ノンフィクション

犀川稔

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10.5話 おれの作戦会議

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千隼は深刻な面持ちで机に突っ伏した。
「は?...こいつどーした?」
「あー、なんか彼氏くんから突然、話したいことがあるってL◯NE来たんだって~。」
「ほーん?運命の再会にしては随分と早い終わりだな。」
「内田うるさい、別にフラれるって決まったわけじゃないし。」
キレ口調で千隼が返すと、有馬が千隼の頭を撫でた。
「でもお前、彼の手思いっきし振り払っちゃったって言ってたじゃん。そう言うのも理由の一つで、積もりに積もって感じたことでもあったんじゃない?」
「......何も言い返せないわ。」
心あたりがありすぎて困る。いやそもそも頑張ってこのクソみたいな自分の性格を新山さんの前では隠してるつもりだったけど元の性格上、滲み出るものはあったと思うし何よりあの優しい性格の新山さんの元に落ちるとどうも感情のコントロールができなくなる。恋愛にこんな苦戦したことはなかったしいつも相手がガツガツ来ていたから新山さんみたく下手したてに来る人の扱いが非常に難しい。
「これってさ、もしフラれたとしてもやだって言ったらうざいと思われるのかね。」
ぽろっと千隼の口から出た言葉に二人は驚いて会話を止めてこっちを見た。
「え~!別れたくないって言ってるちーちゃん可愛すぎじゃない~!?」
「お前...マジどーした?今更可愛い子ちゃんキャラは痛いて。」
「いやいや、キャラとか関係ないし普通に相談だったんだけど。」
新山からきたメッセージを何度もゆっくり読み返す千隼を見て有馬は明るい顔つきで話しかけた。
「ん~、なしではないんじゃない?むしろそんだけちーちゃんが本気なら聞いてる限り向こうも折れてくれそうじゃん。」
「有馬、お前はまじで心の友だわ。今度自販機奢ってやる。その作戦試すわ...とりあえずちょい一人になって作戦会議したいからトイレ行ってくる。」
そう言って立ち上がると千隼は走ってトイレに向かった。残された有馬は千隼ヒラヒラと手を振ると、自分の席に座った。
「なぁ、お前ってさ。千隼にそんな懐いてるけど実際あいつに対してってlikeなの?それともlove?」
不思議そうに聞いてくる内田に有馬は中庭で告白されてされている、校内で有名な一学年上の先輩のことを流し見ながら口を開いた。
「ちーちゃんのことは好きだよ、もちろんラヴの方でね。でも別に付き合いたいとは思ってないよ~。元々俺は負け確のことはしない主義だしね?でもまぁ俺みたいに元から恋愛対象が同性のやつは、元はそうじゃなかった奴同士がくっつくなんて羨ましい限りだよ。どんだけ頑張っても無理なものは無理って時もあるんだからさ。」
よくわからない話をされ首を傾げる内田を見て有馬は悪戯に笑った。

結局、全然いい案が思いつかないまま放課後を迎えてしまった。新山さんには「わかった。」と返事を返してはみたものの、全くもっておれはわかっていない...いやだってそうじゃん。今まで成り行きで付き合っては別れてを繰り返してきたし何よりおれはまだ......。
「千隼くん。」
内田と有馬と一緒に昇降口に降りて靴を履き替えそのまま校門まできた時、おれは声をかけられた。
「え、あっ...新山さん。なんでここに......?」
「早く千隼くんに会いたかったから迎えきちゃった。でも友達と一緒だったか、ごめんごめん。邪魔しちゃ悪いし、先家で待ってよっか?」
この前のことを気にしてか、いつもよりも距離を取って話をする新山さんに心を痛めた。そして隣に立つ二人に目配せをするとおれは新山さんの手を取った。
「あっ、えっと。これ...おれの友達の内田と有馬......。でね、二人とはいつでも話せるからおれは新山さんと帰りたい...かも。」
「嬉しいありがと。あー、内田くんと有馬くんもごめんね急に押しかけて。また今度ゆっくり話でもさせてくれると嬉しいかな。...じゃ。千隼くん、行こっか。」
そう言って新山は千隼に掴まれた腕を掴み返すとそのまま手を引いて連れて帰っていった。
そんな新山を見て呆気に取られていると周りの女子たちがザワザワしていた。
「今のって上城高校の新山先輩でしょ!?めっちゃかっこいいよね!有名なだけあって実物も存在感えぐすぎ~!」
「ね!わかるわかる!周り赤城先輩とか佐々木先輩派多いけど、私は断然新山先輩。クールそうなのにあんな優しいの反則だよね~!クラスの子が電車で見かけて連絡先聞いたら、教えてくれたらしいよ!しかも返信遅いけどごめんってフォローまでされたらしい!紳士すぎ!!あ~、あんな王子と付き合いたい~!」
大きな子で話す女子たちの会話を聞いて内田と有馬は顔を見合わせ苦笑いした。
「...王子カップル爆誕ってこと?」
「いや~、ちーちゃんは王子と言うより姫でしょ。それにさ、さっき見てて思ったけど...。」
言葉を濁して考え込む有馬を見て笑って内田が有馬の背中を叩いた。
「んなんな!俺も思ったわ。...あの反応をどっからどう見たら別れ話に勘違いするんだか、な。」
口を揃えて呆れたようにため息を吐くと、二人は「俺らも帰ろうぜ。」と言って足を進めた。

「千隼くんって学校でも本当にモテるんだね。」
「え、なんで。全然だけど...。」
「さっき学校の前で話してる時めっちゃ注目されてたじゃん。そんなにモテると心配だな~...。」
千隼は驚いた表情をした後急いで弁解をした。
「いやいや、あれ全員おれじゃなくて新山さん見てたんだよ。新山さんおれの学校で格好いいって有名なの。」
「へぇー...、じゃあ千隼くんは?俺のこと格好いいって思ってくれてる?」
突然の質問に千隼が顔を赤くするとそれを見た新山が「ごめん、冗談!調子乗りました。」と急いで話を続けた。
「うん...格好いいと、思う。」
小さな声でそう呟いた千隼に、新山は口を開けたままじっと千隼を見つめた。
「な...に?だから格好いいって言ったの。...なんか言ってよ。」
「いや嬉しすぎて一瞬思考回路が停止してた。なになに今日あまあまで可愛いね。」
新山さんは笑っておれにそう言った。

電車に乗り込み隣に座った新山さんの肩にもたれかかると、おれは恐る恐る口を開いた。
「新山さんっておれと別れたいと思ってる?」
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