上 下
34 / 34

最終話 エピローグ

しおりを挟む
 結婚して10年。
 私は今、幸せです。

 10年は長くて短いなと、つくづく思ってしまう。
 イエルゴート王国は現在、二頭政治を実施し、とても平和な国になった。
 レオン王太子殿下、もといレオン国王とマチルダ女王の政策は順調である。

 マチルダの下、自然エネルギーを利用した温室で貴重な薬草の栽培に成功し、薬草の輸入に頼る事はなくなった。
 ただ、自然エネルギーの運用は安全面と安定性がなかなか確保されず、他国に情報提供をせっつかれているらしいが、のらりくらりと交わしているそうだ。

 それから、自然エネルギーは大きな可能性を秘めている。現在は水力を利用したエネルギーしか活用出来ていないが、研究者達の話だと風や火山のエネルギーなど他にも利用出来る力があるらしい。
 研究のやり甲斐があり、充実している。

 レオン国王とデイジー様もめでたく結婚し、翌年には子宝にも恵まれて、イエルゴート王国は順風満帆と言える。

 あっ!
 そうそう。
 マチルダも結婚したのだ。
 お相手は……自然エネルギーの研究者・ヤムル(48)さんだ。なんと彼、グスタフ王国の王族でした。前国王の王弟らしい。
 王位継承権とか、王族とか、貴族とか、クソ面倒臭いしがらみが嫌いで、1研究者として一生を捧げる事を決めて、自然エネルギー研究の機関に居たらしい。
 で、マチルダと意気投合。研究第一で良いと言うことで、マチルダの王配になったのだった。
 重要な祭典には出席するが、基本は研究室でむさ苦しい格好をした無精髭おじ様だ。
『年々渋さが増して、格好良すぎるわ!』
――と、マチルダがぞっこんだ。
 小説で読んだことがあるが『枯れ専』と言うことだろう。
 これは秘密だが、研究室で二人っきりの時、マチルダが別人みたいに彼に甘えていた。女王というプレッシャーもあり、素直に甘えられる場所が限られるマチルダにとって、ヤムルさんは必要不可欠な存在なのだ。

 あと、ロクサーヌちゃんももうじき結婚する。
 お相手は、私の弟・ダッセルだ。
 いつどこで知り合ったのやら……。
 まぁ、ロクサーヌちゃんなら他国の社交界でも十分活躍出来るでしょう。ダッセルもやるときはやる子だから、ロクサーヌちゃんを守ってくれるはずね。
 何かあったら、私もだけど、サイラスがただでは済まさないでしょうね。

 余談だが、オルトハット王のヘンリー王も結婚した。お相手はカイザラルク伯爵家の50代の女性らしい。

 カイザラルク伯爵家は海外貿易に精通していて、かなりのお金持ちだ。

 実は、マチルダを娶るために薬草園を国内で増設し、薬草を作りすぎてしまったのだ。しかも、毎回イエルゴート王国がかなりの量を輸入していたらしいが、自国で生産出来たため薬草の輸入をストップ。
 また、イエルゴート王国では品質管理を徹底しているので、オルトハット王国の薬草より良品で、各国がイエルゴート王国産の薬草を買い求めはじめてしまったのだ。
 それにより、国の大事業の薬草栽培政策が大ゴケし、財政は火の車になってしまった。
 
 そこで、国の財政を立て直す為に、カイザラルク伯爵家の問題児『被害妄想を拗らせる恋する乙女』と異名を持つ方と結婚することで、カイザラルク伯爵家にお金を出してもらったそうだ。
 しかも、離縁はできない、側室を持つことも出来ないと誓約書も書かされたと噂がある。

 まぁ、『王族の結婚は国に繁栄をもたらすべき』と豪語していた彼だ。国の為に結婚するのが義務だろう。


「お母様~」
 庭のガゼボで研究報告書に目を通していると、遠くから男の子と子供を抱いた男性が歩いてきた。

「アステル。お父様と馬を見に行くんじゃなかったの?」
「もう行ってきたよ」
 黒髪で金の瞳がサイラスそっくりだ。
 お義父様とお義母様から、サイラスの幼い頃によく似ていると言われている。
 
 アステル・アルデバイン(8)
 私とサイラスの間に産まれた愛しい子。
 結婚してすぐに授かった子で、周りから大変祝福されたわ。お義父様の涙なんて、その時はじめて見てしまった。
 ふふっ。サイラスも号泣してたわ。
『ありがとう。ありがとう』って。

 私の方こそ、こんな素敵な子の母親にしてくれてありがとうって、そう答えたらしい。
 出産直後の記憶は曖昧で、お義母様からその時の様子を後から聞いたのよね。

「エスメローラ」
「サイラス。お帰りなさい」
「ただいま。まったく、君は私の言うことをきかないな」
「え?」
 サイラスは抱えていた娘ジェシカ(3)を近くのメイドに手渡すと、上着を脱いで私にかけた。

「体が冷えるだろ。もっと厚着をしないとダメじゃないか。私が贈ったブランケットはどうしたんだ?ん……紅茶が冷めている。どれだけ長時間ここに居るんだ?あっ、贈ったクッションも使ってくれていないじゃないか」

「フフフ。ごめんなさい。少し気分転換するだけのつもりだったのだけど、報告書を読んでいたら時間を忘れてしまったみたい。サイラスの贈り物は部屋に居るときに使っているのよ。汚したら嫌だもの」

「……わかった。今度は汚れても洗い回し出来て、君が気に病まない程度の可愛い物を贈る。物を大切にする君の考え方は好ましいと思うが、私は君が大切なんだ。汚しても良いから体を大切にしてくれ。君一人の体じゃないんだから」

 サイラスは大きくふくれた私のお腹を見た。
 現在三人目を妊娠中です。
 マチルダともっと仕事がしたいけど、出産を控えて、仕事は少しお休みしている。

「過保護ね」
「言っただろ。君が大切なんだ」
「えぇ、知ってる」

 私が微笑むと、サイラスがキスしてきた。

「もう!子供達の前で!」
「今のは君が悪い」
「なんでよ」
「可愛いから」

「ラブラブしてる」
「アステル坊っちゃま。料理長が新しいお菓子を開発中と言っていましたから、そちらを見に行きましょうか」
 ジェシカを抱っこしているメイドが、気を利かせてその場を離れていった。

「サイラス。子供の情操教育に良くないから、子供の前ではキスは禁止です」
「それは困った。愛しの奥様に許しを乞わなきゃ」
 全く悪びれる事なく、彼は再度口づけてくる。

「サイラス、ちゃんと、聞い、て」
 唇から首や鎖骨に口づけされてしまう。

「聞いてるよ。可愛い人」
「サイ、ラス……」
 サイラスが私の胸に触れたとき――

 ポンッ!

 ――お腹の子がお腹を蹴った。

「あっ……」
「ふっ……」
 サイラスは大人しく私の隣に座った。
 お互い顔を見合って、笑いあった。

「怒られてしまったな」
「ふふっ、そうね。仕方がないお父様よね~」
「お母様が大好きだから、しょうがないんだぞ~」
 二人でお腹をさすると、また元気にお腹を蹴った。

「男の子かしら。それとも、女の子かな?」
「どちらでも。元気に産まれてくれれば、それだけで嬉しいよ」
 サイラスがまた軽くキスをしてくる。
 まったく、しょうがない人ね。

「愛してるよ、エスメローラ」
「私も愛してるわ」

 これからもずっと、愛する貴方とキスがしたい。

 fin
 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
 皆様のご声援を受け、HOTランキング一位(2022.11.6.0:00確認)になりました。
 また、人気ランキング一位(2022.11.7.10:30確認)にもなれました!さらに、連載中はそのまま一位を持続することも出来、感無量です!
 本当にありがとうございました!
m(。≧Д≦。)m

 たくさんの感想を頂き、とても嬉しく、励まされました。
 重ねてお礼を申し上げます!
 ありがとうございました!
 (*≧∀≦*)

 次回作も楽しんで頂ければ幸いです。

追伸
 当初、あらすじに『全33話』と記載していたのですが、プロローグを数に入れてませんでした💦
 『全34話』に変更しました💦
 誤りがあったことをご報告、訂正致します。
 m(。≧Д≦。)m
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(376件)

moku1225
2023.06.20 moku1225

一気に拝読致しました❗️読み始めた頃はエスメローラが不憫すぎて…元婚約者がまじキモい😱自己中な上にナルシスト⁉️任務とはいえ調子に乗りすぎたね💢エスメローラが隣国の王女とサイラスに救われて良かった😘サイラスが溺愛でエスメローラだけを大切にしてエスメローラが心から笑顔になれて、安心出来る場所ができて良かった☺️
エスメローラの故郷のアホどもの末路なんて自業自得‼️同情の余地もなし💢
ハッピーエンドで最後まで楽しかったです❣️
新作などありましたら是非拝読させてくださいませ☺️

解除
あましょく
2022.11.30 あましょく

途中までは冷徹に辣腕を振るう王太子様だったのが惚れた女に一杯食わせられてからダメダメになったみたいであ〜らら。
ただでさえ不信感持たれただろうに、強引に事を進めたもんだから多額の負債を背負ったのを機に見捨てられたんやろなぁ・・・
結局、側近達を諌める事も出来ず、頼みの繋がモラハラ男って、詰みすぎて笑うw自業自得でしかないwww
んで最終的に婆に身売りとか泣けてくる・・・情けなさすぎるw
女のケツ追いかける事だけ一生懸命やってたらそらそうなるわw
これ次代は無いから貴族制でやってくっていう通告でしょ、王も側近もバカでしかも揉めてるとかwww滅んでどうぞって気分やろなぁ。

主人公が鍛えられてモラハラ男とバカ王に屈する事無く煽り返す姿が最高だった!
むしろ高位貴族の女主人公が煽られてメソメソする方がアレレ〜おかしいぞ〜〜〜?となるなどをした。

バカ王とモラハラ男は十分落ちぶれたから、死体蹴りは不要だと思う。
バカ王は婆と添い遂げるしかないし、モラハラ男は田舎で例の影に生涯震えるだろうし。
まぁ、あまり弱いものいじめしてやるなよっていう高みの見物ですわw

解除
ねこ
2022.11.19 ねこ

ヘンリー 50代の人は流石にかわいそう
どんな罰よりある意味ツラ
何はともあれ、完結おめでとうございます

解除
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

傲慢悪役令嬢は、優等生になりましたので

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,591pt お気に入り:4,401

ドS天使に屈服♡生意気悪魔の敗北

BL / 完結 24h.ポイント:454pt お気に入り:107

明らかに不倫していますよね?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,242pt お気に入り:121

【BL:R18】旦那さまのオトコ妻

BL / 完結 24h.ポイント:1,249pt お気に入り:53

吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

SF / 連載中 24h.ポイント:1,328pt お気に入り:107

魔女の弟子≪ヘクセン・シューラー≫

BL / 完結 24h.ポイント:518pt お気に入り:27

誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,199pt お気に入り:6,287

ショート朗読シリーズ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:426pt お気に入り:0

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。