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第二章 日常のようで非日常
泡だらけでも可愛さ100%
しおりを挟む仕事が終わり、ギルド内にある食堂で晩飯を済ましてから帰宅した俺達。
服を脱ぎ部屋着に着替えた俺は、二人に風呂に入る事を勧めた。
風呂に入る習慣がある人族と違い、獣型の種族は水浴びで済ませていると聞く。
冒険者の中にはシンさんのようにタバコを吸っている者が多い為、毛についたタバコの臭いを落とした方がいいと思ったからだ。
「嫌だ嫌だ嫌だ!」
「断る」
朝と同じ言葉が返ってくる。
違うのは二人が俺から一番遠い場所に逃げているという点のみ。
「臭いついてるはずですから洗いましょう」
「ついてねーから大丈夫!気になんないし!」
「明日昼休み中に水浴びするから問題ない」
「俺が気になるんですよ」
手の平サイズから大型犬サイズになった二人は尻尾を丸め、垂れ下がった耳を両手でさらに潰して蹲っている。
何も聞こえていませんよ、とアピールするかのように。
「……はぁ。仕方ないですね」
俺は一人で浴室へと向かい、浴槽に水を張ってから側面にある魔法陣に手を触れて魔力を注ぎ込む。
数十秒経ったところで水面から白い湯気が上がり、手を離して触れてみると水からお湯へと変わっていた。
これは魔力を活用して沸かすタイプの風呂で、数十秒で湯が沸く。
魔法適性が全くない者もいる為、通常タイプの風呂も販売されているが沸くまでに時間がかかる。
魔法適性があるのであれば前者を購入するのが賢い選択といえよう。
「着替え……っと」
部屋に戻ってタンスから着替えを準備し、浴室前のカゴの中に入れて洗濯機の蓋をしてから上に乗せる。
前髪をゴムで縛ってから「よーし」と口にし、二人の元へと戻った。
“風呂に入るからのんびりしてていいですよ”なんて言う為ではなく、
「駄々っ子さんをお風呂へご招待致しまーす」
二人を風呂に入れるために。
「いーーやーーーだーーーー!オネスト!助けてくれ!」
タキトゥスの脇の下に両手を入れ、引きずるようにして後退する。
浮遊を使えばいいんじゃない?と思ったそこのあなた。
素晴らしい。
でも俺にはできないのだ。
なぜならば、浮遊は物にのみ作用できる生活魔法で生物には使用できないのだ。
生物を浮かせたりするのは上級浮遊と呼ばれる魔法で、これは特殊魔法に分類される。
生活魔法はあくまで生活をする為に必要最低限の魔法という定義があり、同じ浮かすという魔法でも難度が上がってしまうとそれは生活魔法とは看做されない。
つまり、俺には使うことができないということ。
だからこうして実力行使に出ているわけだ。
「オーネースートー!!!」
足と尻尾を上下左右に動かしオネストの名を呼ぶ。
タキトゥスを助けようとこちらに駆けてくるが、「助けたら時間を二倍にしますよ?」と脅すと大人しく戻っていった。
部屋の隅に座り、「……許せ」と目を瞑りながら口にした。
「う、裏切り者おぉぉぉぉ!!!」
神獣だろうがなんだろうが、不潔はダメ絶対。
涙目で叫ぶタキトゥスを笑顔で容赦なく浴室へと引きずった。
「うぅっ……婿にいけない」
「はいはい。行けますから安心してくださいねー」
シャワーで全身をお湯で濡らしながら適当に返事をする。
人族用のシャンプーを洗面器に少量入れ、お湯で薄めてからタキトゥスの体に塗っていく。
「行けなかったらどうすんだよ!ネロちゃんが貰ってくれんの!?」
「はいはい。貰いますから大人しくしててくださいねー」
自分の髪の毛を洗うよう、指の腹で前後左右に動かして泡立てていく。
背中の部分に泡を集めて小さな羽を作ってみたり、額から頭の後ろまで泡でモヒカンヘアーにしてみた。
「ぶっ、くくく」
モヒカンと羽が合うはずもなく、違和感しかないその姿に笑いそうになるのを必死に堪える。
「ネロちゃん?遊んでるよな?俺で絶対遊んでるよな!?」
「確実に遊ばれてるな」
小さな椅子に座る俺にのしかかってくるタキトゥスと、何故か浴室の扉から片目だけ覗かせているオネスト。
「あははっ。オネスト様にもやって差し上げましょうか?」
「……」
笑いながら言うと何故かオネストは嬉しそうな顔をしている。
風呂嫌いだと言っていたのに笑うなんて意外にもMなのだろうか?と思っていると、ゆっくりと中へ入ってきてタキトゥスの隣に並んだ。
「初めて呼ばれた」
目を細め、口角を上げて笑う。
一瞬何のことを言っているのかがわからなかったが、自分の発言を思い返してようやく気づく。
そういえば二人の名前を声に出して呼んでいなかった、と。
「ずるいずるい!俺の名前も呼んで!タ、キ、トゥ、ス!ほら!」
「……タキトゥス様」
「へへへっ。なーにー!?」
名前を呼んだだけだというのに、二人のこの緩みきった顔。
でもよくよく考えてみると、名前は誰かが誰かを想ってつける大切なもので、その者の魂に刻まれる。
この世界ではいかなる理由があろうとも名前の変更はできない。
一生その名前を背負って生きていく。
この世界の者達は、俺が思っていた以上に名前に対する思い入れが強いのかもしれない。
ニヤニヤしているタキトゥスを横目で見ながら、オネストも同じようにシャンプーで洗っていく。
もちろん羽とモヒカンはお揃いだ。
「ぶっ……くくく。あはは!」
爆笑しながらも二人の泡を流していく。
お腹が痛いのはきっと気のせいではい。
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