ノンフィクション

犀川稔

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14話 我儘の裏がわ

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帰り支度をしていると女子たちが窓際に集まって騒がしくしていた。気になりはしたものの今日この後、新山さんが迎えに来ることでおれは頭がいっぱいになっていた。そんな時に内田から肩を叩かれた。
「おい...彼氏にL◯NEしたれ。目立ちすぎだって。」
呆れたように内田にそう言われた俺は恐る恐る窓に近づくと、校門脇の花壇に座って時計を眺める新山さんに姿があった。おれは急いでカバンを持って昇降口に向かうと靴を履き替えて走って新山さんの元へ行った。

「はぁはぁ...っ、おまた...せ。...って早くない?そっちも今終わったくらいのはずじゃん。」
息を切らしながら話をする千隼に新山は笑って頭を撫でた。
「うん、しれっと帰りのSHRショートホームルーム抜けて来ちゃった。そんなんバカ真面目に受けてたら千隼くん待たせちゃうべ?」
新山の話を聞いて千隼は分かりやすく顔を赤くした。そんな時、女子生徒数人が二人の元に近づいてきた。
「上城高校の新山先輩ですよね!やば、実物イケメン~...もしよかったら連絡先教えてください!」
「この後時間あったりしませんか!?先輩とお話ししてみたいです...!」
あからさまにキラキラした顔で新山に話しかける女子たちを見て千隼は顔を背けた。そんな千隼の様子と見ていた新山は千隼から目を離すと冷たい表情を女子たちに向けた。
「俺恋人いるからそう言うの断ってるんよね、ごめんね。」
素っ気なく返すとまた明るい顔で千隼の方を向いて「千隼くん行こ?」と言って手を引いて連れて行った。新山が女子たちに言ったセリフが嬉しくて千隼がニヤける顔が抑えられずしばらくの間、下を向いていた。

「千隼くん~、そろそろこっち向いて欲しいんだけどなぁ~......やっぱ怒ってる?」
電車に乗った後も終始黙って顔を合わせない千隼に新山が気まずそうに話しかけた。
その言葉を聞いて千隼はやっと顔を上げて目を合わせた。
「...別に怒ってない。...新山さん、おれが怒ることなんかしたの?」
新山が千隼の返答に、開いた口が塞がらずにいると千隼が首を傾げた。
「え、あ...いや。勝手に恋人いるとか言ったこと...?とかさ。」
「勝手も何も...どう答えようが新山さんの自由でしょ。」
「いやでもさ、捉え方によっては恋人がそういうの断ってほしいって言ってるから断ってるみたいに聞こえなくもないじゃん。」
「......まぁ実際、断って欲しいのは確かだからいいでしょ。」
サラッとそう話す千隼に、新山がまた固まっていると「今日会話下手すぎじゃない?」と千隼が笑って言った。
「その突然のデレは心臓に悪いんだって。嬉しいけど外でやられると全然取り繕えないからせめて二人きりの時にしてほしいんだけど。」
「“年上彼氏 我儘すぎて困る”で検索だわ。」
楽しそうに笑って話す千隼の横顔を見て新山は安心したように笑みを浮かべた。

突然新山さんが学校に迎えに行くなんて言うもんだから何かあるのかと思ったけど、特に理由があったわけじゃないのかその日もおれを家まで送ると家にも寄らずに帰って行った。「珍しい。」と思ったのも束の間、その日を境に新山さんは何故か、おれから一歩離れてよそよそしくしてるような気がしている。勘違いかと思っていたけど、この前の反応でそれが明確となった。
なんとなく最近スキンシップが少ない気がして今日こそはするだろうと思って歯磨きも念入りにしたし、カサついていた唇にリップクリームまで塗ったのに新山さんは一切手を出してこなかった。
心当たりならある。多分初めてしたあの日...。
おれの予想が正しければあの後くらいから今のこの感じが始まった気がするしその日から今日で約一ヶ月が経過しようとしていた。
「......ものは相談なんだけどさ。」
屋上でお昼を食べている時に有馬の足を枕にして横になる千隼が口を開いた。
「んー?なになに?」
興味深々に聞く有馬とどうせ大したことないだろうと携帯で電子書籍を読みながら聞いている内田に千隼が聞いた。
「一回やった後から全くもって手を出してこないのってやっぱあんまよくなかったからなのかね。」
真昼間から威勢よくぶっ込んできた千隼に、笑い出す有馬と驚いて勢いよく顔をこっちに向ける内田。真面目な顔でその後も一人で話を進める千隼に二人は大人しく話を聞いた。
「...ってな感じでマジもんに手すら繋いでもこないんだけどおれはこの状況をどうしたらいいわけ?」
「......うん。ここまで聞いた上で言うけど、マジで悩んでるのかふざけてるのわからずに突っ込む気すら起きなかったわ。」
「いやいや、こっちは突っ込まれてるんだよ。普通にデカかったし最初見たとき、おれのケツ終わるかと思ったよ。」
「おい...誰が上手いこと言えって言った?お前の性事情は聞いてねぇよ。生々しいからそれ以上話すな。」
テンポよく話す二人の会話を聞いて有馬はツボってずっと笑っていた。
「あ~、一週間...いや一ヶ月分は笑った気がする。深刻な顔して話すから何かと思ったら...ちーちゃんやっぱりセンスしかないよ!...で?気持ちよかったのー?」
ノリよく話に加わる有馬についていけず、呆れた内田はまた小説を読み出した。
「い...今はそんな話してるんじゃない...。どうしたら第二ステップ踏めるかの話をしてるわけで...。」
「いや大事なことでしょ~?セックスありきの次のステップ踏みたいのかそれは避けていきたいのか結構大事だと思うけどなぁ~。」
悪戯に笑いながら有馬がそう答えると千隼は顔を赤くながら小さな声で言った。
「慣れるために今ちょっと一人で練習してるところだから2回目はもう少し待ってほしいかも...だけど、その前の段階までとかなら全然いい...て、思ってる。」
千隼が言い終えたところで予鈴が鳴り、我に返った千隼は慌てて先に教室に帰って行った。そんな千隼の背中を見届けると内田と有馬は目を見合わせた。
「...いや。相手が相手だからあいつがボトムなのは薄々勘付いてたけど、最後すごい爆弾投下してったくね?」
「一人でコソコソ練習してるちーちゃんが可愛すぎるじゃん!その姿見てみた過ぎるんだけど~!」
本人がいなくなった後もしばらくその話で盛り上がった二人が気が済んで教室に戻る頃にはもう既に授業は始まっていた。

二人に相談したら気持ちがおさまるかと思ったけど話したことでさらに思い出しちゃってモヤモヤして気がする...。元はと言えばオレがあの時はっきり感想を聞かれた時に答えれば良かったのかもしれない。でもそれは怖くてできなかった。
初めてのことで全く余裕がなかったオレは、自分のことばかりで全然新山さんに気を遣えてかったと思う。それどころか男の相手は初めてのはずなのに慣れた手つきで慣らす新山さんを見てどこか取り残された気持ちになってしまった。
おれ以外にも新山さんのエッチの時の顔を見た人はいておれ以外にも挿れたいと思っていたことがある事実が痛くて苦しくなる。でもそんなこと初めての分際で言えるわけがない。
どこかサイトで見た。
「相手が初めてだと知った時は身が重たかったし、誰でもいいからせめて一回くらいは経験しておいてほしいと思った。」
そこにはそう書かれていた。
新山さんは優しい。それにきっとおれがこうしてほしいって言えば二つ返事でそうしてくれると思う。でもそれはおれの我儘であって普段たくさん我儘も聞いてもらっているのに性の欲までおれに合わせるのはどうなのか。それに過去のことを今どうこう言ったところでどうにもならないんだし色々な感情が入り混じる中でおれはあの一言を新山さんに向けた。
どう答えるが正解だったのかがわからない。考えれば考えるだけわけわかんなくなる。

...もう新山さんはしたいと思ってくれないのかな。

千隼はそんなモヤモヤした気持ちでこの後もう数日過ごすこととなった。
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