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23話 初めてのキス
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舞踏会もそろそろ終盤だ。
賓客の人々は庭を散策したり、会場でダンスを踊ったりと、とても賑わっている。
ヘンリー王は賓客で招かれている人々と談笑している姿を見た。序盤にマチルダからフラれたとは思えない雰囲気で、会場に溶け込んでいる。
図太いと言えば良いのか、フラれた事を逆手に使って交流を円滑にしている強かな人物と言えばよいのか……。
まぁ、それくらいの気概がないと一国の主は勤まらないのかも知れない。
「エスメローラ」
サイラス様が飲み物を持ってテラスに現れた。
「もうすぐ舞踏会も終盤だ。大丈夫か?」
「えぇ。私は準備だけで、舞台の役者ではありませんでしたから。マチルダ様が配慮してくれたお陰です」
本来、スーザン様が行っていた補佐は私が行うはずだった。しかし、マチルダの命令でその役はスーザン様に代わった。
準備でフラフラになっている私では、舞台の補佐は不安だと言われたのだ。
準備終了後、強制的にサイラス様に引き渡されて、会場でマチルダの活躍を見ることになった。
サイラス様には会ってすぐにお小言を言われてしまったわ。
『無理をし過ぎるな。本当ならこのまま屋敷に連れて帰りたい。舞踏会催中は私から離れる事は許さない』って、真剣な顔で言われてしまった。
「レオン王太子殿下の婚約発表はいつになりそうですか?」
「ん?あぁ、それなら――」
「「うわ~!!」」
「「おめでとうございます!!」」
会場で歓声が上がった。
「今告白に成功したみたいだ」
「そうみたいですね」
レオン王太子殿下には、ずっと心に決めた人が居た。ゴギリシュア辺境伯の愛娘・デイジー様だ。
彼女は別名『紅い狼』と言われるほど、剣技に優れた戦士だ。辺境に出る強力なドラゴンを仕留めたこともあるらしい。
剣を振るう姿は勇ましく美しいと聞いているが、貴族令嬢としては品位に欠けると言われていた。辺境の環境が、彼女に勇ましく男性的な所作を身に付けさせてしまったのだ。
淑女教育を受けるが、人形のように微笑む事が苦手で、体を動かしたくて早々に逃げ出したのは有名な話だ。
彼女を王妃に据えれば、国の品格が失われると貴族達の反発にあうが、彼女以外と結婚する気はないとレオン王太子殿下は頑なに結婚を拒んでいた。
デイジー様に婚約の申込をした貴族も居たらしいが、彼女の強烈な個性とレオン王太子殿下の圧力で、デイジー様に婚約の話が来なくなったのは言うまでもないだろう。
肝心な話だが、二人は想い合っている。
それは確かだと思う。
正直な話、レオン王太子殿下は何度も地位を捨てようとしたそうだが、現国王の直系男児はレオン王太子殿下のみ。さらに武術に優れた彼でしか軍部を掌握するのは難しいとされ、王太子を辞めることもかなわない。
レオン王太子殿下の結婚は、イエルゴート王国の悩みの種だった。
そこで、マチルダが提案したのだ。
二頭政治にすれば、言い方が悪いが、デイジー様をお飾りの王妃にすることが出来ると。
王妃が担うべき仕事や内政は女王のマチルダが行い、軍部の統率はレオン王太子殿下が仕切れば国の運営は問題ない。
デイジー様は立場は王妃だが、剣技でレオン王太子殿下を支え、淑女としての振る舞いは最低限でよくなる。
さらに、しつこいヘンリー王を退ける事も出来る。さすがに女王を嫁に出すことは出来ないからだ。
ヘンリー王は強引に父親から王位を奪ったのだ。無責任に放棄してイエルゴートに婿入りしたいとは言ってこないだろう。
皆が幸せになれる、完璧な作戦だ。
「エスメローラ」
サイラス様が髪を1房手にとって、口づけした。いつものように、私をじっと見てくる目に捕らわれる。いつもはそこで終わるのに、今日は先に進んだ。
彼に……手をとられた。
ゆっくりと、唇が手に触れようとしてる。
息を……感じる。
「好きだよ、エスメローラ。好きだ。私は君を裏切らない。どこにも行かない。君以外とキスはしない。したくもない。一生、君以外に口づけしない。だから……キスしていい?」
金色の瞳に捕らわれる。
懇願するような、ギラギラする獣のような、不安な子供のような……男性の瞳だ。
手が熱い。
軽く手を添えてるだけで、引き抜こうと思えばすぐに引き抜ける。
でも、引き抜けない。引き抜きたくない……。
「エスメローラ」
お互いの左手薬指に煌めく指輪が見えた。
「は……い……。私も…したい……です」
いまだに『好き』と言えてない。
言いたいのに、喉につっかえて、私はその言葉が吐き出せない。
でも……気持ちを伝えたい。
貴方を好きだと……。
私の返事を待って、サイラス様は初めて私の指にキスをした。
すごく……色っぽい……。
「嬉しいよ……」
妖艶な微笑みに心臓が鷲掴みになる。
サイラス様の指先が、私の頬に触れた。
それから、顎……唇……。
「嫌じゃない?」
「は、い……」
唇を何度も撫でられる。
サイラス様の視線も唇に集中してる。
「!」
不意に誰かの気配を感じた。
瞬間!
サイラス様に顎を持ち上げられ、そっとキスをされた。
「っ!」
突然のキス。
ただ、唇を合わせただけなのに、心臓が早鐘を叩いた。あまりの事に、彼しか感じられない。
ゆっくりと唇が離れた。
「マチルダ様のもとで待ってて。誰かに声をかけられても『マチルダ様に呼ばれている』と言って、決して取り合わないで」
「え?」
「本当ならマチルダ様のもとにエスコートしたいんだが用事が出来た。すまない」
「それは構いませんが、何かあったのですか?」
「たいした用事ではないが、危険な芽は早めに潰しておくに限るからな」
危険な芽?
「……わかりました」
「良い子だ」
彼の美しい微笑みに魅了されてしまう。
動けず彼を見つめていると、彼が顔を近づけてきた。
「……続きは屋敷で。すぐに迎えにいくから、待っててくれ」
「……はい」
耳元で囁いた甘い声と、危ない男性の瞳に酔いしれてしまった……。
賓客の人々は庭を散策したり、会場でダンスを踊ったりと、とても賑わっている。
ヘンリー王は賓客で招かれている人々と談笑している姿を見た。序盤にマチルダからフラれたとは思えない雰囲気で、会場に溶け込んでいる。
図太いと言えば良いのか、フラれた事を逆手に使って交流を円滑にしている強かな人物と言えばよいのか……。
まぁ、それくらいの気概がないと一国の主は勤まらないのかも知れない。
「エスメローラ」
サイラス様が飲み物を持ってテラスに現れた。
「もうすぐ舞踏会も終盤だ。大丈夫か?」
「えぇ。私は準備だけで、舞台の役者ではありませんでしたから。マチルダ様が配慮してくれたお陰です」
本来、スーザン様が行っていた補佐は私が行うはずだった。しかし、マチルダの命令でその役はスーザン様に代わった。
準備でフラフラになっている私では、舞台の補佐は不安だと言われたのだ。
準備終了後、強制的にサイラス様に引き渡されて、会場でマチルダの活躍を見ることになった。
サイラス様には会ってすぐにお小言を言われてしまったわ。
『無理をし過ぎるな。本当ならこのまま屋敷に連れて帰りたい。舞踏会催中は私から離れる事は許さない』って、真剣な顔で言われてしまった。
「レオン王太子殿下の婚約発表はいつになりそうですか?」
「ん?あぁ、それなら――」
「「うわ~!!」」
「「おめでとうございます!!」」
会場で歓声が上がった。
「今告白に成功したみたいだ」
「そうみたいですね」
レオン王太子殿下には、ずっと心に決めた人が居た。ゴギリシュア辺境伯の愛娘・デイジー様だ。
彼女は別名『紅い狼』と言われるほど、剣技に優れた戦士だ。辺境に出る強力なドラゴンを仕留めたこともあるらしい。
剣を振るう姿は勇ましく美しいと聞いているが、貴族令嬢としては品位に欠けると言われていた。辺境の環境が、彼女に勇ましく男性的な所作を身に付けさせてしまったのだ。
淑女教育を受けるが、人形のように微笑む事が苦手で、体を動かしたくて早々に逃げ出したのは有名な話だ。
彼女を王妃に据えれば、国の品格が失われると貴族達の反発にあうが、彼女以外と結婚する気はないとレオン王太子殿下は頑なに結婚を拒んでいた。
デイジー様に婚約の申込をした貴族も居たらしいが、彼女の強烈な個性とレオン王太子殿下の圧力で、デイジー様に婚約の話が来なくなったのは言うまでもないだろう。
肝心な話だが、二人は想い合っている。
それは確かだと思う。
正直な話、レオン王太子殿下は何度も地位を捨てようとしたそうだが、現国王の直系男児はレオン王太子殿下のみ。さらに武術に優れた彼でしか軍部を掌握するのは難しいとされ、王太子を辞めることもかなわない。
レオン王太子殿下の結婚は、イエルゴート王国の悩みの種だった。
そこで、マチルダが提案したのだ。
二頭政治にすれば、言い方が悪いが、デイジー様をお飾りの王妃にすることが出来ると。
王妃が担うべき仕事や内政は女王のマチルダが行い、軍部の統率はレオン王太子殿下が仕切れば国の運営は問題ない。
デイジー様は立場は王妃だが、剣技でレオン王太子殿下を支え、淑女としての振る舞いは最低限でよくなる。
さらに、しつこいヘンリー王を退ける事も出来る。さすがに女王を嫁に出すことは出来ないからだ。
ヘンリー王は強引に父親から王位を奪ったのだ。無責任に放棄してイエルゴートに婿入りしたいとは言ってこないだろう。
皆が幸せになれる、完璧な作戦だ。
「エスメローラ」
サイラス様が髪を1房手にとって、口づけした。いつものように、私をじっと見てくる目に捕らわれる。いつもはそこで終わるのに、今日は先に進んだ。
彼に……手をとられた。
ゆっくりと、唇が手に触れようとしてる。
息を……感じる。
「好きだよ、エスメローラ。好きだ。私は君を裏切らない。どこにも行かない。君以外とキスはしない。したくもない。一生、君以外に口づけしない。だから……キスしていい?」
金色の瞳に捕らわれる。
懇願するような、ギラギラする獣のような、不安な子供のような……男性の瞳だ。
手が熱い。
軽く手を添えてるだけで、引き抜こうと思えばすぐに引き抜ける。
でも、引き抜けない。引き抜きたくない……。
「エスメローラ」
お互いの左手薬指に煌めく指輪が見えた。
「は……い……。私も…したい……です」
いまだに『好き』と言えてない。
言いたいのに、喉につっかえて、私はその言葉が吐き出せない。
でも……気持ちを伝えたい。
貴方を好きだと……。
私の返事を待って、サイラス様は初めて私の指にキスをした。
すごく……色っぽい……。
「嬉しいよ……」
妖艶な微笑みに心臓が鷲掴みになる。
サイラス様の指先が、私の頬に触れた。
それから、顎……唇……。
「嫌じゃない?」
「は、い……」
唇を何度も撫でられる。
サイラス様の視線も唇に集中してる。
「!」
不意に誰かの気配を感じた。
瞬間!
サイラス様に顎を持ち上げられ、そっとキスをされた。
「っ!」
突然のキス。
ただ、唇を合わせただけなのに、心臓が早鐘を叩いた。あまりの事に、彼しか感じられない。
ゆっくりと唇が離れた。
「マチルダ様のもとで待ってて。誰かに声をかけられても『マチルダ様に呼ばれている』と言って、決して取り合わないで」
「え?」
「本当ならマチルダ様のもとにエスコートしたいんだが用事が出来た。すまない」
「それは構いませんが、何かあったのですか?」
「たいした用事ではないが、危険な芽は早めに潰しておくに限るからな」
危険な芽?
「……わかりました」
「良い子だ」
彼の美しい微笑みに魅了されてしまう。
動けず彼を見つめていると、彼が顔を近づけてきた。
「……続きは屋敷で。すぐに迎えにいくから、待っててくれ」
「……はい」
耳元で囁いた甘い声と、危ない男性の瞳に酔いしれてしまった……。
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