あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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超絶マッハでヤバい状況です

超絶マッハでヤバい状況です15

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 男達に囲まれる前に背後を塞ぐ。
 相手も速い。
 しかし、出口は背中。
 それほど不利ではない。
「話し合いに来たのですが」
「一応聞こう」
 秋倉は真ん中の椅子に座った。
 短い脚を組んで。
「シエラの客を返してもらいたい」
「返してもらえるとでも」
「それと」
 相手の言葉を断ち切る。
「二度とシエラに手を出さないで、二度とその醜い顔を見せないでもらいたい。吐き気がします」
 秋倉はカラカラと笑った。
「そんな怖い顔をするな」
 立ち上がり、近づく。
 蹴り飛ばそうとしたが、彼は胸元から銃を取り出し類沢の左胸に当てた。
 俊敏な動きだった。
 体からは想像できないほど。
 秋倉の顔が迫る。
「睨まれるとそそられる……」
 鳥肌が立つ。
 類沢は目を逸らした。
 拳銃がゆっくりと下がる。
「さっきの条件呑んでやってもいいが、こちらにも条件を出させて貰う」
「……なんです?」
 千夏が臨戦態勢なのを横目に問う。
「類沢、お前は残れ」
 言うとは思った。
 まさか本当に言うとは思っていなかった。
「くく……頷くとでも?」
「ああ。頷くさ」
 類沢から表情が消える。
「あとな。シエラの客だったか。もう戻らないと思うぞ」
 パチンと指を鳴らした後に、甘い香りが漂ってくる。
「吸うな」
 三人とも口に手を当てる。
 一番奥の扉が開き、女性がよろよろと出て来た。
「紫織さん?」
 千夏がはっと呟く。
 確か、紅乃木の太客。
 いつもはアップにまとめた髪が乱れ、空気を掻くように手を振り回しながら地面に倒れた。
 異常。
 一目でわかる。
 駆け寄ろうとした千夏をとどめ、秋倉を睨みつけた。
「そういう仕組みですか」
「お前ならわかるだろう」
 昔、味わった香り。
 今は胸焼けしか覚えない。
「他人の客を薬漬けにして奪うなんて、卑怯極まりないですね」
「だが確実だ」
 二十余りの個室に寒気がする。
 ここで何人の女が狂わされたんだ。
 秋倉は巨体を揺らしながら紫織に近寄ると、細い肩を踏みつけた。
「やめろっ」
 千夏が叫ぶ。
 だが、紫織は人形のようにケラケラ笑うだけ。
 グラスを傾け微笑む女性はそこにはいなかった。
「……くそ」
「な? こんな客帰ってくるわけないだろう?」
「死ねよ、屑」
 秋倉の首にナイフが当てられた。
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