配信者と行く TSエルフのダンジョン探索記

とまと屋

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第13話

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「ん……朝、いや夜か」
 ダンジョンは陽光石サン・ストーンによって擬似的な昼夜が存在する。普通は陽光石サン・ストーンが輝く昼間に活動し、輝きが消えれば安全な場所で就寝するのが普通。
 でも、最近は夜にばかり活動していたからなあ。完全に昼夜逆転してしまったか。
 ……あー、でも。陽光石サン・ストーンは昼に蓄えた太陽光を夜に放っているって仮説だったかな。実際、地上とダンジョンでは昼夜が逆転しているし。
 じゃあ、昼夜が戻ったってことかな。いやまあ、どうでもいいんだけど。
「美桜、起きろ。そして離せ」
「んあ……もうちょっと……」
「生理は終わっただろう、いい加減にしろ」
 毛布は確保したものの、生理中の体調不良で身体が冷えるという美桜に、ここしばらく抱き枕にされる日が続いた。
 美桜は……あまり凹凸のない身体をしているけれど女の子だ。そんな彼女に中身男の自分が抱きしめられるというのは色々問題だと思う。
 いや、当然だけど最初は拒否した。うん、当然。だけど離れて寝ていても、気がつくと美桜に抱きしめられていて諦めるしかなかった。
 寝相悪いな。
 ひとつ幸いだったのは、美桜の怪力のせいで痛みが上回り、変な気分にならずに済んだことか。お陰で全身が悲鳴をあげてるけどね……。
「いい加減、起きろ!」
「んぎゃっ!? ……ミヤコちゃん、酷いっす……」
 顔面に頭突きをくらわせて、ようやく離してくれた。あー、全身が痛い。
 この隠れ家に潜伏して一週間は過ぎた。追っ手はもとより、普通の探索者エクスプローラーにも見つからなかったのは幸運だろう。その幸運がもう少し続いてくれることを祈る。
「様子を見てくる。いつでも出発できるようにしておくように」
「了解っす」
 緊張の面持ちの美桜に見送られ、ダンジョンへと踏み出す。まず確認するのは、あの水場だ。
 水場を見張っていた者たちが小鬼ゴブリン爆音鹿ショック・ディア との争いに巻き込まれた────ということになっている────次の日、再び水場の様子を見に行くと数人の探索者エクスプローラーがいた。
 ……その中に鋼もいた。
 少なくとも、探索者エクスプローラーランクが5級以上の鋼が地下2階でキャンプをする理由がない。まして、あの隠された区域でボクを刃にかけたんだ。すぐに罠だとわかったよ。
 普通の探索者エクスプローラーのふりをしていたけれど、あれは逃げたボクと美桜を待ち伏せていたに違いない。名の知れた探索者エクスプローラーである鋼の姿を見れば、安心して助けを求めると思っていたんだろう。
 なので二日目以降は別の水場をこっそり利用したり、水滴を集めて水を確保するなどして凌いだ。
 あれから一週間。そろそろ追っ手も、ボクたちが死んだと判断してもおかしくない。
 というか、判断してほしい。確保した保存食も、少しずつ食べていたけれど無くなった。これ以上、隠れて生活するのは難しい。
「……いない?」
 水場に人の気配は無かった。鳴子の類いも見当たらない。
 次に階段を確認。こっちは……いない。
 昨日までいた見張りが、1階、3階に続くどちらの階段付近にもいなくなっている。
 慎重に3階に下りてみるけれど、拠点の門の前に門番がいるだけで、付近に何者かが潜伏している様子もないみたいだ。
 急いで、だけど静かに隠れ家に戻る。
「美桜、我慢比べはボクたちの勝利だ 」
「ってことは!」
「すぐ出発するよ」
 自分が先導して地下3階への階段に向かう。美桜は闇の中でも歩けるけれど、夜目が利くわけじゃないからね。
「あれ。地上に出るんじゃないんですか?」
「地上へのゴンドラは誰が使用したかわかるからね。まだボクたちは死んでいることにしておいた方がいい」
 夜とはいえ、地下より地上は人が多い。誰に見つかるかわからないし、そもそも探索者エクスプローラーギルド内部に共犯者がいないとも限らないからねえ。
 あの奥で誰がなにをしているのか。それを調べて、証拠を揃えて公にしないと安心して生活できそうにないんだよ。
 警戒しながら地下3階に下りる。
「……わあ」
 そう呟いたきり、美桜は動きを止めてしまった。まあ、わかる。3階に拠点があるのは知っているだろうけれど、見ると聞くとでは大違いだし。
 美桜に見えているのは拠点を照らす無数の松明と高い壁だけだろう。だけど広さが半端ないのだ。
 地下3階は天井の高い広大な空洞だ。無数の太い石柱が規則正しく並んで天井を支えているけれど、問題なく拠点を作れるくらいには土地が余っている。
 東京ドーム何個分だっけ……まあ、とにかく広いのだ。
 拠点がある場所は、元は街か砦があったのではないかと考えられている。拠点を中心にして円を描くように石畳が走っていて、明らかに人工物なのだ。石畳の色使いもカラフルだし。
 まあ、風化が進んでいるのか建物の類いは残っておらず、壁や柱が残るだけ。植物の侵食も進んでいるので、ここがなんだったのかはどんどんわからなくなるだろうな。
 天井は……高い。2階から3階に続く階段の落差はせいぜい20mほどなのに、地下3階の天井までは100mはあるんじゃなかろうか。ダンジョン内部は空間が歪んでいると言われているけれど、これを見れば納得だ。
 天井には3階全体を照らせるほど無数の陽光石サン・ストーンがあって、地下にいても規則正しい生活ができる。
 日光が届けば植物も育つ。拠点を囲む森は実に豊かで、拠点で生活する人々の食を助けている。まあ、魔物も動物も棲んでいるので危険と隣り合わせなんだけど。
 だからこそ高い壁。そして屈強な門番がいる頑丈な門。二ヶ所ある門からしか拠点には入れない。
「はーっ……ようやくベッドで寝られるっすね。……って、どこに行くんです?」
「門からは入らない」
 門に向かって歩きだそうとした美桜の手を引き、崩れた壁や石畳を貫いた木の間を抜けて、拠点の壁沿いに隠れながら進む。
 ボクの言葉に美桜は驚きを隠さない。
「なんでですか!? 見張りはいなくなってるんですよね?」
「そうだね。だけど、門を通る時は探索者エクスプローラーカードか、ゲストの身分証明カードが必要だ。そうなると、ボクたちが生きていることがバレる。……どこに敵の仲間がいるかわからない以上、ボクと美桜は死んだことにしておかないといけない。わかる?」
「……なんとなく?」
 脳筋め。
「……あ。でもでもっ、それだと武器や道具、なにより食べ物が調達できないっす。拠点に来た意味が無いっす!」
 お、さすがに気づいたか。うん、他者との接触を禁じたら補給ができなくなる。だけど……。
「一つだけアテがある。うまくいけば、身を隠せるし、落ち着いて今後のことも相談できる」
「うまくいけば、っすか。そこは『任せろ』くらい言ってください」
「ダンジョン内で安請け合いできることなんか、死だけだよ」
 拠点から離れて、増えてきた木々の間に踏み込む。拠点の松明から遠ざかるから真っ暗だ。足下に注意しながら、美桜の手を引いて進む。
 ええと、目印の大岩があそこだから、そこからこっちへ曲がって……あった。
 到着したのは一本の巨木。幹回りは10メートルくらいあるだろう。
 木の根本には砕かれた石が散乱していて、まるで石畳を突き破って生えてきたように見える。多分、石畳の隙間から芽吹いたものが、長い年月をかけて石畳を砕き、押し退けて成長したんだろう。似たような木は他にもいくつかある。
 さて、念のため周囲を再警戒。……うん、ダンジョンの夜の森に踏み込む物好きも、魔物もいなくてなによりだ
「この木がなんです?」
「うん、ここを……こう」
 地上に露出した太い根に囲まれた石畳の名残。その一枚を持ち上げる。すると、ぽっかりと空洞が現れる。
「ええっ!? こんなところに穴が?」
「天井低いから気をつけて」
 暗闇の中、穴に誘導すると美桜は驚く。
 美桜が入ったら石畳を戻して、と。
「美桜はここで待ってて」
「なにをどうするのか知らないけど、戻ってきてくださいよ?」
「まあ、頑張るよ」
「安心させてくださいっすよー……」
 美桜を置いて、巨木の根の隙間を抜けて奥へ────拠点の方へと進む。しばらく進むと行き止まり。天井に石の板がある。
 石の板を少し持ち上げ、回転させて、また持ち上げて今度は反対に回転させて……。
 手順を踏んで石の板を持ち上げた先は、真っ暗な小さな倉庫。雑多な品物が整然と棚に並んでいるのは店主の性格だね。
 倉庫の扉はあるけれど、内側からは開けられない。いや、正確に言うなら、一度外から開けないと内側から開けられない仕掛けになってる。だから、外から開けてもらうことにしよう。

 チリンチリン♪

 扉に吊り下げられた鈴を鳴らし、倉庫の中央に座り込む。さて、起きていてくれよ……。
 しばらくして。鍵を開ける音がして、ゆっくりと……ゆっくりと扉が開く。隙間から細く射し込んでくるのは角灯ランタンの光か。
 警戒心むき出しで覗き込んでくる店主に、ボクは静かに声をかけた。
「夜分に失礼するよ、小梅」
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