配信者と行く TSエルフのダンジョン探索記

とまと屋

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第31話

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「……どこだ、ここは?」
 気がついたら真っ白な空間で目が覚めた。おかしいな、ちゃんと部屋で寝たはずなんだけど。
 身体もどこかフワフワしていて、地に足がついていない感じだ。……というか裸じゃん!? そこまで寝相が悪かった記憶はないんだけどなあ。
「────」
 ……声?
 どこかで聞いたような声がする。なんとなく声のする方向に意識を向けると、ボンヤリとなにかが見えてくる。これは……石の床? そして半球状の……なんだこれ。光る壁?
「……ふう。ようやく声が届いたか」
「な……」
 石の床にビッシリと刻まれているのは複雑な文様。これは……魔法陣か? その魔法陣に沿って半球状の光る壁が中の者を閉じ込めている。
 魔法陣の中央、そこに二つの人影があった。大人の女性と、まだ赤子と言っていい小さな女の子だ。しかし……。
「悪魔?」
「失礼な……と言いたいところじゃが、今はそうとしか見えぬだろうなあ」
 魔法陣の中、赤子を膝に抱いているのは女性の悪魔……としか形容できない者だった。青白い肌、漆黒の長い髪。真紅に光る瞳はまるで猫の目のようだ。そして頭部から伸びる長い、ねじれ曲がった二本の角。それでいて服装が、シンプルな布の服とスカートなのだから違和感がすごい。
「ここは? あんたは誰だ?」
「ご挨拶じゃな、命の恩人に向かって」
「恩人!?」
「覚えておらぬのか? そなたを助けるために契約を結んだであろう」
 ……あ。そういえば鋼に斬られてゲートに飛び込んだ時、そんな声を聞いたような気が。
 いやまあ、確かに神でも悪魔でも、とは思ったけどさ。
「ははは……。じゃあ、ボクは悪魔と契約したわけか」
「半分当たりじゃな」
「半分?」
「これでも妾は元エルフなのじゃぞ?」
「エルフ要素がまるで無いけど?」
「それはそうじゃ、妾のエルフの因子はそなたに譲ったからの」
 は? え? エルフの因子を……譲った?
「ふむ。どうやら最初から話した方がいいようじゃな。少し長くなるがつき合ってたもれ」
 ボクの混乱を見て、彼女はそう言った。

         ◆  ◆  ◆

「妾はこれでもな、エルフのヴィンカー氏族の長の娘で、かなりの実力者だったのじゃぞ。一対多の戦いでも負けることはなかったほどにな。
 しかしまあ……卑劣な罠にかかってな。悪魔崇拝者たちによって悪魔召喚の儀式の生贄にされてしまったのじゃ。……なんじゃ、その顔は」
 脳裏につっかい棒で支えられたザルと餌、喜んで飛びつくエルフの姿が浮かんだけれど、言わずにおこう。
「まあよい。さて、悪魔召喚の儀式についてじゃが、悪魔は魂のみで召喚される。生贄の魂を食い尽くし、肉体を奪って初めて、地上で活動できるようになるのじゃ。
 生贄の質によって召喚される悪魔の強さは決まる。ヴィンカー氏族の長の娘たる妾は、悪魔召喚の生贄にうってつけであったのじゃな。
 悪魔崇拝者たちの目的がなんであったのかは知らぬが、生贄にされた時点で妾の命運は尽きておった。長の娘がつまらぬ最後だと、内心嘆いておったのじゃが……ここで予想外のことが起きた」
「予想外?」
「うむ。悪魔崇拝者たちにとっても予想外であったであろうな。召喚された悪魔は魔界の第3階位、魔界侯爵にして智の収集者、エンプレンヴァンカールス……つまり、今の妾の姿じゃな」
「……自分で智の収集者とか言っちゃうんだ」
「言葉には力が宿る。誰が最初にそう呼んだかは知らぬが、智の収集者という呼び名が妾に力を与えるのじゃ。馬鹿にしたものではないぞ?」
「なるほど、言霊かあ」
 言葉が、名前が力を持つ考えは確かにある。そういう意味では、通り名をつけられるほど強い存在は、さらに強くなるのか。なかなか厄介な世界だな。
 だけど、その智の収集者とやらが、どう予想外なんだろう?
 疑問が顔に出ていたんだろう、元エルフの悪魔……名前なんだっけ。長いよ! ────は、頷いて話を続けた。
「自分でも言うのもなんじゃが、妾は……エンプレンヴァンカールスは非暴力的な悪魔でな、意味のない殺生は嫌いなのじゃ」
「……そんな悪魔いるんだ?」
「まあ、正確には血に飽いたというところじゃがな。300年ほど前からは争いを避けておる。さて、知的好奇心から召喚に応じたものの、生贄の魂を食い潰すことを躊躇ってしもうてな……そこでエルフとしての我は交渉したのじゃ。肉体を貸す代わりに魂を食うのはやめてほしいとな」
「まさか、その交渉が成功しちゃった?」
「その通りじゃ。妾は魂が無事、エンプレンヴァンカールスは肉体を得て地上を好奇心のまま闊歩できる。悪くない話じゃろう。そして妾は悪魔崇拝者たちの隙を見て逃げ出し、以後は気の向くまま風の吹くまま、各地を旅して回ったのじゃ。悪魔崇拝者たちが探しておったのでな、旅は都合がよかった」
 どこか懐かしむように遠い目をする彼女。……が。
「しかし、その旅も終わりを告げたのじゃ」
「……なんで?」
「出会ってしまったのじゃ。運命の……殿方になっ!」
 うーわー……。悪魔が頬を染めて、いやんいやんと恋する乙女のように全身をくねらせる。外見とのギャップがすごくて引く。
「ある国の……それこそ隣国との境、しかも辺境にある小さな村に住む男性だったのじゃがな。いやぁ、運命という言葉を信じたのはあれが初めてだったのお……」
「そ、そうなんだ……」
 知ってる。こういう時は野暮なツッコミをしちゃいけないって。
 だから黙って先を促した。間違っても「相手はどんな人?」なんて訊いちゃいけない、長くなるのは目に見えている!
「当時の妾はエルフの外見じゃったしのお。それに悪魔崇拝者たちも国が潰しておったのか、すっかり姿も見なくなった。だから妾はその男性の伴侶となったのじゃ。村の皆も祝福してくれてのお、そこから妾と夫の幸せな生活が────」

(中略)

「────で、二人の間に生まれたのが……この娘じゃ」
 ……長いノロケが終わった。甘ったるい恋愛映画の三部作を観たような気分だよ。よく耐えた、ボク。
 それにしても、ずっと膝に抱いていた赤ん坊が何者か気になっていたけれど、まさか彼女の娘だったとは。ああ、確かに耳が少し尖ってるな。
 ……いや、ちょっと待って。どうして二人で封印されてるんだ、こんなところで。
 それを指摘すると、彼女は寂しそうに笑った。
「……幸せな生活は長くは続かなかったのじゃよ。隣国が攻めてきたのじゃ。一人、また一人と時間をかけて兵を越境させ……一気に妾の住む村に攻め込んできおったのじゃ。どうやら、村を橋頭保として後続の部隊を招き入れるつもりだったのじゃろうて。
 妾はな、争いは避けたかった。だが妾はともかく、愛する夫と娘、なにより優しい村人に害が及ぶのは望むところではない。だから……戦ったのじゃ。エルフの技術、魔法、悪魔の力を存分にふるってな」
「……よくない結果が目に浮かぶんだけどさ」
「ははは、その通りじゃ。どうやら隣国の越境は国が察知しておったようでな、軍がすぐそこまで来ておったのじゃ。そして、偵察の者が猛威を揮う妾を見たのじゃ。……一部とはいえ、悪魔の力を具現化した妾の姿をな。
 ああ、軍は妾を討たんと攻撃をかけてきおった。だが、ここで軍を相手にしては村にも迷惑がかかる。……妾は後ろ髪を引かれる思いで夫と娘を置いて逃げることになったのじゃ」
 そう言って彼女は、膝の上の娘を優しく抱きしめる。もう離さないとばかりに。
 どれくらい抱きしめていただろうか。しばらくして彼女は娘を再び膝に戻す。
 そういえば娘さん、身動みじろぎもしないけど生きてるのか?
「……さて、ここから先は妾の想像も交えた話になる。承知してたもれ」
「ん、わかった」
 どうやらここからが本番か。
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