ノンフィクション

犀川稔

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50話 デレ120%

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 おれが集合場所に選んだのは百貨店の入り口だった。
 昨日の電話で集合時間を決めた後で「家の前まで迎えに行く。」と言いだした新山さんの言葉を遮ってそこをおれが提案した。
 突然のおれの発言に驚いたのかしどろもどろしていた新山さんだったけれど、すぐに「わかった。」と了承してくれた。
 なぜそこを選んだのかと言うと理由は二つあった。一つ目は今日行く予定の映画館と同じ駅にあると言うこと。そしてもう一つはこの百貨店の中で今、期間限定のポップアップストアをやっていると言うことだった。
 それを知ったのは昨日たまたま携帯でSNSを見ていた時だった。映画を観に行くと決まった時点で近くでどこか他にいい店がないか探していた時にふとあるページに目が止まった。
 それは中学受験があったあの日の朝、新山さんがくれたキャラクターであるあのクマのぬいぐるみのポップアップストアの見出しだった。
 それを見た時「絶対に行かないと後悔する。」と謎の使命感に駆られ、おれは約束の前にそこに顔を出そうと決めた。と言っても、新山さんにおれがそこでグッズを見ている様子を見られるというのは流石に恥ずか死ぬ。そう、だからおれはその百貨店の前を集合場所にし先に用事を済ませて何食わぬ顔でそこに向かえば全て隠蔽することができると考えたわけだ。
「...我ながら完璧すぎる計画だな。」
 そう独り言を呟きながらおれはショップをやっている六階までエスカレーターで上がった。
 休みの日ということもあって多少は人が多かったけれどグッズが見づらいと思うほどではなかったので安心しておれは店に入った。「イタリアで生まれたクマの“みねちゃん”」と書かれた大きな張り紙を見ておれは初めてこのクマがみねちゃんと言うのだと知った。
 マグカップやキーホルダー、カラトリーと種類は豊富で他にも多く揃えられている店内をぐるぐると見て回っていると不意に肩を叩かれておれは後ろを振り返った。そこには二人組の女子が立っていて「はい...なんですか?」と声を出したおれに彼女たちは顔を赤くして話し出した。
「あっ、えっと...このキャラクター好きなんですか...?その~...私たちも好きで。良かったらこの後ちょっとお話しとか出来たり...。」
 甘い口調に上目遣いでチラチラと顔を見ながら話す女子に困った顔を見せた千隼だったけれどそんな千隼の腕を誰かが後ろから強く引っ張った。
「あー、マグも捨て難いけどやっぱ学生らしくシャーペンとかよくね?これならお互い、学校でも使えるし何より今日のデート中も嵩張らんわ。千隼はどー思う?」
 ペラペラとそう話しをするとその人...新山は千隼に話かけていた女子の方を睨みつけたあと「君たちもそう思うよね?」と敵意むき出しで問いかけた。
「あっ、はい...そう思います......。あのそのっ...邪魔してすみませんでした!!ご馳走様ですお幸せにー!!」
 そう頭を下げながら早口で千隼と新山に言うと女子たちはそそくさと会計をして店から去って行った。
 嵐のように散って行った女子たちをぽかんと見ていた千隼はハッとすると横に立っている新山に目を移した。
 そして今自分が置かれている状況を瞬時に理解し先ほどの彼女たちと同様、顔を赤くしてすぐに顔を逸らした。
「あ、えっとー...。」
 モゴモゴと口元を緩ませる千隼を見てクスッと笑みを浮かべると新山は千隼の頭を優しく撫でた。
「あの~千隼くん?ま~だ集合時間30分以上前だけど...?それとこのキャラって俺が前にあげたクマの...」
 わざとらしい口調で話をする新山の口に手を当てると「新山さんのこと嫌いになりそう。」と耳まで赤くした千隼が今にも消えそうな声で囁いた。そんな千隼の様子に悶死しそうな新山は「いや...まじであなた、可愛すぎない?」とガチトーンで言った後近くにあったシャーペンを二本手に取り会計をしに行った。

 百貨店を出るまで終始黙り込んでいた千隼は百貨店の前に着いてようやく新山の方を向いた。
「やっと許されたやつ?」と聞いた新山に「...もう集合時間だし。」とボソッと言い返すと時計を見た新山が笑って「確かに。」と言った。
 映画館に着くと案内時間になるまで近くにあった椅子に座って過ごした。
 千隼の手に持っていた、さっきのポップアップストアのショッパーに目を向けた新山が口を開いた。
「ところでさっき何買ったの?あの時一緒に見て回りたかったのに明らかに嫌そうな顔してたから見ないようにしてたけど、今になって気になっちゃったわ。」
 新山の質問に少し悩んだ表情を浮かべた千隼だったけれど、丁寧に封されていたテープを剥がすと中から出したストラップを新山に手渡した。それを見た新山は驚嘆して千隼の顔をぱっと見上げた。
 そのストラップは過去に自分が千隼にあげたものと同じものだった。
「......これ。俺が前あげたやつ...?」
 新山の言葉に小さく頷くと、千隼は恥ずかしそうに手を口元に添えながら話をした。
「あの時の新山さんのはおれがもらっちゃったから...だからそれ新山さんの分。ホームページで見た時端の方にそれ映ってるの見えてもしかしたらあるかもって思って...それで今日それを見たかったの。......まぁ結局可愛かったからマグも買っちゃったけど。」
 いつもより少し早口で目を泳がせながら話す千隼に新山はため息を吐くと、千隼が口元を抑えていた手を掴んで優しく握った。
「ねぇ、なんでそんなに可愛いの。..そんなんめっちゃ嬉しいし流石に愛しすぎるって。俺もマグ買えば良かったわ。したらそっちもお揃いになったのに。」
 嬉しそうに微笑みながらそう漏らした新山を見て千隼は相変わらず恥ずかしそうにしつつも笑みを浮かべた。そして小さな声で「じゃあ映画終わったらまた見に行こうよ。」と言うと館内放送で入場を開始したことを知りその場から立ち上がった。
 そんな千隼の背中を追うように新山も立ち上がると、二人はトイレに行ったあとでポップコーンと飲み物を買いに行った。

 映画が始まる前に機内モードに設定しようと携帯を手に取った新山は佐々木からのL◯NEを見て顔を顰めた。普段は緩い話ばかりしている友人からの明らかに切迫したようなメッセージに戸惑いながらもとりあえず短い文章で返事を返した。
 そして映画を観終わったあとトイレに向かった新山は個室に入ると、その友人から来ていた更に詳しい話の詳細を読み今日は千隼を自分の家に泊めると返した。
 変な緊張感でバクバクと動く心臓に大きく深呼吸をすると外で待っていた千隼に明るい笑みを向けるといつも通り、普段通りに振る舞った。
 ポップアップストアに戻ると好奇心旺盛でワクワクした顔で商品を見る千隼を新山が隣から見つめているとそんな新山の視線に気づいた千隼が新山の方に振り向いた。
「...?新山さん?どうかしたの?」
 不思議そうに首を傾げながらこっちを見ている千隼に優しい顔を見せると新山は「今日俺んち泊まりきてよ。」と耳元で囁いた。
 その言葉を聞いた千隼は恥ずかしそうに顔を逸らした後で「うん。」と小さな声で返事をした。
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