壊れそうで壊れない

有沢真尋

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【1】

子の心、親知らず?

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 秋も深まる時期に顔合わせをして、初雪が舞い、冬。
 イベントが目白押しの年末。
 茶道教室が早々と年内の予定を終えてしまうことがわかり、見学の約束は年明けにと先延ばして話がまとまったものの。
 ホッとしたのもつかの間、このところ素直さんと俺の間では別の話題が浮上していた。
 つまり、いつ付き合っているかもよくわからない親たちは、恋人としてクリスマスをどう過ごすつもりなのか? という。

(クリスマスくらい、二人で過ごせば良いのにと素直さんは言っているけど……。そうすると、素直さんと俺が余る。俺は別に良いとしても)

 素直からその話題が出るたびに「ほんと、あの二人もっとしっかり付き合えばいいのにね!」と返していつも通りのやりとりになるものの、鈍感じゃないから気付いている。素直が本当は何を望んでいるか。
 二人に「気兼ねなくクリスマスを過ごしていいよ」と勧めるためには、小学生の素直をひとりにしない解決策が必要になる。
 それは、どう考えても年上の自分の役目。「子ども同士で一緒にクリスマスを過ごすから、親同士は二人きりで食事でもしてきたら」と言えば、全方位が丸く収まるはずなのだ。
  
(だけど、恋人である親同士が「無理に家族ぐるみで付き合う必要は無い」というスタンスであった以上、互いの子ども同士がここまで仲良くなったのはおそらく想定外の事態で……。これ以上仲良くなるのを望んでいるかもわからない。まずは報告・連絡・相談か。「自分だけの問題じゃない」ってわかってるんだし、下手に抱え込まない方が良い)

 勝手な判断はやめておこうと、残業で夜の二十一時過ぎに帰宅して、鍋に作り置いていたカレーを温めている親父の背に声をかける。

「今日遅かったけど、デートじゃないんだよね?」
「うん」

 IHのスイッチを切り、皿に釜から白米、カレーをよそっていた。晩ごはんも食べずにまっすぐに帰宅した、というのがわかる。本当に、仕事しかしていなさそう。

「最近、彼女とはどう? 付き合ってる気配がないって、素直さんも気にしてる」
「大丈夫」

 冷蔵庫からペットボトルのアイスコーヒーを取り出し、グラスに注いだ。「親父は?」「飲む」短い会話でグラスをもう一つ用意し、椅子には座らずに話を続けた。

「前にも言ったと思うけど、俺、一色さんのところの素直さんとメッセージやりとりしてる。最近は、ほぼ毎日。俺からしつこくしてるんじゃなくて、素直さんからメッセージがくる。たいした話はしていない」
「うん」
「素直さんはたぶん、俺のこと『お姉さん』だと思っているから、懐いているんだと思う。メッセージのやりとりだけなら問題ないかと思っていたけど、茶道に興味があるから、茶道教室に見学に行きたいって言われてて、年明けに一緒に行く。もし通うことになったら、着物や道具でお金もかかるから、きちんとお母さんにも言ってね、って伝えてある。里香さんは『習いたいなら良いよ』って言ってるんだって」
「うん」

 もくもくと食べている。俺も、自分が話し終えるまでは特にコメントを求めていないので、立ったままさらに言った。

「見学のとき、俺はもう一回着物を着て『お姉さん』のふりをするくらいどうってことないし、もし男だってバレても顔合わせのために一芝居打ったとは言わないつもり。『趣味だから』で押し通す。茶道のお姉さん方、お姉さんって言っても土曜日教室のいつものおばさんたちね、それと先生にも、口裏合わせてもらう。茶道教室以外の場所に寄ったりしないで、帰りは素直さんを家まで送るか、里香さんに迎えに来てもらう。里香さんには親父からもきちんと話しておいて。『高校生男子が、小学生女子を友達か彼女みたいに勘違いして連れ回して気持ち悪い』なんて、父親の彼女に警戒されたくない。俺の言ってることわかるよな?」

 俺は怪しい男ではないし、やましいことも考えていない。訴えたかったのはそれだけだが、ずいぶん言葉を費やしてしまった。親父はちょうどカレーを食べ終わったところで、アイスコーヒーを飲みながら「うん」と頷いた。

「一色さんからも、素直さんと澪が仲良くしているようだとは聞いている。お礼を言ってたよ。必要があってスマホは買い与えているけど、いつの間にかSNSで知らないひととやりとりしていたら怖いと悩んでいたそうなんだ。澪なら安心だって」
「そんなに見込まれても、俺はただの高校生だよ。べつに小学生の扱いに長けているわけじゃ……。ただ、素直さん少し難しい子なんだろ。頼れる年上と知り合えて嬉しいって感じは伝わってくるから、裏切れない。お互いに親同士の交際も応援している。親父も里香さんも、もう子どもを巻き込んだ後なんだから、勝手に別れたりするなよ。その場合は一言、言って」
「うん」

 もともと多弁ではない親父だが、手応えがなさすぎる。
 俺は文句のひとつでも言ってやろうかという気になったが、何を言っても八つ当たりの域を出ないだろうと、言う前から諦めた。時間も時間だし、きっと疲れてるんだろうな、と。優しい息子だ。
 
(優しいから怒らないけど、最初から無理だったと思うよ、親父。子どものいる親が、いくら「子どもを巻き込みたくない」と言っても、家族である以上まったく影響を受けないなんてありえない。俺も素直さんも未成年で、親の存在は大きい。いくら仲良くなっても、親を介して知り合った以上、親同士の関係が壊れたら、自分たちはどうなるんだろうって、当然考える。不安定過ぎて、不安なんだ。俺よりも、素直さんが。一回会っただけで、年齢差もあるし、お互いに「友達」と認定して良いかわからない間柄。しかも俺は実は「お姉さん」じゃない)

 一緒に出歩こうと気軽に言える関係ではないのだ。だけど、素直の不安を和らげるためには、親同士の恋愛を応援して続けさせる必要があり、そのためにクリスマスや年末年始の二人の過ごし方に関しては俺が。
 全部、うまくいかせないと。大人二人の恋も、小学生の女の子の不安も。
 俺がどうにかしないと。

「親父、クリスマスはどうするんだ?」
「べつに、いまさらイベントする年齢じゃないからなぁ。サンタさんの真実もだいぶ前に知ってしまっている」

 のどかな返事に、若干、いらっとした。

「そういう、サンタがどうとか擦れた大人の話はどうでもいいから。じゃなくて、さすがにカップルならそれらしいイベントくらいこなそう? 素直さんに、家でひとりでクリスマスを過ごさせるわけにはいかないって、遠慮してる?」

 思い余って核心に触れたそのとき、ジャージのポケットにつっこんでいたスマホが震えた。
 親父の返事を聞く前に、表示されたメッセージを確認。素直から。

“こんばんは。澪さん、クリスマスに予定ありますか”
“こんばんは。特にない”

 ノータイムで返信をした。今頃素直さんも里香さんとクリスマスの件でやりあっていたのかな、という考えが、ちらっとかすめた。

“澪さん、一緒にクリスマスしませんか?”
“いいよ”

 素直の方が、しびれを切らしてしまったようだった
 いずれそうなるのはわかっていたのに、俺も往生際が悪かったな、と反省しつつ親父に言った。

「年明けの茶道教室見学の前に。俺、クリスマスに素直さんと約束した。小学生だから遅くまで外で過ごすわけにはいかないだろうし、ほどほどで帰るけど、親父たちも二人でどこかでメシでも食ってきたら?」

 それで全方位丸く収まるなら、ぜひともそうして欲しい。
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