【完結】フィクション

犀川稔

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23話 恋のバイト先

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「いらっしゃいませ!」
レジに立ち、メニューを選ぶお客さんに笑顔で声をかけた。恋はこの日美鈴と一緒に美鈴のバイト先で働いていた。数日前閉店前の1時間程、説明を受けに来ていてそれを含めないと今日が初の出勤だった。大体のマニュアルを覚え、わからない時はメモをした手帳を見ながら対応していた。その様子を見ていた美鈴は自分の弟の頑張りに心底関心していた。
「どう?だんだん覚えてきた?」
接客が終わるのを見守ってから美鈴が恋に話しかけた。
「あ、姉ちゃん。う、うん。今のところ大丈夫そう...レジと商品のお渡しだけにしてくれてるからほんとに助かった...!」
恋は安心したようにホッと息を吐くと、薄ら笑みを浮かべた。二人の様子を見ていた店長が二人に近づき声をかけた。
「恋くん、大丈夫?困ってる事とかない?なんかあったらすぐ言うんだよー!」
優しい店長の言葉に恋は笑って「はい。」と頷いた。姉曰く、店長さんは今日本当は出勤じゃないのに僕の事が気がかりになりわざわざ様子を見にきてくれたらしい。恋はいい職場にいい人たちで温かい気持ちになった。
「もし夏の間働いてみて良さそうって思ったら夏以降も大歓迎だから是非考えてみてー!恋くんいい子だし覚えるの早いし何より顔いいからずっといてほしいわ~!!」
「もう~、店長!うちの弟にナンパするのやめてください~!れんれんは私が守る!」
美鈴はそう言って恋のことを抱きしめた。二人の会話にあたふたしつつも楽しそうに恋は笑っていた。

バイトが終わり美鈴と駄弁りながら一緒に家に帰っていた。歩きながら赤城に「今バイト終わって帰ってる。」とL◯NEを送った。数分後電話が鳴って名前を見ると赤城からだった。気づいた美鈴が「出な~!」と言うと恥ずかしがりながら応答した。
「も...もしもし?」
「...恋?初バイトお疲れ様。大丈夫だった?って...今電話へーき?」
赤城の声に安心し、緩んだ顔つきになる恋を見て美鈴は微笑んだ。
「うん...大丈夫だった。姉ちゃんいたし他の人も店長さんもきてくれて、みんないい人だったよ。...あ、赤城も今バイト終わったところ?」
「今日からって聞いてたから結構心配してた。いい人たちなら良かったよ、うん。今終わって佐々木んち向かってるところ。んだから夜あんまりすぐ返事返せないかもだから今電話かけたんよね、恋さんの声聞いてエネルギーチャージっすね。」
優しい赤城の声にたくさん頷いて楽しそうに話す恋に気を遣って、少し離れて美鈴は歩いた。数分話していると駅に着いたのか後ろからホームの音が電話越しで聞こえた恋は「そろそろ切る?」と赤城に声をかけた。
「うん......電車もちょうど来るっぽい。...家着くまで繋いでらんなくてごめんね。」
「んーん、大丈夫!姉ちゃんもいるから気をつけて帰ります!」
恋の言葉に「あ、お姉さんも今一緒だったの?」と驚いて少し大きな声を出した。会話が聞こえた美鈴がこっちに歩いてきた。
「うん...カフェから一緒に帰ってるよ!」
「あら...お邪魔しちゃったね、気づかなくてごめん。」
「全然!僕が赤城の声に聞きたかったから...だから出たの。全然邪魔じゃない!」
二人が話していると恋の隣にきた美鈴が横から「どうも~」と一緒に携帯を耳に当てて電話に乱入してきた。
「初めまして~れんれんの姉です。いつも弟がお世話になってます~!いつも赤城赤城ってれんれん楽しそうだからありがとね!これからも一緒にいてあげて~!」
恋は急いで携帯をスピーカーにした。
「あ...お姉さん。初めまして、恋さんとお付き合いさせていただいてる赤城尊です。いえこちらこそ。恋さんのおかげで毎日楽しいです。必ず幸せにしますので...お任せください。」
突然の美鈴の声に驚きつつも淡々と落ち着いたトーンで赤城が答えた。その返答に恋と美鈴は二人して顔を赤くした。「ご馳走様~!」と言って満足そうに美鈴は携帯から離れた。電話越しであたふたする恋に赤城が「...恋?」と声をかけると恋は小さく弱そうな声で「はい...」と言った。声から照れているのがわかると赤城は甘く優しい声で
「好きだよ。また明日ゆっくり話そうね。家まで気をつけて帰ってね。」
と言って電話を切った。切れた後も赤城の言葉を思い返して余韻に浸る恋に美鈴がニヤニヤして話しかけた。
「いいね、めっちゃいいよ!赤城くん!!男の中の漢だわ。あれは惚れる、うん。我が弟、いい相手見つけたわ。」
そう言って美鈴は恋の肩をポンっと叩くと満面の笑みで前を歩き出した。
...必ず幸せに...任せてくださいって......。ああああああ...格好よかった......。すごいな~...僕誓くんの時も赤城の母親の時もあんなにあたふたしちゃったのに赤城は姉ちゃんに対して全然緊張してなかったし...圧倒的余裕だ......。
赤城には言ってなかったけどバイトを引き受けた1番の理由はやっぱり寂しいと思わないためではある。でもそれ以外にもちゃんと意味があって、人に慣れるためだった。小中高とずっと仲川と居る僕は、友達も仲川絡みから仲良くなることが多かった。相馬はイレギュラーで高校に入学して初日、席に着いたら隣の席で授業中に突然「ふわふわしててかわいいね。」ってナンパのように声をかけられた。そこから何故か好かれてベタベタくっついてくるようになって気づいたら一緒にいた。だから僕にとって仲川以外では初めての自分からできた友達だ。佐々木くんや新山くんは赤城の友達だからと自分の中でワンクッション置くことでかろうじて話す事ができている。そして決められた特定の人としか平常心を保って話せない僕は自分の欠点を直すが如く、今回姉ちゃんの誘いに二つ返事でノることにした。

この夏「脱!人見知り」を目標にして僕は奮闘するのだ。赤城はこのままでいいって言ってくれてたけどそんな優しい言葉に甘えちゃだめだ。
......待っててね、赤城。この1ヶ月で少しでも大人になった僕を作り上げるからね。


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電話を切った後の赤城

......あー...緊張したーーーー。さすがにお姉さん電話越しで話してくるとは思わんべ。俺ちゃんと話せてたかな、大丈夫かな。言った後の恋の反応が声だけでもプルプルしてるの伝わってきてクソかわだったな。......幸せにするじゃなくて結婚したいって言えばよかった。言い直すか、まだ間に合うか?(圧倒的余裕とは)
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