ノンフィクション

犀川稔

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16話 見栄と本音

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 話があると言われて千隼くんの隣に座ったはいいものの早数分、千隼くんは一向に話す気配すらない。
 これは俺が話し始めた方がいいのか...いや、もし千隼なりのプランがあったとしてそんなことしたらガチで次こそ一発アウトになるのでは?
 そんなことを考えている新山の手を千隼が握った。驚いて千隼の方に顔を向けると顔を赤くして何か話そうとしているのか千隼は口元を動かした。そんな千隼の様子を見ると、新山は耐えず唇にキスをした。
「...っ!な...な、にっ!?」
「ごめん...可愛くてつい。...どうしたの?なんか俺に言いたいことあったんだよね?」
 薄く笑いながら新山が声をかけると千隼が気持ちを固めたようにゆっくりと話を始めた。
「あ......のさ、おれね。前も言ったことだけど...そう言うことするの初めてだった...から正直あの時なんて言えばいいのかわからなかった。本当はそう言うわからないこと全部丸ごと聞きたかったけどそんなことしたら面倒だって思われるかもって思ったし、これからのこと考えたら事前に自分でその先のことも練習しとかないとって思ったりもして。でも...でもさっ。」
 ポロポロと涙を流す千隼を見て新山はハンカチを手渡すと新山の手を引いてそのまま千隼は涙を拭った。話の合間も新山は何度も相槌を打っていたけれど千隼が泣き出してからは背中を摩り「大丈夫、ゆっくりでいいからね。」と慰めた。
「新山さんもう俺に興味ないじゃん!やっぱおれ下手だったから、それから全然触れてもこないじゃん。もうやだ...疲れた。何も考えたくない。全部嫌い。新山さんなんて嫌い。」
 泣きながら大きな声で話す千隼のことを抱きしめると新山は頭を撫でた。
「勘違いさせてまじでごめん。でもほんと違う。落ち着いたらでいいから俺の話聞いて?」
 そう言って強く千隼を抱きしめると落ち着きを取り戻すまでの数十分、新山は方時も離さずずっと千隼のそばに居た。

「...落ち着いた?大丈夫?他に何か欲しいものある?」
 そう言って来る途中に買ってきた飲み物を千隼に渡しながら新山は聞いた。首を横に振った千隼に微笑み返すと新山はまた隣に座って自分も赤城に相談していたことを話した。
「......ってな感じのことがあって俺もやりモクじゃないっていうの証明したくてここ最近店長に無理言ってバイト埋めさせてもらってた。働いてたら気が紛れるし余計な感情無にできるかなって思ってさ。...いやでもダメね。働いててもずっと千隼くんのこと頭に浮かぶし多分俺相当浮かれてるわな。」
 笑ってそう話す新山に話が追いつかずに千隼はしばらく固まってからやっと頭が追いつき話し出した。
「...ん!?え?......ってことは新山さん別におれに飽きたとかじゃなかったってこと?」
 やっとの思いで聞き返した千隼に声を出して笑うと新山は頷いた。
「うん。全然好きだし今にも手出したいって思ってるくらいには下心ありまくってるよ。なんならちゃんと本音話してくれて可愛すぎる千隼くんのこと思う存分甘やかしたいくらいには溺愛してますね...はい。」
 サラッと惚気る新山に千隼はまた顔を赤くして下を向いた。そしてずっと聞きたかったことを聞いた。
「あ...新山さんってさ、不満とかないの?おれに。おればっか新山さんに色々言ってるし、そういうの直接言ってくれないと裏で誰かに愚痴ってるんじゃないかって不安...なる。」
 いつもとは正反対すぎるほどマイナスになる千隼を見て新山は心撃たれると真面目に少し考えてから口を開いた。
「んー......まぁ...無くはないかも、かなー。うん...あんま自分の部屋に俺以外の人入れてほしくないかも。流れでそうなったとかだとしても二人きりにはなってほしくないし普通に妬く。あとさっきも赤城と二人だった時頭触られてたじゃん...今回あいつには色々世話になったから百歩譲って許すけど、今後は許せないかもだから辞めてほしいかなーって感じっすかね。」
 照れながら話す新山の顔を覗き込むと千隼は笑った。
「新山さんもしっかり妬くんだね。ってか口調がなんか赤城先輩っぽくなってるの地味におもろい。」
「こっちは真面目に答えてんだけどな~...なに、あいつ千隼くんに話す時こんな感じなの?知らなかった。」
 本音で話し合ったからか、それからは場も明るくなり一緒に佐々木と赤城が帰って来るまでベットに横になった。そして先に眠りについた新山の胸に顔を埋めると新山の匂いを嗅いで安心したように笑みを浮かべた。

 全然素直にはなれないし恋愛も下手だし愛情表現をするのも苦手だ。でも俺の恋人はそんなおれでもこうやって懲りずに向き合ってくれて真正面から好きだって伝えてくれる。だからそんな恋人に心底おれも惚れているし本当に素敵な人だと感じる。もっと新山さんのことが知りたい。おれがいつも支えてもらっている分、おれも新山さんを支えたい。そしていつか今よりももっともっとそばでずっと一緒にいられたら。今はそう願うことしかできないな。


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 家を出た後の佐々木と赤城

「で?あいつの相談ってなんだったんー?兄にも情報共有頼みますぅ~。」
「...その兄貴がうざすぎて縁を切る方法を知りたいって言うから優しく伝授してたわ。」
 牛丼を頼んで待っている間に佐々木が携帯を弄る赤城に聞いた。
「いや~まじでお前って本当いいやつよな!俺ならあんな理不尽に当たられたら即内容周りに全部バラすわ。さすが...彼女ができた男は一味も二味も違うわ。」
 茶化す佐々木に呆れたように赤城はため息を吐くと「お前も彼女できたって言ってたじゃん。」と興味なさそうに言い返した。
「いや一週間もせず別れたわ。俺は束縛されんの普通に無理だし構ってちゃんも受け付けないんだわ。」
 そう言って運ばれてきた牛丼に箸を付けた。
「...いいと思うけどね、俺は。そんだけ好きってことじゃん。むしろ言ってくれるなら扱いやすいべ。」
「え~、お前もそっち信者の人間?俺の周り愛重めウェルカムが多くて困るわ。誰か俺の気持ち共感してほしいわ。」
 不貞腐れながら食べる佐々木に赤城はお手拭きを手に取りながら言い返した。
「いや、そう言う意味じゃなくてさ。普通に...わかりやすいじゃんってこと。直せばいいこととかどうしてもほしいのかが明確になるし。一番むずいのは言わずに溜め込んで我慢しちゃうタイプよ。本当に......うん。どうしてあげたらいいんだかって頭抱えるよ、まぁそういう部分含め可愛いところではあるけどね。」
 柄にも無く語り出した赤城に驚いて箸を止めると佐々木は「お前...どうした?」と言葉を漏らした。口をぽかんと開ける佐々木に笑い返すと赤城はそれから何も言うことなく牛丼を食べ進めた。
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