配信者と行く TSエルフのダンジョン探索記

とまと屋

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第12話

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 隠れ家に潜み、まずは道具の確認。
 背嚢バックパックは失ったけれど、腰鞄ウェストポーチは無事だし、腰に下げている物もあった。
 ボクは短刀ナイフが三本。そして水袋、割れていない薬水ポーションが一瓶。
 美桜は予備の小型の戦鎚ウォーハンマーが一つ。あとは水袋。胸甲ブレストは外れ、鎖帷子チェインメイルも脇腹の辺りが大きく焼けて損壊していた。ああっ、その下は結構な火傷じゃないか。
「ボクより後ろにいたから……」
「いや、ミヤコちゃんがいなかったら死んでたですよ。だから気にしなくていいっす」
薬水ポーションが残っててよかった」
 美桜に薬水ポーションを飲ませ、火傷を回復させる。感染症にでも罹ったら大変だからね。
「ご飯がないっす……」
「水袋があるだけマシだよ。入れ物がないと水すら持ち運べない」
 食料がないのは厳しいけれど、なんとか調達するしかないなあ。
 どちらにせよ、行動するなら夜になってからだけど。
 いや、待てよ。美桜って夜目が利かないはずだ。身体も大きいし、隠密行動に向かないんじゃないかな。
 あれ? もしかしなくてもボク一人で頑張らないといけない?
 あれえ?

         ◆  ◆  ◆

 隠れ家に潜んで二日目。ボクの不安は違う意味で現実になっていた。
「それじゃあ、行ってくる」
「ふあい。申し訳ないっす……」
 ぐったりと横たわる美桜を置いて、暗くなったダンジョンに出る。
 慎重にいかないとな。今の美桜は戦力にならない。
「……女の子だもんなあ」
 ぶっちゃけてしまえば、美桜に生理がきた。困ったことに美桜は生理が重い方らしく、ぐったりして動くのも辛そうだ。
 今、小鬼ゴブリンにでも襲撃されたら勝ち目がないな。まあ、小鬼ゴブリンを誤誘導する方法は用意したけれど……。
 ダンジョンの領域で使える生理用品が無いわけじゃない。だけど美桜が用意していた物は、あの爆発で失われてしまった。一週間、ダンジョン内の物で間に合わせるしかないんだよなあ。やれやれ。
 気配を殺してダンジョン内を進む。今回の目的は水と、可能ならば食料の確保だ。
 慎重に慎重に、近場の水場を目指す。水場のある広間には……やっぱり、焚き火が確認できる。
 おっと、広間の入り口に鳴子だ。おそらく警報用だろうけど、焚き火を囲んでいるのがボクたちを殺そうとした連中の仲間だとすると、ボクと美桜がかかるのを期待してのことかもしれない。
 短刀ナイフで鳴子の紐を切って……これでよし。
 広間は大体50m×50mほど。結構広いけれど、木も生えているし、大きな岩が点在していて見晴らしも悪い。それらに隠れながら近づくと、岩壁から染み出る水場の前に爆音鹿ショック・ディアが数匹、立って眠っている。そこから十分に距離をとって、男四人が焚火を囲んでいた。
「なあ、いつまでこうやって水場を見張っていればいいんだ?」
「逃げたやつらがくたばるまでだろ」
「どこにいるのか、わかったのか?」
「さあな、なにも聞いてねえ。まあ、この水場は俺たちが抑えているし、他の水場や階段も見張ってる。どこかに隠れているんだろうが、脱水で死にかけてるんじゃねえ?」
「一か八かでここに来ねえかな。脱水でふらふらなら簡単に勝てるだろ。そうすりゃお楽しみだ」
 爆音鹿ショック・ディアを刺激しないよう小声で話しているけれど、見張りを任されたにしては警戒感が薄すぎる。逃げたのが駆け出しだからって舐めてるな。
 こいつらのバックにいる者の正体は気になるけれど、今は水の確保だ。
 破れた外套マントで包んでいた物を取り出す。それはどす黒く染まった苔。
 ダンジョンには多種多様な苔や茸が生えている。その中で人間が薬の原料や触媒として利用できるのは一握りだ。
 この苔も、特に利用法は無い。だけど一つだけ他の苔を越える特性を持っている。
 それは、とてつもない吸水性を持っていることだ。乾燥していると吸水性はさらに上がり、一握りの苔で2Lほどの水分を吸収してしまう。吸水ポリマーかっ。
 この苔を持ち歩けば水袋はいらなさそうだけど、そうもいかない。水分を吸った苔は活性化して胞子を作るのだけど、この胞子が身体に良くないのだ。無毒なら水の補給には困らなかったのにね。
 さて、説明が長くなってしまったけれど、空気の流れを考えて苔を広間から通路へとばらまく。
 ちなみに苔は、すでに水分を吸収している。いやまあ、水分には違いないんだけど……つまり、血だ。
 もうわかったと思うけれど、美桜に生理用品の代わりに使わせたのがこの苔だ。

『こ、苔っ!? む、むむむ無理ぃっ! 気持ち悪いっす!』

 そう言って力一杯拒否されたけれど、なにもしないで放置ってわけにはいかない。血の匂いで小鬼ゴブリンが寄ってくる可能性が高いからね。
 このダンジョンの小鬼ゴブリンは漫画で広まったような、女性を性的に襲うような存在じゃない。だけど、弱いものを数の暴力で嬲り殺すことを楽しむ下衆だ。
 血の匂いは小鬼ゴブリンを引き寄せる。出血しているってことは傷ついている証拠だからね。
 実際、発熱してぐったりしている美桜じゃ小鬼ゴブリンの群れに勝つのは難しい。そう指摘したら諦めてくれた。

『じゃあ……ミヤコちゃんがやってほしいっす』
『なんで下を脱ぐ!?』
『苔なんて使ったことないから』
『使い方教えるから脱ぐのやめなさい!』

 思い出しても頭が痛い。美桜のやつ、女同士だからって恥じらいが無さすぎ。
 確かに見た目は女だけど、中身男のボクが美桜の、その……見ていいわけないだろう。
 ふう。
 さて、空気が循環しているダンジョンにも風溜まりがある。幸い、この広間にも端の方にあるので、そこに身を潜める。ここにいれば小鬼ゴブリンがボクの体臭に気づく可能性は低くなる。
 あとは……待つだけだ。
 ………………。
 ………。
 暗闇の中でどれほど待ったかな。男たちは交代で眠り、見張りのくだらない……さらに言えば下品な会話にそろそろ耐えられなくなったころ。複数の気配がやって来た。小鬼ゴブリンだ!
 数は……六体か。
 広間の入り口に置いた苔を拾ってつまらなさそうに投げ捨て、焚き火の方に目を向ける。
 どうやら男たちを獲物と認識したらしい。闇にまぎれ、焚き火に近づいていく。
 小鬼ゴブリンだって知恵はある。わざわざ接近を知らせるようなマネはしない。
 男たちは気づかない。気づいたのは爆音鹿ショック・ディアだ。
 警戒心が強い爆音鹿ショック・ディアは交代で眠る習性がある。鼻もいいし、先に気づくのも当然だろう。

 ブオオッ!

 見張りの爆音鹿ショック・ディアが吠える。あれは警戒の鳴き方だ。眠っていた爆音鹿ショック・ディアが次々と目覚める。
 それに気づいた小鬼ゴブリンが粗末な武器を振り回し、奇声を発して走り出す。気づかれた以上、コソコソしても意味がないと判断したんだろう。
「なんだっ!?」
小鬼ゴブリンだと!? 鳴子はどうした!?」
「迎撃、いや、逃げ────」
 爆音鹿ショック・ディア小鬼ゴブリンに向けて……吠えた。
 男たちが咄嗟に身を投げて、爆音鹿ショック・ディアの咆哮を回避したところは褒めていいだろう。だけど、衝撃波が焚き火を吹き飛ばし、周囲を闇に落とした。
「くそっ、見えない!」
「とにかく逃げ────」
 次々と爆音鹿ショック・ディアが衝撃波を放ち、小鬼ゴブリンたちを消し飛ばす。ついでに、射線上の男たちも巻き込まれてただの肉塊と化していく。
 哀れだけど、男たちにはそうなるだけの問題点があった。
 まず、鳴る子に任せきって周囲への警戒がおろそかになっていたこと。解除したのはボクだけど、下手すれば小鬼ゴブリンでも解除することがあるんだぞ。
 もう一つは、焚き火を見つめていたこと。ダンジョンでの野営では、焚き火を背にして周囲の闇に目を慣らしておくのが鉄則だ。そうしておかないと、焚き火が消された時に周囲が見えなくなってしまう。周囲が見えていれば、爆音鹿ショック・ディアの位置から衝撃波の射線を読んで、肉塊になる運命は回避できたかもしれないのに。
 広間はすぐに静かになった。動くものは興奮冷めやらない爆音鹿ショック・ディアとボクだけ。
 すぐには動かない。爆音鹿ショック・ディアが落ち着くまで待つ。でないと次に消し飛ぶのはボクだし。
 闇の中でひとり待つ。ソロで活動してきたから慣れたものだ。
 やがて、爆音鹿ショック・ディアが見張りを残して動きを止めたころで動き出す。
 まずは男たちの荷物を物色。……んー、身元を証明するような物は無いなあ。まあ、期待はしていなかったけれど。
 さて、食料は……保存食がいくつか無事か。お、ランプに油もあるな。あとは毛布もあった、これは助かる。
 使えそうな物を頂戴する。全部ではなく、少し残して。残った物はズタズタに引き裂いてばら撒いて、小鬼ゴブリンに襲撃されたように装う。ボクと美桜が生き残っていると思われないようにしないとね。
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