配信者と行く TSエルフのダンジョン探索記

とまと屋

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第22話

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「社長は?」
「おいっ、今社長は……って、なんだそいつらは」
「侵入者だ」
 侵入者……つまり、ボクとさくらだ。
 ボクとさくらは縛られ、猿轡を噛まされて物のように運ばれてきた。さくらは肩に担がれ、ボクは小脇に抱えられて。……改めて子供の身体になったと思い知らされるな。
 ダンジョンに似合わない、質の良い木材を使った重厚な扉の前。見張りに立っていた男は運ばれてきたボクたちを見て、嫌な笑いかたをした。
「丁度いい。手配していた女が使えないって、社長の機嫌が悪かったんだ。そいつらを見せれば機嫌も直るだろうよ」
 わざわざダンジョンに女を連れ込んでいるのか。ムラサメの社長、かなり女癖が悪そうだ。
「おい、社長をお呼びしろ」
 見張りが扉を開けて中にいた仲間に声をかけると、その男は安心したような、呆れたようなため息とともに奥の扉へと消える。
 その間にボクとさくらは、ダンジョンでは違和感しかないソファーの上に荷物のように置かれた。そしてボクたちを運んできた者は、手近にあった棚の上にボクたちの荷物とドローンを置き、そのまま出ていった。
 ……さくらに見せてもらった映像の部屋に間違いないな、ここ。壁も床も木材が張られ、床にはカーペット。テーブルにソファー、天井には蝋燭が立てられたシャンデリアのような物がぶら下がっている。この部屋だけでもいくらかけてるんだか。
「運がよかったな、お前たち。社長がいなかったら、俺たち全員を相手にすることになっただろうぜ。……いや、でも社長だからなあ、運が悪かったか」
 その言葉を聞いてさくらが不安げに唸り、身体をよじる。そんなさくらを見て男は笑いを深くした。楽しんでるな、こいつ。社長も社長なら部下も部下か。

 ガチャリ。

 扉の開く音がした。音の方に目を向けると、予想外のものが目に入ってきた。
 社長を呼びに行った男と別の男が担架を運んできた。乗せられているのは一人の女性。白いシーツのようなものを被せられているけれど、肩が見えているから、おそらく裸なんだろう。
「……………」
 目を見開いたまま、なにかブツブツと呟くだけの彼女は到底無事とは思えない。運んでいる男たちもうんざりしたような顔だ。怯えるさくらを笑っていた男も黙り込んでしまった。
 彼女がなにをされたかは知らないけれど、一つだけわかる。ムラサメマテリアル社長、雨村令二あまむら れいじ、やつは最低な人間に違いないってことが。
 担架が外に出るのと入れ違うように奥の扉が開いて、ダンジョンでは違和感しかないスーツ姿の男が姿を現した。来たっ、雨村令二だ!
 生で見るのは初めてだけど、神経質そうな顔はそのままで、常にイラついているような感じがする。その雨村は縛られ、ソファーに放置されたボクとさくらを見てニタリと笑った。
 鰐の方が可愛いな。
「ほ~う。ほうほうほう。これはこれは」
 ニタニタと笑いながら雨村はボクたちに近づき、さくらの顔をぐいっと持ち上げた。
「見たことのあるお嬢さんだと思ったら、二ヶ月ほど前にここから逃げたお嬢さんじゃないかね。どこに隠れていたのか知らないが、まさか君の方から戻ってきてくれるとはね。……歓迎するよ」
「んんーっ!」
 べろり、と。雨村はさくらの頬を舐めた。さくらは目を見開き、嫌悪感から身体を震わせる。
 だけどさくら、よく我慢した。偉いぞ。
 しかし予想以上にヤバイやつだった。雨村はそのままさくらの硬革鎧ハードレザーを脱がそうとする。まさかここで始めるつもりか。それはマズい!
 と、ここで雨村は室内に残っていた見張りに気づいた。
「お前、なにをしている?」
「は。あ、いえ……」
「私の楽しみを邪魔するんじゃないっ! さっさと見張りに戻らんか、この役立たずがっ!」
「失礼しましたっ!」
 一喝された見張りは部屋を飛び出していく。残されたのは雨村にボク、さくらだけとなった。よし。
「むううーっ!!」
 声をあげてもがけば、ようやく雨村はボクに視線を移した。そして目を見開いた。
「これは驚いた、ガキだと思ったが噂のエルフじゃないか。死んだと聞いていたが、よくあの爆発を生き延びたものだ。ふむ、異種族の女はどんな味かねえ……」
「むううーっ! むうーっ!」
「うーっ! ううーっ!」
 うわ、背筋に悪寒が。
 だけど、このままでいるわけにはいかない。雨村を睨みつけ、むぐむぐと唸り続ける。さくらもそれに続くと、ようやく雨村は理解したようだった。
「はっはっはっ、芋虫のように無様な。……どうやら私に言いたいことがあるようだね。いいだろう、私は優しいからな、聞いてやろう」
 恩着せがましく言うと、雨村はボクたちの猿轡を外した。ここで大声などだしても、助けなど来ないと知っているからだろう。
「ここは……ここは昔、崩落があって立ち入りが禁止された場所のはずです。なのに入口を偽装して……、こんなところでなにをしているんですか、ムラサメマテリアルの社長ともあろう者が」
「ほほう、私も有名になったものだ。こんなネットも繋がらない穴ぐらの者たちにも知られているとは」
 さくらの言葉に雨村は愉快そうに笑う。
「その穴ぐらに潜って女漁りとか、自慢できることじゃないだろうに」
「……口を慎め、チビエルフ。異種族でなければとっくに始末しているかもしれないんだぞ?」
 ……つまりこいつは、巨乳好きってことか。欲望に忠実なことで。
「それで、なにをしてるんですか」
「そんなに知りたいのかね。……いいだろう、冥土の土産に聞かせてやろう」
 さくらが話を戻すと雨村はニタリと────ミツクリザメの方が可愛い────笑い、期待通りの台詞を口にした。
「そもそもっ、ダンジョンで採掘された鉱石はそのまま外に持ち出すことはできない。ダンジョンの領域が広がってしまうからね。では、鉱石を外に持ち出せるよう加工する技術を開発したのはどこかね?」
「……ムラサメマテリアルですよね?」
「その通り! 我が社の技術がそれを可能としたのだよ。そして国に貢献した。それは揺るぎない事実!」
 腕を振り上げ、まるで演説するように雨村は叫ぶ。自社の技術への誇りがその言葉から感じられるようだ。
 だが、その表情が怒りに歪んだ。
「しかぁし! 国はダンジョンで採掘された鉱石を買い取ると、公平に配分するなどと愚かな行為に及んだ。なぜだ!? おかしいだろう? 我がムラサメマテリアルあってのラエン銀のはずだ、我が社にもっとも多く配分してしかるべきだろう! いや、我が社が独占してしかるべきだ! なのに、ろくな技術も持たず、我が社の技術のおこぼれにあずかる弱小企業になど情けをかけおって! 政府は我が社の技術で票を買いおったのだ!!」
 ……なるほど。自分たちの技術で他の企業が潤うのが気に入らないと。とはいえ独占禁止法もあるし、ムラサメマテリアルだけが潤うのは日本全体として見ても良くはないよね。雨村の言う通り、政治家が票を意識していないとは思わないけれど、これに関しては雨村の逆恨みだろう。
「だから、勝手に掘っているのですか?」
「勝手? なにを言っているのかね。ここの鉱脈を発見したのは我が社の子飼いの探索者エクスプローラーだよ。国に一番貢献した我が社が独占してなにが悪いのかね? 当然の権利だ!」
「だったら、どうして入口を隠しているんだ? この世界のまつりごとには詳しくないが、当然の権利だと言うなら堂々としていればいいじゃないか」
 ボクの言葉に雨村は一瞬口ごもり、わかりやすくその顔が不快そうに歪んだ。
「……ふん、所詮は異世界の野蛮人か。地球のことを知らないようだ。……いいかね? 我が社が富を得るのを快く思わない者は多いのだよ。だから我が社がここで採掘さていることは知られてはならないのだ。例え入口を隠しても嗅ぎ回る輩は多かったのでね。……まあ、そういう奴らは崩落に巻き込まれてことごとく死んだがね。……崩落はまさに天罰だ!」
 天罰だ、と叫びながら雨村はゲラゲラと笑う。どうやら雨村の中では自分たちは絶対の正義で、邪魔する者は悪みたいだ。なにが原因でこうまで歪んでしまったのかな。見ていて悲しくもある。
 とはいえ、このままにしてはおけない。訊きたいことはまだあるんだ。
「……言葉は正しく使った方がいい」
「なんだと?」
「何人殺した?」
「…………」
「なにが天罰だ。過去、そして少し前、崩落に見せかけて……何人殺した?」
「……言っている意味がわからんね。探索者エクスプローラーギルドはあれを崩落事故と発表している。私が崩落に見せかけただの、言いがかりも甚だしい」
「そうか? だったら、どうしてボクに対して『よくあの爆発を生き延びたものだ』と言ったんだ? あれが単なる崩落でなく爆発だと知っているのは、生き延びたボクと……爆発を仕組んだ者だけだぞ」
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