聖獣さまの番認定が重い。~不遇の令嬢と最強の魔法使い、だいたいもふもふ~

有沢真尋

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【第四章】

屋根の上

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 離れたところから、歓声が上がった。
 甲高いきゃあという楽しげな声も、野太いわあっといった声も、いよいよ祭りが始まった期待に満ちあふれているようだった。

 屋根の上で、風に髪をなびかせる美貌の魔法使いを前に、リーズロッテはむっと眉間にシワを寄せる。
 ここでこうして睨み合っているのが無駄な時間というのは、よくわかっているのだ。
 祭りはもう始まっている。

「キ……ス以外に、方法は無いんですよね?」

 ぐずぐずしていないで、さっさと覚悟を決めれば良いのに、と思いつつも確認してみる。
 ジェラさんは「ん~」と思案するように首を傾げてから、へらっと悪そうな笑みを浮かべた。

「無いわけじゃないけど、リズには早いかな」
「どういう意味ですか? あるなら教えてください」

 手段や方法は、実際に使うかどうかは別にしても、知っておいて損はない。土壇場で告げられるよりも、前もって聞いておいた方が臨機応変な対応をしやすいはず。

(いきなりキスと言われても、心の準備が……。他の方法の方が、わたくしには合っているかもしれない)

 もったいぶるジェラさんに対し、リーズロッテはやや厳しい口調で「早く」と言いながら、身を乗り出した。
 めずらしく、動揺したように「ええと」と口ごもりながら、ジェラさんはリーズロッテの目をのぞきこむ。

「これは俺の口からでまかせじゃなく、本当の話として、一部では強く信じられていることだ。その意味では、知っておいた方がいいのかもしれない。つまり、リズは聖女として怪しい奴らに狙われる立場なわけだから、身を守る意味でも」
「なに?」

 急に奥歯にものの挟まったような迂遠なことを言い出したジェラさんに対し、リーズロッテは追求の手をゆるめることなく尋ねた。
 観念したように、ジェラさんは早口で答えた。

「聖女との接触が魔法使いにとって魔力回復になるのは間違いなく、より深い接触をすればするほど効果的と考えられている」
「キスより確実で効果が高い方法があるのね?」
「……そうだね。そう思う。でもそこまでいくとほら、リズにはいろいろと問題が」
「わたくしの問題なの?」

 いきなり責任転嫁をされて、リーズロッテは片眉を跳ね上げた。
 うっ、とわざとらしく呻いて、ジェラさんは片手を胸にあてる。

「猫のときにリズに言われたことを、俺は重く受け止めているんだ。結婚していないといろいろまずいって。あと、あのうるさいお目付け役のこともある。さすがにこういう形で出し抜くわけにはいかない」

 妙に真剣な口ぶりであったため、リーズロッテも態度をやわらげた。

「そうね。ジャスティーンを心配させるようなことはしてはいけないし……結婚? ……言った……かもしれないわね。うん。言ったと思います、猫のジェラさんに。ベッドに入ってこないでって。一緒に寝るのはいけないと」
「猫は良いけど、人間のときはだめってあのときリズは俺に言ったよな」

 思い出させるように確認をされて、リーズロッテは力強く頷いた。

「それはそうよ。男女がベッドで一緒に寝たら子どもができるのでしょう?」
「寝ただけではできないが、一緒に寝るとその可能性はある。俺とリズの場合だと、いや俺は何を言っているんだ。だからつまりリズにはまだ早いって」

 最終的に、ジェラさんは自分の髪をかきむしりはじめた。
 苦悩しているように見えた。
 リーズロッテはその葛藤を訝しみつつも、自分なりに理解している範囲で確認をする。

「魔力が無いと、魔法使いは辛いのでしょうね。本来なら苦も無くできることが、できない状態に置かれるのだから」

 当たり前のように空を飛べる彼が、魔力不足でうまくできないというのは、とても歯がゆい状態に違いない。
 ずっと成長できないまま、子どもの姿で過ごしてきたリーズロッテには、その不自由さが想像できる気がしたのだ。
 リーズロッテは、なるべくジェラさんと目を合わせないように俯きながら、ローブの袖からのぞいていた手を掴む。触れた瞬間、骨ばった硬い感触が指先に伝わってきた。ドキッとして、息が止まる。

(こんなに、わたくしの手とは大きさが違うのね。すごくごつごつしている……)

 内心では驚きながらも、表情に出さないように気をつけて手を繋いでみせる。
 されるがままのジェラさんを見上げて、これでいいはず、と自信を持って告げた。

「接触で魔力を回復できるなら、キス一回よりもこの方が長くて効果的ですね?」

 猫のときのジェラさんは、リーズロッテと一緒に食事をし、ベッドの上に掛布越しに一緒に寝て魔力を回復させていた。
 であれば、祭りの最中、ずっと手を繋いで接触していれば、同じように魔力が回復するのではないかと。

「はぐれる心配もありませんし、連れがいるとわかれば無闇に声をかけてくる方もいないでしょう。お互いの安全面を考慮しても、こうしてずっと手を繋いでいるのが最適だと思いますの」
「リズがそれで良いなら、俺もそれでいいよ」

 ジェラさんは、ためらいながらもそう答える。
 了解がとれたことに安心したリーズロッテは、ぱっと表情を明るくして言った。

「屋根から降りるくらいの魔力が回復したら、早速お祭り見に行きましょう!」

 そこで、それまでぼんやりとした顔つきでいたジェラさんは、ようやくふっと笑って、リーズロッテと繋いだ手に力を込めた。

「それくらいなら、もう回復したよ、俺のお姫様。わかった、今晩はこのままずっと君のこの手を離さない。一緒に楽しもう?」


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