あの店に彼がいるそうです

片桐瑠衣

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超絶マッハでヤバい状況です

超絶マッハでヤバい状況です16

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 類沢が突入して五分も経たないうちだ。
 物音に反応したアカが立ち上がる。
「仕事中だった」
「なんかあったんかな」
 裏口を睨む。
 伸ばした手につい声が出た。
「ナニ?」
「いや、勝手に入っていいのか」
「ああー……」
 ガシガシと首を掻く。
 それから振り向いて手を上げる。
 また締められると思って首を塞ぐ。
 しかしその手はイヤホンを包んだ。
 なにびびってんの、という雰囲気を漂わせて。
 俺も耳に押し当てる。
 中の状況はこれ頼りだ。
 モードは二つ。
 全員の会話を拾うのと、ある人物、類沢の声のみ拾う2つ。
 アカも俺も無言で目配せし、類沢に切り替えた。
「……秋倉ってあの秋倉?」
「どの?」
「ほら。あ、みぃずきが知るわけないか」
「なにが?」
「この辺の土地買い占め出してる証券会社の取締役の……」
 ガタン。
 両方の耳に届いた扉の音。
 アカの顔が凍てついてゆく。
「紫……織さん」
 止める間もなくアカは裏口に飛び込んだ。
 ナイフを構えて。

 店内の時が止まる。
 全員が紅乃木を見つめていた。
 秋倉の首にナイフを突きつけた紅乃木を。
「類沢さん」
 グイッと皮膚に押しつける。
 秋倉の顔は飄々としていた。
「殺していいよね」
「駄目だ」
「なんで?」
 類沢は一瞬口ごもった。
 それは、自分が実行したいことだったから。
 そう言いそうになるほど。
「一人でも警察に捕まらせたくはない」
「……流石はトップ」
 アカは嗤いながら言う。
 ナイフは離さない。
 男たちが二人を囲んだ。
「じゃあさ、腐ったことしか云えない口だけでも削っていい?」
 紫織を一瞥して力を込める。
「礼儀知らずのガキが」
 低い声が響く。
 秋倉の言葉に微かに眉を上げる。
「なんつった」
「お前みたいな糞ガキがホストとはな。シエラも狙われる訳だ」
「秋倉さんっ」
 部下が叫ぶ。
 殺されかかっている時にする挑発じゃない。
 しかし類沢は知っていた。
 この人間の気性を。
 こういう場面だからこそ、相手の心に突き入る機会に変えてしまう狡猾さを。
「この太くて醜い首、半分にしたげよっか」
「余裕かましてる場合か?」
 アカが表情を変え、後ろを見ようとした瞬間だった。
 ガンッ。
 男の一人が鈍器を振り下ろした。
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