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5話 練習試合
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「……」
沈黙。
意外にも、達也が固まっている。
「別れてもいいけど……。どんなやつだよ、そいつ。会社のやつか?いや、美咲の職場は幼稚園だから、出会いは限られるな。もしかして、既婚者?」
既婚者?
あっ……。
蓮が結婚してるのか、彼女がいるのか……聞いてない。勝手に独身で、私のことをずっと……。
私だって……彼氏が何人もいたのに。どうして蓮にはいないって思うのよ……。
「美咲」
考えに耽っていると、いつの間にか達也が後ろから抱きしめていた。
「既婚者だけはやめとけよ。お前が傷つくだけだし、奥さんにバレたら慰謝料とか請求されるし、職場にも居づらくなるだろ。その点俺は未婚だし、お前のことは気に入ってる。寂しかったら、もっと頻繁に来てやるよ。旨い飯も食わせてやる。なんなら、マンションを買ってやろうか?こんなM市じゃない都心で、ここより大きな部屋。お前がその気なら、いくらでも甘やかしてやるのに」
少し掠れているが、私の耳に直接甘い蜜を注ぐように達也は言葉を紡ぐ。
「美咲」
甘い囁き。
「今夜も泊まっていい?」
達也の手が、ゆっくりと服の裾の内側に入ってきた。
指先が肌に触れた瞬間、背中の奥で────ゾクッ!
何かが走った。
すぐに達也の手を止める。
今まで何も感じなかったはずの手なのに。
無理だと……。
「……ごめん」
「あっそ。無理強いはしないよ」
達也はなんでもないような口ぶりで言い、私の頭を軽く撫でた。
「その男が美咲を幸せにしてくれるなら、俺は別れてもいい。だけど、既婚者ならやめろ」
背中越しに聞こえる達也のいつになく真剣な声に戸惑う。
蓮が既婚者かは知らない。
だから違うとも、そうとも言えず黙ってしまう。
「美咲」
柔らかい抱擁だ。
さっきのような拒否反応はない。
「無理するなよ。お前、寂しいとすぐ人を信じるし、変なところが強情だし。ま、そういうところが可愛いんだけどな」
後頭部にキスをされた。
「寂しくなったらいつでも連絡しろよ。手料理を食わせてくれるなら、すぐに飛んでくるから」
「ぷっ!何それ」
達也のぶれない言動に笑ってしまう。
本当、手料理が好きね。
「そうそう。笑ってる方が可愛いぞ」
乱雑に頭を撫でられた。
「こらっ!もう!」
達也に髪をボサボサにされたが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
その後、達也は残っていた野菜炒めを美味しそうにたいらげ、食後のコーヒーを楽しんだあと、何事もなかったように帰っていった。
いつも通り「またな」と笑っていた。
それから、「日曜日の夜にシチューが食べたい」と言い残していった。
蓮の試合はお昼過ぎだから、朝に下ごしらえをしておけばいいし、圧力鍋で時短シチューにすれば問題ない。
なんとなく、達也と別れても、アイツは高いものを勝手にプレゼントしてきて手料理をせがんでくるような気がする。体の関係がなくなって、ただの友だちになるだけだ。
友だちとしてなら、達也は最高に楽しい人だから、この縁はそのまま続けられたらいいな……。
◇◇◇
本日は快晴なり!
絶好のサッカー日和ね。
スポーツブランドの日傘を新調して、スポーティーカジュアルの服を合わせてみました!うんっ、我ながら完璧なコーデね。
……変じゃないよね?
端っこに寄って、手鏡で前髪を整える。
あ~、でも懐かしいな!
蓮の試合を見に行くときは、いつもドキドキしたし、帰りにちょっと会って、それから蓮の学校近くのファミレスで待ち合わせして、一緒にご飯食べて、それから家に送ってもらったな~。
本当、甘酸っぱい思い出よね。
そんなことを思い出しながらスポーツ公園へと歩き、サッカーグラウンドに着いた。人も集まってるから、きっとあそこだろう。
グラウンド内では、すでに蓮たちのチームがアップを始めていた。
芝生の上には十数人の選手がいて、静かに円を描くようにランニングしている。
けれど──
笛の音も、掛け声もない。
聞こえるのはスパイクが芝を蹴る音と、ボールを軽く蹴り返す低いリズムだけが聞こえる。
それでも、誰ひとり遅れることなく、全員が息を合わせて動いていた。
コーチの手の合図でストレッチに移り、選手たちは無言のまま、互いにアイコンタクトを交わしながら柔らかく体を伸ばしていく。
視線と動きだけで通じ合っているのが分かる。
無音のチームワーク。
あっ、蓮が少し離れた場所で、若い選手に何か手話で指示を出している、真剣な顔で。
その姿が高校時代の彼と重なる。
蓮は蓮なんだな……。
「っ!」
蓮が気がついた。
嬉しそうに、笑顔で手を振ってくれた。
こっちも振り返す。
あっ!コーチがみんなを集めてる。
蓮にジェスチャーでコーチが呼んでいることを伝えようと手を動かすが、わかってもらえない……。
どうしようかと思っていたら、チームTシャツを着た女性が蓮の肩を叩いた。
髪を後ろ手に一つにまとめ、ボードを持っている。
マネージャー?なのかな?
背が高くて、スレンダーな女性だ。美人だな……。
蓮と手話で話している。あっ、蓮が笑った。
何話してるのだろう?
蓮があんなに優しく笑うなんて……。
私は日傘を握りしめ、胸がズキッとした痛みをこらえた。
沈黙。
意外にも、達也が固まっている。
「別れてもいいけど……。どんなやつだよ、そいつ。会社のやつか?いや、美咲の職場は幼稚園だから、出会いは限られるな。もしかして、既婚者?」
既婚者?
あっ……。
蓮が結婚してるのか、彼女がいるのか……聞いてない。勝手に独身で、私のことをずっと……。
私だって……彼氏が何人もいたのに。どうして蓮にはいないって思うのよ……。
「美咲」
考えに耽っていると、いつの間にか達也が後ろから抱きしめていた。
「既婚者だけはやめとけよ。お前が傷つくだけだし、奥さんにバレたら慰謝料とか請求されるし、職場にも居づらくなるだろ。その点俺は未婚だし、お前のことは気に入ってる。寂しかったら、もっと頻繁に来てやるよ。旨い飯も食わせてやる。なんなら、マンションを買ってやろうか?こんなM市じゃない都心で、ここより大きな部屋。お前がその気なら、いくらでも甘やかしてやるのに」
少し掠れているが、私の耳に直接甘い蜜を注ぐように達也は言葉を紡ぐ。
「美咲」
甘い囁き。
「今夜も泊まっていい?」
達也の手が、ゆっくりと服の裾の内側に入ってきた。
指先が肌に触れた瞬間、背中の奥で────ゾクッ!
何かが走った。
すぐに達也の手を止める。
今まで何も感じなかったはずの手なのに。
無理だと……。
「……ごめん」
「あっそ。無理強いはしないよ」
達也はなんでもないような口ぶりで言い、私の頭を軽く撫でた。
「その男が美咲を幸せにしてくれるなら、俺は別れてもいい。だけど、既婚者ならやめろ」
背中越しに聞こえる達也のいつになく真剣な声に戸惑う。
蓮が既婚者かは知らない。
だから違うとも、そうとも言えず黙ってしまう。
「美咲」
柔らかい抱擁だ。
さっきのような拒否反応はない。
「無理するなよ。お前、寂しいとすぐ人を信じるし、変なところが強情だし。ま、そういうところが可愛いんだけどな」
後頭部にキスをされた。
「寂しくなったらいつでも連絡しろよ。手料理を食わせてくれるなら、すぐに飛んでくるから」
「ぷっ!何それ」
達也のぶれない言動に笑ってしまう。
本当、手料理が好きね。
「そうそう。笑ってる方が可愛いぞ」
乱雑に頭を撫でられた。
「こらっ!もう!」
達也に髪をボサボサにされたが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
その後、達也は残っていた野菜炒めを美味しそうにたいらげ、食後のコーヒーを楽しんだあと、何事もなかったように帰っていった。
いつも通り「またな」と笑っていた。
それから、「日曜日の夜にシチューが食べたい」と言い残していった。
蓮の試合はお昼過ぎだから、朝に下ごしらえをしておけばいいし、圧力鍋で時短シチューにすれば問題ない。
なんとなく、達也と別れても、アイツは高いものを勝手にプレゼントしてきて手料理をせがんでくるような気がする。体の関係がなくなって、ただの友だちになるだけだ。
友だちとしてなら、達也は最高に楽しい人だから、この縁はそのまま続けられたらいいな……。
◇◇◇
本日は快晴なり!
絶好のサッカー日和ね。
スポーツブランドの日傘を新調して、スポーティーカジュアルの服を合わせてみました!うんっ、我ながら完璧なコーデね。
……変じゃないよね?
端っこに寄って、手鏡で前髪を整える。
あ~、でも懐かしいな!
蓮の試合を見に行くときは、いつもドキドキしたし、帰りにちょっと会って、それから蓮の学校近くのファミレスで待ち合わせして、一緒にご飯食べて、それから家に送ってもらったな~。
本当、甘酸っぱい思い出よね。
そんなことを思い出しながらスポーツ公園へと歩き、サッカーグラウンドに着いた。人も集まってるから、きっとあそこだろう。
グラウンド内では、すでに蓮たちのチームがアップを始めていた。
芝生の上には十数人の選手がいて、静かに円を描くようにランニングしている。
けれど──
笛の音も、掛け声もない。
聞こえるのはスパイクが芝を蹴る音と、ボールを軽く蹴り返す低いリズムだけが聞こえる。
それでも、誰ひとり遅れることなく、全員が息を合わせて動いていた。
コーチの手の合図でストレッチに移り、選手たちは無言のまま、互いにアイコンタクトを交わしながら柔らかく体を伸ばしていく。
視線と動きだけで通じ合っているのが分かる。
無音のチームワーク。
あっ、蓮が少し離れた場所で、若い選手に何か手話で指示を出している、真剣な顔で。
その姿が高校時代の彼と重なる。
蓮は蓮なんだな……。
「っ!」
蓮が気がついた。
嬉しそうに、笑顔で手を振ってくれた。
こっちも振り返す。
あっ!コーチがみんなを集めてる。
蓮にジェスチャーでコーチが呼んでいることを伝えようと手を動かすが、わかってもらえない……。
どうしようかと思っていたら、チームTシャツを着た女性が蓮の肩を叩いた。
髪を後ろ手に一つにまとめ、ボードを持っている。
マネージャー?なのかな?
背が高くて、スレンダーな女性だ。美人だな……。
蓮と手話で話している。あっ、蓮が笑った。
何話してるのだろう?
蓮があんなに優しく笑うなんて……。
私は日傘を握りしめ、胸がズキッとした痛みをこらえた。
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