申し訳ないけれど、それが僕の配信者へのイメージだ。
ただ、配信者がダンジョンに潜るようになって良くなった部分もあるのは事実。
ひとつは治安だ。
ダンジョンなんて、潜ってしまえば中でなにが起きているのかわかりゃしない。一応、探索者となる際に書かされる宣誓書に、ダンジョンで悪事を働かないという宣誓項目もあるけれど、悪いことを考える奴はいつでもいるからね。
そして悪いやつらは危険と隣り合わせの最前線では悪さはしない。安全なエリアで、なにも知らない駆け出しを狙うことが多かった。
ところが、すでに攻略された安全なエリアにカメラつきのドローンがビュンビュン飛び交うようになって、犯罪者は格段に減った。
なにせリアルタイムで犯罪現場を押さえられてしまうのだから、犯罪者にとってメリットよりデメリットが上回ったわけだ。
ダンジョン内の治安を回復した点は、配信者を評価してもいいと思ってる。
もうひとつは、結果論だけど血に対する慣れだ。
安全が確保された地下1~2階でも魔物はでる。その魔物との戦闘がリアルタイムで、それこそノーモザイクで地上に中継されてしまうのだ。
ホラー映画と違い、いつ戦闘が始まるかわからないため編集できないのもある。だけど大きな理由は、なぜか魔法で中継された映像は加工、編集ができないのだ。元が魔法だから機械的な干渉を受けないんだろう、とは言われているけれどね。
政府は一度、ダンジョン配信の規制に動こうとしたことがある。しかし、世界中が注目するダンジョン内部の映像は需要が高く、配信者のチャンネル登録数は増える一方。とても規制などできなかった。
政府ができたことは、せいぜいが年齢制限をかけることくらいだ。
さて、前置きが長くなったが、この映画ではないリアルな戦闘映像は、人々を血に慣らすことになった。結果、初期の探索者を悩ませた血への恐怖に耐性をつけることに成功し、探索者の活動の一助になったというから世の中はわからないものだね。
もちろん、血に慣れた生活なんてよくないんだろうけどね。でも、ダンジョンではそれが歓迎されるんだ。
◆ ◆ ◆
探索者ギルドに顔を出す。夜だというのに多くの探索者たちで賑わっている。
依頼は掲示板に貼り出すという、ゲームや小説でお馴染みのタイプ。ギルド創設時に打ち合わせることなくこの方式に決まったというから、もはや様式美だね。
だけどカウンターに向かう。1人用の依頼はカウンターで尋ねた方がよかったりするのだ。
「これから地下に戻るんだけど、ついでにできる依頼はないか?」
「1人か? ランクは?」
「1人。ランクは5級」
探索者カードを提示する。最近は偽造防止用の魔法が付与されているので安心だけど、昔は偽造問題でギルド職員は頭を悩ませていたとかなんとか。今でよかった。
今さらだけど、探索者にはランクがある。ダンジョン探索や依頼遂行率などの評価によってランクが上がっていく。10級から1級まであって、7級からは単独行動が許可される。まあ、単独行動でもできる依頼は報酬が微妙だったりするし、仲間のサポートがないからリスクも高い。だから単独行動の者は少ないんだけどね。
僕? 僕は数少ない変わり者ってわけ。
「お化けだあ?」
「笑うなよ。地下2階の北の25エリア、立ち入り禁止区域の近くで幽霊がでると駆け出しの間で噂になってる」
「昔の話だろ?」
「ああ、昔の話だ。だけど、今になって興味を持った者が出て来たみたいでな、奇妙な声が聴こえるとか、真っ白な人影が現れるとか」
「ばかばかしい。2階で不死が出るなら大事だ。それが本当なら今ごろ上級者が招集されてるぜ」
仕事の紹介を待つ間、他の探索者たちの会話が耳に入る。
確かに、普通の武器が効かない不死系の敵が地下2階なんて浅い階層に出現したら大騒動だ。ギルドもこんなに静かじゃないだろう。
昔、立ち入り禁止区域付近で幽霊が出るだのなんだの話題になったことがあったけれど、今になって再燃か? 火のないところに煙はたたないって言うし、気にはなるなあ。
なんとなく噂話に耳を傾けていると、職員が掌サイズの水晶を持ってきた。
「地下2階の照明水晶が不調だと連絡があったんだ。報酬が安くてもいいなら、ついでに交換してきてくれないか?」
「地下2階ってことは、メイン通路か。どっち側だ?」
「北ルートだな」
「ああ、僕は南ルート使ったからな。気づかないわけだ」
すでに探索済な地下1階から3階までは、別の階への最短ルートが確立している。メイン通路と呼ばれるそこには光を放つ水晶が設置されていて、駆け出し探索者でも迷わないようになっている。
ただ、2階と3階をつなぐルートは北と南の2つのルートがある。4階以下はさらにルートが増えると予想されている。ダンジョンは下層ほど複雑になっていくようだ。
依頼を受けて、僕は再びゴンドラ乗り場に向かった。
◆ ◆ ◆
「妙だな……」
無事に地下2階の照明用水晶を交換。そのまま3階に下りようとしたところで真新しい足跡を見つけた。
毎日何人もの探索者と、時には魔物や動物も歩き回るダンジョンだ。足跡なんかは珍しくない。
だけどその新しい足跡は、北のメイン通路からさらに北へ……いわゆる立ち入り禁止エリアの方に続いている。
探索者の教育課程を修了し、最後にダンジョンに入って実際に生活する実地訓練がある。その時は教官が立ち入り禁止エリアに案内して危険性を説明することがあるけれど、次の教育課程修了式はもう少し後のはずだ。
頭の中でこの先の地図を広げてみるけれど、見るような場所はなかったはずだ。
『お化けだあ?』
『笑うなよ。地下2階の北の25エリア、立ち入り禁止区域の近くで幽霊がでると駆け出しの間で噂になってる』
ギルドでの噂話が脳裏に蘇る。
ていうか、この先がまさに北の25エリアじゃんか。
足跡は……大きさと歩幅からして大人が2人と女性が1人か。
『任せとけ、とっておきの場所に案内してやるからよ』
『本当ですか? ありがとうございます。なかなか同行者が見つからなくて困ってたんです』
すれ違った三人の会話が唐突に思い出される。
……まさか。いや、まさかなあ。
立ち入り禁止エリア。
幽霊の噂。
足跡と同じ三人組の会話。
情報が奇妙な化学反応を起こして、不安がむくむくと頭をもたげてくる。
「……しょうがないなあ」
少しだけ様子を見てこよう。何もなければそれでいいんだから。
意を決して【立ち入り禁止】の看板が吊るされた、通路を封鎖しているロープを越える。
当たり前だけど、メイン通路を外れると照明は無くなる。たまに天井や壁に埋まっている陽光石が照らしているエリアはあるけれど、ダンジョンは基本的に暗闇だ。
この陽光石、どうやって光るのかはわかっていない。
ただ、地上が夜の時に光るから、ソーラーパネル型の照明みたいに昼に充電して夜に光っているんじゃないかと言われている。そのため、ダンジョンと地上では昼夜が逆転しているんだ。
陽光石が地球でも使えないかとお偉いさん方は考えたようだけど、そもそも仮説にある充電部分が地上に見当たらないので挫折している。
多分、充電部分はダンジョンがもともとあった異世界にあるんだろう。今ではそう結論づけられている。
っと、話がずれたね。
念のため明かりはつけずに進む。
ダンジョンに長くいると、個人差はあるけれど夜目が利くようになる。幸いにして僕は夜目がよく利く方だった。
足音を忍ばせ、いくつかの分岐を越える。全て行き止まりの意味のない分岐だし。
天井から水滴が落ちてきて、あちこちに小さな水溜まりを作っている。地下水が染み出ているようだ。
(そういえばこの先は、探索初期に崩落して通路が塞がったんだっけ)
その後も何度も崩落し、その危険性からここは立ち入り禁止にされたわけだけど、見張りがいるわけでもないので入ろうと思えば入れるんだよなあ。
幽霊を見たってやつも、肝試し感覚でこの通路に入ったのかもしれないな。
警戒しながら進んだけれど、何事もなく崩落した行き止まりに到達してしまった。
メイン通路から距離にして50mくらいか。古びた【崩落危険】の看板だけが僕を出迎える。
……おかしいな。三人はどこに消えた?
引き返した足跡はなかったから、どこかにいるんだろうけど。
魔法鞄から火打石と角灯を取り出し、火をつける。角灯は窓のシャッターを開け閉めすることで光源を絞れるから便利だ。油は高いけどね。
床を照らして足跡を調べる。水溜まりを踏んだらしく、濡れた足跡が続いていて……崩落した通路に消えている。
「どういうことだ? 幽霊みたいにすり抜けたわけじゃあるまい」
言いつつ、足跡が消えているあたりの岩を叩く……音が違う?
積み重なった岩の塊を押してみる。……って、動いた!?
ゆっくりと岩を押せば、人ひとりが通れるくらいのスペースが開いた。
「おいおい、なんだよこれ……」
中を覗いて驚いた。崩れた岩の裏側は、崩落を防ぐ梁がいくつも設置されている。比較的新しく、ダンジョン探索初期に作られたものとは思えない。大規模な崩落があったと聞いていたのに、通路は片付けられていて綺麗なものだ。
(崩落はカムフラージュなのか)
んー、これは。一気に胡散臭くなってきたな。
ギルドに報告に戻るか? ……いや、ギルドもグルだったらこっちが危ない。報告をするにも、なにかしら情報を得てからじゃないと動けないな。
よし。とにかく奥へ行くか。
角灯のシャッターを下ろし、闇の中を進むことにした。
生まれた時から娯楽がすぐ隣にあった若者たちには苦痛でしょうがなかったことだろう。
僕? ダンジョン探索が楽しかったから気にならなかったね。僕みたいな人間は一定数いたけれど例外。大半の探索者が娯楽に飢えていたっけ。
だからというわけじゃないんだろうけど、錬金術研がわずか3年でタブレット端末のプロトタイプを完成させたのは驚嘆に値するよね。
その技術が洗練され、その後2年で魔法を動力にしたドローンとタブレットが完成したんだから、人間の欲は恐ろしい。
こうして、外の人々が知りたくてたまらないであろうダンジョン内部の様子が、魔法から電波に変換されてお茶の間に届けられるようになったのは割りと最近のこと。
配信者は探索者の一角に名を連ねることになった。
とはいえ、僕は配信者にあまり良いイメージが無いんだよね。
ドローンの魔法電波は直に地上には届かない。ダンジョン各所に魔法電波中継用の魔法の道具を設置しないと地上まで届かないんだ。
そんな魔法の道具を安心して設置できる場所となると……わかるでしょ? すでに探索者が危険を排除した安全地域だ。
残念ながら、配信者は探索の最前線での配信ができないのが現状なわけ。……いや、できないわけじゃないけれど、配信者は戦闘に不向きな職だ。配信者の安全を確保できる仲間が必須だ。
なので多くの配信者が、安全な場所から安全なダンジョン内部を外に向けて配信しているだけ。
申し訳ないけれど、それが僕の配信者へのイメージだ。
ただ、配信者がダンジョンに潜るようになって良くなった部分もあるのは事実。
ひとつは治安だ。
ダンジョンなんて、潜ってしまえば中でなにが起きているのかわかりゃしない。一応、探索者となる際に書かされる宣誓書に、ダンジョンで悪事を働かないという宣誓項目もあるけれど、悪いことを考える奴はいつでもいるからね。
そして悪いやつらは危険と隣り合わせの最前線では悪さはしない。安全なエリアで、なにも知らない駆け出しを狙うことが多かった。
ところが、すでに攻略された安全なエリアにカメラつきのドローンがビュンビュン飛び交うようになって、犯罪者は格段に減った。
なにせリアルタイムで犯罪現場を押さえられてしまうのだから、犯罪者にとってメリットよりデメリットが上回ったわけだ。
ダンジョン内の治安を回復した点は、配信者を評価してもいいと思ってる。
もうひとつは、結果論だけど血に対する慣れだ。
安全が確保された地下1~2階でも魔物はでる。その魔物との戦闘がリアルタイムで、それこそノーモザイクで地上に中継されてしまうのだ。
ホラー映画と違い、いつ戦闘が始まるかわからないため編集できないのもある。だけど大きな理由は、なぜか魔法で中継された映像は加工、編集ができないのだ。元が魔法だから機械的な干渉を受けないんだろう、とは言われているけれどね。
政府は一度、ダンジョン配信の規制に動こうとしたことがある。しかし、世界中が注目するダンジョン内部の映像は需要が高く、配信者のチャンネル登録数は増える一方。とても規制などできなかった。
政府ができたことは、せいぜいが年齢制限をかけることくらいだ。
さて、前置きが長くなったが、この映画ではないリアルな戦闘映像は、人々を血に慣らすことになった。結果、初期の探索者を悩ませた血への恐怖に耐性をつけることに成功し、探索者の活動の一助になったというから世の中はわからないものだね。
もちろん、血に慣れた生活なんてよくないんだろうけどね。でも、ダンジョンではそれが歓迎されるんだ。
◆ ◆ ◆
探索者ギルドに顔を出す。夜だというのに多くの探索者たちで賑わっている。
依頼は掲示板に貼り出すという、ゲームや小説でお馴染みのタイプ。ギルド創設時に打ち合わせることなくこの方式に決まったというから、もはや様式美だね。
だけどカウンターに向かう。1人用の依頼はカウンターで尋ねた方がよかったりするのだ。
「これから地下に戻るんだけど、ついでにできる依頼はないか?」
「1人か? ランクは?」
「1人。ランクは5級」
探索者カードを提示する。最近は偽造防止用の魔法が付与されているので安心だけど、昔は偽造問題でギルド職員は頭を悩ませていたとかなんとか。今でよかった。
今さらだけど、探索者にはランクがある。ダンジョン探索や依頼遂行率などの評価によってランクが上がっていく。10級から1級まであって、7級からは単独行動が許可される。まあ、単独行動でもできる依頼は報酬が微妙だったりするし、仲間のサポートがないからリスクも高い。だから単独行動の者は少ないんだけどね。
僕? 僕は数少ない変わり者ってわけ。
「お化けだあ?」
「笑うなよ。地下2階の北の25エリア、立ち入り禁止区域の近くで幽霊がでると駆け出しの間で噂になってる」
「昔の話だろ?」
「ああ、昔の話だ。だけど、今になって興味を持った者が出て来たみたいでな、奇妙な声が聴こえるとか、真っ白な人影が現れるとか」
「ばかばかしい。2階で不死が出るなら大事だ。それが本当なら今ごろ上級者が招集されてるぜ」
仕事の紹介を待つ間、他の探索者たちの会話が耳に入る。
確かに、普通の武器が効かない不死系の敵が地下2階なんて浅い階層に出現したら大騒動だ。ギルドもこんなに静かじゃないだろう。
昔、立ち入り禁止区域付近で幽霊が出るだのなんだの話題になったことがあったけれど、今になって再燃か? 火のないところに煙はたたないって言うし、気にはなるなあ。
なんとなく噂話に耳を傾けていると、職員が掌サイズの水晶を持ってきた。
「地下2階の照明水晶が不調だと連絡があったんだ。報酬が安くてもいいなら、ついでに交換してきてくれないか?」
「地下2階ってことは、メイン通路か。どっち側だ?」
「北ルートだな」
「ああ、僕は南ルート使ったからな。気づかないわけだ」
すでに探索済な地下1階から3階までは、別の階への最短ルートが確立している。メイン通路と呼ばれるそこには光を放つ水晶が設置されていて、駆け出し探索者でも迷わないようになっている。
ただ、2階と3階をつなぐルートは北と南の2つのルートがある。4階以下はさらにルートが増えると予想されている。ダンジョンは下層ほど複雑になっていくようだ。
依頼を受けて、僕は再びゴンドラ乗り場に向かった。
◆ ◆ ◆
「妙だな……」
無事に地下2階の照明用水晶を交換。そのまま3階に下りようとしたところで真新しい足跡を見つけた。
毎日何人もの探索者と、時には魔物や動物も歩き回るダンジョンだ。足跡なんかは珍しくない。
だけどその新しい足跡は、北のメイン通路からさらに北へ……いわゆる立ち入り禁止エリアの方に続いている。
探索者の教育課程を修了し、最後にダンジョンに入って実際に生活する実地訓練がある。その時は教官が立ち入り禁止エリアに案内して危険性を説明することがあるけれど、次の教育課程修了式はもう少し後のはずだ。
頭の中でこの先の地図を広げてみるけれど、見るような場所はなかったはずだ。
『お化けだあ?』
『笑うなよ。地下2階の北の25エリア、立ち入り禁止区域の近くで幽霊がでると駆け出しの間で噂になってる』
ギルドでの噂話が脳裏に蘇る。
ていうか、この先がまさに北の25エリアじゃんか。
足跡は……大きさと歩幅からして大人が2人と女性が1人か。
『任せとけ、とっておきの場所に案内してやるからよ』
『本当ですか? ありがとうございます。なかなか同行者が見つからなくて困ってたんです』
すれ違った三人の会話が唐突に思い出される。
……まさか。いや、まさかなあ。
立ち入り禁止エリア。
幽霊の噂。
足跡と同じ三人組の会話。
情報が奇妙な化学反応を起こして、不安がむくむくと頭をもたげてくる。
「……しょうがないなあ」
少しだけ様子を見てこよう。何もなければそれでいいんだから。
意を決して【立ち入り禁止】の看板が吊るされた、通路を封鎖しているロープを越える。
当たり前だけど、メイン通路を外れると照明は無くなる。たまに天井や壁に埋まっている陽光石が照らしているエリアはあるけれど、ダンジョンは基本的に暗闇だ。
この陽光石、どうやって光るのかはわかっていない。
ただ、地上が夜の時に光るから、ソーラーパネル型の照明みたいに昼に充電して夜に光っているんじゃないかと言われている。そのため、ダンジョンと地上では昼夜が逆転しているんだ。
陽光石が地球でも使えないかとお偉いさん方は考えたようだけど、そもそも仮説にある充電部分が地上に見当たらないので挫折している。
多分、充電部分はダンジョンがもともとあった異世界にあるんだろう。今ではそう結論づけられている。
っと、話がずれたね。
念のため明かりはつけずに進む。
ダンジョンに長くいると、個人差はあるけれど夜目が利くようになる。幸いにして僕は夜目がよく利く方だった。
足音を忍ばせ、いくつかの分岐を越える。全て行き止まりの意味のない分岐だし。
天井から水滴が落ちてきて、あちこちに小さな水溜まりを作っている。地下水が染み出ているようだ。
(そういえばこの先は、探索初期に崩落して通路が塞がったんだっけ)
その後も何度も崩落し、その危険性からここは立ち入り禁止にされたわけだけど、見張りがいるわけでもないので入ろうと思えば入れるんだよなあ。
幽霊を見たってやつも、肝試し感覚でこの通路に入ったのかもしれないな。
警戒しながら進んだけれど、何事もなく崩落した行き止まりに到達してしまった。
メイン通路から距離にして50mくらいか。古びた【崩落危険】の看板だけが僕を出迎える。
……おかしいな。三人はどこに消えた?
引き返した足跡はなかったから、どこかにいるんだろうけど。
魔法鞄から火打石と角灯を取り出し、火をつける。角灯は窓のシャッターを開け閉めすることで光源を絞れるから便利だ。油は高いけどね。
床を照らして足跡を調べる。水溜まりを踏んだらしく、濡れた足跡が続いていて……崩落した通路に消えている。
「どういうことだ? 幽霊みたいにすり抜けたわけじゃあるまい」
言いつつ、足跡が消えているあたりの岩を叩く……音が違う?
積み重なった岩の塊を押してみる。……って、動いた!?
ゆっくりと岩を押せば、人ひとりが通れるくらいのスペースが開いた。
「おいおい、なんだよこれ……」
中を覗いて驚いた。崩れた岩の裏側は、崩落を防ぐ梁がいくつも設置されている。比較的新しく、ダンジョン探索初期に作られたものとは思えない。大規模な崩落があったと聞いていたのに、通路は片付けられていて綺麗なものだ。
(崩落はカムフラージュなのか)
んー、これは。一気に胡散臭くなってきたな。
ギルドに報告に戻るか? ……いや、ギルドもグルだったらこっちが危ない。報告をするにも、なにかしら情報を得てからじゃないと動けないな。
よし。とにかく奥へ行くか。
角灯のシャッターを下ろし、闇の中を進むことにした。
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