配信者と行く TSエルフのダンジョン探索記

とまと屋

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第23話

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 ボクの指摘に雨村は沈黙し、ややあってからクツクツと喉を鳴らして笑い出した。
「く、くくっ……。いやはや、私としたことが。死んだと思っていたエルフの生存に驚き、口が滑ってしまったようだ」
「まさか、過去の崩落もあなたの指示だったと言うのですか!?」
「……まあいい、これも冥土の土産だ。ああ、そうだとも、このエリアで発生した崩落はすべて私の指示によるものだよっ!」
 驚いたようなさくらの言葉に、雨村はとうとう開き直った。もとよりボクたちを無事に帰すつもりなどないようだし、教えても問題ないと考えてのことだろう。
「ここの鉱脈を押さえたはいいが、他社の息のかかった探索者エクスプローラーが嗅ぎまわっていたのでね、死んでもらうことにしたのだよ。崩落が多発すると周知されれば立ち入りも規制できるはずだから、崩落を起こして犠牲になってもらったよ。お陰でここは立ち入り禁止になって我が社の関係者以外は近寄らなくなった」
 開き直ったせいか、雨村の口は滑らかに回り続ける。
「しかし、慣れとは恐ろしいものだな。部下の警戒心は薄れ、ここに立ち入る姿を見られて幽霊騒ぎときたものだ。そして愚か者が君を連れ込み、逃げられるという失態を犯した。君が地上に逃げてこの場所の秘密を吹聴したらと、気が気ではなかったよ。いやはや、どこに隠れていたかは知らないが、大人しくしていてくれて助かったよ」
 そう言いながら、さくらの頬を撫で回す雨村。さくらは涙目だ。鳥肌が立っているのも見える。
 助けを求めるようにボクを見るさくら。我慢だ、もう少し我慢だ。
「大人しく、と言えばそっちのエルフもだよ」
「ボク?」
 おっと。ボクに話が飛んできた。
「ああ。生き延びたのならさっさと地上に逃げて、なにがあったのか吹聴するかと思ったが……やれやれ、探索者エクスプローラーになるような者たちは、よほど穴ぐらが好きと見える。思考が他者とは違うのだな」
 さらりと全探索者エクスプローラーを敵に回すような発言をするなあ。その探索者エクスプローラーに会社を助けてもらってるのに。
 まあいい。話に乗ろう。
「どうしてボクの同期を殺した。事故に見せかけてまで」
「うん? 別に大したことではないよ。彼女が逃げたこともあって、あの入口は封鎖する方向で話が進んでいたのだ。だが、探索者エクスプローラーギルドが通路を封鎖するには相応の理由が必要だ……そう、また死者が出るとかしないとなあ」
 それがどうした?
 そんな声すら聞こえそうな、罪悪感ゼロの顔でのたまう雨村。人の命をなんだと思ってるんだ。
「聞きたいことはそれだけかね? ならばそろそろ、君たちがどこから侵入してきたのか、身体に訊いてみようか。ああ、好きなだけ叫んでくれていいぞ。どうせ助けなど来ないからなあ」
 言うなり、雨村はさくらを抱き上げ、硬革鎧ハードレザーの固定紐に手をかける。その顔は好色に歪み、社長ではなくただの雄と化していた。
 さくらが青ざめた、悲痛な顔をボクに向ける。
「ミ、ミヤコちゃん、そろそろ……」
「そうだね、もういいよね」
「……おい、待て。お前たちなにを言って────」
 雨村の問いを無視してボクは叫ぶ。
「美桜!」
「はいっすー!」
 勢いよく扉を開けて入ってきたのは、ボクとさくらを運んできた人物。その正体は……美桜だ。
 どういうことなのか、説明するために時間を少し戻そう。それは、ボクとさくらが坑道をドローンで撮影していた時のことだ。

         ◆  ◆  ◆

「動くな」
 背後からの声に、周囲への警戒をおろそかにしていた自分を呪いたくなった。いくら不正の証拠を見つけたとはいえ、気が緩みすぎていた。
(どうする?)
 最善の策を求めて脳が忙しく働く。最低でもさくらは逃がさないといけない。
 声との距離は……大体5m前後か。こんな近くまで接近されるのを許すとか、坑道の方に注意が向かいすぎていたか。反省は無事に帰れたらするとして、今はこの状況を────。
「……ぷっ」
「?」
 予想外の声────しかも笑いを堪えているような────が聞こえてきて、思わずさくらと顔を見合わせる。さくらがこっそりとタブレットを操作……多分、ドローンのカメラを動かして、小さく声を上げた。
「……美桜さん!?」
「え、美桜?」
 二人して振り返ると、そこにはお腹と口を押さえて笑いを堪えている美桜がいた。
「……美桜」
「ご、ごめんっす。動きを止めてるのに、ミヤコちゃんがめっちゃ焦ってるのがわかって、なんかツボに……ぷぷっ」
 コノヤロウ。
 というか、どうしてここにいるんだ。
「いやー、罠にかかった岩蜥蜴《ロックリザード》を処理して、戻ってきたら扉の見張りの男があたしに気づいて、交代要員と間違えたみたいなんですよー。なので交代して、中に入ったらこそこそしているミヤコちゃんとさくらが見えて……つい」
 つい、じゃないぞ、まったく。


【え、なに、お仲間?】
【見つかったわけじゃなさそうで一安心だけどさあ】
【ていうか、さくらちゃん以外に誰いるのさ?】
【それな。なんか幼い声したけど誰? ミヤコって子?】
【さくらちゃん、紹介してーっ】


「……ということです」
 すごい勢いで流れていくコメントをボクたちに見せながら、さくら。そういえば自己紹介のタイミングを逃してたなあ。ちょっとした騒ぎになるのは見えているけれど、自己紹介はしておかないといけないか。
 というわけで、美桜を座らせて自己紹介となった。
「まずは私。及川さくら、16歳です。配信者として初めてダンジョンに潜った時に、この隠された場所のトラブルに巻き込まれて一ヶ月ほど隠れてました。なので、これが初実況になります。身体を使った戦闘は苦手ですけど、補助と防御の魔法が使えるので支援職兼実況者として頑張ります、よろしくお願いします」


【さくらちゃん可愛い】
【一ヶ月も潜伏生活してたん?】
【なんて不憫な】
【頑張れー】
【その割には肌艶も悪くないな。食事はしっかりしてたのか】
【だからオッパイも大きいまま】
【わかるのかよ!w】
【革鎧の上からでもわかる大きさっ!】
【お巡りさん、こいつです】
【違うっ! 痩せていないって意味で言────おや、誰か来たようだ】
【オッパイスキー終了のお知らせ】
【草】


 確かにさくらは胸が大きいけどさあ……男ってやつぁ。
 ん? ボク? いやまあ、好きだったけどね。だけど、ここまで露骨ではなかった!
 さくらはコメントを予想していたのか、苦笑しているだけで怒ったりはしない。これが持てる者の余裕!?
「ええと、次は私たちのパーティーの頼れる前衛の美桜さんです」
「御蔵美桜っすー。さくらと同じ16歳。永世不動八門えいぜいふどうはちもんが一派、打突技だとつぎ御蔵戦鎚流みくらせんついりゅう本家っす。道場は兄ちゃんが継ぐんで、あたしは我が流派の宣伝も兼ねてダンジョンに潜ることにしたです。ムラサメのせいで愛用の戦鎚ウォーハンマーを無くしちゃったんで、披露できないのが悔しいっす。……あ、敵と同じ装備なのは変装っす」


【でかい子きたな】
【お巡りさん────】
【身長だよ!】
【大切なのは胸────】
【それ以上はいけないっ!】
【しかし、『~っす』って話し方する子、本当にいるんだな】
【なんか聞いたことない流派だけど、そんなんあるのか?】
【あー、検索したらあるな。戦国時代に生まれた武術で、文字通り八つの流派があるらしい。詳しく知りたかったらググれ】
【見せてもらおうか、御蔵戦鎚流の実力とやらを】
【サンドバッグ希望か】
【美桜ちゃん、こいつの体に刻み込んでやって】
【死むっ!】


 こんな状況なのにリスナーは楽しそうでなによりだ。美桜も「ご希望ならば」とか言って指をポキポキ鳴らすものだから、リスナーが喜ぶこと喜ぶこと。
 多分、こうやって楽しく配信するものなんだろうけど、今は楽しんでいる場合じゃない。
「じゃあ、そろそろこれからのことを話────」
「最後は私たちのリーダー、ミヤコちゃんの紹介です」
「いや、ボクは────」
「「ダメです(っす)」」
 自己紹介なんて恥ずかしいし、しかも今の自分はエルフだ。騒ぎになるのは目に見えてる。なので話を変えようとしたんだけど、さくらと美桜は逃がしてくれなかった。


【なんか声が幼いぞ】
【ボクっ娘キターッ!】
【いや、まだ男の子という可能性も】
【ここは男の娘で手を打とうじゃないか】


 ドローンのカメラがボクを捉えた。
「はい、ミヤコちゃん、自己紹介を」
「いや、自己紹介って言ってもさ……」


【は!?】
【え、耳! 耳!】
【まさかエルフ!?】
【エルフキターッ!】
【マジか!? マジでエルフなのか!?】
【事故で死んだって情報があったのは嘘か!?】
【うおおおおおっ、エルフだ! しかもロリエルフ!】
【いや、まだショタという可能性も!】
【お前、そっち系だったんだな】
【やべえ、ロリだ。ロリだよ! 愛でたい!】
【お巡りさん、こいつです!】
【NoNo! Yesロリータ Noタッチ。私は紳士だ!】
【紳士は自分で紳士と言わねえw】


 ……ほらみろ、大騒ぎになったぞ。タブレットの画面がコメントで埋まってしまった。……いや待て、なんかコメントの量が多くないか? ひょっとしなくてもリスナー増えてる?
「……さくら、リスナーは増えてるのかい?」
「ええと、まだタブレットは電波を地上に届けられるだけなので、正確な接続者数までは……。だけど……え? 少なくとも千人超え!?」
 エルフが見られる。そんな情報がネットの中を駆け巡るのにそんなに時間はかからないだろう。この実況が広まるのはタイミングが重要だ、今はまだその時じゃない。
「あまりに早くこの実況が拡散して社長の耳に入るのは避けたい。先に社長と接触しないと」
「それだったら、せっかく美桜さんが変装してるんですもの、さっきの案を試してみませんか?」
「さっきの案か……」
 さくらが提案してボクが却下した案。それは、捕まったふりをして社長に会うという危険な案だった。
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