配信者と行く TSエルフのダンジョン探索記

とまと屋

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第16話

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「にしても、ミヤコちゃん細いっすねー」
「……子供だからね」
 ボクと美桜は今、小梅の店の奥で身体を拭かせてもらっている。いやほら、一週間もお風呂に入ってなかったし、体臭がね……。
 3階の拠点には公衆浴場がある。緑ラエンの欠片二つで入れる格安浴場で、多くの探索者エクスプローラーの憩いの場になっている。サウナも設置されているし、露天風呂まで用意してある。
 日本人の風呂への情熱を感じる施設だよ、あそこは。なにせ、3階の貴重な水源を公衆浴場につぎ込んだみたいだからね。まあ、だからダンジョンでも清潔でいられるんだけど。
 そこに入ればいいって? 残念だけど、それは無理だ。ボクたちはまだ表に出られないから。
 ボクはエルフだから、公衆浴場に行こうものならすぐにバレる。さくらですら警戒して公衆浴場には行っていないというんだし、ボクや美桜はなおのこと行くわけにはいかない。
「そういえば、ミヤコちゃんって地上でもみんなとお風呂入らなかったよねー」
「……静かに入りたいんだよ」
 ボクの背中をゴシゴシしながら美桜の疑問。ボクの返答は……嘘だ。
 中身男のボクが、他の女性と一緒に女湯に入るわけにはいかないでしょ。だから湯桶をもらって部屋で身体を拭いてたんだ。
 当時は一部の女性探索者エクスプローラーがよく誘いに来てくれたっけ。ことごとく断っていたけれど、お風呂で異種族コミュニケーションをしようと考えてのことだったと知った時には、もう誰も誘いに来てくれなくなっていた。申し訳なく思っている。
 だけど、ボクが女湯に入るわけにはいかないじゃん! 本当は熱い湯に肩まで浸かって、ふやけるまで堪能したいんだけどさ。
「うわー、ミヤコちゃん、すっごい垢でるー」
「実況するな」
「この垢で人形作ろうか」
「やめろ」
 当たり前だけど、綺麗好きな人間は探索者エクスプローラーになれない。依頼の内容によっては数日、風呂に入れないのは当たり前だからね。トイレが設置されているだけマシと思わないと。まあ、そのトイレにしたって、いつでも行けるわけじゃないんだけどね。
 だけど美桜は、そこから少しズレてる気もするなあ。女の子が垢について楽しそうに話すんじゃない。垢を集めて人形を作るのは昔話だけでいい。
「はい、洗えたっす。次はあたしの背中お願いー」
「ほいほい……って、早く後ろを向けっ!」
 椅子の上、尻を支点にして反転して、すぐにまた反転した。だって、美桜はこっちを向いたままだったんだよ。筋肉質で凹凸の無い、だけど女の子の身体が一瞬だけど見えちゃったじゃないかっ!
 嫌でも美桜が女の子だって実感する。ぬおおおおっ、消去デリート! 消去デリート! 短期記憶よ消え失せろ!
「女の子同士で恥ずかしがることないじゃないですかー」
「美桜はもう少し恥じらいを持つべきだ」
「んー、修行中は兄弟子と一緒にお風呂入ったりしてたから今更っすよ」
「今からでも!」
 性格もあるんだろうけど、修行時代にも問題あり、と。
 ようやく後ろを向いた美桜の背中を拭いてやる。うわっ、硬い。細いけどすごい筋肉だなあ。あのデカイ戦鎚ウォーハンマーをぶん回すだけはある。
 当たり前だけど垢は出る。わざわざ実況しないけどさ。
「それでミヤコちゃん、これからどうしましょうかね」
「小梅の情報待ちかな」
 美桜の硬い背中をゴシゴシしながら、先ほどのことを思い返す。


「皆さんに見てもらいたい画像があるんです」
 ボクと美桜が身体を拭く前。さくらが魔法のタブレットを持ってきて撮影したものを見せてくれた。
「私、男たちに乱暴されそうになった時、その人たちの……ボス? らしき人がやってきたんです。全員がその人に気をとられた瞬間、咄嗟にドローンでフラッシュを焚いて目くらましして逃げ出したんですけど、どうやら撮影モードだったみたいで……」
 タブレットには天井から床、壁まで木造の、ダンジョンの中とは思えない一室が映っている。そこには木製のドアを開けて、室内に入って来た男性が映っている。ダンジョンには不似合いなスーツ姿で。
 ダンジョンでは化学繊維が使えないから、100%天然素材なんだろうけど、なんという無駄遣い。
「男たちは彼のことを社長と呼んでました」
「社長、ね……。この画像はコピーできたりは……」
「あー、さすがにまだコピー機能はないですね」
「そっか。しょうがない」
 呟いて、小梅は紙と木炭を取り出して画像の男の似顔絵を作りだす。
「どうするんですか?」
「地上の知り合いに調べてもらう。ダンジョンの領域から出ればネットも使えるし、何者かわかれば対策も立てられるかもしれないしね」


 こうして、小梅の情報待ちになったわけ。
 社長と呼ばれた男が、あの立ち入り禁止エリアでの一連の事件の黒幕なんだとは思うけれど、確証がない。それについては実際に立ち入り禁止エリアに侵入して調べないといけないだろうな。
 ともかく、今のボクたちがすべきことは、いざという時すぐに動けるように体調を整えておくことだろう。
「ミヤコちゃん」
「なに?」
「あたしの垢はたくさん出るっすか? 痛いっ」
 黙って脳天にチョップしてやった。
 …………。
 ……。
「しばらくお世話になります」
「まあ、事情が事情だ、構わないよ。ただ、荷物の整理くらいはやってもらうけどね」
 ボクと美桜は、さくら同様に小梅の店に匿ってもらうことになった。もちろん、ただ隠れているだけじゃない。情報を集め、準備をして、奴らの悪事を白日の下にさらしてやらねば。
 しかし、ここで予想外の戦いが始まってしまった。
 小梅は一人で店を切り盛りしている。たまに手伝いが入ることもあるけれど、泊まり込みでの従業員はいないし、小梅も誰かを泊めるつもりなどない。なので客間なんて気の利いた部屋はこの店に存在しないのだ。
 これはまあ、ダンジョンの都合もある。3階の拠点は広いとはいえ限界がある。広い店はそれだけ土地代が必要で、小梅の道具屋は倉庫のスペースが重視されて個人の部屋は最低限だったのだ。
 じゃあ、さくらはどこで寝泊りしていたかというと、倉庫の片隅に布団を持ち込んでいた。当然、ボクたちもそこしか寝る場所がないんだけど……布団が三つ置けないのだ。
「ミヤコちゃん、あたしと一緒に寝ましょう」
「美桜さんズルイ。私もミヤコちゃんと寝たいです」
 なぜだか二人がボク争奪戦を始めてしまった。抱き枕じゃないっての。
 まあ、ダンジョン潜伏中に美桜とは一緒に寝てたけど、毎回抱きしめられて全身が痛くなるから勘弁してほしい。それに寝てても怪力は健在で、夜中に目が覚めても美桜の拘束から抜け出すのが大変で……。
 え? 拘束から抜け出す理由? ……訊かないで。
 間に合ったかどうかも訊かないでっ!
 じゃあ、さくらと寝ればと言われれば……これも難しい。
 いや、なんだ。さくらはその……かなーり胸が大きいのだ。中身男のボクが年頃で巨乳の女の子と同じ布団とか、なんて拷問だ? いや、それ以前に事案だ事案!
 なので。
「さくらと美桜が一緒に寝るといい」
「「却下!」」
 そんなところで息が合わないくても。
「よーし、さくら、勝負っす」
「じゃあ、カードで」
 止める暇《いとま》もなく、まるで修学旅行の夜みたいに二人は激しいポーカー勝負を始めてしまった。
 どうしてそこまでムキになるのかわからないまま、二人の勝負は深夜にまで及び、小梅が「早く寝ろ」と怒鳴り込んでこなければどうなっていたかわからない。
 結局、二つの布団をくっつけ、三人、川の字で寝ることになってしまった。当然、ボクが真ん中だ。
 ああ……早く一人で眠りたい。
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