ノンフィクション

犀川稔

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72話 恋人と過ごすクリスマス①

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 そして気づけば新山さんがおれの家に来て二時間が経過していた。思い出したように電車の運行情報を確認すると、今だに電車は運転見合わせだった。
 おれが大きなため息を吐くと、新山さんは「結構でかい事故だったのかね。」とおれの頭を撫でて慰めてくれた。
「何処に行く予定なんだ?」
 おれと新山さんの様子を見ていた父親がそう聞くと、つられておれも新山さんに目を移した。
「あ、えっと...赤レンガです、横浜の。」
 そう答えた新山さんの言葉に驚いて、思わずおれは「え!?」と声を出した。
「え、嫌だった...?愛美から行きたがってたって聞いたんだけど...。」
「いや逆!!一回は行ってみたかったから嬉しい!とりあえず電車動き出したら向かう感じにする?それまでどっかで時間潰すとか...。」
 せっかく予定を組んでくれた新山の意を汲み、場が暗くならないように千隼が提案すると父親は真面目な顔で携帯をいじった後顔を上げた。
「今調べたら高速はあまり混んでいないようだからもし良ければ、みなとみらいまで私が車を出そうか?夜は他に予定が入ってしまっているから迎えには行けないが...まぁ流石に夜は電車も復旧しているだろう。」
 想定外の父親の言葉に千隼と新山は驚いてぽかんと口を空けた。そして何も言えずにいた二人に代わって佐々木が「いいじゃん、せっかくだし送って貰えばー?あ、ついでに途中の××駅まで俺も乗せてって~!」と言った。
 そんな佐々木の言葉を聞いただと千隼は遠慮気味に「いいの...?」と恐る恐る父親に聞いた。
「あぁ、私の予定は夕方からの約束だったからそれまで暇を持て余していたんだ。何も遠慮することはないよ。」
「そうそう!どうせ家で待ってても仕事で母さん18時までは帰って来れないしね!ディナーの予約まで時間たらふくあるしね!!」
「...おいおい、楓。なぜお前が私が母さんと食事に行く約束をしているのを知っているんだよ。」
 父親と母親の内事情を容赦なくペラペラと話す佐々木にみんなで笑った後、改めて新山は「ありがとうございます。」とお礼を言った。

 父親が運転する車内では付き合った経緯を話せるほどに打ち解けていた。
 後部座席で仲良く話をする新山と千隼をミラー越しで見ていた父親は、安心したような表情で微笑んでいた。
 あっという間にみなとみらいに着くと父親は「是非また話をしよう。」と新山に声をかけたあと、長いしては二人の時間を割いてしまうからと言いすぐに車を出して帰って行った。
 走り去った父親の車をぼーっと眺めていた新山を見て「新山さん?」と千隼が首を傾げながら言うと新山は突然その場でしゃがみ込み大きく息を吐いた。
「はぁー...まーじで、緊張しましたわ。」
「え、新山さん緊張してたの?」
「そらーするでしょ。恋人の父親よ?普通に心臓バクバクだわ。」
 冷や汗をかきながらそう漏らした新山を見て千隼がクスクスと笑うと「馬鹿にすんな。」と新山は千隼の頭をポンっと叩いた。

 ずっと憧れていた赤レンガ倉庫はとても人が多くてお店もたくさん出ていた。
 周りを見渡しても、カップルをはじめとして家族で来ている人や友達同士で来ているような人と様々だった。
 奥の方には大きなクリスマスツリーが飾られていてそこにはより多くの人が群がっていた。
「あっち人すげぇね。今行ったら絶対もみくちゃになるから少し人減ってきたら行こうか。」
 新山がそう提案をすると辺りをキョロキョロしていた千隼は小さく頷いた。
 建物の中を一通り見終えて外に出ると中途半端な時間だったからか、先ほどまで混み合っていたツリーの前が空いていた。それに気づいた千隼はここぞとばかりに新山の手を引いてツリーの前まで向かうと携帯を手に取り写真を撮った。そんな必死な千隼の様子を見ていた新山が優しく笑うと千隼は「何?」と不満そうな表情を浮かべた。
「いや...好きだなって思って。」
 そう話した新山の言葉を聞いた千隼が顔を赤くすると、新山は千隼の手から携帯を撮って代わりにシャッターを切った。数枚写真を収めた後で満足そうに新山が写真を確認しているとそっと隣になっていた千隼が新山の耳元でボソッと一言呟いた。それを聞いた新山は驚いた顔をした後、ふわっと笑みを浮かべた。

 朝起きて交通機関のダイヤルと確認すると、人身事故が原因で大幅に乱れていた。すぐに復旧しない気がして千隼に先に合流しないかと連絡を送ったけれど既読だけがついて返事が来なかった。忙しいのかと思い佐々木にL◯NEを送ると、「もう起きてるし部屋にいるよ。」と教えてもらったので俺は千隼の家に行くことにした。
 これまで季節のイベントなどはあまり重視したことはなかった。家でダラダラ過ごすかバイトをするか同じく予定がない友人たちと朝までパーっと騒いだり、そんなふうに過ごす日々だった。
 だから恋人ができたその時は、街中で浮かれるカップルみたいに俺も馬鹿みたいに浮かれてやろうとそう思っていた。しかし俺が付き合った相手はいかにもイベント行事には興味がないようなそんな雰囲気をしていた。相手がノリ気じゃないのに無理に付き合わせる気は無いし、だから俺は千隼に合わせようと思うようにしていた。しかしそんなことは全くなかった。
 見た目に反して千隼は誕生日とか記念日、シーズン毎の行事を密かに楽しみにしているそんな可愛い一面があった。妹から千隼が今日来ている赤レンガ倉庫に行きたがっていると聞いた時は自分と同じくらいソワソワしている千隼がとても愛くるしいと思ったし、ここに来てから辺りをキラキラとした瞳で見渡している千隼が心の底から好きで好きで仕方がなかった。
 そんな笑顔が見られるなら俺はなんでもできるとさえ思った。だからこそ俺はこの先のことも考えて今日、千隼に言わないといけないことがある。でもこんなに周りが騒がしいところでするような話では無いから。
 ディナーの予約したお店でゆっくり話しようと思ってるよ。

 いつものように、すれ違わないように......。
 まっすぐに君に伝えられたらいいな。
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