聖獣さまの番認定が重い。~不遇の令嬢と最強の魔法使い、だいたいもふもふ~

有沢真尋

文字の大きさ
7 / 34
【第二章】

新しい生活

しおりを挟む
「ジャスティーンは、本当に女子寮で暮らしているのね」

 ランカスター寄宿学校。
 海に面した賑やかな港町の街中に位置する、王侯貴族や裕福な家の子らが通う全寮制の学校。
 その女子寮にて、自分に割り当てられた部屋に案内されたリーズロッテは、付添のジャスティーンに思わずそう言った。
 旅行鞄を片手に、もう一方の手でドアをおさえてリーズロッテを先に部屋に通した「公爵令嬢」ジャスティーンは、廊下に人影がないのを確認してから答える。

「もちろん。少し話そう。普段は女生徒の部屋には入らないようにしているんだけど、今だけお邪魔する」
「どうぞ。と言っても、まだ何もない部屋……」

 笑いながら部屋に一歩踏み入れたリーズロッテは、視線をめぐらせて口をつぐんだ。
 板敷きの、さほど広くない部屋。備え付けらしい木製のデスクと椅子があり、窓にはレースのカーテンがかかっていて、グリーン地に白い小花と野いちご柄のカーテンが金糸のタッセルでとめられていた。ベッドにも同柄の布がかけられている。
 リーズロッテの目を引きつけたのは、壁にかけられた制服であった。
 紺色のジャケットに、同色のプリーツスカート。体の小さなリーズロッテに合わせて仕立てられたものだ。

「準備してくれていたのね」
「伯爵家にも、きちんとリズのこと気にかけてくれていたひとはいるよ。本人の寸法を測ることはできないから、こっそり今着ている服を送ってもらって調べた。クローゼットにも、必要なものは一通り揃っている。さて、というわけで、話なんだけど。リズは椅子に座って」

 ジャスティーンがデスクの椅子をすすめてくる。
 リーズロッテは素直に従って座り、あまり近づいてこないジャスティーンを見上げた。
 距離を置いたまま、ジャスティーンは低めの声で話し始めた。

「まず、リズも知っての通り私は現在アーノルド殿下の婚約者だ。卒業まではこのまま『女性』として通す。その後は……、命までは奪われないが、病気療養などを理由に、表には出られない身となる。別の名前や肩書が用意され、場合によってはどこか遠くへ行くことになる。外国とか」

 極めておさえた口調で、顔色も変えずに言う。ほとんど無表情のまま。リーズロッテは、感情を抑えながら、了解の意味で頷いた。
 納得は、していない。

(「女性」で通す……。ジャスティーンは、王家と公爵家の都合で、本来は「男性」でありながら運命を捻じ曲げられて、その後は放逐されるだなんて)

 ジャスティーンは、リーズロッテの不安を取り除くように、ほんのりと笑みを浮かべた。

「なにせ私たちの婚約は、私が生まれる前に成立してしまった。第三王子として、いずれ臣籍降下するアーノルド殿下の後ろ盾に公爵家がつく、という目的で。それこそ、王家お抱え魔導士が『公爵夫人のお腹の中の子は、女子で間違いありません』と断言してしまったらしいからね。いざ生まれてみたら『男』だったわけだけど、対外的には伏せたまま、婚約を解消することもなく今に至る。だが、さすがにこのまま結婚するわけにもいかない。だから、終わりが決められた。私がリズの近くにいられるのも、今から卒業までの一年だけ。その間は、できる限りのことはするから安心して。同じ屋根の下に暮らしているのだから」

 ずきずきと、胸が痛んでいる。
 穏やかなジャスティーンの代わりに、自分が泣いたり喚いたりしてはいけないと思いつつも、どんどん顔が強張っていくのがわかった。

「ジャスティーンも、『魔法』に人生を狂わされている……」

「どうだろう? 今まで公爵家の生まれとして、だいぶ良い思いもしているよ。教育は受けていて、教養も十分に身に着けてきた。卒業後自分の力で生きていけといわれたとき、他の同年代の男に比べればかなり恵まれていると思う。その意味では、『公爵家の人間』として生きていく道が絶たれているとはいえ、客観的にはそこまで悪くない。リズも、私の心配はしなくていい。実はもう、卒業後を見越して、色々な仕事に手を出している」

 さらりと言われて、リーズロッテは「仕事?」と大きく目を見開いた。
 ジャスティーンは得意げに片頬に笑みを浮かべて、力強く頷いた。

「私のような人材を、この国の大人たちはそうそう遊ばせる気はないらしい。裏側にもお仕事はたくさんある、と。密偵その他……、クララの婚約者に関する知識もその辺からきてる。あの件は、きちんと調べておくからひとまず任せて。ちなみに『裏のお仕事』には殿下も噛んでるんだな~」
「殿下も?」

 ここぞとばかりに、ジャスティーンはにやりと笑った。

「そう。情報交換や取引の時に使っているカフェがあるんだけど、殿下もそこで働いているんだ。国の機関から、腕の立つ人間がかなりスタッフとして入っているから安全とはいえ、一般客にも繁盛しまくりなんだよね。ふつーに料理屋のひとりとしてめちゃくちゃ働いてるよ、殿下。面白いよ。今度一緒に行こうね」
「殿下がカフェ?」

(なんで王子様なのに、カフェ……?)

 情報交換や取引、ということは国の諜報機関御用達、もしくはその機関そのものという意味として受け取って良さそうだが、「ふつーに料理屋のひとりとしてめちゃくちゃ働いている」の意味がわからな。想像もできない。
 驚いて言葉少なになったリーズロッテに対し、してやったとばかりにジャスティーンはいたずらっぽく片目を瞑った。

「『カフェ・シェラザード』だ。学校から道も単純でわかりやすいし、迷っても人に聞けば誰でも知っている。リズひとりでだって行けちゃうよ」

 とは言っても、もちろん出かけるときは私に声をかけてね、とジャスティーンは言い添えていたが、その言葉はリーズロッテの耳を素通りしてしまった。
 すでに、「どんなところだろう?」と忙しく思いを巡らせてしまっていたせいであった。

(ジャスティーンたちは、あと一年で卒業してしまう。それまでにわたくしも、あまりひとに頼らずに外の世界で行動できるようになるのは大事よね。そんなに遠くなくて、着けば殿下もいて、安全な場所だというのなら、行ってみても大丈夫かしら……?)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

処理中です...