愚かな旦那様~間違えて復讐した人は、初恋の人でした~

ともどーも

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18話 リューベックの決断

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~ リューベック視点 ~

「エリーゼ!」
 彼女は泣きながら部屋を飛び出した。
 追いかける為に立ち上がったが、痛みで前に進めず、その場でうずくまってしまった。

 エリーゼ以外と、この先一緒に居たいとは思わない。
 彼女をあんなに泣かせてしまったのに、その顔さえ愛しい。
 誰にも渡したくない。
 彼女は俺のものだ!

 必死に立ち上がった。
 フラフラしながら歩き出す。

 廊下から走る音がする。
「子爵様!」
 医師が駆け込んできた。
「無理をしてはなりません!肩の刺し傷はかなり深いところまで来ておりました。最悪、腕を切り落とす事になりますぞ!」
「離してくれ、エリーゼのところにいかなくては…」
「そのお体では無理です!」

 くそ、体が思うように動かない。

「誰か!手を貸してくれ!」
 医師の声に執事長が慌ててやって来たのがわかった。
「旦那様!」
 男二人に抱えられ、ベッドに戻される。
 執事長にのし掛かられ、その隙に医師が注射を打ってきた。

 意識が遠退いて行く。
 エリーゼの泣き顔がいつまでも目に焼き付いて離れない。

 エリーゼ、行かないで。
 


×××




 目を覚ますと辺りは真っ暗だった。
「お目覚めですか?」
 ベッド脇から声がした。
 侍女長だった。
「エリーゼは?」
「別の部屋で寝ております」
 侍女長の事務的な声。
 相当怒っているのがわかる。
「彼女は…何か言っていたか?」
「離縁したいと」
 その言葉に胸が締め付けられる。
「…いやだ」

 侍女長から顔を背ける。
 
 貴族の離婚は、離婚申込書に二人でサインをして教会に届け出る。
 受理されれば成立する。
 よって、サインさえしなければ、法律的に彼女は俺のものだ。
 絶対にサインはしない。

「お嬢様に、時間を貰えませんか?」
 侍女長の静かな声が響く。
「お嬢様が覚醒してから一週間しか経っておりません。しかも、目を覚ましたときは事件の真っ只中。旦那様との事を落ち着いて考えるには、時間が必要です」

 確かにその通りだ。
 俺としたことが、事をせいでしまった。
 彼女を離したくないが、彼女の気持ちを考えれば、時間を置くのは必要なことだと思えた。

「わかった。だが、どうするんだ?」
「隣国に見習い教師として留学するのはどうでしょう。研修期間が終われば帰国。お嬢様が隣国にいる間に、孤児院の近くに学校を設立し、そこの理事になってもらえればよろしいかと」

 なるほど。
 それなら考える時間もとれるし、彼女の戻ってくる場所も確保できる。
 また、俺への見方も変わってくるかもしれない。

「そのように動こう。隣国には侍女長も同行してくれないか?さすがに一人で行かせるのは心配だ」
「かしこまりました」
 侍女長は朗らかに笑った。



×××



 それからは、怒濤の忙しさだった。
 
 侍女長から彼女に話を通してもらった。
 正直、隣国に行けなんて『お前の顔など見たくない』と意図しない意図に取られるのではないかと心配したが、杞憂に終わった。
 
 エリーゼ自身、もっと勉学に携わりたかったようで、帰国したら孤児院の子供達にもっとたくさんの事を教えてあげられると喜んでいたそうだ。

 離縁を言われてから一週間で、彼女は隣国へと出発した。

 別れの挨拶の時。
 ベッドから出れない俺のもとに、彼女は来てくれた。
「手紙を書いて良いだろうか?」
 伺うような俺に、
「はい。私も書きます」
 と、目線を合わせて言葉を交わすことができた。
 笑顔はもらえなかったが、大きな変化であった。

 彼女は隣国に着いたら受験勉強に勤しんでいた。見習い教師だろうが、採用には試験も必要だったので、彼女の為に家庭教師を雇った。
 彼女は勉学に励み、家庭教師が驚くほどの成果を上げていたそうだ。
 侍女長の手紙に、生活の様子が事細かに書かれていたのはとても助かった。

 俺からは一週間に一度手紙を送っているが、彼女からの返事がまだ一度も来ていない。
 侍女長の手紙では、受け取ってはいるとだけ記載があった。
 エリーゼのペースで構わないから、書けるときに返事が欲しいと手紙にしたためたが、返事が来ないことはかなり不安だった。

 俺たちの結婚一周年の日に採用試験の合否がわかる。合格すれば、二年間の研修期間をへて教員免許を取得できるそうだ。

 正直迷った。
 彼女は必ず合格しているはずだ。
 合格祝いに会いに行っても良いのだろうか…。

 侍女長に意見を求めたが
「旦那様の思うようにして下さい」
と返事が来た。

 意地悪な対応だ。
 彼女の事を考えるなら、どうすればいいか自分で考えろと暗に言われた気がした。

 交渉事なら、間違いなく行く。
 相手が上機嫌の時に、少し難しめの案件も持っていって、気前よくサインさせるのは常套句だ。

 だが、エリーゼはどうだろう。
 合格の喜びに溢れているとき、快く思わない相手が現れて、盛大にお祝いされて喜ぶだろうか…。
 逆に彼女の喜びに水をかける事にならないだろうか…。
 それならお祝いのメッセージカードとプレゼントの方が無難ではないだろうか…。

 あぁ、わからない!

 俺は仕事を早々に片付けて隣国に向かった。
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