ノンフィクション

犀川稔

文字の大きさ
21 / 87

17話 千隼

しおりを挟む
 期末テストを終えたおれは家に帰ると制服のまま自分の部屋のベットにダイブした。
 ここ最近は勉強漬けの毎日でろくに身体を休めていなかったからこのテスト最終日の解放感は半端じゃない。あとは残り二週間弱。それを乗り切れば待ちに待った夏休みが訪れる。
 去年は新山さん、ほとんどバイトを入れていたらしいけど今年はおれのために抜いてくれたらしいし、その分泊まりに来てくれるらしいからめちゃくちゃに楽しみ。正直かなり浮かれてるけど、向こうは今日からテスト期間でギスギスしてるだろうからあまりはしゃがないように気をつけないと。自分が向こうの立場なら羨ましいって思っちゃうしな。
 そんなことを考えながら携帯を開くと新山さんからL◯NEが来ていた。
「テスト最終日お疲れさん。入れ違いで退屈させちゃうけど夏休みのために意地でも補習回避するんで待っててね。今日も世界一可愛い千隼くん好きだよー」
 んんんんん?これは。おれの彼氏最高すぎないか。まじで国宝モンでしょ。自分の小さすぎる器をぶっ壊したいくらいにはいい人すぎる。
 でもだからと言ってここで我儘言って話を持ち込みすぎるのは流石に幼稚すぎる。俺にできることは来週の水曜のテスト最終日までいい子に大人しくしていること、それに尽きる。
 そう考えた千隼はこの期間中に行きたいところややりたい事を色々と調べて過ごした。

「なにお前、後一教科でテスト終わるっていうのに顔険しすぎじゃね?そんなテストやばそうなん?」
 深刻そうな顔をする新山の顔つきを見て佐々木が笑って聞くと新山は大きくため息を吐いた。
「いや、テストはまぁまぁ...まぁまぁ普通に崖っぷちではあるけどセーフなラインではある。悩んでんのは千隼くんのこと。」
 新山にテーブルに寄りかかって参考書を読み込んでいた赤城が興味なさそうに目を逸らすと佐々木が代わりに聞き返した。
「なーに、俺らがあんな親身になってやったのにまた揉めたの?」
「いや、親身になってたのはどう考えても赤城だろ。お前はだるくなって赤城に丸投げしたゴミくそ野郎だろうが。」
「......いや俺は長期休み前で節約したくて飯代佐々木に集っただけなんだけどね。代わりに彼の相談聞いてくれたら飯奢るって言われたし。」
 赤城の話を聞いた新山は「飯に釣られるなよ。」と呆れたように言い放った。

「終わったー!まじでこの夏休み前のテスト終わった後が一番生きててよかったって感じる瞬間だわ。」
 SHRショートホームルームを終え帰る支度をしていた新山の背中に手を伸ばしながら佐々木が言った。
「新山今日なんか予定あんの?ないなら俺んちでゲームやんね?」
「あー、わり。この後千隼くんと会うんだわ。一緒に昼食べたら君らの家向かうよ。」
 そう言って先に教室から去って行った新山の背中を佐々木が見届けていると赤城が横から声をかけた。
「喧嘩とかじゃなさそうだし大丈夫なんじゃね?俺が思うに、多分あれは惚気系の悩みだと思うわ。」
 冷静に分析する赤城に大声で笑いかけると佐々木は「じゃお前でいいわ!一緒に帰ろうぜ!」と赤城を誘った。
「悪いけど俺この後委員会なんだわ、まだちょい時間あるから逆にそれまで中庭で話し相手してよ。」
「俺はいいけどもう一人...あー、芦野くんだっけ?彼はほっといていいの、なんなら誘ってもいいけどー?」
 カバンを肩にかけながら佐々木がそう聞くと、赤城は顔色を変えることなく「彼には彼の予定あるだろうしいいよ。」と流して先に歩き出した。そんな赤城の後を佐々木は小走りで追った。

「新山さん、待たせてごめん!帰りにHRホームルーム長引いた。」
 走って駆け寄る千隼に新山は笑って返した。
「いいよいいよ。急に今日会いたいって言い出したの俺だし来てくれて嬉しい。」
 千隼の学校の最寄駅で待っていた新山はそう返すと二人は次に来た電車に乗り込んだ。お互いにテストの話しをして盛り上がっていたとき思い出したように新山が千隼に聞いた。
「そういえば来週の金曜って空いてたりしますかね?もしきつかったらその周辺でもいいんだけどさ。」
 新山の言葉を聞いて予定を確認すると千隼は首を傾げた。
「......?特に予定はないから大丈夫だよ。...なんか行きたいところでもあった?」
 不思議そうに聞く千隼の顔を見て優しく笑うと新山は頭を撫でた。
「一年に一度の大切な自分の誕生日くらいちゃんと覚えておかないとだめでしょーよ。」
 それを聞いて千隼はハッとしてヘラヘラと笑みを浮かべた。
「あ、確かに...。うち両親忙しくて誕生日とか祝ったのもう何年も前だったから存在自体忘れてた。」
「やっぱ?佐々木に聞いててそうだと思った。でも空いててよかった。一応俺の方でも探しておくけど千隼くんも行きたいところとかあったら教えてよ。あと......その日そのまま泊まってい?あ、もちろん下心ありきで。」
「っ、わ...かった。」
 千隼が顔を赤くしながら目を逸らして小さく頷くと、新山は千隼の手を握った。
「...だ、誰かに見られるかも。」
「んー?俺は見られても全然いいけどね。まぁ誰も気づかないべ。あ、なんかほしいものとかある?誕プレ。」
 笑いながら新山が千隼に聞くと千隼は少し考えてから「あっ!」と声を出してから顔を上げた。
「名前、呼び捨てにしてほしい...かも。」
「いやそれは全然いいけど......誕プレは?」
「何もいらない、一緒にいてくれればそれで十分だし。」
 そう言って友達から来ていたL◯NEに返信をする千隼を見て新山はふわっと笑い、握っていた手に力を入れた。そしてその後、千隼の肩にもたれかかるとそのまま下車する駅まで新山は眠りについた。
 そんな新山を見て千隼嬉しそうに自分の肩で眠る新山の写真を撮って内田に送った。

この会話を終えた後から新山さんはしれっと呼び方を「千隼」に変えてくれた。自分から頼んだことではあるけれど慣れない呼び名に声をかけられる度にドキッとしてしまう。
そんな調子で夏休み前に来る誕生日がとても楽しみになったおれだったけどこの数日後、新山さんとちょっとしたことが原因で大きな喧嘩へと発展してしまうことになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【柳原学園】いやいや、俺は『俺様生徒会長』だから

西園 斎
BL
家の都合で『俺様』を演じてる生徒会長が、生徒会やら風紀やら教師やらから好かれるお話。 演技俺様会長総受け(愛され)/後固定CP *10年以上前の作品を、やや加筆修正していきます

ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!

はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。 ******** 癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー! ※ちょっとイチャつきます。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...